145:自室にて
伝承の話
しばらく夜風で自分の体の熱を冷やしてから家の中に入る。
リビングでは大分酔っぱらってしまっていたのだろうパパがソファーの上で静かに眠っている。
途中まで努力したのだろう靴下を脱ぎ上着のボタンを外したところで力尽きてしまったようだ。
そんなパパを風呂から上がったばかりなのか湯気を纏ったママが膝枕しながら見つめている。
相変わらず仲の良い夫婦だと思う。俺の帰りに気づいたのか指を口元に充てて静かにするようにジェスチャーをする。
「本当はダメだけど久しぶりに楽しんでいたからもう少し寝かせてあげたいから静かにしてね」
そうママに言われたら俺も従わざるを得ない。こくりと小さく頷きながら静かにママにおやすみと告げてから自分の部屋に向かう。
浴衣を着替える際に軽くシャワーを借りたのでこのままベットに寝転ぶの良いだろう。
後ろの方でママからおやすみという挨拶を聞きながら静かに階段を上り自分の部屋に入っていく。
部屋の中では窓際に置かれた椅子に腰かけてどこからか持ってきたのか難しそうな本を読んでいるラクーンの姿があった。
「やあ、お帰り。随分と面白いことをしてきたみたいだね」
本の間に栞を挟んでから俺の方を見上げてラクーンは呟く。
「からかうんじゃねーよ。あれはあれで結構恥ずかしかったんだぞ」
ため息を一つつきながらベットの上に腰を掛ける。寝巻に着替えることもだいぶ慣れたもので慣れた手つきで着替えを進める。ラクーンのことは置物くらいにしか思わないくらいにはこの現状に慣れてしまっていた。
「なあ、聞きたいんだが過去に侵略者が現れた歴史とかあるのか?」
着替えを終えて暇そうにしているラクーンに気になっていることを聞いてみた。
いきなりの話題に戸惑いつつも侵略者の話に関しては真面目なラクーンが答える。
「僕とてそこまで長生きじゃないから分からないけど少なくとも僕が生きている間ではないね」
どうしてそんなことをと聞いてくるラクーンに神社に伝わる伝承について話すと途端に難しそうな表情を浮かべる。
「そのころ僕は生きていないから断言はできない。ただそういう伝承がある以上は起こったと考えてもいいだろうね。僕の方でも少し調査しておくよ」
「頼んだぞ。俺の勘違いなら良いんだが・・・」
ついつい気になって知りたくなったのだが思った以上にラクーンは真剣に調査すると言っていた。
まあ考えてみれば今現れているのが初めてだと考えるのは流石に楽観的過ぎる話だろう。
ベットに横になりながら難しいことを考えていると瞼がどんどん重くなっていくのを感じる。
あれだけ動いて楽しんだ疲れというのが今更出てきてしまったようだ。疲れやすい体のためにも脳が休めという信号を送っているようだ。
「君も疲れているみたいだしこの話はまた後日しよう。それじゃあおやすみなさいユイ」
ラクーンの言葉を聞きながら俺は静かに瞼を閉じる。真っ暗な視界の中で少し大きく息を吐いて・・・気づいたら俺はそのまま深い眠りへと落ちていった。
ラクーンは真面目なのでからかう必要がないときはしっかり働きます。
次回は別視点の話を書いてこの章は終了になります。




