111:昨夜はお楽しみでしたね
朝ちゅんちゅん
目を覚ました時俺の瞳から涙が一筋零れ堕ちた。
どんな夢を見ていたのかは思い出すことはできないのだが良い夢ではなかったのだろう。
嫌な目覚めだなと思いながら体を起こそうとしたのだが全然起き上がることができない。
「?」疑問に思いながらよくよく周囲を見てみれば俺はいつの間にか眠っているアカリを思いきり抱き締めていた。
「!?」驚いて振りほどこうとするのだが俺と同じようにアカリも俺を抱きしめているために身動き一つとれないでいた。
ベットの上に視線を向ければサキとルナは幸いにもまだ眠っている。ルナの寝相が悪すぎてサキの顔に足蹴りが入っていてサキがうなされて居るのが分かる。
ほっと一息つくことができた。こんな状況をルナやサキに見られたら絶対にろくでもないことになるのは明らかである。
誰も起きていない今のうちにこっそりと抜け出そうと思っているのだがいかんせんがっちりホールドされているので動くことすらできない。
隣に寝ているアカリの吐息が顔に当たるくらいに近いせいで自分の顔が真っ赤になっていくのを感じる。
「あの、起きてくださいアカリさん。頼みますから起きて放してください」
軽く動く腕でアカリを揺すってみるのだがアカリが起きるそぶりは一切ない。
それどころか寝ぼけているのか余計に俺の体をがっちりと抱きしめて胸に顔を押し当ててくる。
「もが!?」
「えへへぇ・・・ユイさんだめですよ~そんな甘い言葉ささやいちゃ~」
夢の中の俺は一体どんなことを言っているのか起こして問いただしたいのだがアカリの胸のせいで言葉を発することもできない。
世間の男子にとってはご褒美のような状態なのだがいざ自分が直面すると困惑と命の危機の方が大きくなっている。
じたばたともがくのだがこの体のせいなのかそれともアカリの力が強いのかぴくりとも動くことはない。
辛うじて呼吸ができるようになったのだが今直面している危険からは何一つ変化はない。
そうこう騒いでいるうちに階下の方で扉の開く音と共に誰かの声が聞こえてくる。
「ただいまー娘たちよパパんが帰ってきたよー」
あの喫茶店でも聞いたアカリとサキのお義父さんの声が聞こえる。それと同時にもう一人聞き覚えのない声も響く。
「ふひひ、ひとみお母さんも帰ってきたっすよ。お土産たくさん買ってきたっすよ」
どうやらこちらが話に聞くアカリとサキのお義母さんのようだ。どことなく陰気な気配を感じるのは気のせいだろうか。
「ありゃ、まだ寝てるのかな。しょうがないなー。ひとみ、みんなを起こしてあげて。確か今日はルナちゃんとお泊り会だって言ってたからね」
「りょ。今のひとみお母さんはご機嫌なので起こしに行ってあげるよ」
そんな会話と同時に階段を上る足音がどんどん近づいてくる。
焦りながら必死に抜け出そうとするのだが当然間に合うわけもなく無情にも扉が開かれてしまう。
「おはようっす。みんな朝っすよ・・・・・」
扉を開けた状態で固まる女性が一人。その視線と起きている俺の瞳が重なってしまう。
「・・・・」「・・・・」
お互いに無言の時間が続き、そして彼女は一言。
「昨夜はお楽しみでしたね。ごゆっくり・・・」
と言って扉を閉める。どう言い訳をしようか・・・俺は起きて早々頭を痛めることになるのだった。
アカリとサキの義理の母親の初登場になります。
色々と癖の強い人なのでどうかお楽しみに




