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銀河戦國史 (迷走の北辺暗黒天体群域)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第58話 Story about ロザリオ 13

 清潔だが重苦しい会議室の中、ロザリオたちとガウベラ帝国の使者が、テーブルをはさんで向かい合っていた。


「これら定住民都市の自主的な外交を、否定する権利があると主張するのですか?」

 感情を強引にねじ伏せたチーフ・ミハルの声が、会議室に響いた。

 人工天体都市トクマクにある、回転による遠心力が疑似重力として作用している部屋だった。


「これらの都市の動向が、我が帝国の核心的利益に関わるからだ」

 表情の読めない青白く平たい顔で、帝国の使者は淡々と言った。


「それが根拠ですか? あまりに一方的ではありませんか?

 こんなにも広大な版図と国力を有するあなたたちなら、小規模な天体都市の活動を妨げずとも、不自由のない国家運営が可能でしょう。


 むしろこれらの都市にとってこそ、外交の自主性は死活問題です。

 核心的利益とは、ガウベラ帝国のみに存在する問題ではありませんぞ」


「我が帝国の核心的利益は、すべてに優先する」

 決まり文句の棒読みといった口ぶりが、交渉余地の無いことを告げていた。


「全ての勢力の利害を、我らは対等に扱います。

 無条件での優先など、どの国に対しても認めるわけにはいきません」


「それは内政干渉だ。

 無関係の者がいきなり首を突っ込んできて、当方の治世を攪乱するのは止めてもらおう」


「バーラーブ行政府は、独立した集団であることを主張しています。それの利害に関わる問題を、我々は貴国の内政とは認識しません。

 また、バーラーブとは友好関係があり、トクマクともそれを模索した過去があります。

 ですから、無関係の者というそちらの認識も、誤りであると訂正させて頂きます」


「誤りではない。両都市は我が帝国の庇護下にあり、自分勝手に誰かと友好を結ぶ権利を有しない。

 我らのこの認識を受け入れない者を、我らは決して許さない」


「我ら宇宙保安機構も、我らの友好勢力の独立を脅かす者を看過しません。

 力の限りを尽くし、友好勢力の独立を守り抜きます」

 こうはなって欲しくないと、チーフ・ミハルが会議前に言っていた通りの展開になって行くのを、ロザリオはただ黙って見ているしかできなかった。


「敵対するという、意思表示と取って良いな、宇宙保安機構の代表とやら。

 強大なる我が栄光のガウベラ帝国に敵対することの意味を、いや恐怖を、思い知ることになるぞ」


「いえ、敵対は望んでいませんし、恐怖を感じることもありません。

 ただ全ての勢力が、互いの立場や利害を尊重し合う関係を、我々は求めています」


「立場や利害を尊重してやろうではないか。我が帝国の庇護下に、収まるのならばな」

「独立し、主体的に活動できる自由を、我らは全ての友好勢力に保証してみせます」


 ここから会談は、膠着状態に陥った。譲歩の余地など、どちらにもない。

 重い空気のまま、帝国の使者もキョセ・ミハルも、相手をじっと睨み据えるばかりだった。


 そこへ、緊急の通信を告げる着信音が、チーフの腕の端末から聞こえた。

「どうした? 」

 ガウベラの使者を睨んだまま、チーフは端末に問いかける。


「トクマクの武装船が十隻近くも、帝国の戦闘艦に先導される形で進発している。

 ニーシャプールとかいう天体都市を襲撃する計画だと、トクマクの指揮官は言っていた。


 俺たちには聞いたことも無い都市だが、武力侵攻となれば黙っていられないぜ、チーフ。

 それに、バーラーブの執政官殿が言うには、彼らにとっては重要な交易相手だそうだ、ニーシャプールというのは。

 友好勢力の重要な交易相手は、宇宙保安機構にとって保護の対象となるはずだ。そうだろ? 」


 イゴル大尉の報告を受け、チーフがガウベラの使者を睨む目に鋭さが増す。

「ニーシャプールという都市に、武力侵攻しようとしておられるのか? 」


「彼らは我らの要求を拒んだ。制裁が必要だ。

 バーラーブが、アールパードと関係を断てという我らの要求を呑まねばどうなるかの、良いデモンストレーションとなるだろう。

 じっくり見ておくことをお勧めする」

 表情を変えずに淡々と脅迫を口にするあたりに、優越の意識がにじんでいる。


「友好勢力を守り抜く我らの決意こそが、示されるでしょう。よくご覧頂きたい。

 行くぞロザリー。初めて名を知る天体都市だが・・・・・・何と言ったかな、大尉? 」

「ニーシャプールだ」

 チーフの端末から、大尉の声が教える。


「そう。ニーシャプールを防衛し、友好勢力バーラーブの核心的利益を保護するぞ」

