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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第六章 飛躍
88/394

§087 暗部

石化させた盗賊一味の男をジャーブと2人で運び出し、

12階層入り口のゲートまで運ぶと、担いだまま外に出る事ができた。


迷宮のゲートはパーティメンバーでなくても担げば外に連れ出せるようだ。

フィールドウォークやダンジョンウォークのゲートとはまた違うのだろう。


逆に言えば、

迷宮で捕縛された場合本人の意思とは無関係に外に連れ出せるとも言える。

先程のようにナズやアナが捕えられてしまっていたならば、

強引に連行されてしまっていた訳だ。


それにしても盗賊が奴隷を狙って来るとは・・・。

確かに自分の所持品の中で最も高価な物は奴隷達だ。

彼らの安全を最優先しなければならないと再認識する。


それよりも石化した男を騎士団まで運ぶには骨が折れる。

トラッサの迷宮は郊外にあるため、騎士団まではかなり距離があった。


このまま皆で運んでも良いが、先程かなりの薬を消費してしまった。

アナには消費した分の薬を買って来るようにお願いし、

ナズは食事の準備をさせるため先に帰らせた。


擦れ違った人にはパーティメンバーが石化したのかと思われたらしく、

柔化丸を提供すると申し出てくれた者もいた。


正直にこの男は盗賊でこれから騎士団へ連れて行くのだと言って、

それが噂になり変な目で見られるようになっても困る。

有難く断り、大丈夫ですよと伝えた。


騎士団詰め所に入る前に、

キャラクター設定をしてファーストジョブを商人にする。

ルスラーンが居る手前、これが面倒なのだ。


石化した人間を騎士団詰め所に運び込む自分達を、

門番の騎士は奇異の目で見詰めていた。

見るだけで手伝ってはくれない。


ま、単に状態異常に陥った者ならば、

薬で治すか教会で治療して貰うかになるだろうからな。

ここに運び入れる事自体が間違いだと言う事は容易に想像できる。


「迷宮で強盗行為をしていた者を捕らえたのだが、隊長殿はおられるか?」

「えっ?ああ、解った、しばし待たれよ。

 盗賊ならば隊長でなくとも大丈夫であろう?

