17:侵食あるいは侵略
世界が彼女を受け入れる。それはある意味侵食だ。
では彼が彼女に代わるのは・・・それはある意味侵略ではないだろうか
「そりゃいい話じゃないか。こっちにとってはな」
恨めしそうな視線をこちらに向けてくるラクーンからは軽く目をそらす。
少なくともすぐに侵食されることはない。その事実に((落胆))安堵した。
「冗談じゃないよ。すぐに戦力が欲しいのに待ちぼうけを食らっている感じさ」
「たとえるならパソコンでデータをダウンロードしたいのに数%ずつしか進まない感じだよ」
「世界というファイヤーウォールのせいで君の力を最大限引き出せないなんて悪い話だよ」
額に手を当てて嘆くようなそぶりを見せるラクーン。
一瞬((同情))憐みの感情を抱きそうになったがそもそもの原因がこいつなのだからその感情を抱くに値しないと考え直した。
「まあ今の君の力は数%ずつでも強大だからさほど問題ないのだけどね」
とさっきまでの態度はなんなのかとばかりにテンションを上げてくる。
やはり一回このタヌキは締め上げねばならないのかもしれない。
「・・・・んでこの流れで聞きたくはないが良い話ってのはなんだ?」
「今の流れ的にお前にとっては良い話なんだろう?」
イライラしながらもラクーンに話の続きを促す。
ラクーンはさも当然とばかりに頷く。
「もちろん僕にとっては良い話さ。」
「少なくともすぐには世界は君を受け入れることはできない」
「逆を言えば君が戦うたびに世界は君を受け入れるために調整してくれるというわけさ」
そう言ってにやりと笑うラクーンを今度は俺が睨み返す。
「・・・戦うたびに犠牲を払えってことかよ」
そう犠牲だ。彼女たちを助けるたびに俺は自分を切り売りしなければならない。
その事実を突きつけられ((私は))俺は((感動した))勘弁してほしいと思った。
「犠牲とは違う。君が世界に適応していくだけのことさ」
「・・・そんなことは俺は望んでいないぞ」
俺は抗議の声を上げる。
少なくとも俺は普通の・・・普通の・・・・なんだったっけ・・・・
頭が痛くなるのを感じる。おかしい俺は普通に働いていたはずだ。
職場だってある、仕事仲間だっていたはずだ、
なのに・・・その一切が"思い出せない"
「こりゃ・・・気持ち悪いな・・・」
自分の積み上げてきたものが音を立てて崩れるのを感じる。
少なくとも昨日までの自分と今の自分は違う存在だと言わざるを得ないだろう。
「それが世界の調整だよ。彼女を受け入れるために世界が君をチューニングしているんだ」
吐き気を覚えるほどの痛みに耐えながらラクーンを睨みつける。
「今は少し休むといい。起きたら世界の調整が終わることだろう」
そう優しさと慈しみに満ちた声を聴きながらいつしか俺の意識は闇の中に落ちるかのように眠りについた。
自分を肯定できるのは自分だけです。
彼は最後にはどうなってしまうのでしょうか?
次でこの章はひとまず区切りになります。ここまで読んで下さりありがとうございます。
一度幕間を挟んで次の章からは少女たちとの交流を描いていこうと思います。
つたない文章ですが楽しんでいただければ幸いです




