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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第五章 生活
76/394

§075 言語

今日の夕食は揚げパンとスープ、

玉ねぎ、ニンジン、それからイモを焼いた物だ。


スープには焼いた野菜と同じ具が少し入っていたが、

食べ応えのある大きさの肉が2切れ分入っていた。


「ご主人様に言われたように、今日はスープを作ってみました。

 明日の朝はこれに卵を落とそうかと思います」


「そうか、この肉は?」

「以前に頂いたラム肉とシェーマがまだ余っていましたので、

 モンゴルスープにしてみました」


モン・・・ゴル・・・スープ。

あるのかこの世界に、・・・モンゴル。


いや、翻訳の関係だろう。

ミチオ君もジンギスカンだとかボルシチだとか言っていたし。


どうやらこの世界の名前知識は地球の延長のようだ。

世界の設計者が地球人、いや小説の世界なのだから作者の考え得る名称だ。

或いは転移した者に合わせて、ブラヒム語の方が変動すると言う可能性。


ネイティブが転移したのなら、殺風景な名前になっているのかもしれない。

鳥のスープ、・・・とかかな。


この世界の魔法の詠唱呪文はどれも古代日本語・・・それも大和言葉だ。

キャラクター設定で習得をしていたからこそ理解できるが、

大学生の自分だって、古文より古い日本語だったら理解不能だ。

発音なら何とか解るが、真の意味まで理解してとなると怪しい。


  ──呪文の意味を理解しないとスキルは発動できない。


確かロクサーヌがそう言っていたような気がするが、

文字や語感から何と無く想像でき得る理解程度でちゃんと発動している。

その辺りは割と緩めと言うか、いい加減のようだ。


「ご主人様?」


「ああ、何でも無い。珍しいスープだなと思ってな」

「お口に合えばいいのですが」


「店で出していたのだろう?ナズの料理はもっと自信をもって良いぞ」

「はい、ありがとうございます」


「では食べよう、「「「いただきます」」」」


まずはスープから頂く。


ポトフよりはあっさり、胡椒が利いていて、

ラムの油が甘く程良いアクセントになる深い味わいだった。

ポトフはコンソメが入るからもう少し塩味が利いて来る。


次は揚げパンだ。

外はカリッと、中はフワッとまでは行かないが程々に柔らかかった。

これが昼に焼いたパンとするなら、かなり食べ易い。


引っ越し2日目の朝に食べたパンは、

前夜にナイフを通した事もあってか、外も中もカチカチだった。

この世界の朝のパンとしては普通らしい。

嫌なら朝からパン屋に並べと、そういう事なのだろう。


確かロクサーヌも前日のパンがどうのこうのと言っていた。


ここホドワの、ちょっと良いふわふわパン、

トリアの揚げたパン、どちらも甲乙付けがたい旨さだ。

朝はフワッと、夜は揚げパンに決定した。


朝は食パンが欲しいだとか我儘わがままを言った気もするが、

自分で作ってもこんなに美味しくならないだろうし、何より面倒臭い。

適材適所、上手にできる奴がやれば良い。

お金の余裕もできたし、買えば良いのだ。


「ご主人様、このパンはとても美味しいです」

「だろう?ジャーブが昔通って買っていたパンらしい」


「そうですか。ありがとうございます、ジャーブ」

「ジャーブさんとても美味しいです」

「えっ、いや俺が買った訳では無いので。ユウキ様ありがとうございます」


「そこでちょっとスリに遭ってな・・・小銭を盗まれてしまった」

「申し訳ありません、俺の不注意でした」

「スリ・・・ですか」


アナの動きが止まる。


「そうなんだ、自分は金を払おうとしていた所だったから

 良く見えなかったんだが、どんな奴だった?」

「ええと、ナズ殿より少し小さい位の、女のガキでした」

「わ、私は突き飛ばされてしまったので、良く見ておりませんでした」

「その町に住み付いている浮浪児でしょうか?」


「多分そんな感じだ、ジャーブがあっと言う間に撒かれたらしい」

「済みません、中々すばしっこくて・・・。

 細い通路を凄い勢いで逃げて行ったので」

「お幾ら位盗まれたのでしょう?」


