142:夜空に咲く華
花火に見とれていた。
俺たちのいる場所には人の喧騒は届かない。夜空に浮かび上がった花火の弾ける音と虫のさざめきだけがこの空間を支配している。
先程まで俺たちを追及していたサキたちも今は静かに夜空に視線を向けている。
多種多様な色の花火が暗い夜に華を開き祭りに彩りを与えている。
こんなに間近で花火を見る機会なんてのはいつぶりだろうか。いつの間にか花火なんてものはテレビの向こうの景色になってしまい、花火大会なんかへの参加からは距離を置いていた。
そんな風情のない俺が今は4人の少女に囲まれて花火を見ているのだから人生何が起きるか分からないものである。
この中で一番大人びている風に見られるアカリが今は一番幼く見える。大きく口を開けて感嘆の声を上げながら花火に視線を釘付けにされている。
普段は気持ちの悪い顔をしていることが多い委員長も今は優雅に扇子で口元を隠しながら俺やサキから視線を外して花火を見ている。いや、たまに俺やサキを見ているみたいなのでそこは変わらないらしい。
黙っていれば絵になるのに本当に残念美人すぎると言わざるを得ない。
俺の隣に座っているサキは楽しんでいるアカリの表情を横目に見ながら大人びた笑みを浮かべている。
なんだかんだこの姉妹は本当に仲がいいし、サキもしっかりと姉を務めているのだと認識できる。
そんな風にほかの様子を見つつ俺も花火に視線を向けていたのだがふと肩に誰かがよさりかかってくる。
隣にいるのはサキかルナかの二択であり、サキが違うのならばルナでしかない。俺はルナの方に視線を向ける。
俺の肩によさりかかりどこか憂いを帯びたような表情を浮かべているルナから俺は目が離せなくなる。
どうもおかしい、あの神事の後からルナの事を意識しすぎている気すらする。
あの空間の熱に酔ってしまったからなのか、はたまた俺の情緒が狂っているのかは定かではないが今まで意識していなかったルナのことを意識しだしている気がする。
普段の構図とは逆に今はルナが俺を見上げるようにして見つめている。
ルナの赤い唇が花火の音にかき消されながら何か言葉を紡いでいるのに気づく。
何を言っているのかは分からない。でも今はそんなことはどうでもよかった。
なぜだろうか・・・((私))は今ルナのその唇を自分の唇で塞がないといけないという使命感に駆られていた。
幸いにも外の3人は花火に夢中でこちらの様子に気づくことはない。
少しづつ俺とルナの短い距離が近づいていく。後少し近づけば二人の距離は0になることだろう。
頭に靄がかかったかのように熱に侵された状態で俺たちが重なろうとしていた。
そんな時、ドンと大きな音を立ててひときわ大きな花火が夜空に咲いた。
その音に俺とルナは急に正気に戻されたというべきか今にもキスしそうな現状に慌てて距離を取る。
慌てすぎたルナはベンチから転げ落ちて全員の視線がこちらに向いてくる。
俺たちは・・・一体何をしようとしていたんだ・・・顔が真っ赤になって何も考えられない。
あの花火が最後の一発らしくもはや花火の音が途絶えた空間で3人の冷たい視線に耐えながらこれからどうするか考える余裕すら今の俺にはなかった。
普段の二人は絶対こんなことしないですよ?ルナもユイもね。
何がそうさせたのかは内緒にさせていただきます。




