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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第六章 飛躍
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§088 港町

盗賊との戦いで意気消沈してしまったジャーブを元気付けて、自室に戻る。

台所ではまだナズとアナが話し合いをしている事だろう。


以前ベッドで微睡まどろんでいた時に、

2人のプライベートな会話を聞いてしまった手前、

迂闊に立ち聞かない方が良いと思う。


彼女たちは想像以上に闇を抱えていたようだ。

そんなもの背負いきれないぞ。


2人が仲良く一番、それで良いじゃないか。

駄目なの?この世界。

自分は平和主義なんだよ、悪いか。


──コンコン。


ドアを叩く音がした。


多分アナだ。

前回、自分が失態を見せた事で学習した・・・間違い無い。


「いいぞ」

「・・・失礼します」


「一応言って置くが」

「はい」


「いつでも入って来て大丈夫だし、気にする必要は無いからな?」

「心得ております。

 こちら、薬代として頂いた代金の釣銭とご所望の滋養剤と強壮剤です」


アナから受け取った薬をアイテムボックスへ入れる。


本当ならネペンテスから滋養剤を沢山作る予定だったのだが、

思わぬ邪魔が入った。

まったく連日イベント目白押しで困る。

ゆっくり生きたい。


ドキドキハラハラの冒険活劇とか全く望んでいない。

アイテムボックス一杯に貯まった滋養剤を見て、

それで自分は満足なのだよ?


「ナズの方は?」

「もう大丈夫かと思います。私も同じなのだと伝えさせて頂きました」


「そうか、それは良かった。2人とも仲良くな」

「大丈夫です」


「かしこまりました」では無く、「大丈夫」か。


命令されて仲良くしているのでは無く、

この2人は本当に解かり合えているのだろう。

ちょっと妬ける。


自分にもそんなパートナーが欲しい。

一方的な命令では無くて、本当の意味で一緒に居られる相手が。


「午後の探索は休みにしよう。

 色々あったし、ゆっくり気持ちを落ち着かせた方が良いだろう」

「かしこまりました」


「自分はシルクスに行こうと思う」

「シル・・・クスですか、存じませんが何か御用がおありなのですね?」


「部屋にランタンが欲しくなってな?

