第41話 Story about ロザリオ 7-1
ポドルムに乗ったロザリオたちが、飛び立った。
プルシャプラを後にしての行き先は、バーラーブだ。
セシリアが移乗した後に消息不明となった交易船が、そこを目指していたことと、アナスタシアがそこを拠点とする商人に買われたことが、行き先決定の根拠だった。
プルシャプラの所有する連絡船の1つも、バーラーブを指して出立しており、それに先導されての、ロザリオたちの旅路だった。
プルシャプラの政府としても、消息不明の船について調べるためには、バーラーブに人を送り込む必要があったから。
それにバーラーブは、ゲオルグの話によれば、マラカンダと同程度の隆盛を誇っている都市で、マラカンダ同様にいくつかの天体都市の盟主の座にあるそうだ。
交易の中心でもあるので、物資と共に人的交流や情報の集積所にもなっているらしい。
そんなバーラーブだからといって、そこに行けばセシリアやアナスタシアが見つかりそうだと期待できるわけではなかったが、そこ以外に新たな情報を得られそうな場所は思いつかない。
なんとしても、2人の消息の手がかりをつかみたかった。
こんな訳で、マラカンダ行きや3級とされている市民との対話などは、後回しにされた。
ゲオルグはじめ、プルシャプラの人々から異論は出なかった。
シェリングに至っては今回も同行を熱望し、チーフ・ミハルはそれを快諾した。
(どんどん、セシリアから離れて行ってしまっている気がする。
もしかしたら、もっと近くにセシリアは居るかもしれないのに、バーラーブなんて遠い場所を目指すなんて。
それも、地球系の知らなかったスペースコームを使って、何度もワープを繰り返さないと辿り着けない場所だ。
でも、手掛かりを得る当ては、そこしか・・・・・・)
プルシャプラから北西下方向に、直線距離でも千光年近く離れた場所への移動に、ロザリオは焦燥を禁じ得ない。
しかも彼らは、一旦南に戻る方向に移動し、宿場天体で補給を受ける必要もあるから、旅は遠回りで時間のかかるものとなる。
プルシャプラでは得られないが、地球系には必要な物資がいくつかあり、それらを補給しないと長い旅はできない。
「何だか、申し訳ないな、オフィサー・ロザリオ」
思いつめる彼の顔を覗き込むようにして、シェリングが話しかけた。
「え、何が? 」
「ミス・セシリアよりアナスタシアの捜索を、優先してもらったような気がしてさ。
ミス・セシリアを見つけたいのなら、例の船が消息を絶った座標の周辺を探した方が、良かったかもしれないのに」
「いや、どっちを優先ってことはないさ、シェリング。
それに、消息を絶った座標なんて、精確には分からないんだから。
最後に連絡を取った座標は分かるけど、その周辺を探しても手掛かりは無かったし。
セシーのもともとの行き先だったバーラーブに行くというのは、セシーの捜索に対しても間違った判断じゃないさ」
内心の憂慮とは裏腹の発言で、自分を落ち着かせるしかなかった。
「そうか。そう言ってもらえると、俺も一安心だ、オフィサー・ロザリオ。
いずれにせよ、2人ともの救出に、全力を挙げようぜ。
もしアナスタシアが先に救出されるようなことがあれば、俺は、その直後からは絶対に、全身全霊でセシリアの救出のために努力すると誓うぜ! 」
「あはは・・・ありがとう、ミスター・シェリング。気持ちはうれしいよ。
けど現実には、セシーのために俺たちがやるべきことは、限られていると思う。
例の船が消息を絶った座標の周辺は、保安機構の捜索チームがもうすぐやって来て、かなり大規模に再調査を実施する予定だ。安心して任せられる」
強引に自分を納得させようとする発言だと、シェリングに気付かれていることに気付きながらも、笑顔で前向きな言葉を口にした。
「その保安機構が、宙賊征伐の軍を派遣してくれる予定は、無いのだな」
尋ねる感じではなく、あきらめを伴いつつ確認する口調のシェリング。
「現段階では、征伐なんて考えは、保安機構には無いな。あくまで捜索だけだ」
「ターロック・マクロクリンって奴は、何とかっていう惑星国家で、権力の座につけたのか? 」
今度の質問は、期待をにじませた口調だった。
「さあ。あの国で独裁的権力を手にしようと、あれこれ画策しているとは聞いているけど、どうなることか。
でも、前にも言ったけど、あんな奴は当てにしない方が良いぜ」
