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銀河戦國史 (迷走の北辺暗黒天体群域)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第57話 Story about ロザリオ 12,Story about スパルタクス 10

 アールパード族の同盟勢力の1つである定住民の、居住天体へと向かうロザリオたちの旅は、直前に頓挫した。

 バーラーブの執政官が伝えた「残念な報せ」が、それだった。


「我々の友好交易対象である天体都市トクマクの使者が、アールパード族との関係を断つように進言してきました」

「トクマク? 聞き覚えがあるような・・・・・・どんな部族なのです?」


 モニターに向って尋ねるチーフ・ミハルは、いつも通りのㇵの字の眉で穏やかに見えながらも、声には苛立ちを含んでいる。

 その隣で、ロザリオは腕の端末を操作し始めた。

 チーフに聞き覚えがあるからには、端末から何か情報を引き出せるかもしれない。


「トクマクの規模は我々の十分の1にも満たず、恐れる理由は無いのですが、背後にガウベラ帝国がいるのです。

 十年近くも以前から、トクマクはガウベラの属国と言って良い状態になっています。

 進言の拒絶は、帝国の干渉を招くでしょう。バーラーブとしては死活問題となります」


「つまり実質的には、ガウベラ帝国がバーラーブとアールパードの接触を、妨害しているわけですね。

 帝国も、アールバード族が彼らに対抗し得る勢力になりつつあることを、懸念しているということでしょうか? 」


「恐らくは。トクマクの行政機構に使者を派遣することで帝国は、近隣諸勢力への監視や介入の足掛かりとしてきました」

「あっ」

 チーフの隣で、話に耳を傾けながら端末を弄っていたロザリオが、小さな声を上げた。


「何か分かったのか、ロザリー? 」

「ええチーフ。トクマクと保安機構は、宇宙商人を間に挟む形で、何度か接触しています。

 友好関係に前向きな姿勢だったようですが、彼我の距離が原因で実現せず、数年前を最後にぱたりと音信不通になっていますね」


「それは」

 執政官が、ロザリオの報告を咀嚼しながらのように話し出す。「十年ほど前に帝国の属国となったトクマクが、その境遇から逃れようと保安機構に接近したが、帝国に知られてしまい断念させられたのでしょう」


「そうですか。トクマクとしては、ガウベラの属国に甘んじるのは、本意ではないのですね。

 しかし力で屈服させられ、その境遇を抜け出せずにいる。

 今回の妨害も、心ならずも帝国に強要されて、というところでしょうな」


「こうなると、トクマクも放っては置けませんよ、チーフ。

 一度は保安機構を頼って、接触してくれた部族です。

 これを見捨てたのでは、保安機構の名折れです」


「そうだな。ここはひとまず、トクマクに向かうか。

 帝国とも、可能ならば接触を試みたい」

 進言を容れられ、使命感を燃やす一方で、心の別の部分は冷え込んだ。


(これでまた更に、セシーから離れて行ってしまう。

 セシーから引き離すような事案ばかりが、次々に持ち上がって来てしまう。

 どうすればいいんだ・・・・・・)


 セシリアに向けて伸ばすことすらできない手に、ロザリオは無能を噛み締めた。



Story about スパルタクス 10


 思うがままセシリアに向って伸ばせる手で、スパルタクスは官能を噛み締めた。

 天体が催す自然な重力下での行為は新鮮なためか、どうにも興奮が過ぎてしまう。


 彼は今、生活の面でも新鮮な環境にいた。

 労働に勤しみ、豊富な選択肢から日々の食料などを調達し、愛する者と暮らす家へ帰り、2人で食事をとり、同衾して快楽と快眠を恣にする。

 そんな毎日だった。


 昨晩の余韻が残るけだるい身体で、窓辺に座り込んだ。

 徐々に明るくなる人工の照明が、窓外で朝を演出している。

 見下ろすと、微弱な重力のもとで大きく弾むように移動して行く、無数の人影が遠望できる。


「こんな朝早くから、こんなにも活気があるのだから、この都市の繁栄は本物よね」

 十日と少しの観察を経た、セシリアの結論だ。


 それを口にする彼女の眼の中にも、昨晩の余韻が残っているのに気づき、スパルタクスは嬉しくなる。

 彼に寄り添って窓辺に腰掛け、彼にもたれかかる彼女の肩から、同じけだるさが伝わるのにも。


「資源採取に不向きな天体だというのに、加工貿易だけでこれほど繁栄するとは、優秀な部族だ。

 地球時代から保持していた技術が、優良だっただけではあるまい」


「そうね、タック。確かにニーシャプールの人々は、他の部族が持っていないような遺伝子や遺伝情報を沢山持っていて、それらを使った産業を発達させたけど、それ以外にも、貪欲に技術を集めているわ。

