161:天秤は傾く
残念。立ち直っちゃった
流石のヒトミさんでも今回の件に関しては申し訳なく思っているらしい。
近くで俺たちのやり取りを聞いていたヒトミさんがとても申し訳なさそうな顔をしている。
「なんだか迷惑かけてしまって申し訳ないっす。ただ今回はどうしても曲げたくなかったんっすよ」
「珍しいなお袋がそこまで入れ込むなんて。なんかあったのか?」
意外そうな顔をしながらサキが尋ねる。サキや俺たちにモデルを頼むくらいにはこの仕事に熱が入っていたようだ。そんな風に熱中するのが珍しかったのかアカリも耳を傾けている。
「大した事じゃないっすよ。昔の約束事を果たそうとしていただけっす」
そう言って少し恥ずかしそうに頭を掻きながらヒトミさんは静かに語りだす。
「ヒトミさん学生の頃は将来の夢がなくて死なない程度に生活できればそれでいいって考えていたんすよ」
「んである時今のように衣装づくりする機会があったんで適当に作ってたらユミナ先輩に言われたんすよ」
「服を作る才能がある。将来ビックになったら私の子供の服を作って欲しいって」
「で、ユミナ先輩にお子さんが生まれたのをきっかけにこの仕事を始めて」
「今に至るって話っす」
俺はそれを聞いて胸が締め付けられる思いだった。きっとヒトミさんは俺が生まれたから今の仕事をしている。言い換えれば俺がいなければこの生活をしていないということだ。
人の人生を変えてしまったのを自覚したのは家族に次いで二番目の話だ。
聞くのが怖いが尋ねなければならない。意を決して俺は口を開く。
「ヒトミさんは、この仕事を選んで後悔してないんですか?」
バレてないはずだ俺の恐怖は。唾をのみこみながらヒトミさんの答えを待とうとしたのだが返事はすぐに帰ってきた。
「ないっすよんなもん。今の仕事してなきゃきっとヒトミさんはアイちゃんのヒモまっしぐらなんでむしろこっちの方が安心っす」
親指を立てて合図を送るヒトミさんの表情に嘘はない。感動していたアカリたちもその返答に苦笑いする
「お母さん生活力ないもんね・・・お父さんが家事しないとなんにもできないし」
「ま、ちったー働いた方が世の為人の為ってやつだ」
「酷い言われようっすが否定できないっすね!?こうなったらもっと料理を・・・」
アカリとサキが慌てて止める。そんな家族の一幕を目撃して俺の頭が痛む。
ずっと静かにしていた((彼女))が尋ねる。今の幸せを壊すのか?と
そんなことはできるわけがない。今の彼女たちの幸せを壊す権利が俺にあるわけがない。
俺さえ今を受け入れればすべて丸く収まる。また悪い考えばかりが頭を支配する。
しばらく忘れていた罪悪感が俺の心の中の天秤をまた片方に傾ける。
ぴしり、どこかでまた鎖が壊れそうな音が響いた。
このまま考えていてはいけない。嫌な考えを頭から振り払いヒトミさんに声をかける。
「お話聞かせてくださりありがとうございます。ママとの約束のためにも撮影続けましょうか」
俺の言葉にその場にいた全員がはっと我に返る。ヒトミさんの話のせいで本題からずれていた。
「っとと、そうだったっすね。それじゃあ二人はヒトミさん一押しの服を着てもらうっすよ」
悪い考えはひとまず放っておこう。目の前の仕事に集中することが先決だろう。
いくらヒトミさんと言えどもメインに添える服は流石に変な服ではないはず・・・
「じゃじゃーん!かっぷるこ~で~。これで好きなあの子ともっと仲良くっす」
この人なんでネットで人気なんだ・・・別の意味で俺の頭はまた痛くなった。
今までのユイなら折れていましたが彼女も成長しましたね。
何気ない行動が人の将来を決めるってなかなか重いですよね。
ヒトミさんだから笑い話になっていますがね




