第55話 Story about ロザリオ 11
出撃して行くイゴルたちの戦闘艇を、黙って見送るしかなかった。
「いつでも戦闘となれば、文官の我々は蚊帳の外ですね、チーフ」
バーラーブの保有する資源採取施設を、ロザリオたちが視察している時のことだった。
アールバード族のもとに行くのに、バーラーブの側でもう少し準備期間が必要で、それを待つ間の暇つぶしだった。
バーラーブを内包する原始星のエンベロープは、様々な元素が濃密なガスやダストとなっていて、資源採取には都合が良いらしい。
なおかつ中心に居座る最大質量の天体は、未だ核融合に至らず発光していないので目立たない。
あらかじめ座標を知っているもの以外は、まず見つけられない。
見つからないという最大の防御力を備えていることで、軍事面に大きなコストをとられることがない。
そんな天体の周囲に豊富な資源があり、交易にも有利な位置を占めているので、バーラーブは繁栄しているということだった。
原始星を周回して資源を採取する設備に関しては、地球系の技術提供で効率改善を図れそうなことなどを確かめた後、人工天体都市に戻ろうとしている時に、正体不明の戦闘艇群が50艘ほど、急接近して来た。
それを受けての出撃だったのだが、宙賊と見られた者たちは、攻撃を繰り出すことなく投降の意志を伝えて来た。
「降参というより、初めから保護を求めて近寄って来たというところかな。
戦闘艇に急接近されたからといって、宙賊の襲撃とは限らないのだな」
経験豊富なチーフ・ミハルがそう言うからには、こんなことは滅多にないのだろう。
非武装の輸送船を投降者に差し向けさせ、武装している戦闘艇は放棄させるという段取りを踏んで、投降者たちを収容した。
「漂流状態だった、航宙民族の一団だとさ」
投稿者への聴取を終えたチーフが、ロザリオに教えた。「略奪戦に敗北し、リーダーを殺され、下っ端だけで逃げたが、途中で推進剤が尽きて漂流状態だったそうだ。
そんな時に我々を見つけるという奇跡的な偶然に遭遇し、保護を求めると決意したそうだ。
生活の足場にしていた微小天体を、家族などを諸共に置き去りにして戦闘艇だけで逃げたから、命を長らえる術が何もない状態だったと言っている」
「そいつは、ずいぶん稚拙な宙賊なのですね。それでよく、やって来られたものだ」
「それがな、もと居た部族を最近抜け出し、2百人ほどで独立したばかりの集団だったらしい。
経験の浅い者ばかりが、無謀な自立を模索した挙句の失態、といったところかな。
略奪戦の敗北というのも、聞けばずいぶん情けない感じで、十分の1くらいの戦力の相手に、単純な目くらましと思える渦巻き軌道の飛翔で翻弄され、呆然自失となった隙にリーダーを仕留められたそうだ」
「それは、リーダーだけを撃破することを目的とした、計画的な攻撃ですね。
そんな奇策を、宇宙系がやるものなのですか? 」
「投降者たちも、あんなのは初めて見たと言って困惑しておったよ。
何やら特殊な変化が、宇宙系の中で生じているのかもしれんな。
ところで、投降者の中に居た女性パイロットが、こちら側の誰かの妾にして欲しいなどと申し入れて来たのだが、ロザリー、どうだ? 」
「え? いや、どうだと言われても・・・・・・妾って、どういうことですか? 」
「どういうも何も、妾は妾だろう。
航宙民族の間では、降参したらその相手の、男は奴隷に女は妾になるのが、一般的なようだな。
で、男に関しては、奴隷ではないが、イゴル大尉の指揮下でパイロットとして働いてもらうことで、話が付いた。
しかし、妾にしてもらいたいという女性パイロットたちの処遇については、判断が付きかねているのだ。
妾でなくても正妻として、引き取ってみる気はないか? 」
「いやいや、正妻って、見ず知らずの女性と、結婚しろってことですか? 」
「あはは、やはり、さすがにそれは無理があるか。どうしたものかな」
チーフ・ミハルは悩んだが、イゴルの部下の何人かが、その女性パイロットを妻とすることで意外とすんなり話が付いた。
航宙民族出身者には、抵抗はないらしい。
やれやれといった心持ちでバーラーブの人工天体都市に帰り着いたロザリオたちには、アールバード族を訪ねる旅への出発準備が整ったという報せと共に、もう一つの報告が機構本部から届いていた。
「ターロック・マクロクリンの失脚が、決定的になったそうだ。
パータリプトラ行政府に数々の犯罪が報告され、厳しく弾劾すべしとの意見が大半を占めているらしい。
ミス・セシリアを危険に巻き込んだ件も、それなりの裁きをもって報いられるだろう」
それでロザリオが喜ぶなどと、思ってもいない様子でチーフ・ミハルは伝えた。
(セシーも、喜びはしないだろうな。嘘だってことは分かっていて、自分からプルシャプラに向うと決めたのだろうから。
でも、同じ目に遭う人が出なくなったと思えば、少しは安心するかな。
ターロックが、野放しではなくなったことには)
少しでも良い面を見ようとしたロザリオの思考だが、やはり、セシリアを思うことは彼の心を重くした。
助け出さなければいけないセシリアから、どんどん離れて行くばかりと感じているのだから。
しかし、出発の時は迫ってくる。
アールパード族と同盟関係にある定住民の居住天体が、具体的な目的地となる。
数時間後には出発という時に、バーラーブの執政官が思いがけない言葉を、通信で伝えてきた。
「残念な報せを、お伝えせねばなりません」
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2023/9/2 です。
スパルタクスたちが撃退した宙賊と、ロザリオたちが保護した宙賊が同一なのかどうかは、読者の皆様のご想像に委ねています。
全く同じような展開の戦いに敗れていて、しかも相当珍しい戦術をどちらも食らわせられているとはいえ、必ずしも同一だとは断言できないかもしれません。
独立を模索する集団の発生は、かなり頻度が高かっただろうとは、作者は想像しています。
遊牧騎馬民族においてはそうだったという記述を、どこかで見たような気もしています。
定住民においては、その定住地にある耕作地や生活インフラが無い場所での暮らしは想像しがたく、集団から離れての独立など、なかなか決断できるものではないでしょう。
でも普段から小集団で移動を続けている人にとっては、その集団を抜け出して元の集団とは少し違う場所を移動し続けての生活は、簡単に成し遂げられそうに思えたでしょう。
そんなわけだから、遊牧民族の人は自分の所属集団に不満を抱えたならば、割と安易に独立という道を選ぶことができたでしょう。
そんな習性を、未来の宇宙の航宙民族という架空の集団で再現してみたわけです。
宇宙という場が、人の歴史の舞台になっているという世界観に、リアリティーをもたらしていたら良いなと、作者は期待しています。




