180;高みの見物
物語の裏側の視点
侵略者であるそれは自分の根城であるホテルの一室で優雅にベットに寝転んでいた。
それの姿は今までの侵略者に比べてかなりの小柄だ。ほかの存在と同じように黒を身にまとったその姿はさながらゲームの登場するゴブリンを黒く塗りつぶしたように見える。
彼と呼んだらいいのだろうか?ゴブリンは侵略者の序列で言えば最下層に位置するいわゆる弱者である。
他の強大な力を持つ侵略者に比べて持っている能力もひ弱であり餌を得るのにも苦労していた。
たまに侵略者同士で戦いあい負けて食われるだけの存在になった侵略者の腐肉を食らって生き延びてきた。
正直に言うのならばこんな弱者がここまでの空間を維持できるはずもなく、本来の歴史であればとっくの昔に他の侵略者の餌になるような存在だ。
しかし幸か不幸か、ユイという存在を生み出した揺り戻しの影響か彼は死ぬことはなく力を蓄え生き延び続けてきた。
それでも戦う力を持つことができなかったので相も変わらず腐肉漁りの生活は続いていた。
そんな彼がこの世界を手に入れたのも偶然の産物であった。
いくつもの侵略者を討伐され、質よりも量を重視した一部の侵略者が集団で一つの空間を生成しユイたちの世界に乗り込んできた。
当然彼らの間に仲間意識なんてものがあるはずもなく、ユイたちに出会う前に内部分裂からの共食いを始め彼を含めた一部を除き既に同士討ちで消滅してしまった。
数少ない生き残りもユイたちが出会う前にサキとルナにより討伐され生き残っているのは彼だけだった。
彼が生き残ったのもルナとサキが戦っている隙に能力により認識を阻害しユイたちに押し付けただけであり彼の実力などというつもりはさらさらない。
無論このまま上手くいくわけもなく、ユイたちに出会っていなければサキとルナに討伐されていたので彼がどれほど幸運なのかは分かる。今の現状も言ってみれば嵐の前の静けさに過ぎない。
彼が隠れ逃げ続けてもいずれは討伐される。そのため今の彼はいわゆる死ぬ前の破れかぶれの状態だ。
だがそんな難しいことは彼には理解できない。彼の頭にあるのは食欲だけだ。あわよくば弱ったルナとサキの肉体をその口に放り込んで咀嚼するというかなうはずのない妄想で自分を慰めているだけだ。
そんな食欲の権化である彼の能力は極めて限定的な認識阻害だ。しかし限定的だからこそ強力でありサキもルナもその認識阻害を解除できないでいた。
彼の頭はあまりに弱く。この空間にいる存在を強いか弱いかでしか区別できない。
だからこそ強そうと感じたサキとルナに自分の持てる力を使って認識阻害をかけた。
後から二人やってきたが片方は弱そうだしサキとルナを操作するので手一杯で放置した。
アカリを操作しなかったのはそんな理由だったりするのだがもう一人のユイについては話が変わる。
この空間に降り立った瞬間に彼の本能は短い人生の中で一番恐怖した。
背は4人の中で一番小さい。なのにその内側に秘めた力は3人を遥かに凌駕していた。
どれだけ力を集中してもあの存在には通じない。あの存在から逃げれない。あの存在に勝てない。
二人を操作して調子に乗っていた彼はその瞬間我を忘れてこの建物に避難して罠を張り巡らせた。
そんなどうしようもない恐怖の存在が今自分の操作する二人によって敗北を迎えようとしている。
安堵した、歓喜した。あの肉体を食べればどれだけ自分は強くなれるだろうか。
自分を見下していた他の侵略者を踏みにじる妄想で彼の頭は一杯だった。
所詮は下等生物。まともな思考を望むのは筋違いだろう。
そんな妄想に浸って悦に入っていた彼の部屋に招かれざる客が入り込んできたことで彼の叶うはずのない妄想は中断させられた。
そしてその妄想の続きを想像することはもう二度となかった。
本来の歴史であれば出会わない侵略者の話です。
弱いからこそ多少の知恵をつけて生き残ってきたのでここまでのし上がれました。
ユイを危険と判断したのでおびき寄せて始末しようとしたのがここまでの流れになります。




