25:お家に帰ろう
これも一種の青春の光景なのだろうか?
どこか遠くの方で鐘がなっている。いつの間にか太陽もだいぶ沈んできている。
そんな状況になって今の自分の姿をようやく客観的に見ることができた。
慌ててルナから距離を取り強引に涙を腕で拭う。
その行動にどこか不安気な顔をしたルナが見つめる。
「む~はーちゃん抱き心地が良いからもっと抱いてたいんだけど」
「わ、悪いが今日の営業はお終いだ」
ぶーぶーと口から不満げな態度を表すが自分のスマホで時間を確認する。
「ありゃりゃもうこんな時間じゃん。お家に帰らないと。」
ひょいっと軽く飛び跳ねるかのようにベンチから立ち上がる。
「ねぇ、ライン交換しようよ!今度はあーちゃんとかサキちゃんにも紹介したいからさ!」
「あ~・・・ごめん。今持ってないわ」
男だった時の自分の携帯が今も通じているとは考えられない。
かといって今の自分用の携帯がどこにあるかなんていうのも分からない。
そもそも今自分が身に着けているものは家を出るときに見つけた鍵くらいだ。
財布の一つも持っていないので飲み物すら買えないほど素寒貧だ。
「も~携帯はちゃんと携帯しないとダメなんだよ!」
めっと怒るかのように手でばってんを作って俺に見せてくる。
なんかいつの間にか俺のことを自分より子供に見ているんじゃないか?
いや確かに今の自分の見た目はルナより小さいが精神年齢は年上なのだ。
その子ども扱いにむっとする。顔に出ているのかその姿を見てさらにルナが笑う。
「ふふ、はーちゃんって意外と表情豊かなんだね」
「からかうんじゃない」
「はいは~い。じゃあ今日のことは二人だけの秘密だね」
にししと笑いながらそんなことをルナは言う。
「なんかはーちゃんといるとすごく安心するんだよね~なんだろう・・・母性?」
がくっとずり落ちそうになる。言うに事欠いて母性とは何事か。
「俺はこんなでっかい子供を作った記憶はねーよ」
「うぅ~ママがつめたいよ~」
しくしくとウソ泣きまでやりだす。やめろマジで。
「ったく・・・ほらさっさと帰れ。」
俺が促すとようやくルナも帰る気になったようだ。
「は~い。・・・ねぇは~ちゃん、また会ってくれる?」
「・・・んな捨てられた子犬みたいな視線をしなくてもまた会ってやるよ」
「お前が言ったんだろ。友達・・・だからな」
俺の返答にぽかーんとした表情を浮かべるとすぐに満面の笑みを浮かべる。
「は~ちゃんかっこいい~!!えへへ~友達~友達だ~」
そう友達だ。今はその立場でいたい。
世界のために頑張る彼女たちの心を癒せるなら喜んで友達になりたいと思う。
「じゃあまたな」
そういって軽く手を振る。
「うん!またねは~ちゃん!」
ぶんぶんと手を振りながらルナも走り去っていく。
騒がしかったが悪くない気分だ。少しだけ前を向けた気がした。
頬をパチンと叩いて気合を入れる。さあ俺も家に帰ろう。今の家族と向き合わないといけないからな。
家への帰り道を思い出しながら足取り軽く俺は家に向かって歩き出した。
無意識的に自分の欲しい言葉を贈られると少し困惑してしまいますね。
ルナとの出会いで少しだけ彼の精神も回復できたようで何より。
これからどんどん現実と向き合うのですからこれくらいの優しさは必要ですね。
本日の更新はここまで。次は家族とのお話の予定です