「でも、最近も、宙賊が拠点とする微小天体の襲撃に、成功したというじゃないか」
「あれは誰かから、拠点の座標が判明した航宙民族の情報を聞きつけて、そこに攻撃を加えたものだ。
その部族が宙賊だったという、明確な証拠も無しに。
何百とある航宙民族だから、時にはその中の1つの部族の拠点が見つかる事はある。
でも特定の航宙民族を指して、それの拠点を見つけるなんて、現実的には不可能だ。
どの部族も神出鬼没だし、そもそも拠点なんか持たない集団だってあるのだから。
偶然に拠点を見つけられた航宙民族しか、撃破なんてできない。
一見華々しい功績をあげているようには見えるけど、拉致者の奪還は期待できないさ、ターロックなんかには」
「そう・・・・・・かなあ」
シェリングも首を捻るように、宙賊撃破のニュースは、それに不満を持つ多くの人々の留飲を下げさせ、注目を集めている。
それで宙賊被害が減ったわけでも、奪われた人や物が奪還できたわけでもなかったのだが、一部の人々からの喝采だけは浴びている。
ターロック・マクロクリンへの支持表明も、日増しに増える。
その支持を背に、惑星国家パータリプトラの独裁者になろうと彼は目論んでいるらしい。
見せかけだけの内実に乏しい成果で、多くの人々を煽り立てるのに成功している。
「あの男は、略奪などをやった証拠も無いままに、たまたま拠点を見つけた航宙民族を宙賊と決めつけ、攻撃しているだけだ。
しかも、培養奴隷の使役が疑われている。
そうでなきゃ、あいつ程度の動員力でこんな功績をあげられるわけがないんだ。
こんなやり方で独裁的権力を手に入れようとする男など、信用するわけにはいかない」
チーフ・ミハルが、ロザリオやシェリングの会話に加わって言った。
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2023/5/27 です。
方角に関する言葉が本文中に出て来たので、銀河におけるこの物語での方向概念を改めて説明しておきます。
過去に何回か、本文でも後書きでも説明していると思いますが、ややこしくてこんがらがっている読者様もおられるかもしれませんので。
銀河中心方向を北、その反対を南とし、銀河系円盤の回転して来る方向を東、その反対で回転していく方向を西としています。
北を正面に、東を右側に見るような状態での上下が、銀河における上下でもあるとして、南北東西上下で銀河系の方角は示されます。
宇宙では三次元で、位置や方角を示す必要があります。地面という平面に限定された地球上での暮らしから、意識を切り替えて頂かなくてはなりません。
宇宙を扱うSFで、宇宙が三次元で表現すべき場であることが十分に意識されていない作品が多いように感じているので、この点は強調しておきたいです。
あくまで、この物語においてのみ通用する概念であることを、くれぐれもお忘れなく。他所でこんなこと言ったら、笑われてしまいますよ。
で、ここからは少し自信が無いですが(多分大丈夫だとは思うのですが)、地球における北は、この物語の方角概念で言うと、おおむね上側ということになるかと思っています。
地球の公転軸と銀河の回転軸が62.5度くらいずれていて、地球の自転軸が公転軸から23.4度ずれているそうです。
地球の真北と銀河の真上も90度近くずれることになるわけですが、地球の北に近い側が銀河系の上になっていると、大雑把に理解して頂ければ本物語においては、問題無いかと思います。
方角や位置を数値を用いて示すには、厳密な基準が必要で、それが何かまでは本文中には語られていません。
とりあえず今のところは曖昧にしてある感じですが、物語世界の中では基準が決まっているはずです。
天文学に素人の作者には分かりかねる部分もありますが、この規準を決めるのは、簡単ではないと思います。
銀河系円盤の回転軸の明確な定義をどうするか、大雑把にはともかく、宇宙での航路計算に使えるくらいの精度となると、基準作りは未来的技術に属するかもしれません。
でも、物語内では銀河中を飛び回っての交易などが行われているわけで、何らかの高精度な基準があり、それに基づいて方角や位置が数値化されているのだとご認識下さい。
本文中にはその数値は出てきますが、雰囲気だけを味わってあまり深く追求しないようお願い申し上げます。
SFってそんなモノでしょう、と一旦開き直っておこうかと…。




