165:俺にとってのお前
罪な人だよあいつは
家に帰って少し駆け足になりながらも自分の部屋に駆け込む。
手で押さえた首筋はあれから時間が経っているというのに今でも熱を放っているように熱い。
帰りの車の中からずっと首筋を押さえていたのだがみんなあまり気にしないでいてくれて助かった。
いや、ルナだけは何かに気付いたのか俺とユイを交互に見ていたのだけは気になったな。
ユイ・・・その名前を思い出すだけで今の俺は顔を真っ赤にさせてしまう。
机の引き出しにしまってあった絆創膏をあの印の上にかぶせて見えなくする。でも俺は見えなくなった後も無意識に絆創膏の上からその印を撫でてしまう。
お袋の頼みだからと引き受けてしまった今回の撮影会。正直最初から乗り気ではなかった。
口ではああだこうだ言うが俺は今の家族の事は嫌いじゃないし好きだ。だからそんな家族のお願いは聞きたいがさすがに限度がある。
ベットに腰掛け足をぶらつかせながら今日1日のことを思い出す。
ユイを撮影会に巻き込んだのは申し訳なかったし、今日までは本当に苦痛だったのに今日は…悪くなかった。
可愛い服は嫌いじゃないし好きなんだが如何せんこの体格のせいでどうしても選ぶ気にはなれなかった。
だからこそ今日ユイとお揃いの服を着て過ごす時間は悪くなかった。撮影は嫌だが服自体に罪はない。
あいつはいつだって俺に手を差し伸べる。最初は妹みてーに思ってたのにだんだん俺があいつの妹みてーになっていった。
足を震わせ縮こまるのなんてアカリを守ると決めた日に忘れたはずなのに・・・昔の弱い自分から卒業するためにも自分を強く見せるためにも努力して作った鎧をあいつは全部脱がしてしまった。
ユイがいると安心する、そばにいてほしいと思ってしまう。
最初に会った時からなぜか気に入る要素しかなかったが会うたび会うたびどんどん惹かれていった。
あいつの言い方だけはまだ慣れないが言われ続けるとどんどん自分の中で熱が大きくなっていった。
そして今日俺はあいつに自分の弱さを見せてしまった。それでもなおあいつは受け入れて・・・
首筋を触っていた手を自分の唇に移す。時間が経って乾いてしまっているがあの感覚だけは忘れられない。
見とれていた、熱に浮かされていた・・・言い訳は山ほどあるがそれでもあの時の俺はユイからのキスを拒むことはできなかった。むしろ受け入れていたとさえ言える。
触れるだけのキス。でもそれだけで俺の心ははちきれそうになるほどの幸福感に満たされていた。あれはやばい・・・どこまでも沈んでいく底なし沼のように溺れそうになったほどだ。
キスだけでもやばかったのにさらにユイは俺に印をつけた。自分のものだとアピールするかのように、俺の体にあいつはマーキングをした。
口が緩むのが分かる。これではあの委員長を笑えなくなってしまう。こんなことをされて喜んでしまうなんて俺はとんだ変態じゃないか。
でも想像が止まらない。俺よりも小さな体で俺を見下ろし、射貫くような瞳で俺を見つめ、キスをして印を刻む・・・なんて甘美な妄想だろうか。
重ねるべきではないのに俺の好きだった少女漫画の男役にユイが重なってしまう。その姿を想像するだけで俺の鎧がどんどんボロボロになってしまう。
こんな状態で次にユイに会った時にちゃんと対応できるだろうか?普段で仕方ない。
でも隠さないと・・・こんな汚いところを見せたくない。でももし見せてそれでも受け入れてくれたなら・・・
「きっと私はそこから抜け出せなくなる」口に出して認識する。これはまぎれもない事実だ。
今夜は眠れそうになさそうだ。次に会う時を想像しながら俺は自分の心の鎧をゆっくりと修復する。
サキからユイに対する感情です。ドロッとしたものになってしまいましたね。
強くあろうとしていたサキにとってユイはまさに劇物。
まだぎりぎり踏みとどまっていますけど一度はまると依存してしまうかもしれませんね。
アカリ編はもうちょっと別の話を書いてから書く予定です