「うーん判らんが、この袋の2倍位はあったかなあ」


床に置いたポーチから銅貨だけの袋を取り出して中を並べてみた。

金袋ごと盗まれたので、これは予備にあった袋・・・

元は銀貨用に分けていた袋だ。

現在60枚入っていたので、多分120枚前後盗まれた。


「120ナールも盗まれた訳ですか・・・」


アナがジャーブを睨み付けた。

これはアレだ、一番奴隷からのキツイお仕置きが・・・。


「も、申し訳ありません、アナンタ殿・・・」

「謝罪ならご主人様にするべきです」


食事が10ナールのパン1つで済む世界なのだから、

おにぎり弁当200円だと仮定して、大体2千円位を盗られたのか。

それ程大きな損害では無いが、奴隷に取っては重大な事だろう。

警戒を怠って主人の財布が盗まれたとあれば、立つ瀬が無い。


「まあまあ、あまり責めてやるな。

 ちゃんと反省して次に繋げてくれれば良い」


食事中にケンカされても飯が不味くなる。

ナズも何だかオロオロしているし。

・・・当事者だが。


「その盗賊を捕える役目、私にやらせて下さい」


「えっ?」


何を言い出すかと思えば・・・うーん。

アナは反射神経も高いし、気配を読めるから後を追い易い。

確かに捕らえる役なら打って付けだ。


「と、取り敢えず、まずは食べ終わってからだな」

「は、はい、そうですよね」


ナズとジャーブが顔を見合わせて、

ほっと一息安堵をいたのを見てしまった。

反省している様子なので重ねて責めるまい。


ナズが食器を片付けに席を立つ。

ジャーブも湯の桶を持って自室に戻った。

・・・多分逃げた。


「ご主人様、先程のお話ですが」


「ああ、アナはそいつを捕まえる事ができるのか?」

「もう一度ご主人様には隙を見せて頂き、盗られた後を追います」


「もう一度盗まれるのはやだなあ」

「小石の入った袋を用意して頂ければ大丈夫です。

 お金を払う振りをして、小石の袋を取り出して下さい」


「でもパン屋で買い物するんだし、小石で払う訳に行かない」

「お忘れでございますか?

 私は気配を読めますので、狙われている事が解れば合図を送れます」


「そうか、なるほど」


つまり、何もなければ普通に金を払って、

合図があれば小石の袋を出せと言う事だ。


「しかし120ナールも盗られた後だから、

 翌日そんな手に引っ掛かるだろうか。

 相手だって警戒するだろうし、暫くは金に困らないだろう」

「大体そういう輩は元締めが全部持って行きますので、

 下っ端の・・・特に少年少女の手元には何も残りません。

 盗り易い金持ちがいると知れば、

 殊更ことさらに狙いを定めるように言われるはずです」


くっ・・・痛い事を突いて来た。


つまり、お前は間抜けだからまた狙われるんだぞと。

遠回しにはそういう事だ。

空気が読める・・・いや行間が読める日本人だ。


「まあ、世間にうとい頼り無さそうな主人である事は認める」

「あっ、いえ、そのような意味で言った訳では・・・申し訳ございません」


「いやいい。ちょっとねて見ただけだ、それで?」

「大体、盗賊の活動時間は決まっております。

 同じ時間に同じように行動すれば、直ぐに目を付けられるでしょう」


何だか良く知ってるなあ。


この世界の常識なのか?

それともアナは気配を読み取れるから、

おかしな連中は直ぐ判って、いつも警戒していたと言う事なのか?


一奴隷であるアナの立場に立ってみれば、

町の警備やら赤の他人にスリに気を付けろだなんて教えてやる義理は無い。

黙って主人の周囲だけ警戒をしているのは何と無く理解できる。


「アナは周りを良く見ているんだな」

「恐縮です」


「毎日そんなに気を使っていたら疲れないか?」


自分も、他人に接する時は気を使い過ぎて疲弊していた。


処世術と言えば聞こえは良いが、

自分の立場を悪くしないがための努力であった。

結局、別の世界に転移した今となっては全く無駄になってしまったが。


「ええと、そのように考えた事は・・・ありませんね」


確かに。


町でも迷宮でも、油断をすれば大変な損害をこうむる。

死が安い世界で、警戒を怠ると言う事自体が有り得無いのだ。

と言う事は・・・。


ジャァーーーーブ!お前は緩み過ぎだ!