「はい、チーフ・ミハル。行きましょう」


 立ち上がり、チーフに続いてロザリオは会議室の出口に歩を進めた。

 チーフに反応して開いた自動扉が閉まろうとする瞬間、彼はその向こうに使者の顔を見た。


 さっきまでと同じ、感情の読めない顔だが、その眼の奥に、小さな驚きが潜んでいるように感じられた。

 帝国の脅迫に屈しない者を、彼は初めて見たのかもしれない。


 2人が戻るや発進した戦闘艦ポドルムだったが、侵攻部隊からはかなり引き離されていた。

 レーダーに捕らえられるくらいにまで接近するのに、半日を要した。

 その半日の間に、侵攻部隊には劇的な変化が生じていた。


「3倍だぜ。異様なまでに膨れやがった、帝国の先導する軍団が! どうなってやがる? 」

 モニターを眺めながら、イゴル大尉がわめいた。


「観測データを、トクマクに残ったバーラーブの船で照合してもらっています。

 マニエラ、そろそろ返答が来るころじゃないか? 」


 サーベイランスのコフトから問われ、コミュニケートのマニエラが報告を上げる。

「たった今、返答が来たわ。

 あの船団は近隣の・・・・・・近隣といっても、数十光年の範囲に及ぶのだけど、そこに含まれる定住民や航宙民の、保有船らしいわね」


「帝国の檄を受けて、動員された連中というわけか。

 彼らの一声でこれだけの戦力が、それも定住民からも航宙民からも、参集するのか。

 恐るべき影響力だな」

 シップコントロールのヤックが、低くつぶやいた。


「バーラーブの執政官が言うには、バーラーブと交易や用心棒契約などで、過去に関わったことのある集団がほとんどだそうよ。本来は温厚で平穏な人々だとも、言っている。

 きっと帝国に脅されて、渋々参加させられているのだって、心配しているわ」


「そうなのか。よし、マニエラ、船団を先導している帝国艦に、通信を繋げられるか? 」

 決然としたチーフの声に、マニエラはすべてを心得た様子でコンソールを叩いた。

「・・・・・・はい、できました。先方に受信可能なはずの波長で、電波を届けています。

 お話しください」


「うん・・・・・・」

 少し考えをまとめていた様子のチーフが、重い調子で話し出した。「こちらは地球連合の保有機関である、宇宙保安機構だ。それを代表するキョセ・ミハルが話している。


 現在あなた方ガウベラ帝国の先導する船団は、ニーシャプールという天体都市への武力侵攻を企図していると認識しているが、それは非人道的で卑劣な行為であると、宇宙保安機構は最大級に非難する。

 即刻中止し、撤退することを求める。


 この要求が容れられない場合は、我らとしても実力行使の挙に出ることをやむなしとする。

 だが、武力衝突は決して、我々の望むところではない。我らと帝国だけでなく、全ての勢力間においての武力衝突を、我らは望まない。


 そちらとて人命は貴重であろうし、殺人者や卑劣漢の汚名を着せられるのも本意ではないはず。

 武力によらず、平和的な交渉による解決を目指して頂けることを、切に願う。


 我ら宇宙保安機構は、可能な限り武力衝突を回避する為に、直前まで行動を抑えるが、どうあっても侵攻を止めて頂けぬと判断したなら、その時には、予告なく断固とした実力行使に出ることを宣告する」


 しばらく返事を待ったが、通信機は沈黙したままだった。

 今回の投稿は、ここまでです。  次回の投稿は、 2023/9/23  です。


 大きな戦争において、戦力が事前に確定していないというのは、かなり多いのではないでしょうか?

 歴史上で、なぜそんな無謀な戦争を仕掛けたのだろうという事例も、当人たちは戦争を始めれば、味方になってくれる勢力が続出することを期待していて、そうならなかったという場合が多いのではないでしょうか?


 相手が弱いと思い、絶対に勝てると確信して戦争してみたら、始まった途端に敵側の味方になる勢力が続出して、気付けば勝てないどころか泥沼の長期化にハマってしまっていたり、というのもあるでしょう。

 現在進行形の戦争は、そういう状態なのかもしれません。


 歴史上で圧勝とされている戦争も、始まった当初は全く勝ち目無しに突入したのが、次々に味方になる勢力が現れて、結果的に圧勝だったというのもあることでしょう。

 そんな事例があるから、無謀な戦争に打って出る人も後を絶たないのかな、などと思ったりもします。


 誰が味方なのか、敵なのか、いざという時には誰が敵になり、誰が味方になってくれるのか、いつの時代でも、個人でも集団でも、見極めるのは大変なのだなと実感させられます。

 戦争を初めて思い通りに事が進むことなど、まあまず無いのだということを、早く全人類が学習して欲しいものだと思ってしまいます。

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