 ナズも夜遅く酒場へ行き来するのだから危ないだろう」

「そうですか、やはりご主人様はとてもお優しいお方です」


「奴隷にはカンテラなんて必要無いか?」

「普通は・・・そうですね、ガラス製品はとても高価ですので」


そうだった。


カンテラは高価なのだ。

それそのものが価値を持つ。

つまずいて割ったりしたら、

また闇が出てきてしまうかもしれない。


「だからと言って、いつまでも蝋燭の灯りでは暗くて心許ないだろう?」

「済みません、私には良く判りません」


これもその通りだ。


万年奴隷のアナには、暗くて不便だろう?は意味の無い質問だった。

「暗くてもやる」か、「暗すぎてできない」の、どちらかしか無い。

さっきからちょっと考えれば解りそうな事ばかりだ。

これでは主人失格だ。


「それから、こちらを」


アナは更にパピルスのメモを渡して来た。

多分ジャミルだろう。

芋虫かサイクロプスが手に入ったのだ。


「・・・読めんのでな、これからは渡すのでは無く読んでくれ」

「かしこまりました、芋虫とコボルトを入手。ジャン、と書いてあります」


サイクロプスはそう簡単では無いか。

仕方あるまい。


いつか劣化品でいいからデュランダルを作りたい。


MP吸収の挟み式、攻撃2倍のサイクロプス、

詠唱中断のウサギ、防御無視とHP吸収は何なのだろう。

5スロットが空いたある程度攻撃力の高い武器も欲しい。


オリハルコン・・・は難しいので、その1つ下で良い。

聖槍・・・だとミチオ君と全く同じだ。

知力上昇効果もあるそうだしそれで十分だ。


それならばシルクスに行く前にアレクスムだ。

芋虫のカードでアナにも身代わりのミサンガを装備させ、

万全の状態に整えたい。


また12層で別の盗賊が来ても厄介だ。

流石にアナも、次からは人間相手でも警戒をするだろう。

そうであっても不意の一撃を防ぐミサンガ・・・とても重要だ。


「ご主人様、お食事の用意が整いました」

「おお、ナズご苦労さん」

「ジャーブを呼んで参ります」


今日の昼食は、緑色のスープと焼いたベーコン、

茹でた野菜とふわふわのパンだ。


「ナズ、この緑色のスープは何だ?」

「アクバニアとゲゼルのスープです」


どっちも解らないな、現地語だろう。


「元はどうなっているか判るか?」

「あ、はい。こちらです」


ナズが持ってきたのは前回も気になっていた緑色の人参と、

まだ青々としたトマトだった。


「その青いトマトは大丈夫なのか?」

「ええっと、アクバニアは元々このような色ですが・・・」


そうか、日本の概念で語ってはいけない。

こちらの食材のカラーリングは斜め向こう側だと認識して置こう。

地域的な物だ、きっとそうだ。


・・・赤いトマトや、黄色いジャガイモが恋しい。


「そ、そうか、解った。別に熟れてないとかそういう事では無いのだな?」

「はい、大丈夫です。今日のスープは自信作です」


食べてみたら普通にトマトスープだったので胃がびっくりする。

脳が追い付かない。


アメリカンテイストなブルーケーキを見て、

食欲がそそられないのと同じだろう。

逆に言えばナズたちが赤いトマトを見たら卒倒するんじゃないだろうか。


  ──ご主人様!このスープ・・・血が混じっています!


くわばらくわばら・・・。


これはグリーンスープなのだと言い聞かせて完食した。

目をつむって食べれば何も問題無い。


「この後はお前たちは自由にしてくれ。今日は色々在ったからな」

「「かしこまりました」」「分かりました、ユウキ様は何をなさるので?」


「今日はアレクスムとシルクスだな」

「シルクス・・・ですか」

「何をなさりに向かわれるのでしょう?迷宮などは無いはずですが」


「カンテラを買いたい。ガラス製品はそこか王都にしか無いらしい」

「カンテラ・・・ですか」


「そういえば油はどうすれば良いのだ?」

「それならオリーブオイルが一番安いですね。

 癖がないパームオイルも人気です。

 香りが良いカメリアオイルは高級品です」


「ほう、良く知っているな」

「宿に泊まった時に1回だけカンテラを借りたら、

 後はずっとオリーブオイルを継ぎ足して使ってました」


・・・セコイ。


生活の知恵なのか?