あ奴に護衛させると言う事自体がもう根本から間違っていた。


「では明日、日が暮れる前に一緒にトリアに行ってパンを買おう」

「かしこまりました」


「ナズー?聞いていたと思うが、明日から朝も昼も夜も自分がパンを買う」

「か、かしこまりましたー」


皿を洗いながらナズが返事をした。


「じゃあ後は宜しく」

「後ほど体をお拭きさせて頂きます」


「ナズも一緒で良い」

「かしこまりました」


部屋で待っていると、ナズとアナがやって来て体を拭かれ拭き合った。

今日はアナの洗濯を待ってから2人をベッドに呼んだので、

2人と楽しんだ後そのまま3人で寝る事ができた。


焦ってはいけない。

何事も機が熟すまでゆっくり待つべきだ。


  *

  *

  *


朝。


何事も無く目が覚めるのは嬉しい事だが、毎日何らかの予定がある。


予定も何も無く、のんびり起きてのんびり迷宮で狩りをして・・・。

何と無く帰って来て食事をする生活に早くしたい。

そういう人間に自分はなりたい。†


ほぼ同時にナズが起きたようなので、

ゆっくりと顔を近付け合ってゆっくりキスをした。

背後に気配を感じるが、今はゆっくりが良い。


「おはよう、ナズ」

「おはようございます、ご主人様」


ナズの顔からゆっくり離れると、

後ろから両手で頬を掴まれて首を捻じられる。


ここからはアナのターンが始まるのだ。

見掛け上の動作は落ち着いているのに、見えない所の動きが激しい。

口の中でお互いの攻防が繰り広げられて、敗北の上で放された。


「ご主人様、おはようございます」


「アナもおはよう。今日も元気が良いな」

「毎日のお勤めですので、気を抜く訳には参りません」


「そ・・・そうか、肩肘張らずに楽な気持ちで良いぞ。特に朝は」

「かしこまりました」


体を起こして伸びをする。


今日は久しぶりに朝から昼過ぎまで迷宮だ。

泥棒だったり、決闘だったり、商談をしたり、捕まったり、

この所数日は落ち着けなかった。


今日こそはウサギのカードが出ると良いな。

200・・・いや頑張って250倒せれば御の字だろう。


探索者のLvが35前後から全く動かなくなって来ている。

そろそろ上の階に行くべき時なのだろうが、

ウサギのカードの方が重要だ、ゆっくり行こうじゃないか。


家を出て、ホドワの町をパン屋までだらだらと歩く。


ここ1・2年は自宅と病院に籠りがちで、日の光を浴びて来なかった。

最近できた朝の日課は、自分には良い健康習慣になった気がする。

何も考えずにぶらぶらするこの小さな時間を、今後も大切にしたい。


今日はちょっと良いパンでは無く、ミニパンを2セット買った。


合計6個だが、2個を半分ずつにすれば朝は十分である事に気が付いた。

昨日のスープが出ると言う話だったから、パンとスープとハムエッグ。

十分じゃないか。

あ、今日は卵をスープに入れるのだったっけ。


家への帰路も歩いて帰った。

ついでに庭を見たら、成長の早いハーブが3~4枚の葉を開かせていた。


「ユウキ様、おはようございます」


「ジャーブか、おはよう。育って来たな?」

「そうですね、実家では毛嫌いしてましたが、畑仕事も結構楽しいです」


「ほう?」

「小さかった時は、言われるままに虫退治や落ち葉拾いをしていました。

 自分で育てた物がこうして大きくなって、食卓に並ぶのは感慨深いです」


「イチからやって見たお陰で気付いた事もあるだろう」

「そうですね、この仕事を任せて頂いて感謝しています」


・・・済まん、ジャーブよ。


単純にジョブが欲しかっただけで、畑や収穫物には大して興味が無かった。

ミチオ君達のように家庭菜園を楽しもうなどとは微塵も思っていなかった。

勿論上手くできたら美味しく頂けるので、それはそれで良いとは思うが。


だからジャーブがそんな高尚な悟りを得ていたのは予想外だ。

もう後はジャーブに全部任せよう。


「水は?」

「既に汲み終わってます」


「じゃあ朝食だな」

「分かりました」


2人で勝手口から台所に直行すると、靴からは土が落ちた。

