29:新たな戦い
世界が切り替わる。
今夜も世界の裏側で誰かが戦っている。
その戦いを僕らはまだ知らない。
頭痛に襲われながら目覚めた俺をラクーンは見下ろすように眺めていた。
目が覚めて最初に見るのがこの獣というのは勘弁してほしいものだ。
「おはよう。随分と今を受け入れているようじゃないか」
軽口を叩いてくるラクーンを睨みつける。
「その言い方はやめろ。俺だって不本意なんだ」
「ふ~ん・・・そう言いつつルナには抱き着くし母親はママって言うんだ」
「・・・嫌味か?」
肩をすくめて心外だとばかりに抗議する。
「まさか。僕としては嬉しいんだ。君が君自身を受け入れてくれることはこちらにとってメリットだからね」
「君が受け入れればそれだけ目覚めが早くなる。戦力という意味でも実に喜ばしいことだ」
「最初にも言っただろう君には犠牲になってもらう。彼女たちのヒロインになってもらうって」
そう言葉を紡ぐラクーンはどこまでも冷徹だ。
分かっている奴がそういうやつなのは最初から分かっていることだ。
だがだからこそ聞いておかないといけない。
「俺にだけ犠牲を押し付けて救世主のつもりか?母さんたちも巻き込む必要があったのか?」
その言葉にラクーンは悲しそうに眼を伏せる。
「彼女にとっての幻想を押し付けることになっているのは申し訳ないと思っているよ」
「だが勘違いしてほしくないけど僕は救世主なんて柄じゃない」
「それにね・・・これだけは言っておくよ」
「僕には戦う力も世界を変える力も何一つ持っていないよ」
そのラクーンの返答に俺は困惑する。
「・・・なら世界ってのはよっぽど残酷なんだな」
「今はそう思っていればいいよ。いずれすべての理由がわかる時が来るから」
どこまでも返答をはぐらかす。その態度にイライラする。
「それよりも君は今の自分の格好を気にするべきじゃないかな?前回よりましとは言え少々恥ずかしいよ」
そう言われて自分の姿を確認して((私))の顔は真っ赤になった。
今の自分は全裸ではないとは言えぼろ布を張り合わせた服だけをかろうじてまとっている状態だった。
当然下半身を覆い隠せるほどの長さもないため慌ててそのぼろ布を引っ張り隠せる面積を増やそうとする。
「ふむ・・・覚醒が近づくにつれて衣服なんかも生成されるみたいだね」
「というかその対応は本当に女の子みたいだよ君」
そう言って俺が振るったこぶしから逃げると前回使ったボロボロのローブを投げ渡す。
黙ってそれを身にまとっている間自分の顔はトマトよりも真っ赤になっていることだろう。
「さて、そろそろ時間だよ。彼女たちはもう戦っているんだから君も早く向かわないと」
その言葉にため息が出る。また今回も((彼女))に変わらないといけない。
今回はどんな代償を差し出さなければいけないのかと考えるだけで憂鬱だ。
だが不思議と逃げるなんていう思考を思いつくこともなかった。
"戦うのは当然”なのだから後はその覚悟を決めるだけだ。
「はぁ・・・やるか」
「準備は良さそうだねユイ。それじゃあヒロインになりにいこうか」
その言葉に((俺))は目をつぶり、私は目を覚ます。
「ええ、行きましょうラクーン。あの子たちが待っている」
ラクーンを肩に乗せて私は夜空へと身を乗り出す。
両手に構えた刀は前回よりも鋭さを増し、その輝きを夜空にアピールする。
力が増幅しているのがわかる。口ではああだこうだ言いながら彼は私を受け入れている。
その事実がとても嬉しい。ああ、こんな素敵な夜がもっと続けばいいのに。
そう私は願わずにはいられなかった。
痛みにより世界が切り替わるなんてのはいやなものですね。
彼の認識は戦いを経るたびにどんどん変化していきます。
その変化を彼女は気づいていますが彼が気づくことはないでしょう。
底なし沼に沈むかのように彼自身も沈んでいくのがこの物語です。
本日の更新はここまでになります。
次回は戦闘とその後を少し書いてから章転換になる予定です。
誰かが読んでくれている限りは物語を描き続けていく予定ですので応援よろしくお願いいたします。




