158:会社案内
儲かってそうな会社ですね。
ビルの中にはテナントが一つしか入っておらずエレベーター横の案内板にはすべての階に同じ会社の名前が並んでいる。
雑居と言っているがこれでは持ちビルのようだなと思ってしまう。
そこまで広くないエレベーターでこのビルの最上階である5階に上がると出てすぐのところでスーツを身に着けた女性が出迎えてくれた。
「お待ちしておりましたヒトミン先生。本日はよろしくお願いしますね」
本名をもじった名前で呼ばれたことで知り合いだと認識できたのか先ほどの死にかけから一変して普段通りの元気な姿に戻ったヒトミさんがはきはきと女性と会話をする。
「どもどもっす!今日はこちらこそよろしくっす!ちゃーんとモデルも用意したのでしっかり撮影お願いするっすね!」
これが先ほどまで玄関でだだをこねていた人物だとは到底思えない。気のせいかアイさんが少し寂しそうな顔をしているのだがあの姿がいいのは流石に理解できない。
スーツの女性は俺とサキを交互に見つめつつサキとルナにも視線を向ける。
「先生の作品にぴったりのモデルさんですね。こちらのお二人も弊社としては別作品のモデルとしてスカウトしたいほどです」
お世辞なのは分かるのだがこうやって褒められるのは悪くない。不機嫌だったサキですらも機嫌がよくなったのが分かる。
「申し遅れました。私先生の担当の石廊崎と申します。撮影全般のアシスタントと思ってください」
年下の俺たちにも丁寧に挨拶するあたり仕事ができそうだなとなんとなく思ってしまった。
「今回の撮影は3階で行います。基本的に5階は受付と会議部屋。4階が事務所、2階が編集部となります」
「このビル一つで弊社の仕事の全てをマネジメントしておりますので間違った階に移動しないようにご協力お願いしますね」
石廊崎さんの説明を聞いてやはりこのビル持ちビルなんじゃないかなと改めて思ってしまう。
3階は複数の小部屋で成り立っているようでそのいくつかの部屋には撮影中の札がかかっているのが分かる。
「本日はほかの部屋は使用中ですので間違った部屋に入らないように注意してください」
一つだけ開いていた3号室と書かれた部屋の札を使用中に変更しながら石廊崎さんは俺たちに注意を促す。
似たような部屋が並んでいるので番号を頼りに確認してから入らないようにしないといけないなと俺たち全員は石廊崎さんの言葉に頷きながら注意する。
部屋の中には既に運び込まれたと思われる何着かの衣服。部屋の隅にこじんまりと設置された小さな更衣スペースが目立つようなそこそこの広さの部屋だった。
撮影係はまだいないらしく部屋の中には俺たちと石廊崎さんの姿しか見えない。
「撮影が立て込んでいるので少々お待ちください。今飲み物などを持ってきますのでごゆっくり」
と忙しなく石廊崎さんが部屋を出て扉を閉めた瞬間に俺とサキは他のメンツに囲まれてしまった。
ゲーム画面で言う回り込まれてしまったというやつだ。ご丁寧にいつの間にか各々の手に様々な衣装が握られている現実から目を逸らしたくなる。
「さーてはーちゃん。さきっち、お着換えしましょうね~」
待ってましたとばかりにルナがこちらにじりじりと近づいてくる。その手に持っている薄い衣装は断じて着るわけにはいかない。
サキもそれには同感なのか鋭い視線を向けながら唸っている。
「ダメだよルナちゃん。まずはこっちの服からだよ」
こちらに救いの手を差し伸べているかのようなアカリだがお前の持っている衣装もフリフリがたくさんついているせいで受け入れられるわけないだろう。
俺とサキはアイコンタクトをしてなんとかこの場を逃げようと考えるのだがそうは問屋が卸さないようだ
「まあまあ、時間はあるっすから全部着せればいいんすよ」
いつの間にか背後に回っていたヒトミさんが俺たちの肩に手を置いたせいでもはや逃げ場がない。
「・・・・なるべく大人しい服でお願いします」
聞き届けられるはずのない願いを口にしながら俺とサキは静かに見つめあってこの地獄の時間を耐えることに全力を注ぐことになった。
色々なイベントに巻き込まれておりますがこれらはユイがいるから発生するイベントです。
本来の歴史ではこの会社と接点を持つこともありませんしヒトミさんの仕事も別のものになっています。
いわゆるバタフライエフェクトの影響がここまで出ている感じです




