第40話 Story about スパルタクス 4-3
「そうなればアフシ族は、濡れ手に粟と言うべき稼ぎを上げられましょうな。
航宙民族の誇りをネタに焚きつけて、培養奴隷の需要を増大させるとは、上手い商売だ。
それこそ、航宙民族にあるべかざる商売人根性ですぞ」
「これはまた、悪意に満ちた曲解をなされるものですな、左覇星王殿。
我らは、自身の利益など全く求めておりませぬ。全てはバクトラ王国の繁栄を思ってのこと。
お疑いならば、帝国への対処に費やす培養奴隷は、無償提供とさせて頂きましょう」
「そうですか。それほどまでに殊勝なことをおっしゃるのなら、手前の認識は、曲解だったのでございましょう。お詫び申し上げます」
そう言って、ポフダンが慇懃な会釈を繰り出すと、評議会は一転して和やかになった。
その後にも、各部族の活動報告や、他部族への抗議や要請といった事が話し合われた。
カルルク族が、バイルク族による侵略を非難する一幕の再来もあったが、調査の結果を待つことであっさり収束した。
3時間ほどもかかった評議が終わると、セシリアはモニターをOFFにしようとした。
ブレスレット型端末の近くで、コマンド入力の動きを繰り出そうとした指が、不意に止まる。
モニター上の映像が切り替わり、小さな部屋と見られる場所が映し出されたからだ。
「くそっ、あのぼんくら大王めが、調子に乗りおって」
部屋の中で毒づく、バイルク族の長の姿があった。「エクパティア打倒に功があったという、祖先の手柄や過去の栄光だけで大王の位に就く、ただのうつけの分際で、我らバイルクに調査などと、余計な手間をかけさせおって」
「そんな大王の血縁というだけで、でかい顔をしているマゼーパ族も、癪に障ります。
おそらく、我らがガウベラ帝国と繋がりを持つことの、有力な証拠を手にしているのでしょう。
そうでなければ、迷わず我らを最初の調査対象になど、いたしますまい」
族長に応じたのは、タルマシリンだった。セシリアを拉致した時には、スパルタクスのコマンダーだった男だ。
評議会の際には、族長の輔佐役として背後に控えていた。
タルマシリンの後ろにも、何人かの姿が見える。
評議の場には顔を出さないが、控室と見えるここにまでは同行して来た、族長の側近たちだろう。
「このまま調査を受ければ、培養奴隷数の不正申告も帝国との癒着も、露見するでしょう。
せっかくの序列における2階級特進も、こうなっては、族長様・・・・・・」
「うむ、何としても、この調査を乗り切らねばならぬぞ。
不正申告も帝国との癒着も、決して露見せぬように、隠し切らなければ。
できるか、タクマシリン」
「ええ・・・・・・それが、不正申告の件は、どうにか隠ぺいの目途が付きそうですが、帝国との癒着については、難しいかと。・・・・・・どうだ? 」
最後の問いかけは、背後にいる側近に向けたものだった。
「帝国の征伐戦に参陣した際に使ったのと同一の兵器を、全て隠す必要があります。
培養奴隷の件の隠蔽工作と合わせれば、隠す先の工面が付きかねます」
「ぬうっ、そうか。マゼーパめ、つくづく厄介な奴らだ。
大王の血縁たる奴らがその気になれば、やはり、隠しきるのは難しいか・・・・・・」
「その件について、マイロードに協力の用意があるとのことです」
この言葉と同時に、族長もタクマシリンも側近たちも、一斉にカメラ目線になった。
このことでスパルタクスもセシリアも、今見ている映像が、培養奴隷の1人が見た光景を映像化したものだと気づいた。
脳に細工することでそれを可能とする、この時代には珍しくもない技術を、アフシ族の長が使っているのだろう。
「まことか・・・・・・えっと、培養奴隷P-193。アフシの族長殿が、そう申されたのか」
額に刻まれた文字を読む仕草をしながら、カメラ目線でバイルク族の長が念を押した。
「はい。マゼーパ族には予測もできぬ、アフシ族しか知らぬ宇宙施設に、証拠となり得るものを全て移送してしまえば、どんな調査をされても何も露見しませんでしょう。
その作業にも、培養奴隷が多数で参加します。
合同調査への参加が決定しているわけですので、バイルク族の施設に培養奴隷が大勢いても、問題にはならぬはず。
マゼーパ族より少し早めに調査要員が到着したといえば、どうにでもごまかせます」
「なるほど。合同調査を実施するための培養奴隷たちが、証拠となり得るものを、調査に先立ってアフシ族の施設に移送してくれるというのか。それならば・・・・・・族長様」
「そうだな、タクマシリン。良き味方を得たものだ。
心より感謝すると、族長殿に伝えてくれ、えっと・・・・・・P-193よ」
「御意。マイロードも、バイルク族との友好は、大切にしたいと申しております。
いつかは大王クルトゴルを亡き者とし、バクトラ王国を我らのものとしましょう。
それに向けて、バイルク族にも増々力をつけて頂きたいと、マイロードから言づてられております」
「おお、そうか。アフシの族長殿にあっては、我らと同じ野心をお持ちだったか。
その通りだ、あのような、過去の栄光にすがるしかない一族出のぼんくら大王なんぞは、とっとと死に絶えるべきなのだ。
我らを新参と侮り罵る古参の部族も退け、我ら真に勇猛な航宙民族を中核とした王国を、この宙域に築き上げるべきなのだ。
P-193よ、新王国樹立への我らの意気込みを、しかとアフシの族長殿に伝えてくれ。
まずは古参どもの弱体化を図り、邪魔者がいなくなったところでクルトゴルめに牙をむき、血祭りにあげる。
