164:マーキング
貴方は私のもの
なにはともあれ長く感じた撮影会がなんとか終わりを迎えることができて俺はほっと一息つく。
流石にすぐに帰れるわけもなく、ヒトミさんと石廊崎さんの打ち合わせ待ちとなってしまった。
アカリとルナは疲れた俺たちを気遣って飲み物を買いに部屋から出て行ってしまったので現在部屋内には俺とサキしかいない。
さっきまでは疲れ切った顔をしていたサキだが今はただ黙って俺の服の裾を握ってくるせいで俺はあの時の衣装からいまだに着替えられずにいた。
流石にいつまでもこのままの服装でいるわけにもいかないので俺はサキに声をかける。
「そうやって甘えてくれるのは嬉しいのですがこのままでは着替えられないので離していただけませんか?」
俺の問いかけにサキはただ首を横に振るだけだ。なんだか本当に幼くなったように感じる。
更衣室から出てくる時までは普通だったはずだ。なのに全員が部屋から出ていった途端こんな風になるなんてのはあまり理解できない話だ。
かといって強引に振り払うのは流石にどうかと思ってしまいずるずるとこの無駄な時間が続いてしまっていた。
どうするべきか悩んでいるとサキからようやく声が上がる。
「・・・ごめん。もうちょっとだけこうさせて。もう少ししたらいつもの自分に戻るから」
普段とあまりに違う口調に戸惑う。いつものように俺たちを先導するかのような声じゃない、おどおどするかのようなその声はどことなくアカリに雰囲気が似ている。
色々尋ねたいことはもちろんある。だがそれを強引に聞き出すのは間違いだ。だから俺は静かにサキのことを包み込むように抱きしめる。
「お姫様のお願いは最後まで聞き遂げますよ。今日はサキさんのパートナーですから」
俺の体は小さいがサキの体だって俺に負けず劣らずの小ささだ。そんな小さなサキが俺の腕の中に納まって力を抜いて俺の体によさりかかっている。
「本当にキザねユイは。でもありがとう」俺とサキの間に会話はほぼない。
静かな部屋に俺とサキ二人の呼吸音だけが響く。そこには俺とサキの二人だけの世界があった。
抱きしめているせいで俺とサキの距離はとても近い。ただ黙って過ごしている間俺はサキから視線を逸らすことができずにいた。
男勝りで、ちょっと乱暴な口調で、でも家庭的で成績が良い。それが俺の知っているサキという人物だ。
だからこそ今のサキとのギャップに俺は酔いそうになる。近くから漂うサキの香りで思考が揺らいでいく。
ふらふらと夜に外灯に集まる虫のようにサキの顔に自分の顔を近づける。
潤んだ瞳でただじっとこちらを見つめてくるサキ。言葉は話す必要もない。
そして、そっと触れるようにサキの唇と重なった。
そっと唇を離せばサキは熱を帯びた視線をこちらに向けている。それはなんて魅力的な光景だろうか。
"私は"サキの首元にそっと唇を近づけ印をつける。軽く歯を立てたせいでサキが痛みに震えるのが分かる
でもこれは印。彼女が自分のものだという証明。彼女からの拒絶がないのならば容認されたということだ
唇を離せばかすかな印がサキの首元にできている。そこまでやってようやく俺ははっとする。
俺は一体何をしていたのか・・・思い出せない。サキも俺の変化に合わせて我に返ったのか俺たちは二人そろって距離を取る。
「わ、悪かったな食い止めちまって。そろそろみんな戻ってくるころだから着替えて来いよ」
なぜか首元を押さえながらサキはこちらを見ることなく呟く。
その変化に困惑しながらも他のみんなのために俺は急いで更衣室の中に入る。
少し皺になってしまったかなと思いながら着替えを行っている俺の顔を更衣室の鏡が映す。
そこにはなぜか熱を持ったように赤い頬をした俺が映っているのだった。
自分の獲物に印をつけるという話は結構よくある話ですよね。
サキがやってきそうなんですけど今回はユイなんですよね。
ルナのときもサキの時も彼だったという保証はできませんがね