 副長殿がいるかどうか聞いて来るので待っていろ」


もう中まで運ぶ必要は無いだろう。

ジャーブにここで降ろすように伝え、先に家に帰って貰った。


「済まんな、生憎副長は席を外しておられるようなのだ。

 私が代わりに対応をしよう。お前の名はしっかり伝えて置くのでな」


「はい、ではこちらが盗賊たちのカード、

 そしてこの男は盗賊たちとパーティを組んでいた探索者になります。

 場所は12層でボス部屋の前でした」


そう言って腕をまくり、インテリジェンスカードの確認に備えた。

思えばちょっと手際が良過ぎかもしれない。


「滔々流るる霊の意思、脈々息づく知の調べ、

  インテリジェンスカード、オープン・・・。

 ユウキ・フジモト、ジョブは商人。誠実だ」


「頭目の男の名前は分かりません。

 迷宮に吸われて消えてしまったのでカードも取れませんでした」


本当はぜて消えたのだが、どっちでも一緒だろう。

頭目を倒して、カードが取れなかった事実だけ合っていれば良い。


「了解した、そこでちょっと待ていろ」


門番の騎士は兵舎に消えると、3人の騎士が出て来た。


「こいつは盗賊団のパーティリーダーだそうだ、牢に繋いで回復を頼む」

「了解した。お前、そっち持て」

「ハッ」


2人の騎士が探索者の石像を兵舎に運んで行った。


「これが懸かっていた懸賞金だ、頭目を拾えなかったのは残念だな」


そう言って金袋を手渡された。


「ルスラーン様に宜しくお伝え下さい。それでは」


お仲間にも懸賞金が懸けられるような奴らだったのだ、

頭目はさぞかし一杯懸賞金が懸かっていたに違いない。

ちょっと残念な事をした。


それより、消えた懸賞金はどこに行くのか。

懸賞金やアイテムボックスの中身はどこに保管されているのか。


インテリジェンスカードに関係があるように思う。


ドロップ品はマジックアイテムだ。

インテリジェンスカードに収納ボックスが有ったり、

懸賞金ボックスがあるのかもしれない。


そうだ、金貨や銀貨はアイテムボックスに入る。

インテリジェンスカードが所持品の管理先になっている可能性が高い。

この世界のことわりは謎の事柄が多い。


さっきの奴隷の話もそうだ。

衣食住を与えないと権利を剥奪されると言うのは、自動のようだ。


(・・・衣はなかったかな?)


盗賊に落ちるシステムも自動のようだし、

これらにも魔法的な何かが働いている可能性は高い。


では、それはどこに?

一番関係がありそうなものが、この身分証明書と言う訳だ。


それにしても10日で奴隷が剥奪されるルール、これはどうなのだろう。

長期の旅行や、大商人であれば買い付けに出た場合はどうするのか。


ぞろぞろ連れて歩くのかな?

10日以上家を空けないように調整したりする必要があるかもしれない。

いや、自宅に居れば主の住処と認識されるのだろうか?


ボス部屋だって中に人が居なくなれば勝手に扉が開くのだし、

魔法的なセンサーがあってもおかしくは無い。


どこに?

インテリジェンスカードだろう。

そういえば、この世界の住民は旅行はしないのだったか?


そして帰りは昼のパンを忘れずに。



   ***



「ただいまー」

「お帰りなさいませ、ご主人様」

「・・・なさいませ・・・人様」


ナズの元気がない。

盗賊との戦いで疲弊したのかもしれない。

一歩間違えれば全滅の可能性もあったし、意気消沈するのは仕方無い。


「ジャーブは?」

「部屋にいると思います」


「そうか」


それよりも、いつもニコニコしているナズの表情が暗いのは宜しくない。


「ナズ、どうした?」


ビクッとしてそのまま硬直した。


「さっきは何とかなって良かったな、怪我はないか?」

「ご主・・・ご主人様、申し訳ありません」


ナズが床にひれ伏し、頭を付けた。


「先程の戦いでは、

 ご主人様は私達を置いてお逃げになるのだと思ってしまいました。

 このままではご主人様に合わせる顔がありません。

 どうか私に、罰をお与え下さい」


えっ、いや何、そんな事を考えていたの?

確かに演技とは言え逃げようと言う素振りをしたし、

その際のナズの顔はとても悲しそうだった。


「さっきのは盗賊を油断させようとした演技だ。

 ナズやアナを見捨てたりしないし、ジャーブだって助けただろう?」


「は、はい。それでも、私はご主人様を少しですが疑ってしまいました。

 どうか私を罰して下さい」


うーん。

あの状況だったし、置いて行かれるかもと思う事は正常だ。

普通はそうなると思う、自分だから逆転できただけで。


そういえばロクサーヌも、

ミチオ君が迎えに来ないのではと疑って謝っていた。


主人を疑ったら申し訳無いと思うのは普通の事なのか?

