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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第五章 生活
74/394

§073 閑散

仲買人ジャミルの説明に依ればアレクスム町には鍛冶師ギルドがあり、

それは商館の裏にあるのだと言う。


他の種族ギルドはどうなっているのか気になる所でもある。


では人間の種族ジョブである所の色魔ギルドは、

一体どこにあるのだろうか。

大っぴらに言えないようなジョブなのだから、

娼館とか歓楽街に紛れひっそりとあるのかもしれない。


娼館で2人を指名したらこっそりお呼び出しが掛かるとか・・・、

あるかも知れないが、無いかもしれない。

ミチオ君が紐解いてくれたのでギルドに興味は無いし、

精神力や体力の問題からスキルにも興味がない。


ジャーブは狼人族のギルド神殿は狼人塚にあると言っていた。

この国、或いはその地域限定なのかもしれないが、

やはり種族が固まって住んでいる所に設置されているのだろう。


鍛冶師ギルドが町中にあると言う事は異例・・・、いや大優遇なのだろう。

それだけ鍛冶師の貴重さが高いともいえる。

しかし大っぴらに宣伝して回るようなジョブではないらしい。


色魔は不名誉だから、鍛冶師はその身が危険だから。

種族格差が激しすぎる。差別反対だ。


「ここのようです、ユウキ様」


大通りに面した商館の裏側に、

目立ちはしないが、やや大きめの建物が佇んでいた。


看板などは出ていないので言われなければ判らないが、

他は民家、或いは店の裏口なのだ。

ここ以外にはあり得ない。


扉を開け中に入ってみたが、受付こそあれど誰もそこにはいなかった。


「こんにちは、どなたかいらっしゃいますか?」


「・・・あいよー、ちょっとまってくれ」


奥の方から男の声がする。


出てきたのは顔こそは大人だが、

背丈はやはりナズと同じくらいのドワーフだった。


 ・ミシアル ドワーフ ♂ 56歳 鍛冶師 Lv36


「ここに何か用か?ん?」


ミシアルと言う名のドワーフは、奥のナズに気が付き何かを察した。


「おう、嬢ちゃんか。試験は毎季まいつき1の付く日だ。

 それ以外ではここは何も無いし誰も来ないぞ」


ドワーフの就業試験日の事を言っているようだ。

毎日いつでも就労させている訳では無いのか。


確かに、鍛冶と言っても炉も金床も必要としないし、

材料さえあれば自由勝手に生産は可能だ。

ここに用があるのは加入試験以外は無い、つまりはほぼ暇なのだ。


「あ、いや、このドワーフはもう鍛冶師なのだ」

「そんじゃここに来る意味はねえだろ」


「鍛冶師に成ったのだが、武器や防具の作り方が判らなくてな?」

「何でえ、本なら就労したギルドで買えよ。よそ者には出せねえよ」


ガーン・・・。

就労したギルドの名簿に載っていなけばレシピ集は無理なのか?


