27:団らん
子供は天からの授かりものだという。
それが本当にそうだとしたら・・・その真実を果たして伝えるべきなのだろうか?
どうにか母を落ち着かせて家の中に入った時には外はすっかり真っ暗になっていた。
父親への連絡をなんとか押しとどめて食卓に座る頃には俺はだいぶ疲れ切っていた。
今はキッチンで食事を作っている母は先ほど泣いていたとは思えないほどの無表情に戻る。
表情筋が死んでいるんじゃないかと思えるほど変化がないがそれでも感情豊かだと言えるだろう。
傍目から見ればモデルのごとき良い体格の母が家事をこなす姿は一種の絵画のように見える。
そんな母がようやく口を開いたのは夕食を机の上に置いて自分の椅子に座ってからだった。
「びっくりした。ユイちゃんがぐれてなくて安心」
ハヤシライスと生野菜のサラダと冷ややっこが並ぶ食卓の向こうで頬に手を当てて囁く。
「驚きすぎだよ・・・その・・・ちょっと言い方変えただけだから」
「それに朝は・・・えっと・・・しょ、食欲がなくて?」
その言葉にまた母は慌てて立ち上がり俺の額に手を当てる。
「お熱は・・・ない。病気じゃない?」
表情は変わらないのに不安げな様子だけは痛いほど伝わってくる。
「大丈夫。元気だよ」
どの言葉が地雷になるか分からない以上((私))の口調に近づけてしゃべるしかない。
正直違和感しかないのだが喋っているうちにその違和感も小さくなっていくのを感じる。
かといって今更変えるわけにもいかない様子を頭の中で((彼女))が笑ってみているような気がした。
そんな俺の様子を見て嘘ではないと分かったのかようやく一息つく母。
「そう、病気じゃないなら安心。」
そう言ってから水を一口飲む。
「前も言ったけどユイちゃんが生まれたのは奇跡。お医者さんが子供は産めないって言ったのに生まれたから」
「だからパパもママもユイちゃんが大好き。でもとっても心配」
「これが実は夢で起きたらユイちゃんがいなくなってないかって」
「・・・・・」
何も言えなかった。俺の存在を受け入れるために世界はとても冷酷な決断を下した。
以前の俺の立ち位置が今はどうなっているか分からない。
ただヒロインとしてユイを受け入れるためにこの家族の存在はとても都合が良かった。
ルナたちの近くに住む子供を欲しがる家族。
今の自分の存在は自分にとっては受け入れがたいが、彼女にとっては待望の子供なのだ。
たとえその中身が成人した男であろうと彼女の記憶の中では血のつながった子供なのだ。
だからこそ胸が痛む俺だけが俺の存在を否定しなければならない現実に。
・・・今はひとまず母に伝えるしかない。たとえ夢幻でも親を悲しませていい理由はない。
「大丈夫。((私))はちゃんといなくならないから」
今だけは((彼女))にその席を譲りながら親子の食卓を静かに過ごしていく。
たとえその結果どこか遠くで鎖のきしむ音が聞こえたとしても、
この選択に俺は後悔したくなかった。
世界というのはとても合理的な存在です。
近くにいい物件があると思えばそれを改変して利用します。
彼以外はみんな幸せ。いわゆる最大多数の最大幸福というやつです。