心にとどめて置けばいいのに正直なのだろう、ナズもロクサーヌも。

2人は似ている。


「そう思っていたのはナズだけで、

 アナは最初からどうにかすると判っていたようだぞ」

「そ、そうなのですか?アナさん?」


「はい、ご主人様は並のお方ではありません。

 これまで多くの有り得ない行動をなさっておいでですので、

 今回もきっとどうにか打破なさるものだと思っておりました」


褒めてるのかどうなのか、良く判らない持ち上げ方をされたな。


冷静なアナならではの思考だ。

それに以前、スキルやジョブの事を話していたので、

それらを総合的に判断した結果だと思う。


ナズには何も言っていない。

その差が出てしまっただけだ。


ここで自分からあれこれ言っても、ナズの気持ちは多分晴れない。

ナズに直接意見できる、同列のアナから説明をさせるのが賢明だ。


「アナ、ナズを慰めてやってくれ。

 お前達は2人とも同列なのだから、自分から慰められるより良いだろう」

「かしこまりました」


「じゃあちょっとジャーブの様子を見てくる、ナズを任せた」

「お任せ下さい」


ジャーブの方は自室で床に座り込み、塞ぎ込んでいた。


「どうだ、傷の具合は」

「ユ、ユウキ様、申し訳ありませんでした。

 俺なんかのために、いっぱい薬を使わせてしまいまして」


確かに大量の薬を使ったが、せいぜい滋養丸108個と滋養剤10個だ。

ギルドの販売価格で言えば、たかだか1万ナールくらい。

そもそも滋養丸は実質無料だ。

21万ナールのジャーブを1万ナール以下で救えたと思えば安い。


「お前の価値に比べたら安いもんだ、

 危なかったらどんどん薬を使えと、いつも言っているだろう?」


少しの間沈黙して、ジャーブが口を開いた。


「正直、俺はもう駄目だと思いました。

 せめてあの盗賊に一太刀でもと思うと、悔しくて・・・」


「お前を抑え込むために、盗賊の数が実質2人減っていたのは、

 逆に良かったかもしれないな」

「そう・・・なんですか・・・?

 俺はいつでもユウキ様の足下にも及ばず、

 魔物相手にも後れを取り、本当に情けないです」


「そんな事は無いぞ、いつも敵を引き付けて貰って助かっている」

「ユウキ様は俺を前衛として買って頂きました。

 それなのに、これまで一度として魔物を倒していません。

 その挙句、油断して盗賊にいいようにされて・・・」


ジャーブはジャーブで、

いつも戦闘で活躍できていないと自己を責め、

存在意義を失いかけていたのか。


奴隷の矜持・・・。

主人からの期待に応えられなければ自分の立場が危うい、

それが彼らの全てなのだろう。


先程自分がモタモタしてる間にアリを仕留めたのは、ナズって事かな?


「・・・さらにはユウキ様の貴重な薬まで無駄に消費させてしまいました。

 俺はでき損ないです、自分でも良く分かってるんです」


いつになくジャーブが怯弱きょうじゃくを語る。


今回の一件はナズにもジャーブにも、

心に秘めた闇を解き放ってしまったようだ。

しかしジャーブばかりが責められるのは間違いだ。


アナが人なら安全だと油断をし、

ナズは後衛として背後から迫るドワーフたちに気付かず、

自分は・・・やらかした。


大事な事を忘れていた大バカ者だった。

いつもいつも、肝心なところが抜けている。


「ジャーブ、済まなかった。

 本当は昨日渡すつもりだったのだが、これを付けてくれ」

「これは・・・?」


「身代わりのミサンガだ、昨日ナズに作らせた」

「そ、そんな高価な物を!

 これは頂けません。これはユウキ様が着けるべきです」


「いや、これを昨日渡して置けば、

 少なくとも最初の一撃でジャーブが床に伏す事は無かった。

 これは自分のミスだ、済まなかったなジャーブ」

「い、いえっ、それは結果であって、やはりこれはユウキ様が──」


「お前は前衛だ、一番危険なお前が最初に着けるべきなのだ」

「前衛なら一番奴隷のアナンタ殿から・・・」


「アナは盾があるし、どうせすぐ2つ目を作る」

「・・・そうですか。解りました、でも本当に良いんですかね?」


「これからも頼むぞ」

「本当に・・・俺で良かったんでしょうか?

