第54話 Story about スパルタクス 8
「俺たちの度胸と勇気を、マゼーパ族の連中に見せつけてやろうじゃないか」
スパルタクスの言葉に、ヴィーシニャとアルブースが力強い声を返した。
「了解よ、タック」
「分かったぜ、やってやる」
ヤーブラカとヤーガドゥイとスリーバとペルシクも戦闘艇に乗っている。
7艘の戦闘艇で出撃しての、撃退戦が目前に迫っていた。
その岩石性微小天体に宙賊が潜んでいると見抜いたのは、スパルタクスだった。
ここに来る途上で参加した資源採取でも、スパルタクスたちの機敏で組織的な仕事ぶりは評価されていたが、今回の件で彼ら評価は更に上がった。
マゼーパ族が用心棒契約を結んでいる定住民が、通商航路としてよく使う宙域だった。
おそらく微小天体に潜んで待ち伏せ、略奪を行おうという算段だったのだろう。
そこにその大きさと形状の微小天体がある、というだけで怪しいと思った。
付近にいくつもの無人探査機を見つけると、確信に至った。伏兵がいると。
それへの対処も、スパルタクスの案が採用され、実施も彼に一任された。
外見上は非武装の輸送船で、微小天体にアプローチする。
襲来を予期しつつ、輸送船の中で臨戦態勢をとっていた。
「出たわ」
ヴィーシニャが報告する。
微小天体の隙間から50艘余りの戦闘艇が、パラパラと飛び出してくる様子は、全員がモニター上に確認しているだろう。
「狙い通り、こっちに来るな」
アルブースが、無感動につぶやく。十倍近い敵に、臆する様子は微塵もない。
「もう少し、引きつけなきゃね」
ヤーブラカが応じた、約一分後。
「そろそろ、良いのじゃないか? 」
ヤーガドゥイが問いかけると、
「俺もそう思う」
「この辺が頃合いだろう」
と、スリーバとペルシクが同意した。
「よし、では行こう」
と告げるとスパルタクスは、事前に組んであったプログラムをスタートさせた。
一方向から群を成して、襲撃者は接近している。立体包囲とか、2派に分けての時間差攻撃などの工夫は全くない。
経験の浅い宙賊にありがちな、稚拙な襲撃のパターンだ。それは彼らの潜んでいた微小天体の観測結果からも、予測していたことだった。
輸送船を飛び出したスパルタクスのスクワッドは、その敵から、真っすぐに逃げた。
こちらもひと固まりで、いや、襲撃者とは比べ物にならないくらいにギュッと密になった小さな塊りになって、逃走コースをまっしぐらだ。
これだけ距離を詰めた密な一団となると、宙賊が持つ程度のセンサーでは、一個の飛翔体と判別される可能性が高いことも、スパルタクスは経験から知っている。
戦闘艇の数倍の体積の飛翔体を、装っているわけだ。サイズから鈍重な飛翔体だと、宙賊は思い込むだろう。
逃げるものには目もくれず、たっぷりの物資があると期待できる輸送船だけを、宙賊は狙った。
受信するレーダー波から、逃亡者への無頓着が赤裸々だ。
サイズから鈍重だと判断したために、すっかり油断してしまったらしい。
だから、突如スパルタクスたちが旋回し、反撃の態勢になっても、すぐには反応がなかった。
7本の放射線を描いて散開するスクワッドの軌跡は、宇宙に開いた花火さながらだ。
1個の飛翔体と解していた者には、散華したかと思えただろう。
散華した破片に接近包囲されるに至って、ようやく反撃に気付いたらしく、遅れに遅れた応戦準備が、スパルタクスの見つめるモニターに模式図として示されていた。
それと同時にスパルタクスは、彼のスクワッドに渦を描く軌道をとらせた。回転方向も回転半径も、7艘ともバラバラの複雑な模様が描かれる。
応戦準備に気を配らなければならない相手には、混乱を避け得ぬ動きとなった。
誰がどれを狙えば良いのかも、誰がどれに一番近いのかも分からず、宙賊たちは無意味な右往左往、そして三次元の宇宙だから上往下往までをもくり返した。
隊形も支離滅裂になり、戦闘艇どうしの距離も間延びして、互いの位置も把握できないのが露だ。
ここまでが、事前に組んだプログラムに従った、全自動の制御だった。
そしてスパルタクスの見るモニターに、敵のリーダーが乗っていると人工知能が推定した戦闘艇が、赤色で表示された。
スパルタクスもその通りだと思った。
人工知能と答えが一致したと認識するや、スパルタクスは迷わず新たなプログラムを走らせる。
彼のもの以外の6艘の戦闘艇が、依然として渦を描いた動きを見せる中で、彼の戦闘艇だけが一直線に、敵のリーダーのものと思われる戦闘艇へと突進した。
反撃は無かった。回避も急接近を阻む動きも見られない。
何が起こっているのか分からずに、呆然自失しているのだろうか。
もしかすると、完全に見失ってすらいるかもしれない。
融通無碍に肉薄を果たしたスパルタクスが、狙いすましたレーザービームを一閃させた。
命中され、爆散し、無へと帰った敵の戦闘艇とそのパイロットの命は、スパルタクスのモニター上には、赤い光点の消失という簡素な仕方で示された。
リーダー機の撃破と共に、残った襲撃者は蜘蛛の子を散らした。