そうやって節約してバスタードソードを買ったのだろうな。

多分みんなそうやっているのだろう。


「誰か一緒に行きたい者はいるか?」

「・・・」「・・・」「・・・」


良いよ良いよ。

命令でなければ来てくれないんだ、君たちは。

解っていたさ。


「あのっ、私が一緒に行っても宜しいでしょうかっ」

「おっ、良いぞ良いぞ、1人では寂しいからな。誰かと一緒の方が楽しい」

「それでは私が片付けをやって置きます」


・・・そういう事か。

ナズに譲って気を回させたな、後でアナにお土産を買って来るか。


「よし、ではナズ、行くぞ」

「は、はいっ」


ワープでいったんホドワの冒険者ギルドに出る。

そこでシルクスに行ける冒険者を捕まえるのだ。


いつも飛ばして貰っている冒険者に尋ねる。


「シルクスと言う所には行けるか?」

「行けない事は無いですが、ルイジーナからの方が近いので、

 そちらを経由した方が安くなると思いますよ?」


自分が客を取ればその分儲かるのに、無欲な冒険者だ。

人が多いので余りMPを使いたくないと言う事かもしれない。

距離が延びるとMPをガクッと消費するからだ。


「解った、ではルイジーナで聞いてみる、ありがとう」


再びホドワの冒険者ギルドの壁から、ルイジーナの冒険者ギルドに飛ぶ。


ここに来るのは3回目だ。

石鹸を売りに商館に来た時と、宝石を売って捕まった時、

それから取り返しに行った時。

あまり良い思い出が無いじゃないか。


では良い思い出へ変えるために、折角来たのだからブティックを見よう。


「ナズ、この通りの服屋は上等な服を売っている。

 多少の余裕ができたからお前に服を買ってやりたい」

「えっ、いえっ、そういうのは、不要いいので、大丈夫ですっ!」


・・・。


何だかナンパした時に軽くあしらわれたみたいな拒否反応だったな。

不要いいとかじゃないんだ、買いたいんだ。

でもって可愛いナズを愛でたい、本音はそこだ。

ハッキリそう言うべきなのだろう。


「可愛い服を着た可愛いナズを見たいんだが」

「えっ・・・わっわっ・・・わっかりました!い、い、行って参ります!」


カチコチになったナズがロボットのように洋品店へ入って行く。

ああ、拒否したかったのでは無くてこういった店に免疫が無かっただけか。

それは悪い事をした。


「いらっしゃいませ、ヌール洋裁店へようこそ」

「ああ、こういった店は初めてだから宜しく頼む」


そうなのだ。


服屋に行ったらまず自分の用件を店員に伝えれば良いい。

こういう服が欲しいですと。

判らなければ全部聞く、それが正しい。

相手はプロなのだから。


「かしこまりました。

 お召し物をお求めになるのは、そちらのドワーフの女性ですか?」

「ああ、そうだ。彼女に合わせた、動きやすく可愛らしい服が欲しい」


「それでしたら、こちらにどうぞ」


奥のコーナーに案内される。

ここは子供向け、キッズファッションのエリアなのだ。


トラッサの露店で投げ売りされていたような安っぽい服では無く、

しっかりと縫製されており生地も丈夫そうだ。

良く動き回る子供向け、と言った所だろう。


「ナズ、この辺りから自分に合いそうな服を選んでみてくれ」

「えっ、わわ、かしこまりました・・・」


怖ず怖ずと服に手を触れ、チラッとだけ見て次に行ってしまう。

それでは駄目だ、体に当てないと。

露店の時はもっと楽しそうだったのに。


そうか高級服で怖がっているのか。

ならばもう店員だ。


「済まないがこの奴隷は秀麗なのに自信が無くてな?

 ちょっと良さそうな服を当ててみて貰えないだろうか」

「かしこまりました」


店員が4,5着を取り出すと、ナズを立たせて首元に合わせて行く。

この店には大きな姿見があった。

この世界の鏡は高級品と聞いている。


この大きさではミチオ君が苦労して運んだサイズに匹敵するから、

1~2万ナールもするのでは無いだろうか。


「どうだナズ。どれも選ばないと言うのは無しだぞ、ちゃんと考えて選べ」

「は、はい、大丈夫です」


「こちらなどは如何でしょうか。

 今お召しになっているワンピースと同じように着脱し易く、

 また装飾も豊かです」


ナズが今着ているのは、

単純に布を繋ぎ合わせただけの単一カラーのワンピースだ。


店員が選んだワンピースは、ウエスト部分がキュッと締まり、

襟元や裾はレースが織り込まれ、布地は目の細かいチェック柄だった。


確かにこれならば相当に可愛い町娘に見える。

だがこれを着て戦闘をするとなると、ちょっとどうだろうか。


「活発に動き易い女物の服はどうだ、あるか?」

「そうですねえ・・・こちらなどは如何でしょうか」


次に取り出したのはキュロットパンツに、

セパレートされた長袖のブラウスだった。

腕の部分は2対の紐で繋がっており肘が出ている。

エルボーカットと言う奴だな、デザインが中々に斬新だ。


子供向けなので胸を強調するようなアクセントも無く、

小さく大人しいナズ向けの服とも言える。

何よりワンピーススカートに比べ断然動き易そうだ。

今まで良くこのワンピースで戦って来れたと思う。


「良いんじゃないか?」

「そ、そうですね、着易いですし、私はこれが良いと思います」


「ではこれを貰おうか」

「かしこまりました、それでは──」


「あ、ちょっと待ってくれ、もう1着買う」

「かしこまりました」


「ナズ、アナにも選んでやろう。アナに着て欲しい服をナズが選べ」

「え、ええっ!?、よ、宜しいのですか?」


「お前だけ着て帰ったらアナが拗ねるだろう?しっかり選べよ」

「は、はい、頑張りますっ」


そういうのは頑張らず気楽に選んで欲しい。

気合を入れ過ぎると浮いた子に成り兼ねない。

ナチュラルメイクが一番受けが良いのだよ?