 もっと賢く動ける戦闘奴隷はいっぱいいると思います」


「自分がこれだと思ってお前に目を付けたのだ、自信を持て」

「わ、分かりました、頑張ります」


少しだけジャーブのやる気が戻ったような気がした。


これまで自分が魔物達を薙ぎ倒して来たから、

自信を失っていたのだろう。

そこへ今回の襲撃があった。

卑屈になってしまうのも無理はない。


「ああ、それから」

「?」


「魔物を倒す事に関しては、これから意識しないで欲しい。

 お前は騎士に就かせる、騎士とは防御の要だ。

 一番前に出て、防御スキルで魔物の攻撃に耐えるのがお前の役目だ」

「奴隷でも騎士団に入れるのですか?」


「騎士団ではなく、ジョブの騎士だ。防御スキルを持っている」


そう伝えるとジャーブは少し時間を置いて、首を傾げながら答えた。


「騎士になったら騎士団に所属するのではないですか?」


「うーん・・・・」


そういう事か。


この世界ではジョブ神殿で就労すると同時に規約やら制約やら、

それこそ本当に就職なのだ。

医師免許を持っているのに病院に勤めない、そういう矛盾は存在しない。


「騎士団とは関係無く、お前は騎士に成れる。別に槍で戦う必要もないぞ」

「良く分かりませんが、ユウキ様が仰るなら頑張ります」


「その時は宜しく頼むぞ」

「分かりました」


ジャーブの部屋を後にする。


傷の方は気にしていた様子は無かったので、概ね大丈夫なのだろう。

次の戦闘時になってまだ治ってないとか、完全に癒せなかったとか、

そういう可能性もあるので、ジャーブの行動にはやや注意する必要がある。


ナズとジャーブ、2人の精神的ダメージを考慮して、午後は休みにしよう。

シルクスにも行きたかったし。


  *

  *

  *


──ご主人様が部屋から出て行って、アナさんと2人になった。


  こういう時、大抵ご主人様は「アナ、任せる」と仰る。

  ご主人様はアナさんに重きを置いておられるのだ。

  2人とも一番奴隷だと仰られた時は、何が何だか理解できなかった。


  ご主人様はとてもお強い。

  迷宮に行くための戦闘奴隷を探しておられたのだと、商館では聞いていた。

  私は・・・最初からお妾としてでは無く、

  鍛冶師として仕事をするために買われたのだ。


  戦闘用の奴隷としては当然アナさんより劣る。

  アナさんこそが一番奴隷にふさわしいはずだった。


  だからなのだろうか。

  ご主人様とアナさんは、

  主従関係以上に強い結束を持っているように感じていた。


  今日、これまでにない大きな事件が起きた。

  ジャーブさんが重傷を負わされ、私もアナさんも盗賊達に捕まった。


  盗賊の目的は私とアナさんだった。

  無契約奴隷として高く売るのだと・・・。

  その前に盗賊たちに酷い事をされるのは判り切っていた。


  自分の価値は良く判らないけれど、

  いま就業している鍛冶師は貴重な存在だと言う事は知っている。

  アナさんだって可愛いし、戦闘奴隷としてもかなり優秀だ。

  盗賊達の手に落ちたら、何万ナールと言うお金が彼らの物となる。


  それだけは絶対嫌だった。


  ご主人様は私たちを使い捨てたりしないと仰っていた。

  いつも大事に扱ってくれて、平民と同じ暮らしをさせて頂いている。

  もう、ご主人様以外の主人なんて考えられなかった。


  それなのに、ご主人様は私たちを置いて逃げようとしていた。


  ご主人様に捨てられる恐怖、これからの絶望の日々。

  辛く過酷な毎日が頭の中を駆け巡った。


  「助けて下さい」と言いたかったけれど、

  「ご主人様」と声を振り絞るだけで限界だった。


  それなのに・・・アナさんはこの後どうなるか、全てを判っていた。


  ご主人様との信頼関係の賜物なのだろう。

  その後のお2人の動きは計算されていたかのように機敏で、

  あっと言う間に盗賊たちは倒されてしまった。


  私も必死になって武器を持って戦ったけれど、

  深手を負った盗賊を転がすだけで精いっぱいだった。


  ご主人様とアナさんであの絶望の状況をひっくり返し、

  もう駄目だと思っていたジャーブさんまで救ってみせた。


  やはりご主人様は神様なのだろうか?