 地球系と直接のコンタクトは無いのに、地球系の技術を沢山見かけたもの。

 いくつかの宇宙商人を経由して、掻き集めたのね」


「よく調べたものだな、セシー」

 彼女の腕の端末に目をやりながら、スパルタクスが褒めた。「ブレスレット型のそれが、ここでも役に立ったのだな。俺に夢を見せたのに始まり、実に使える武器だ」


 自慢気な笑顔で、セシリアが応じた。

「そうよ。本当に便利よ。命の恩人では済まないくらいに、何度も助けてくれるわ。

 で、これでここのサーバーにアクセスしてみたら、ニーシャプールの生産力を示す情報をたくさん見つけたの」


「ガウベラ帝国の要求を強気にはねつけるのも、そうした生産力が背景にあってのことなのだな。

 交易相手に関する情報供与などの要求を、ここの行政府が拒絶したことに、住民たちはたいそう留飲を下げた様子だった。

 昨晩はその件で、酔った一団が路上で勝鬨を上げているのを見かけたぞ」


「でもそれは、帝国への恐怖の裏返しかもね。

 皆で集まって大声をあげていないと、不安なのかも。

 今回の要求拒否がどんな結果をもたらすか、実は心配しているのよ」


「だが、ガウベラの要求を拒否するのも、今回が初めてではないそうだ。

 これまで何度もそうしてきて、一度も具体的な行動を起こされたことは無い。

 それによる自信もあるが、今度こそ何か仕掛けて来るかも知れない、とも思っているだろうな」


 こんなニーシャプールと、アールバード族は用心棒契約を結んだわけだが、大きな問題を抱え込むことになった。

 その問題への対処の一環として、スパルタクスとセシリアはここに送り込まれ、この部屋で起居する十数日を過ごしたわけだ。


 問題とは、以下のようなものだ。

 アールバード族はサランジュという天体都市とも同盟しているのだが、そのサランジュとニーシャプールが、深刻な対立を抱えている。


 百年ほど前に、ニーシャプールがサランジュを軍事占領していた時期があり、サランジュにはニーシャプールへの遺恨がくすぶっているし、損害の賠償も求めている。

 ニーシャプールは、ある一定の賠償を既に支払っていて、それで問題は解決しているとの立場だが、サランジュは納得しない。


 十数年前にサランジュの為政者が、その時の成り行きで賠償を受け取ったが、住民の賛同を得たものではなかったから、混乱が深まった。

 更なる賠償を求めて一歩も引かないサランジュと、これ以上の賠償は有り得ないと突っぱねるニーシャプールの対立は、抜き差しならない状態になってしまっていた。


 サランジュとニーシャプールの双方に、対立をやめるべきと主張する融和派と、あくまで要求を押し通すべしと息巻く対決派があった。

 ロカレーンは、より規模の大きなニーシャプールにおいて、優和派に働きかけることで事態を解消できないかと考え、セシリアとスパルタクスを送り込んだのだった。

 融和派との接触を図ることと、ニーシャプール住民全体の考えの傾向を探ることが、彼らの任務だ。


 窓から見下ろす人並みには、他国との対立も帝国への恐怖も見えない。

 それぞれの一日に向って、活力に満ちて歩を進めている。


 時代や場所を異にする者には、高層ビルから地上を見下ろしているように思える彼らだが、実際は建てられたビルではなく、掘り残された岩の側面に開けられた窓から、掘られた穴の底を見ている。

