第42話 Story about ロザリオ 7-2
「でも今は、アナスタシアの奪還も父親の敵討ちも、ターロック・マクロクリンしか当てにできる奴がいないじゃないか。
宇宙保安機構が、弱腰でいるなら。
強大な敵に対処するとか、困難な課題に取り組むとか言う場合には、独裁体制も含めた大規模な権力の集中は、必要じゃないか?
無理矢理にでも、そんな体制を構築しなくちゃいけない時も、あるのじゃないか?
プルシャプラでも、昔には独裁体制を目指した集団が、クーデターを起こしたことがある。
それは鎮圧されてしまって、実施した集団は宇宙に追放されてしまった。
けど、あれが成功していたら、航宙民族にもっと強硬に対応したり武力でねじ伏せたりも、できていたはずなんだ。
惜しいことをしたと思うよ」
「クーデターの話は聞いていたよ。でも、独裁を容認するのは間違いだと思う。
今必要なのは、航宙民族への強硬姿勢でも武力行使でもなく、情報収集だ。
ミス・セシリアやアナスタシア嬢が、どこにいるのか、どの部族に拘束されているのか、何を目的に拉致したのか。
そういった情報を丹念に集めて回ることこそ、解決に近づく唯一の方法だ」
「うぅ・・・・・・」
反論したい思いの透けて見えるシェリングだが、返す言葉は見つからないようだ。
理屈は理解できても、感情では納得できない。
恋人を酷い目に合わせた宙賊に、何らかの報復をしないと収まりが付かない彼の気持ちも、無理からぬものがある。
「被害に対して憤る気持ちと、それに対してとるべき合理的な行動との間には、どうしても乖離が生じてしまうのだよな」
ロザリオは低くつぶやく。「この乖離が、地球連合からの、多くの離脱組を生んでしまっている。
惑星国家パータリプトラだけでなく、いくつもの勢力が、宇宙保安機構のやり方が弱腰だと主張し、離脱した上での独自の対応に打って出ようとしている」
「だが、連合に復帰して来る勢力も、少なくはないのだよ」
チーフ・ミハルはシェリングを見つめ、諭すように告げる。「連合を離れ、宙賊への強硬姿勢や武力行使が可能となる、独裁的な体制を試みた勢力はいくつもあるが、上手く行った話など聞いたことがない。
ほとんどの場合、体制は有効に機能せず、宙賊を見つけ出すことすらできずに終わっている。
ターロックのように拠点撃破に成功した事例もあるが、何百とある航宙民族のそれぞれが何百と持っている拠点の、一つを潰したに過ぎない。
効果など、あるわけがない」
「で、無駄な努力を重ねた末に消耗し尽くし、連合に救済してもらうしかなくなる。
パータリプトラだって強硬路線を貫いていたら、いつかそうなるだろうさ。
復帰さえすれば救済してもらえるという甘えが、好き勝手な行動の裏にはあると、俺は思っている」
チーフとロザリオに代わる代わるに語られると、何も返せなくなったシェリングだったが、納得できた様子はなかった。
その後の数日間にシェリングは、惑星国家パータリプトラやターロック・マクロクリンについて、色々と調べているようだった。
艦のあちこちに据え付けられた端末を使えば、保安機構のライブラリーにアクセスして情報を得るのは、彼にも簡単だった。
更に、彼らが随伴しているプルシャプラの連絡船にはゲオルグが乗っていて、彼からもターロック・マクロクリンについて、色々と質問されたし、保安機構による航宙民族殲滅事業も、繰り返し嘆願された。
イゴル大尉たちの戦闘を見た衝撃から、大きな期待を抱くようになったらしい。
「あなたたちなら、あれだけ見事な兵器や戦術をお持ちの宇宙保安機構になら、航宙民族を根絶やしにすることなど、簡単なはずです。
あれを見せつけられたからには、あなたたちにそれを期待しないわけにはいきません」
こんなゲオルグの訴えを、チーフ・ミハルがいつも通りの言い草で断るのを見ると、シェリングはなお一層、ターロック・マクロクリンに関心を持つようになった。
地道な情報収集をする者より、無意味でも派手な戦果を上げて強硬姿勢を演出する者の方が、人の心を引き付けやすい。
「機構本部から、ミス・セシリア捜索に関する続報が来たよ、ロザリー」
長い航宙の途上で、チーフからこんな声もかけられた。「彼女にプルシャプラ行きを決意させたターロックの秘書に、捜索チームが接触できたそうだ。
それで、彼女の担当する孤児の親族にまつわる情報は、全てでっちあげだった可能性が出て来たと言っている。
ターロックに命じられて、彼女をプルシャプラに向かわせるべく、適当な嘘を並べたとの秘書の証言が、得られたそうだ。今、裏をとっていると。
プルシャプラに向かうまでの宇宙船の手配なども、その秘書がやったとほのめかしているらしいな。
いくつもの、地球連合には未確認の宇宙商人などを使って、ミス・セシリアがプルシャプラに行き着くよう仕組んだとみられるそうだ」
「なぜ、そんなことを⁉ 惑星国家パータリプトラで独裁者を目指す男と、孤児の為に心血を注ぐ市井の女に、どんな接点が・・・・・・」
怒りに煽られて、ロザリオはまくしたてた。
「秘書の男は、詳しい目的までは聞かされていないらしいが、ターロックの今の目標は、パータリプトラにおける独裁的権力以外には無いと言っている。
そのためには、パータリプトラ国民の宙賊に対する危機意識を焚きつけることが必要だと、マクロクリンは考えているように見えたと、秘書は言っている」
「それと、プルシャプラ行きが、どう・・・・・・・もしかして、宙賊に拉致させるところまでが、あいつの・・・・・・」
「そう考えるのが、自然というものだろうな。
地球系の女が宙賊に拉致されたとなれば、危機感は高まり、誰かに独裁を認めてでも宙賊対策を強化すべしという世論が、膨らむだろう」
「そんな身勝手な権力的野心の為に、セシーを生贄にしたって言うのか⁉
そこまで卑劣な奴だったのか、ターロック・マクロクリンは! 」
ロザリオは激しく憤ったが、シェリングはこれを聞いても、ターロック・マクロクリンへの関心を失わなかった。
相変わらず艦の端末で、情報を集めている。
ロザリオも正反対の感情だが、ターロックへの関心は高まった。
長い旅路に、奇妙な光景が生まれた。
シェリングとロザリオが肩を並べ、同じ人物について、全く正反対の気持ちを抱いて、端末にかじりついて情報を漁った。
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2023/6/3 です。
細かい情報が、沢山出て来る回でした。
ターロック・マクロクリンが培養奴隷を使って、人気取りのためだけの実質的には意味のない航宙民族への襲撃を成功させたという話題。
プルシャプラで、独裁制体制を目指してクーデターを起こそうとした一派が、制圧され追放されるに至ったという過去。
プルシャプラの執政官ゲオルグがチーフ・ミハルに訴えている、保安機構による宙賊征伐を望むという歎願。
セシリアがプルシャプラにやって来るに至る経緯に、ターロック・マクロクリンが関与していたという報告。
どれも、今後の展開に関わってくる事柄で、頭に入れておいて頂かないとストーリーを理解できなくなる可能性があります。
沢山憶えなければいけなくなって、大変恐縮ですが、何卒宜しくお願い致します。
ロザリオの学友だったシェリングが、ターロック・マクロクリンに憧れていたなんてことも、憶えていてくださっているでしょうか?
きっちりと情報を整理して頂けると、有難いです。




