20:足元が崩れる感覚
落ちるときはとことん落ちた方がいい。
底に落ちればそこから下はないのだから。
部屋を出て階段を下りる。
元々自分の部屋は二階にあったのでそこは変わりがないのだなと苦笑いが出た。
階段を下りて一番近くにある扉を開ければそこはリビングになっているはずだ。
扉を開ける・・・中には人の気配が一切ない。時計を眺めれば午前7時を指している。
普通なら家の家事を行っている母親がいるはずなのだがその姿はない。
ニュースを流しているはずの大きなテレビも今は真っ黒な画面を映すだけだ。
リビングと一体になった食卓の上に朝食が置かれているのだけが生活感をかろうじて出している。
その朝食の横にはメモ書きが置かれている。見慣れない書体で書かれた内容は単純で、
『仕事に行ってきます。夕食には帰るのでいい子にしていてね』
と書かれている。
そんな自分の記憶の中にある母親が書かないであろう内容を見て足元がくらくらするのを感じる。
どこまでも自分の記憶と異なる。あまりにも・・・あまりにも無慈悲じゃないだろうか。
ソファーに腰掛けあまたを抱えざるを得ない。
頭痛がする・・・((彼女))が寄り添うように耳元で囁くような感じがする。
早く受け入れろと・・・到底肯定できない望みを囁く。まるで悪魔の囁きだ。
いつの間にか足元に駆け寄ってきたラクーンがこちらを見上げる。
「君には同情するよ。世界の修正というのはとても冷酷だからね」
その憐みすらも今の自分には到底受け入れられないものだ。
自分の記憶すらも今は正しいのかどうかも怪しくなってくる。
「なら元に戻してくれよ。俺の世界をさ・・・」
もはや泣き言すら口から出る始末だ。強がる余裕すら今の俺には存在しない。
「それは・・・できない。いくらでも恨んでくれて構わない」
「それでも僕は彼女たちを救いたいんだ」
その返事は想像できた。その思いも理解できる。
だが理解できることと納得できることはまた別の問題だ。
「今の君には時間が必要だろう。少し外を歩いてくると良い」
その優しさが今は嬉しかった。たとえその優しさの裏に思惑があるとは言えだ、
「そう・・・だな。まだ今は到底受け入れられない」
ふらつく足で立ち上がり視界の隅に転がっていたコートを軽く羽織る。
父親のものと思われる大きさで今の自分にはとてもぶかぶかだ。
ないよりはましだと自分を納得させて玄関への扉を開く。
背が小さくなったと同時に足の大きさもかなり小さくなったようだ。
玄関に置いてある少女が履くような小さな靴に足を通すたびに嫌でも自分の体の変化を受け入れさせられる。
ふと視線を上げると靴箱の上に見覚えのない写真が置いてある。
その写真が余計自分を地獄に突き落とす事実を突きつけるとは知らずに・・・
家の前で撮られたであろう写真には見覚えのない男女と自分が写っている。
少なくとも両親は日本人だったはずだ、しかしながら写真に写っている男女はそれを否定する。
今の自分と同じ緑色の髪をした女性がほほ笑んでいる。今の自分が成長すればこの女性のように成長することだろう。
その女性と写真の自分の肩に手を置く男性も金髪の髪に自分と同じ灰色の目をしている。
幸せそうな家族の写真・・・今の自分にはとても不幸せな現実がそこに写されていた。
どこまでも彼に厳しい世界の話。
こんな場面に自分が置かれたら発狂することでしょう。
でも大丈夫、どこかに幸せは必ず転がっているはずだから。
いつまでも曇らせを押し付けるつもりはありませんのでご安心を。
次のページで本日の更新はお終いの予定です。次で彼女に出会う予定です




