162:二人のお姫様
手を引っ張って外に連れ出す。
もはや逃げ場がない状況で勢いに押されるかのように着替えを終えた今の俺の状況を鏡で見つめる。
髪の色に合わせて緑色のドレスを身にまとった状態はさながらどこかのお嬢様のように感じる。
コラボのメインに据えるだけあって細部まで丁寧に刺繍が施されているところを見るに相当気合が入っているのが分かるほどの拘りようだ。
この間の踊り子風の衣装のような身軽さはないのだがこれはこれで少女趣味過ぎてどうも俺には受け付けられない。
ヒールのついた靴を履いているせいで安定感もないので少しでも気を抜くとすぐにでも転びそうになってしまうのも不安を加速させる追加要素になっている。
ため息を一つつきつつ更衣室の扉を開けば全員の視線を一心に受けることになりなかなか居心地が悪く感じる。
「はぁ、あまり似合わないかもしれませんがこれでよろしいでしょうか?」
俺が不安げにそう問いかけるとルナは首が取れそうなほど激しく首を縦に動かす。
「問題なんてあるわけないよ!!!さっきまでの衣装も似合ってたけど今着ている服が一番いいよ!!」
熱量高く叫ぶように声を上げるルナに合わせてアカリも同じように同意の言葉を述べる。
「絵本とかのお姫様みたいですっごい可愛いよユイちゃん。あまりに似合ってるからこのまま消えちゃいそうに思えるくらいだよ」
「大げさですよ。服の素材が良いだけです」あまりにもな反応だったので逆に冷静に言うのだがこんなことで納得してくれるはずもなかった。
「いえ、本当にお似合いですよ。これでしたらメインを張るのにふさわしいと言えます」
冷静そうな石廊崎さんまでも少し呆けた表情をしているのが逆に驚きだ。
「流石先輩の血を継いでるだけありますね。恐ろしいほどに服がフィットしてるっす」
「別のモデル用に作った服なのにここまで似合うとはユイさん・・・恐ろしい子」
作者であるヒトミさんまでもそういうということは本当に似合っているのだろう。ただそこまでべた褒めされるとこちらとしても反応に困る。
「それでサキさんはまだ着替え中なのでしょうか?」
周囲を見渡しても俺より先に着替えを行っているはずのサキの姿が見えない。そんな俺の問いかけにアカリは静かにもう一つの更衣室を指さす。
「もう着替え終わってもいいはずなのにお姉ちゃん出てこないんですよね」
更衣室の扉はカーテンでしっかりと閉じられており中を見ることはできない。入口の所にサキの靴が置かれているので中にいることは間違いないはずなのだが・・・
「サキさん、そろそろ撮影をしたいのでそろそろ出てきてくれませんかね?」
俺の問いかけにもサキから返事が返ってくることはない。更衣室内で唸るようなサキの声が聞こえているので俺の声が聞こえていないわけではなさそうだ。
「私だって恥ずかしいのでサキさんも早く終わらせるためにも出てきてくださいよ」
再度声をかけても出てこないサキに少し苛立ちながらカーテンの隙間から手を伸ばす。
更衣室内は狭いので俺の小さな体でも少し腕を伸ばせば簡単に中の人物に腕を届かせることができる。
伸ばした右手がサキの腕を掴んだ感覚を得たので思い切って引っ張る。
俺の行動に動揺していたのか特に抵抗もなくカーテンの中からサキが飛び出てくる。
「う、うわぁ!?」転びそうになっているサキを慌てて抱きしめる。運よく俺まで倒れることがなくて一安心だ。
「びっくりした。お怪我はありませんかサキさん?」
態勢が少し崩れたせいで普段とは逆に俺がサキを見下ろす形になり、抱きしめたサキに声をかける。
ただそこから先の言葉は今のサキを見た瞬間にどこかに飛んで行ってしまった。
それほど今のサキはとても可愛くて・・・見とれてしまっていた。
ヒトミさんの今回の服のテーマは童話です。
そんなテーマの表紙を飾るとしたらどんなお話でしょうね?