後でアナが掃除をしてくれるとは思うが、毎回これでは忍びない。


「・・・うーん、勝手口の前に泥落としが必要だな」

「はい?」


「いや、こっちの話だ」


こんな世界なのだ、流石にあるまい。

靴で家に上がる文化だし、一般家庭では気にする様子も無さそうだった。

アムルの町長の家でもそのまま上がったし。


床を汚したくないと言う発想は、あくまでも日本人としての目線だ。

世界に無い物なので、自分で作る・・・作らせないといけない。

あの大工に頼めばやってくれるかもしれない。


「ご主人様、お帰りなさいませ。わあ、今日はミニパンがいっぱい」

「ああ、2個を半分に切ってくれ、1人1個半だ」


「かしこまりました、もう直ぐお肉が焼けますのでお待ち下さいね」


ジャーブと2人で椅子に座って待っているとアナも帰って来た。


「ご主人様、昨日は気付きませんでしたが、ドアに挟まっていたようです」


パピルスが折り畳まれただけのメモのようだが、

やはり読めないのでジャーブに任せた。


「ええと・・・、コボルトを入手、ジャン。と書いてあります」

「そうか、昨日の今日でか。早いな」


出品数が多いので、あの後直ぐに手に入ったのだろう。


「何かお買い上げになったのですか?」

「ああ、これからは競売でモンスターカードを買って行こうと思ってな」


アナが動きを止め、何か言いたげな様子でこちらを見詰めてきた。


おいそれと見る事ができないモンスターカードを、

競売でホイホイと買う事はアナには常識外なのだろう。

アナやジャーブのこれまでの生活からすれば、相当贅沢をしているはずだ。


「この前に買われたモンスターカードもコボルトでしたよね?」

「そうだ、コボルトは沢山必要なのだ」


察するにアナの過去のパーティでは、

スキル付きの武器は高嶺の花だった事だろう。

鍛冶師の事は知識で知っていても、

どういうカードがどういう効果なのかまでは知っていない可能性が高い。


「コボルトのカードとウサギのカードと合わせれば詠唱中断を作れるのだ」

「ご主人様の持つ剣と同じ効果ですね?」


「そうすればナズの槍が有能な武器に変わる」

「ナズさんに詠唱を止めさせる役目をさせる訳ですか」


「ナズの槍ならば後列に届くし、

 アナとジャーブ、両方に目を配れるだろう?」

「それはその通りです、全てご計画通りなのですね」

「計画って何ですか?」


ジャーブが口を挟んで来たが、君には関係無い。

お前は前線で防御を連発する役目なのだから、時が来たら話そう。


「他にも、色々必要なカードを頼んだので、

 これからも何かの連絡が来る可能性がある。注意してくれ。

 ジャーブも、宜しく頼む」

「かしこまりました」「分かりました」


これでデュランダルに頼らなくても良い日が一歩近付いた。


でもまだ敵の魔法やスキルに困っている段階では無いので、

コボルトは焦って取りに行く必要は無い気がする。

挟み式か、芋虫のカードと一緒に受け取る事にしよう。


「みなさん、お待たせしました」


ナズが全員分のパンを皿に盛り、朝食にした。

∽今日のステータス(2021/08/27)


 ・繰越金額 (白金貨1枚)

     金貨 14枚 銀貨 84枚 銅貨 60枚


  パン代                (20й)

   ミニパン×2             20


                   銅貨-20枚

  ------------------------

  計  金貨 14枚 銀貨 84枚 銅貨 40枚



 ・異世界17日目(18時頃)

   ナズ・アナ12日目、ジャーブ6日目、

   防具回収まで2日、鍛冶G面会まで5日

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― 新着の感想 ―
修正後のアナの圧力がすごいwww 静かながらに熱量を感じるw
今更の誤字 >ゆっくり顔を話すと、 →離すと、ですかね
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