  でも、その慈悲深い眼差しは多分アナさんに向けられている。


「ナズさん、ナズさん」

「は、はい、何でしょう」


「私もナズさんと同じだったのです」


  どういう事だろう?

  アナさんと私が同じであるはずがない。


「初めてご主人様にお会いした時、

 お情けやお戯れで、私を一番奴隷になさったのだと思っておりました」


  えっ、そうなの?

  どう考えてもアナさんが一番じゃない。


  価格は私の方が高かったとは思うけれど、

  ご主人様が本当に欲しかった戦闘奴隷はアナさんの方だ。


「その事に気を病んでいた時がありましたが、ご主人様は私に仰いました。

 私とナズさんはそれぞれに無い物を持っているから、

 2人が力を合わせれば何も恐れる事は無いと」

「そのようなお話をなさっていたのですか」


  正直驚いた。


  いつも冷静で、ご主人様の事を何でも解っていそうなアナさんが、

  気に病んだ事があって、更にそれをご主人様に打ち明けていたのだ。


「はい。ナズさんの昨日や今日の様子を見ると、

 ご主人様のお心を理解できていないのだと思いました。

 ご主人様は誰にでも分け隔てなくお優しいように見えますが、

 私達に対しては特に気を使いながら扱っておられます」


  私・・・達。

  アナさんではなく、私も含めて?


「それはどうしてそう思ったのでしょう?」

「新しく入った竜人族の子です」


「ヴィーちゃんですね」

「ご主人様はヴィーをこちらに呼ばずに、ジャーブの部屋を充てました」


「そういえばそうでしたね」

「その際には、私たちがいるからもう必要ないのだと仰っておいででした」


  そういえばそうだった。

  ヴィーちゃんが来た日の夜の事だ。


  2人で台所の片付けを終えた後、彼女を寝室に連れて行った。

  お夜伽があるのかと思ったからだ。

  ご主人様が何か言うと、ヴィーちゃんは隣の部屋へ行ってしまった。


  アナさんと・・・私でお妾は十分と言う事なのだろう。

  私はご主人様の特別な存在だった・・・?


