第67話 Story about ロザリオ 16-1
「これはいったい、何が起こっているのでしょうか・・・・・・? 」
モニターに映る無数の光点に、ロザリオが戦慄した声で尋ねた。
「帝国の艦隊だろう。ここで我々を、待ち構えていたようだ」
ここというのは、バーラーブの近郊だ。
ニーシャプールから戻り、ここで待っていたゲオルグたちと合流し、プルシャプラへと向かう予定だった。
ニーシャプールからの途上では、トクマクやサランジュをはじめ、先の帝国軍侵攻に従った諸部族が、定住民も航宙民族も含めて彼らに接触して来た。
帝国と手を切りたいが、帝国の脅威に自力では対処できない彼らが、保安機構の保護を求めて来たのだ。
ニーシャプールと和解し、アールパード族の同盟勢力にも名を連ねたいと表明し、それへの仲介まで依頼された。
ニーシャプールが、帝国の侵攻に従った部族を不問に付していることや、アールパード族と同盟すれば自動的に宇宙保安機構の支援も期待できることは伝えたが、それでも直に会って対談したいと各勢力の使者たちが嘆願するので、チーフ・ミハルはそれを受諾した。
会談の場を提供してもらうはずのバーラーブに着いた途端、コフトが大船団の急接近を告げた。帝国の艦隊だった。
マニエラに、戦闘回避の呼びかけを帝国側に向けて発信させる一方で、航宙指揮室の面々は敵の陣容の分析に取り掛かかった。
「2百隻は、いるかな? この前の侵攻部隊の、倍の戦力か。
この短期間にあれだけの戦力を仕立てて、引き返して来たのか。さすがだ。
巨大帝国の動員力は、すさまじい」
そう表現したチーフには、平静を装った中にやや緊張が見られた。「イゴル大尉、今回は、前回ほど簡単にはいかないかもしれないな」
前回は、イゴルたちの能力を敵が過小評価していたことで、意表を突くことができ、容易に制圧できた。
だが2回目となれば、そうはいかない可能性が高い。
「いやあ、大丈夫じゃないか? 」
チーフの隣で、大尉が楽観的な返答をした。「この前滅多打ちにした艦は、まだ使い物にならないから、目の前にいるのは前とは別の艦だ。
乗員も別だと思われるから、こいつらにとって俺たちは、やはり初めての相手だ。
帝国軍内の情報共有が、それほどしっかりしているとも思えないし。
それに相手にするのは、今回も帝国艦の一艦だけで良さそうだ。
それ以外は、全て小規模な部族を寄せ集めただけと見たぜ。
帝国領の外か内かの違いだけで、無理矢理連れて来られて渋々参陣しているだけの奴らが、ほとんどを占めているようだ」
「そうか。とにかく、あの軍団への対応は大尉に任せる」
イゴルの見解でチーフは安心した顔になり、ロザリオもそうなった。だが、数分後、
「やっぱ、やばいかもしれないな」
と、数分前とは一転した口調で、イゴル大尉は連絡してきた。
戦闘艇のコックピットからの連絡だった。
「どうした? 何かあったのか? 」
「奴ら、戦闘艇団を前面に展開しやがった。
前回には無かったこんな陣立てでくるってことは、前回の反省を踏まえていやがるし、それ以上に、この戦闘艇団がやばそうだ」
「戦闘艇団が、やばいとは? 」
「こいつら多分、培養奴隷の軍団だ」
「培養奴隷? そう言えば大尉は、あの会談の時、ドラヴァレットとか言ったマゼーパ族の幹部から、培養奴隷について色々と教わっていたな」
「ああ、彼が言うには、培養奴隷の中には、恐ろしく優秀な戦闘艇パイロットがいるそうなんだ。
航宙民族や帝国において広く使役されているから、これからは培養奴隷と戦う機会も多いだろう。その時は十分に注意した方が良いぞって、真剣な調子で言われたよ。
あの、いつでも明るいヤツが、珍しく真面目な顔になっていたな」
「どうする? しばらく距離を置いて時間を稼ぎつつ、機構本部やアールパード族に援軍を頼むという手も、考えられるが」
「ちょっと、戦術を検討してみる。時間をくれ」
「分かった」
イゴル大尉の結論を待つ間、航宙指揮室には重い沈黙が立ち込めていたが、コフトの驚きを露にした叫びが、他の面々をも驚かせた。
「何だよ、これは! 」
「どうした、サーベイランス? 」
「敵の戦闘艇団が、一斉に移動し始めた・・・・・・っていうか、逃げ出した。
脇目も振らずに戦域を離脱して行く。一目散な感じで、遠ざかって・・・・・・」
「敵艦も、混乱しているわね」
マニエラも、報告した。「戦域を離れないように呼び掛けているのに、培養奴隷はお構いなしみたいね。帝国の司令官は理解できない様子よ。
あ、それに、もう一つ傍受に成功した通信では、培養奴隷に呼びかける出所不明の指示が確認されたわ。
ロードとか名乗る者が、座標を指定しての一斉召集を駆けているわ。
その座標に関しては、おそらくあのパイロットたちだけに分かる記号体系で示されていて、こちらにはそれがどこなのか分からないけど、とにかく今すぐに、現在の任務を放棄し、命令系統も無視して、指定した座標に向かえですって」
「確か、培養奴隷たちは彼らを作り出した者を、ロードといって神の如くに崇め従っていると、ドラヴァレットが言っていたな」
「そうだな、チーフ・ミハル」
イゴルがコックピットから、通信で応じて来た。「あいつらを作り出し、宙賊や帝国に売り込んで荒稼ぎしているヤツを、培養奴隷たちはロードと呼んでいるそうだ」
「そのロードが、送り込んだ先の任務も事情も顧みずに、無理矢理培養奴隷たちを引き上げようとしているわけか。
何やら、尋常じゃない事態のようだな」
考え込んだチーフが、問いかけるような視線をロザリオに向けたが、彼にしても、全く理解の及ばない事態だ。
首を横に振ってそれを示すしか、できなかった。
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2023/11/25 です。
この物語においては、宇宙における艦隊決戦では散塊弾(沢山の小さな金属塊をばら撒くタイプのミサイル)の応酬から始まるのが一般的、というようなことを、以前に後書きだか本編だかで書いたと思います。
で、今回の場面では、帝国艦隊は戦闘艇団を前面に展開する形で接近して来ているのです。
一般的でない陣立てをしていることから、イゴル大尉は、前回の戦いの反省を踏まえている可能性を感じ取っているわけです。
前の戦いでは、保安機構側の戦闘艇団にしてやられたことから、戦闘艇団で戦闘艇団を撃退することを考えているのか、それとも戦闘艇団で機構側の戦闘艦「ポドルム」を牽制している間に、大多数の艦で接近包囲して仕留めようとしているのか。
イゴル大尉が「戦術を検討する」と言ったのは、それらの可能性に対して、どんな対応が自分たちに可能かをシミュレートしてみる、ということだと作者は考えています。
といっても、培養奴隷が逃げ出したことで、そんなことは関係なくなってしまうストーリーだから、こんな裏設定は無用ではあります。
無用でも、こんな細かい裏設定を考えておかなくては気の済まないのが作者であるということを、アピールしてみました。
読者様にも、読者様なりの裏設定を考えながら読んで頂けると、物凄く嬉しいのですが、身勝手すぎる願望であることは十分承知しております。