予測した通りの結末を見届け、スパルタクスは仲間に帰還を命じた。
一発のレーザー射撃だけで、十倍の戦力をもつ相手を追い散らし、独立したマゼーパ族の初陣ともいえる戦いを勝利に導いたスパルタクスの功績は、ドラヴァレットにもポフダンにも称賛された。
だが、その後に起こったことは、予想外だった。
戦闘終了でお役御免とならず、それ以降のいくつかの事象にも関わることを、ドラヴァレットやポフダンに求められた。
まず1つ目として、用心棒契約を結んでいる定住民からの、熱烈な感謝の嵐の矢面に立たされた。
通信モニターの向こうに映し出された、女子供も多数含む群集が、喜びと安心が満ちた笑顔で謝辞を浴びせて来た。
(なんと誇らしい気分だ。もっと困難な任務を成し遂げ、ロードに称賛を賜ったこともあったが、こんな気分になったことは無い。
畏怖する一人からの称賛より、か弱き多数の笑顔の方が、こんなにも誇らしい気分にさせてくれるものなのか)
手が小さく震えるのすら感じると、思わず傍らに立っていたセシリアの手を握った。
集落船の、彼らにあてがわれた部屋の中だった。
一緒にいる仲間たちとも視線を交わし合い、同じ感動を噛み締めていることを確かめ合った。
2つ目として、例の微小天体から、投降者が続々と出て来たと知らされた。撃退した宙賊の、家族だそうだ。
大黒柱が思わぬ強敵に逃げてしまったために、怨敵である者に庇護を求める以外に生きる術が無くなった人々で、大半が老人と子供だった。
3つ目として、新たな用心棒契約締結の場に立ち会わされた。今回護衛した定住民が、別の定住民を紹介してくれたのだ。
戦果を聞きつけたその定住民が、自分たちも契約を結びたいと申し出て来たという次第だ。
4つ目として、妾にして欲しいという女が何人も出て来た。
「我が夫を打ち破ったからには、あなたは私を妾にする義務があります」
「我が息子は、あなたのおかげで逃げ去りました。
次の息子を、是非あなたが授けてください」
航宙民族としては当然の理屈を述べているらしいのだが、培養奴隷として育ったスパルタクスには、どうしていいか分からない事態だった。
「我らとマゼーパ族の友好の礎となるべく、スパルタクス様の後妻にして頂きたいのです」
定住民にも、こんなことを言い出す者が現れて、彼をたじたじにさせた。
「どうしよう」
とセシリアに問いかけたが、
「知らないわ」
と、今まで見たことも無い冷たい態度で言われ、頭を抱えた。
女たちを、部下たちに引き取ってもらうことにしたら、全てが好転した。
「我が前夫に勝利した方が紹介して下さるのなら、喜んであなたの部下のアルブース様に嫁ぎます。
それも正妻にして頂けるなんて、光栄ですわ」
理由には理解が及ばないが、とにかくそれで喜んでくれたようだ。
セシリアの態度が元に戻ったのも、大きな安心材料だった。
「これで4つの定住民と契約を結んだことになる。
暮らしは楽になるだろうが、バクトラ王国などから身を守っていくには、まだ不足だ。更に強力な定住民と結ばなくては。
そこでこれから、ニーシャプールという天体都市に、交渉を持ちかけようと思う。
この辺りでは、最大級である定住民の都市だ。
ここと結べば、バクトラとの差は大きく縮まる」
ポフダンが伝えた方針に、スパルタクスたちには異存のあるはずもなかった。
「俺たちにできることがあるなら、何でも言ってくれ。何でもやるぞ」
「私もよ。何かで役に立ちたいわ」
スパルタクスもセシリアも意欲を燃やしていたが、とりあえずは、ニーシャプールとの交渉に出向くポフダンの連絡船を、黙って見送るしかなかった。
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2023/8/26 です。
略奪者を撃退した後にスパルタクスを見舞った事態は、濡れ手に粟的な状況でしょうか?
本人は困惑していましたが、羨むべき状況でしょうか?
撃退した襲撃者たちの妻子たちが、妾にして欲しいとか後妻にして欲しいとか、無茶な展開に思われたでしょうか?
昔の遊牧騎馬民族同士の戦争では、戦死した戦士の妻や娘は、勝者の妾や後妻になるのが当然だったというような説をどこかで見かけたように思っているので(どこで見たかは不明)それを作中に盛り込んでみたのですが。
愛する夫や親兄弟を殺した憎き相手の妾や後妻になるなんて、余りに屈辱的で惨めに思えるかもしれません。
しかし、砂漠で女子供が孤立無援になってしまっては生きて行く術もないから、砂漠を住処とする遊牧騎馬民族の女たちは、どんな相手とどんな関係になろうとも生き残れる道を選んだのでしょう。
それはたくましく勇ましい生き方だと思いましたし、当時としては親や夫を殺した相手を憎むより、強者として尊敬する気持ちを持つのが自然だったのかもしれません。
そんな現代の日本とは全く異質の価値観も、作中に描いてみたい気持ちはあったのですが、そこまでは表現し切れていなかったかもしれません。
描きたいものを描けるようになるには、まだまだ修行が必要だと痛感しています。




