144:帰り道
こっちの方がらしいでしょう?
説教から解放される頃には祭りも終わりを迎えていた。先ほどまでの喧騒は今は屋台の解体などを行う人々の話し声に代わっていた。
神社の入口付近でルナに見送られる形で俺たちは帰路に着くことになっていた。
ママは酔ってしまったパパを引き連れて先に帰ってしまったので俺は一人で帰ることになる予定だ。
「本当はこのままお泊りをしたいんですが流石に今日は片付けなどで忙しいでしょうし大人しく帰らせていただきますね」
迎えに来た高級車に乗り込みながら委員長は少し寂しそうな顔をした。
「まあまあ、夏休みになればどこかで時間を取りますのでその時にでもやりましょうか」
とこちらが提案すればスキップしそうな勢いで車へと乗りこんだ。運転席で執事らしき高齢の男性がこちらに頭を下げていたのが印象的だ。あんな執事がいるなんて委員長はどんだけお金持ちなのだろうか。
「んじゃこっちも帰るか。またな」うつらうつらと寝ぼけ眼になっているアカリに肩を貸してサキが手短に挨拶をしてこちらに背を向ける。
後に残っているのは俺とルナだけであり二人の間に無言の空気が流れる。
「家まで送るよ。夜道を一人で返したって言ったらママに怒られちゃうから」
そんな口実を作ったルナに俺は否定することはなく静かに家までの道を歩く。
既に道を歩く人は少なく、今も視界に入る範囲に俺とルナ以外の人気はない。
「今日は本当にありがとうねはーちゃん。」
主語を省いたルナの感謝の言葉。何が言いたいのかはそれでも分かるので俺もそれに答える。
「気にしないでください。最初はどうであれ最後まで協力したのは私の選択です。」
「おかげで滅多にできない経験もできませんでしたしとても楽しかったですよ」
ほほ笑みながら自分の正直な感想を返せばルナはほっとしたように一息つく。
「ありがとねはーちゃん。にしし、やっぱりはーちゃんはとっても優しいね」
俺と少し距離を取ってくるりと一回回ってから俺の正面に向き直る。
「ねえはーちゃん。あの時の続き・・・してみない?」
あの時と同じように憂いを帯びたどこか色っぽい雰囲気を纏ってルナは俺を見つめる。
どこか普段のルナとは違う雰囲気に飲まれそうになるのを必死に抑えながら俺はルナの頭に軽くチョップを落とす。
「ふぎゃ!?」猫を踏んづけたような変な悲鳴を上げながらルナは叩かれた頭を押さえる。それだけで異様な雰囲気はどこかに消し飛んでしまった。
「調子に乗らないでください。普段のルナならともかく今のルナは嫌です」
そんな答えを想像していなかったのかぽかんとした表情を浮かべてからやがて大きく笑いだす。
「あはは!だよね!ごめんごめんはーちゃん。なんだかまだ浮かれていたみたい」
普段のような満面の笑みで俺を見てくるルナ。やっぱりルナはこっちの方が似合っている。
「しっかりしてくださいね。そっちの方が可愛いですよ」
「もう!やっぱりはーちゃんは女たらしだよ!!!」
ぷくーっと頬を膨らませながらルナは抗議の声を上げる。そんなことをしている間に俺の家に到着していた。
「それじゃあお見送りありがとうございました。おやすみなさいルナ」
そういってから家の玄関の扉を開けようとした時背後からルナが俺を呼ぶ。
「はーちゃん!」振り返った俺の頬に暖かい感触が伝わってくる。
暗い道なのに分かるほどに今のルナは普段以上に真っ赤な顔をしている。
「な・・・な・・・」頬を抑えながら俺もまた顔を真っ赤にしながらルナを見つめる。
「今の僕はこれが精いっぱい!おやすみはーちゃん!!!」
俺が何か言う前にルナは全速力で来た道を走り去ってしまった。
抑えた手の下で頬がまだ熱を放っている。さっきまでの熱に浮かされたような暑さとはまた違った熱が俺の体を包み込む。
「っ・・・あんなの反則だろ・・・」
学校で次に会う時どんな顔をすればいいのかまた頭を悩ませる出来事が増えてしまった。
普段のルナ的には今はこれが精いっぱいです。




