第68話 Story about ロザリオ 16-2
「いずれにしても、これで困難な要素は無くなった。
せっかく混乱してくれているこの機を突いて、速攻を仕掛けてやる。
出撃するぜ、チーフ」
言い終えるが早いか、戦闘艇団は加速を始めた。
今回の帝国艦がイゴルたちの能力を、どの程度知っていたかは分からないが、培養奴隷逃亡の混乱がそれを無効とした。
混乱を突いたイゴルたちの急襲に、帝国艦は反応できなかった。
何もできない内に、プラズマ弾の作り出す高磁場エリアに抱き込まれ、沈黙してしまった。
そこへ金属片の雨だ。イゴルたちとポドルムの、両方からの攻撃だ。
ここからの経過も結果も、ほぼ前回と同じになった。
帝国艦以外が蜘蛛の子を散らすのも、ズタボロの帝国艦だけが残されるのも。
帝国側から、さっさととどめを刺せと言って寄こすことも、チーフが拒否するのも、繰り返された。
力による抑圧の不合理を説く、チーフの長広舌も再現した。
「ガウベラ帝国が、エクパティアという古い帝国の支配下から興ったことは、我々も聞き及んでいます」
長広舌には、新たな文言が加えられた。「勝手な推測ですが、おそらく、エクパティアの圧政に苦しんだあなた方の祖先が、それを倒して圧政から脱したのでしょう。
その際には、武力や財力や権力などが、大いに役に立ったことでしょう。
その成功体験が、あなた方にそれらの力を、過信させているのではないでしょうか?
しかし今、あなた方は既に巨大となった帝国を、安定的に維持し育んで行かなければならない局面を迎えておられます。
この局面で尚、武力や財力や権力で抑圧することは、エクパティアにとってのあなた方の祖先と同じ存在を、自ら生み出すことになりませんか?
あなた方の祖先がエクパティアに対して燃やしたのと同じ怨念の炎を、力による抑圧は、あなた方の帝国の中にも燃え上がらせてしまうのではないでしょうか?
今回あなた方に無理矢理参陣させられた諸部族も、ただあなた方の敗北を見て逃げただけでなく、あなた方に対する怒りや恨みを、その心中に燃やしているでしょう。
こんなことを繰り返し、怒りや恨みを国中に無数にばらまき続けていたら、あなた方の未来にはエクパティアと同じ末路が待っていると、私は思います。
維持し育む局面を迎えた国が、力による抑圧を続けるのは間違いだと、断言させて頂きます。
是非、祖国の方々と話し合ってみてください。あなた方の皇帝にも、考えを改めるように進言してください。
抑圧の治世から、平等な対話と協力による治世へと、舵を切ってください。
支配的地位や優越的立場を失うことを、貴国の王族や貴族などは恐れるかもしれません。
しかしそれは、民への不信がもたらす間違った認識です。
人を支配し、人に優越していなければ幸せになれぬなどということは、決してありません。
圧政下に苦しんだ過去の経験や、平等な社会への未経験から、支配的立場の喪失を恐れすぎているのです。
人々が対等の立場である社会において、多くの人が幸せを実感できた事例は、我々地球系人類の歴史上には沢山あります。
その中には、かつては支配的な立場にあり、政変によってそれを奪われてしまった家系の人々も多くいますが、それら支配的家系出身の人々だって、平等な社会において、しっかりと幸福を手にしておられます。
あなた方は、支配者ではなくなっても幸福になれます。
逆に支配者であり続けることにこだわれば、怒りや恨みをばら撒き続け、エクパティアと同じ末路を辿るでしょう。
あなた方の祖国の王族や貴族に、そのことを是非お伝え願います。
あれほど隆盛を誇ったエクパティアを倒すというのは、壮大なる偉業です。
それを成した人々の血を引いておられるのが、ガウベラ帝国の王族貴族です。
更には、これほど巨大な帝国を現に統治しておられる。
そんな貴国の皇帝をはじめとした支配層が、頭脳明晰でないはずはありません。
今回の侵攻軍のスケールも、それを示しています。
そのような賢明で偉大な皇帝や王族貴族であるならば、力による抑圧の愚を、平等な社会のもたらす明るい未来を、理解して頂けぬはずは無いと私は信じます。
直ぐに民主化を、などとは申しません。
貴国の事情や風土に鑑みながら、少しずつで構いません。
まずは、周辺諸部族への高圧的態度を改めるところから、初めて頂けないでしょうか? 」
長広舌の後に沈黙が続くのも、前回同様だ。
前回は完全拒否の返答があったタイミングになっても、今回の沈黙は終わらなかった。
倍の時間が過ぎても、無言が続いた。
「チーフ、映像付きの対話型通信を、帝国艦が求めてきました」
報告するマニエラには、少し驚きの感情が見えた。
映像には誰が映し出され、何を語るのだろうと、ロザリオも好奇心を掻き立てられる。
映ったのは、金の地に黒の縁取りがされた、煌びやかな服に身を包んだ、まだ20代と思える精悍な面構えの男だった。
さぞかし位の高い将官だと思われた。この軍の最高司令官であることは、間違いないだろう。
「宇宙保安機構の代表者、キョセ・ミハルというそうだな」
あちらのモニターに映っているであろう、チーフへの発言だ。「予は、ガウベラ帝国皇帝テメノスである」
「ぅお・・・・・・おおっ」
チーフ・ミハルはじめ、指揮室の面々がどよめいた。
皇帝が出てくるとは、夢想だにしなかった。
(こんな戦いに、自ら出征しているなんて。
しかも、直轄の戦力は戦闘艦一艦しかいないなんていう、無防備な状態に身を晒すなんて。
帝国を留守にできるほどの統治への自信や、死をも恐れず危険に身を晒す胆力が、そこには示されている。
この青年、並大抵の器ではないぞ)
「御親征でしたか。驚きました。
御尊顔の拝悦をお許し頂けるとは、予想もしない光栄でございます」
「ふん、2度にわたって戦闘不能の醜態に陥らせておいて、光栄も何もないものだ」
怒るより、自嘲するような言い回しだった。
「今回は運良く、我らの与えられた兵器の水準が、貴国のそれを上回っていただけでございます。
優劣や善悪の証となるものでは御座いません」
こう返したキョセ・ミハルを、数秒ほどじっと見つめて皇帝は言葉を継いだ。
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2023/12/2 です。
戦闘シーンをもう少し分厚くした方が、エンターテイメント性が高くなって良いかとも思ったのですが、話の展開を考えると、このくらいが手頃だろうという結論になりました。
今回は、技術的に優位に立つ少数勢力が、技術的には劣る大勢力を圧倒する、という場面でした。
こういう場合は、早期決着がふさわしいだろうと思ったわけです。
長引けば、どうしても数が多い方が有利になってしまうのだと思います。
少数が多数に勝つには、一瞬のスキをついて一気にケリを着けるしかないでしょう。
そんな展開では、戦闘シーンも淡白にならざるを得ませんでした。
イゴル大尉の部下を登場させて、連携の為の会話を描くなども考えましたが、止めておくことにしました。
イゴル大尉の戦闘艇団は、阿吽の呼吸でほとんど言葉を発することも無く、帝国を圧倒したものとご想像ください。