「ここはオーダーメイドもやっているのか?」

「そうですね、ご要望があれば承っておりますが」


「ではエプロンは作れるか?」

「エプロン・・・でございますか、作業着の?」


「そう・・・いうのでは無くってな。あの女奴隷は料理をするので、

 服を汚したくないのだが、着けさせるならフリフリの可愛い物が欲しい」

「ええっと・・・そういったご注文が今までに無かったので、

 ご要望通りに行かないかもしれませんが」


「ちょっと書くものを借りられるか?」

「ええと・・・それでしたらこちらへどうぞ」


ペンとパピルスを受け取り、カウンターで落書きを開始する。

フリフリのレースをあしらったエプロンのイラストを描いてみた。


「こんな感じなのだが、どうかな?」

「これは・・・お上手ですね。エプロンだとすれば絹では無く綿でしょうか。

 生地は少なめですが装飾に手間が掛かるようですので、

 お値段もの方も2せ、いや3千ナール程頂く事になると思いますが」


「ああ、それでも構わない。宜しく頼む」

「代金の方は手付で半額頂いております、宜しいでしょうか」


「先に全額払えるか?」

「勿論、結構でございます」


「ではあの娘が服を選んだら、3点分宜しく頼む」

「かしこまりました」


「ご主人様、これはどうでしょうか」


ぴっちりとしてそうなズボンと、

胸元がはっきり強調していそうな乳袋がある服を持って来た。

ナズ、君とは趣味が合いそうだよ。


実際にアナに着て貰わないと、

胸のサイズも含めて似合うかどうかは不明だ。

でも多分大丈夫だろう。

ナズとアナはいつでも一緒だったし、

身長の感覚は解かっているはずだ。


おっと、その前に大事な事を忘れそうだった。

会計を始められる前に3割引を付けなければならない。


「ではご注文のエプロンと、2点のお買い上げで7千ナール頂戴致します。

 ところでつかぬ事を伺いますが・・・あのエプロン、

 差し支えなければ今後私どもの店で販売しても宜しいでしょうか?」


「え?ああ、良いんじゃないか?」

「それではあのエプロンも含め割引させて頂きまして、

 3点で4900ナールとさせて頂きます」


そういう割引方法もあるのね。

何も引かれない様子だったのでこの店員は商人では無いのかと思ったが、

後から噛ませ技がやって来た。


「ではこれで」

「ありがとう御座いました、商品は5日もすれば仕上がるかと思います。

 頃合いを見まして、またお訪ね下さい」


すっかり時間を食ってしまった。

服なんて買っている場合では無かったかもしれない。

こういうのは1日の最後でも良かったのだ。


「ナズ、シルクスへ送って貰うから冒険者ギルドで待っていてくれ」

「かしこまりました」


ルイジーナの冒険者にシルクスまで送って貰う。

料金は銀貨3枚だった。

結構遠いんだな。


「ではパーティに呼びますね」


ナズとのパーティを解除し、冒険者と一緒にシルクスへ飛んだ。


「それでは、お気をつけて」

「ああ、ありがとう」


シルクスの冒険者ギルドにも人が集まっており、

その空気感から活気がある街だと感じられた。


ここに出入りしている者はリュックにポーチ、

更には両手に荷物や袋を抱えている者が多い。


流石は物流の町、彼らは商品を1点でも多く持って行きたいのだろう。

重量でMPが増加するんじゃなかったのだっけ?

だとすると、割増料金がデフォルトになっている可能性は高い。


銀貨3枚の距離では無く、本当は銀貨2枚の距離だった可能性もある。

銀貨距離と言うのは単純に計算してはいけないようだ。


色々思考を巡らせながら、ナズを迎えにルイジーナへ戻るのであった。

∽今日のステータス(2021/09/07)


 ・繰越金額 (白金貨2枚)

      金貨 25枚 銀貨 60枚 銅貨 77枚


  旅費                 (300й)

   ルイジーナ→シルクス         銀貨3枚


  服飾費          (7000→4900й)

   ナズとアナの服           4000

   エプロンのオーダー         3000


             銀貨-52枚

  ------------------------

   計  金貨 25枚 銀貨  8枚 銅貨 77枚



 ・異世界21日目(13時頃)

   ナズ・アナ16日目、ジャーブ10日目、ヴィー4日目

   鍛冶G面会まで1日、エプロン完成まであと5日

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