167:また鎖は砕けた
おはようございます
相変わらず自分の体が自分ではないかのような熱に侵されながら家を出る。
視界内に侵略者の姿はないためか今はまだ街並みは人が消えただけのゴーストタウンのような様相になっている。
一歩一歩踏みしめるたびに熱が俺の心と体を侵食していくのが分かる。どこまでもこの世界は俺にとって優しくはないのだ。
もう一歩進めようとしたところで重力に逆らうことができなくなったのか俺は地面に倒れこんでしまった。
前回よりも体にかかるデバフが大きすぎる。さっきまで動かせていた体は操作方法がぐちゃぐちゃになったようなコントローラーを操作している感じでピクリともしない。
辛うじて仰向けで倒れられたおかげで胸の圧迫は感じないのだがそれでも起き上がれるほどの気力がわいてくることはない。
「本当にひっでー世界だなこりゃ・・・どこまでも俺に優しくない」
こうなってしまった俺に取れる選択肢なんてものは少ない。逃げるか、戦うか、((彼女))に身をゆだねるか。それくらいしか俺の選べる手札はないのだ。
ゲームだったら放り投げたくなるほどのブタだ。でもそんな手札を俺は今後も選び続けなければならない
頭の中で((彼女))が囁く。しばらく眠っていたというのにこういう時だけは意気揚々と出てくるところに腹が立つ。
((彼女))はいつだって困ったときにしか出てこない。見えないはずの((彼女))が今は満面の笑みでこっちを見下ろしている気すらする。
いつまでもここで寝転がっているわけにはいかない。すぐにでもルナたちはきっとやってくることだろう。
故に選ばなければならない銃(俺)か剣(彼女)かどちらかの選択をしなければならない。
どちらをとっても待っているのは俺の破滅という結果に過ぎないのがなんとも泣ける話である。
震える手で見えない武器に手を伸ばす。意識はまだしっかりしているのだ俺は当然の権利のように
"剣"を手に取った。
「ち、違う・・・俺はそんなつもりは」困惑、驚愕そして恐怖が俺の体を包みこむ。
瞼はどんどんと重くなり俺の意識もまた闇へと沈んでいこうとしている。
俺の・・・いいえ、私の口が勝手に開く。
「一歩前進かしら?ありがとう選んでくれて」
俺の声なのに俺が言わないようなセリフが口から零れ堕ちる。
身軽な動きで体を起こしながら私は眠りに向かう彼に向かってお礼を言う。
彼が気づかないようにちょこちょこ起きてはいたのだがこうやってちゃんと目覚めるのは久しぶりの感覚だ。軽く体を動かすが少しぎこちない。でもその感覚が私に充実感を与えてくれる。
「今はゆっくりおやすみなさい。起きたら・・・ふふ、もう少し私に優しくなってくれると嬉しいわね」
楔が撃ち込まれてひび割れていた鎖が嫌な音を立てて軋む。
壊れないようにと必死にこらえていた鎖だがその抵抗も空しく砕け散り虚空へと消えていった。
「ああ・・・最高の気分ね。羽根が生えたみたいに軽いわ」
鼻歌でも歌いそうな程のご機嫌な気分にしばし酔いしれる。
また鎖が壊れた。これで私はさらに身軽になって彼はさらに重くなった。
どっちも同じ私だけど彼はいつになったら受け入れてくれるのかしら?
拒むだけ苦しいのにそれでも拒んでくる彼のことがとても愛おしい。
「ふふ、ルナたちも大好きだけど貴方のことだって好きなのよ私は」
眠っている彼には届かないだろうけどついつい口に出してしまったその言葉は一人ぼっちの街並みに静かに消えていった。
彼らしくない行動は彼女が背中を押した結果です。
彼女にとっては善意です。むしろ感謝してもいいとさえ思っているレベルです