「それから、お料理の件ですが」

「はい・・・」


  料理には自信があった。


  食堂の娘・・・そう思われているかもしれないけれど、

  仕込みから献立まで、

  母が倒れて店が無くなるまではみっちりやって来たのだ。


  それなのにご主人様は見た事も無い料理をお作りになり、

  それはとても美味しかった。


「これを見て下さい」


  アナさんが何かしらの分厚い紙の束を見せてきた。


  このような綺麗な紙はまず見た事がないし、

  その内容も美しい絵が描かれていて、まるで本物そっくりだった。

  このまま食べろと言われたら、食べ出す者がいるかもしれない。


「これは・・・何でしょう、絵にしては綺麗すぎると言うか・・・」

「先日、ご主人様が作られたスープは多分これです」


  アナさんはパラパラと紙をめくって、

  白く美しいスープの絵を見せてきた。


  芋が白い事以外は、この前に作って頂いたあのスープそっくりだ。

  白い芋・・・なんだか想像ができないけれど、

  牛乳のような濃厚な味なのかもしれない。


「ナズさんなら、これが何か解りますよね?」

「これは・・・お料理の事が書かれている書物でしょうか」


「恐らく、そうなのだと思います。

 そして見た事も無い文字で書かれています。

 少なくとも私達の知る種族の言葉ではないのだと思います」


  以前アナさんと2人でお喋りをした時、

  ご主人様はこの世界の方では無いのかもしれないと言っていた。


  私は外国や他種族の事は良く判らないし、戦闘スキルも判らないので、

  何かがおかしいと言われたら、全部が変で全部が普通だと思っていた。


  私に理解できる事は、ご主人様は非常に優しいお方だと言う事だけだ。


「ご主人様は今後もこの書物を見ながら、

 また何か不思議な料理をお作りになるのだと思います」

「そ、そうなのですね」


「ですのでお食事を用意するように言われたのは、

 たまたまナズさんが経験者だったから任されたのだと思います。

 誰も料理ができなければ、ご自身でお料理をされたのでは無いかと」


  こんな本をお持ちだと言う事は、ご主人様は元々お料理ができる、

  もしくはお料理が好きなのだろう。


  調理をせよとご命令を受けた時は、

  私にしかできない事だからと、一番奴隷である自分を誇りに思った。

  でも本当は、ご主人様もお料理をなさりたかったのだ。


  以前落ち込んだ時に、ご主人様には酷い事を言ってしまった。

  自分の立場の事しか考えていない、私は酷い女だった。


「そ・・・そうなのですね。

 このような物があったなんて知りませんでした。

 でもこれを、どうやってアナさんは見付けたのですか?」

「先日の休みの際に早く帰って来たのですが

 ご主人様はそれを見ながら料理をなさっておいででした。

 ・・・多分片付け忘れたのだと思います」


「では無断ですか・・・」

「そうですね・・・」


「「・・・・・・」」


「そ、そういう事では無くてですね、

 ナズさんが悩んでいる事は、全然心配いらないと言う事です」

「はぁ・・」


「私は秀麗な奴隷として買われた訳ではありませんでした。

 非処女でしたし、中古の奴隷です。

 私はナズさんには及ばないし、全てがナズさんに劣ると思っていました」

「そっ、そんな事は、それは私の方です。アナさんには遠く及びません」


「だから、私たち、一緒でしょ?」


  アナさんも、アナさんで悩みがあったのだ。


  そういえばアナさんは中古で非処女の奴隷、

  普通は妾として重用される事など無い。

  その事実は一番奴隷とは対極にあり、重荷に感じていたのだろう。


「そう・・・?ですか?・・・そう、・・・ですね。

 私達は同じ事を悩んでいたのですね」


「ご主人様が私達2人を一番とした理由、普通なら有り得無いこの待遇は、

 恐らく全てお見通しの上でのご采配だったのでしょう」

「だから2人で協力するようにと仰った・・・?」


「そういう事なのだと思います」


  そうだったんだ・・・。


  アナさんも私と同じように自分の至らなさを悩み、

  それをご主人様に伝え、何かの薫陶を受けたのだ。


  私は・・・明るく振舞って気付かない振りをしていただけだった。

  もっと早くご主人様に相談していたのなら・・・。


  いいえ、ご主人様はいつだって話す機会を与えて下さっていた。

  それを、奴隷なのだからと恐れていたのは私だった。


「だから、ナズさん。私たち・・・頑張りましょう」

「ありがとうございます。

 アナさんのようなお姉さんができて本当に嬉しいです」


──2人は抱き合ってお互いの頭を撫で合った。

∽今日のステータス(2021/09/07)


 ・繰越金額 (白金貨2枚)

      金貨  7枚 銀貨 68枚 銅貨 97枚


  薬購入              (10800й)

   滋養剤      ×10      6000

   強壮剤      × 8      4800


  パン代                 (20й)

   ちょっといいパン ×2         20


  懸賞金                (19万й)


      金貨+18枚 銀貨- 8枚 銅貨-20枚

  ------------------------

   計  金貨 25枚 銀貨 60枚 銅貨 77枚



 ・異世界21日目(11時頃)

   ナズ・アナ16日目、ジャーブ10日目、ヴィー4日目

   鍛冶G面会まで1日

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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字報告で、ジャープのお値段を元値の27万ナールで送りましたが…値下げの26万ナールの方が正しいかもです。
[良い点] 前節で何故盗賊団の一員の探索者をさっさと殺してしまわないのかと思ったら、アズやナズに殺させたらアズやナズが盗賊になってしまう可能性があるからなのですね。(§066でユウキ君がジョブ盗賊にな…
[気になる点] >騎士になったら騎士団に所属するのではないですか?」 >「うーん・・・・」 >そういう事か。 >この世界ではジョブ神殿で就労すると同時に規約やら制約やら、 >それこ…
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