182:幻覚
この敵厄介すぎないかな?
私が怒りの視線を向けてもなお侵略者の顔からは余裕の表情が消えることはない。
彼にとって私の存在は敵と認識できない程度の小物だと思われているようだ。
その反応も私の怒りを燃え上がらせる要素の一つではあるがそれよりも今もなお目の前にいるユイさんの幻覚の方が私にとっては許せない存在だ。
握っている拳銃にも余計に力が籠る。この部屋に到着するまでにすでに私自身の魔力は底をついてしまった。
時間をかけて回復すればいずれは魔法を使える程度には回復できるだろうがそんな余裕が今の私たちにあるわけがない。
今は目の前で油断して姿をさらしてくれている侵略者だがそれは対峙したのが私だからに他ならない。
悲しいけど私は他の3人に比べて戦闘能力はかなり低いと言わざるを得ない。
だからこそ敵は油断して逃げないでいてくれている。これがもしほかの3人だったらこうはいかなかっただろう。
でもこんなチャンスは1度きりだろう。ここでこいつに逃げられたら追跡は困難だし何より今もなお時間稼ぎしてくれているユイちゃんの体が持たない。
「だからこそ・・・ここで仕留めるからね」ゆっくりと拳銃を持ち上げて両手でねらいをつける。
ゲームの中ではボタン一つで簡単に攻撃できるのだがいざ自分が使うとなったときにどうすればいいのかなんて正直に言って分からない。
かなり単純な作りだからこそ扱えてくれるところがあるのでそこまで考えてユイさんが渡してくれたのだったらもうユイちゃんには頭が上がらなくなってしまうことだろう。
「すぅ・・・・ふぅ・・・・」大きく息を吸ってから吐き出す。
武器を構えたことでようやくこちらを敵だと認識してくれたようだ。先ほどから耳障りな幻覚が耳元で囁き続けている。
知っている人の声で耳元で否定されるなんて二度と経験したくはないし、今も気を引き締めないと涙が止まらないくらい苦しい。視界に映るユイさんも諦めるようにと私に囁いている。
偽物だと分かっているのにユイさんからのお願いだと思うと思わず武器をしまいそうになる。
そのたびに私の腕に捕まっているユイさん人形が腕をぺしぺしと叩くおかげで正気に戻る。
痛みはないのだがなんだかユイさん本人に励ましてもらっている気がして少し勇気が湧いてきた。
覚悟は決まった。私は目の前の幻覚をしっかりと視界に収めてゆっくり引き金に手をかける。
「これで終わりです。もう二度と現れないでください」
引き金を引き切る寸前ユイさん人形が私の事を見上げているのに気付いた。
『やっぱりやればできるじゃないですかアカリ。貴方に託して正解でしたよ』
声なんて聞こえるわけがないのにそれでもそんな言葉が聞こえた気がした。
その言葉だけで私は報われる。別の意味で涙が零れそうになる。
もう一度見ても人形は喋らない。これでも幻覚の一種だったのかもしれない。
でもどっちでも良かった。私にとってはさっきの言葉は本物なのだから。
晴れ晴れした気持ちで指は軽く引き金を引き切る。
無骨な拳銃から銀色の光が敵に向かって飛んでいくのが分かった。
こいつの能力的に乱戦で一番効果を発揮するような能力です。
アカリに見せている幻覚もかなり精度が悪くすぐ偽物だと気づけるくらい粗悪です。
でも聞こえてくる声や視覚情報は本物そっくりなのが面倒なんですよね。
力を蓄えきったら一人くらいは完全洗脳くらいできるのですがそんな未来は訪れないので無意味ですね