 岩石天体を掘り下げ、その穴の底を地上階に仕立て、掘り残された岩に高層ビルさながらに、住居や様々な施設をつくり込んである。


 空を見上げようとすると、そこにも岩肌が目に留まる。天体の表面部分も残し、内部だけを刳り抜いてあるから。

 表面の岩には特殊な樹脂を染み込ませ、密閉と保温と宇宙線の遮蔽を実現している上に、岩自体に発光させて都市の照明とする機能も与えている。


「プルシャプラと同じね。定住型宇宙系人類が、広く採用しているやり方だわ」

 セシリアが教えたが、スパルタクスも夢の中で見たことがある。プルシャプラのものも、それ以外の都市も。


「では、そろそろ出かけようか」

 この日は融和派と対決派が、会談する日だった。

 融和派と何度か接触したスパルタクスたちは、会談への同行が認められていた。

 けだるい身体に鞭を打って、身支度した。


 岩の中にあるエレベータで、名目上の地上階を目指す。

 徐々に体が軽くなる。微小な天体だから、表面近くと内部深くでは、重力の強さが違う。


 回転しているこの天体は、赤道方向に膨らんだ扁平な形状なのだが、軸付近と赤道付近でも重力強度は異なる。

 宇宙船は、軸付近から入って赤道付近から出るのが経済的だそうだ。


 軽くなった身体で、大きく弾むように歩道を歩く。

 あまり格好の良いものではないが、周りの皆がそうだから、気にはならない。

 5分ほどで融和派の拠点につく。もともと融和派の拠点近くを狙って、住居とする部屋を見つけてあった。


「サランジュに帝国の手が伸びている。我々が態度を固くし続けていたら、彼らは帝国の手下になる可能性が高い。

 あんたたちのくれたこの情報が、交渉の切り札だ。

 帝国とサランジュの通信を傍受した記録なんていう、動かぬ証拠まで持ってきてくれたから、説得力は抜群だ。多分、対決派を黙らせられると思うぜ」


 融和派のリーダーであるディックが、胸を叩いて見せた。


「帝国の脅威を実感させることで、諍いは一旦脇に置くべきと、対決派に思わせるのね」

 交渉の方針を確認したところで、彼らは対決派の拠点へと向かった。


 地中を走るリニアモーター式の列車が公共交通として稼働していて、一時間後には、簡素だが清潔な会議室の中で、融和派と対決派がテーブルをはさんで向かい合っていた。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2023/9/16  です。


 微小な岩石天体の地中へとエレベーターで降りて行ったとしたら、重力強度の変化を体感できるのかどうかは、正直なところ作者には分かりません。

 重力が弱くなっていくものとした描写を作中ではしていましたが、それも絶対の自信を持っているわけではありません。


 読者様におかれましては、作中に出て来る宇宙ならではの物理現象に関しては、鵜呑みになさらないよう改めてお願い申し上げます。

 でも、岩石天体の表面から中心に向かって行けば、やはり重力は弱まっていくのではと、作者には思えます。


 天体から出る時は赤道付近から、天体にやって来る時は回転軸に沿って、という動きに合理性があるのかどうかも、作者に絶対の確信があるわけではありません。

 ど素人による想像に過ぎないことを、お忘れなきよう願います。


 でも、地球から宇宙ロケットを打ち上げる際に、できるだけ赤道に近い場所を選んでいるのは事実でしょう。

 一方で、地球に戻ってくる宇宙船が回転軸(地軸)に沿うなんてことは、聞いたことがありません。


 それは、天体の回転運動への同調の難易度が関係するかなと、作者なりに想像した結果です。

 地球は24時間かけて一周する速さで回転していますが、微小天体となるともっと短い期間で一周する回転速度を持っていそうで、それに同調するのは困難が大きいでしょう。


 そんなわけで、微小天体にやってくる宇宙船は、回転軸に沿って接近して来るのが、最も合理的だろうと考えた訳です。

 これらの考えが正しいかどうか、専門家の方に添削して頂きたい思いを強く持っています。


 こんな感じで、作中に出て来る物理現象などは、正しいことは保証しませんが、作者なりにリアリティーを追求した想像の産物です。

 こういうのを一緒に想像したり、調べて確かめたりして下さる読者様がおられると、作者としてはとても嬉しいです。


 間違いに気付いた際の手厳しいツッコミも、大歓迎です。

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