その為になら、帝国でも定住民でも、何でも利用する。
バクトラを奪ったその後には、反抗的な定住民も帝国も、全て滅亡させる。
そしてこの北辺暗黒天体群域に、我らの理想とする巨大な王国を建設するのだ」
ここまでをモニター上に見た後、スパルタクスに視線を転じたセシリアが言った。
「バクトラ王国と言うのは、実はバラバラなのね。
大王を疎んじる部族も、バイルクだけじゃないでしょう。
帝国と陰で結託しているのも、半分以上はいるみたいだし。
でも、定住民から必要なものを獲得したり、帝国のような外敵から身を守ったりするのには、お互いの存在が必要なのも、分かっているみたいね。
それに、王国による仲裁が無ければ、各部族どうしでの利害対立も激化してしまって、最悪の場合には、万人の万人に対する闘争状態になってしまいかねない。
だから表面的には、大王には従順だし王国も尊重している。心のなかには、不平不満や反抗への野心を抱えながらね。
こんな感じなら、付け込む隙もありそうね」
話し終えた途端、繋いでいた手を放し、セシリアは自身のブレスレット型端末の操作に没頭した。
バイルク族とアフシ族に関する、得られる限りの情報を掻き集め、モニターに表示させ、あれこれと検証しているようだ。
(脱出を成し遂げられそうな可能性を、見出したか)
セシリアの振る舞いをそう解釈したスパルタクスには、不安や恐怖を伴った高揚感が沸き上がる。
いよいよ、ロードの軛を脱する時が来る。裏切り、歯向かう場面が。
不安や恐怖に加え、後ろめたさや罪悪感もある。手が、小刻みに触れている。
一方で評議会の映像などから、ロードの存在にこれまで以上に威圧感や不気味さを感じ始めてもいた。
惑星国家パータリプトラのターロック・マクロクリンとも繋がるというし、帝国との癒着が知れたバイルク族との関係も密接だ。帝国との直接のパイプもあるのかもしれない。
もしかすると、最後にはバイルク族をも出し抜いて、巨大王国の頂点に登り詰め、君臨することすら夢想しているのかもしれない。
自分たち培養奴隷は、そのための道具であり、利用すべき者たちを利用するための餌でもある。
扱われ方に憤る一方で、壮大なスケールで野望を燃やすロードに歯向かうことが、絶望的なほど無謀なことにも思えて来る。
自分などどうなっても悔いは無いが、セシリアを守り抜けるのだろうか。
彼女を生きたまま、彼女の故郷か、そうでなくとも彼女が幸せに暮らしていけるどこかに、送り届けてあげられるのだろうか。
しかし反抗の時は、刻一刻と迫っている。
端末操作に没頭するセシリアの背中を見ていると、ネガティブな感情がとめどもなく膨らんで行く。
と、やおら、セシリアが振り返る。彼の不安を、すべて理解しているような眼だ。
抱きしめ、口づけ、押し倒す。
彼女の手が、肉体の最も敏感な部分に触れると、雄々しき感情が肉体と共にむくむくと起立した。勇敢なる戦士へと、たちまちにして変貌させる。
彼女への情念が、いつでも勇気の源泉となることを、改めて思い知らされる。
セシリアに乗せられ奮い立った戦士の心が、奴隷の軛を断ち切る。
律動する柔らかな温もりのなかで爆発する核心の迸りの、勢いに乗ったスパルタクスの魂が飛び立った。
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2023/5/20 です。
脳に細工することで人が目で見た光景を映像化する技術というのが、例の如く説明無しにしれっと出ていました。
これに近い技術は、実はシリーズ内では既に何回か登場させています。
有機体でできた極少サイズの機械を、大量に人体に注入するタイプの技術です。
それによって、人体に強力な自己治癒能力を与えたり、テレパシー的な事ができたり、条件次第ではサイコキネシスみたいな事までできたり、という技術です。
全く荒唐無稽ではないつもりで描いていて、将来本当に実現する可能性もあると、作者は信じています。
体内に潜ませた極少の機械が、人が五感で検知したことや考えたことを電波信号に変換するとか、電波を脳が検知できる電気信号に変換するとかは、十分に実現の可能性がある技術ではないでしょうか?
上記でテレパシー的な能力は、発動できそうな気がしています。
更に、空気中に極少サイズ(pm2.5くらい?)の機械を分散させる技術と併用することで、サイコキネシス的な能力も、できなくはないのでは?
極めて軽い機械なので、常に空気中にまんべんなく分散していてい、落ちてしまったりせず、尚且つ重力波をコントロールする機能を持っている、というイメージのものです。
体内の極少機械で空気中の極少機械を遠隔操作すれば、念じただけで物体を動かすことができる、という方式を想像しています。
少々強引な部分があるのは承知していますが、荒唐無稽を極力排除した「ハードSF」という枠組みの中で、超能力的なものを登場させることに、作者としては挑戦しているつもりでいます。
どれとは言いませんが、「銀河戦國史」シリーズの中にそういう物語があるので、ご興味をお持ち頂けた読者様には、是非探し出して欲しいと思います。
要するに、他作品の宣伝でした。
誤解を与えたかもしれませんが、今回の説話で登場させた技術は、極少サイズの機械を体内に潜ませたのではなく、脳そのものに細工を施したわけですから、似てはいますが別の技術です。
同じようなことを、異なる技術で実現していると誤認識ください。




