26:母親
クールな母はお好きですか?
記憶の中にある一番最初に接した異性は母親だった。
物心つく頃から家の家事をこなし俺に常識というものを教えてくれる教師のような役割。
創作の中には美人すぎる母というのが存在するが昔の俺にはよく理解できなかった。
家事ができないわけではないが記憶にある母は美人というわけではない、
気づけばだいたいリビングのテレビでドラマやらを見ているのが日常の光景だった。
だからこそ今の俺の母という存在というものがどういうものなのかがわからなかったが・・・
どうやら今の母親という存在は創作の中に出てくる類のもののようだ。
家の前に到着したときすでに母親は家に帰ってきていたようだ。
今の自分を大きくしたような姿で優しいというよりはクールという印象が先に来る。
その胸部は大変豊満であり自分の将来に関して暗雲が浮かぶ。
そんなクール系な女性が表情を一切崩さずおろおろと周囲を見渡す姿はドラマのワンシーンのようだ。
ため息を一つつき一歩歩き出す。その足音にすぐさま反応して母がこちらを見つめる。
何も言うでもなく小走りでこちらに向かってくるので思わず怒られると思い身構える。
ただ思っていたような衝撃は来ることはなくただ無言で抱きしめられた。
先ほど自分が同じことをしてしまった手前、こういう行動をするという所に血のつながりを感じる。
「あー・・・えっと・・・」
何を言うべきか考えているうちに母が口を開く。
「心配した。反省する」
端的な言葉だが冷たさは感じない。ただ深い愛がそこにはあった。
「・・・ごめんなさい」
思わず謝罪の言葉が出てくる。こういう時の母という存在には勝てないのが世の常だ。
「ん、許します。おかえりなさいユイちゃん」
そう言ってぎこちなく笑う母。どうやら感情表現が苦手な模様だ。
「うん。ただいまお母さん」
その俺の返答にぴきりと母の表情が固まる。
「お、お母さん大丈夫?」
どこか変な返答だっただろうか?いやでも男だった時のように母さんと呼ぶのは変だし・・・
そう考えていると目の前の母が表情を変えずに涙をぼろぼろとこぼし始める。
「え、ちょっと!?な、なんで泣いているの!?」
「ゆ・・・ユイちゃんがぐれたー・・・・」
「・・・は?」
その返答に腑抜けた声が出てくる。
「今日の朝ごはんも食べてない。いつもママと呼んでるのにお母さんって・・・」
「こ、これが世に言う思春期・・・えっとパパに連絡して・・・」
「・・・赤飯いる?」
頭が痛くなる。どうやらこの世界のわが母は少々どころではないほどに、
子煩悩と言われるものらしい。
先ほどまでの覚悟が霧散し、今はこの状況をどう整えるべきか・・・
おろおろと携帯で父に連絡しようとする母を止めながら都合の良い建前を用意する。
それが今の家族との最初の作業になった。
というわけでこの世界での母親との出会いです。
どういう基準でこの家族が選ばれたのかはまた後々。
いろいろと理由があるのです、世界にとっての都合もありますので。