「じゃあ、このドワーフをこのギルド所属にはできないか?」

「余所のギルドの規約があんだろう、

 既に就労してるやつを再登録ってのは聞いた事ねえな」


「いや、この娘はどこにも所属していないのだ、だから困っている」

「そんな事ァねえだろ、どうやって成ったんだよ」


自分で勝手に変更しましたとは口が裂けても言えない。

この雰囲気から察するに、

エレーヌの神殿の事はこの国、この町でも広まっていないらしい。


「うーんと、商館で高く買った奴隷でな。所属先が不明なのだ」

「自称鍛冶師って奴は結構いるからな、

 鍛冶師の奴隷はウン百万って話だし。

 兄ちゃん・・・その奴隷買った商館に騙されてるだろ」


いや、高かったのは事実だが、鍛冶師として買った訳では無い。

鍛冶師である事を信用して貰うにはこれしかあるまい。

アイテムボックスから板を1枚取り出して、ナズに持たせる。


「ナズ、ちょっとワンドを作ってみろ」

「は、はい・・・真神の宿りたる・・・」


ナズの手にワンドが残った。


「とまあ、本当に鍛冶師なのだが、ギルドに所属していなくてな。

 この先何を作ったら良いのか判らなくて困っているのだ」


「うーん・・・ちょっと聞いた事ねえけどよ、

 まあ事情があるんならしょうがねえな。

 他の会員に聞いてみるから次の・・・2の日にまた来い」


どうやらこのミシアルと言う男個人には裁量権が無いようだ。


「解かった、宜しく頼む」

「あのっ、宜しくお願いします」


「おう、まあ悪いようにはしねえさ、嬢ちゃん若ぇのに優秀なんだな」

「ありがとうございますっ」


ミシアルに礼を言ってギルドを後にした。


これでレシピ本が何とかなればいいのだが、

仮に、ナズがここのギルド員になってしまった時に、

会費やら制約やらの枷がついても、それはまた面倒な話になる。

できれば上手い事レシピ集を頂いて終わりにして貰いたい。


正規ギルド員以外には出し渋るような本だとすると、

図書館のような施設があっても秘蔵本扱いになっている可能性が高い。


「あっ、そういえばジャーブ、今日は何日なのだ?」

「ええと春の17日なので、先ほどの話の2の付く日までは5日です」


・・・自分がこの地に来てから17日目、

と言う事は、転移して来た時点で春の1日だったと言う訳だ。


ロクサーヌの話だと、一年は360日と季節の間に休日が数日。

90日の4つの季節があって、中間に1日か2日の休日があるらしい。


90+1+90+1+90+1+90+1で364日。

恐らく冬と春の間にもう1日休日があって365日なのだろう。

惑星の規模は地球とほぼ変わらないと言う事になる。


東京─名古屋間の移動でヒィヒィ言っているのだから、

世界の半分まで移動魔法で移動するとなると、かなり大変だ。

この世界の住民が旅行に興味がない理由が完全に理解できた。

フィールドウォークは万能ではないのだ。


MPの自然回復速度、急いで移動する場合の強壮丸、

行った先での地理や生活習慣の違い、盗賊への対処。

そこに利がある商人や、移動先にも安定して仕事がある旅亭員以外に

世界を飛び回る理由が全くない。


日本では平安時代には旅の事を記した書があった。

そこまで文明が進んでいなければ、民衆は旅などしないのだろう。

この世界の文化水準は、古代ローマ以上平安時代前と言う事になる。


そんな事を考えながら再び冒険者ギルドに戻って来た。


「すまないが、トリアへは行けるか?」

「ええっと、トリアまでは出ませんね、ユーアロナかルイジーナです」


「ユーアロナまでは?」

「銀貨3枚です」


ユーアロナとアレクスムの間が銀貨3枚の距離と言う事が判明した。

ホドワはユーアロナの領地内なので、おそらく銀貨1枚だ。

そしてルイジーナまで6枚で、ルイジーナからホドワまで3枚。


  :……………………6……………………:

  :                 :

 アレク…3…ユーア…1…ホドワ…3…ルイジ…2…トラサ…2…アムル


大体距離感がつかめてきた。

トラッサアムルが大体徒歩で3日、前にも計算した通り最長で150km位だ。

2銀貨距離でおよそ100~150km。単純に直線ではないかもしれないが。

地球と同サイズの惑星なら1周4万キロだから、1周すると銀貨約600枚の計算だ。


ここからユーアロナまで送って貰っても意味は無い。

行った事が無いので一度は行って置きたいが、

どうせならホドワから行くべきだろう。


「そうか、ではルイジーナで聞いてみる」

「申し訳ありませんね」


自分でゲートを出してルイジーナへ飛んだ。


アレクスムではそこそこの時間滞在していたので、

ある程度のMPは回復したとは思うが、

それでも移動するとガクッっと意識が飛びそうになった。

完全回復には至ってなかったようだ。


そういえばMP回復速度上昇のボーナススキルがあった。

できるだけ振っていこう。


ルイジーナの飛ばし冒険者を呼んで貰う。


「トリアに行きたいのだが、ここから行けるか?」

「それなら銀貨2枚ですよ、でも本当に行くんですか?」


「何かあるのか?」

「いえ。逆に、何も無いので宜しいのかなと」


何か含みのある感じだった、もう少し聞いておきたい。


「何も無いと言うのはどういう事だ?」

「昔は迷宮があったのですが、

 誰かに運悪く討伐されてしまって以来、町は寂れる一方との話です。

 行っても迷宮は無いし、商店も殆ど残ってないそうですよ。

 おめになった方が宜しいんじゃないかなと」


なるほど、この国は迷宮で栄えているから、

無くなってしまうと町自体も無くなっていく運命にあるのか。

人が少なくなった町・・・廃墟なら荒れる。

盗賊やら怪しい店やら。


だから、ジャミルのいう怪しい商売人がいるのか。

行く前に話を聞けて良かった、警戒しておかねば。


「解った、注意しておこう。

 ある人物に会わなければならないので、行かざるを得ないのだ」

「そうですか、行くのはお1人ですよね?」


目配せしてからナズとジャーブの2人をパーティから外した。


「そうだ、宜しく」


銀貨2枚を渡す。


「友に答えし信頼の、心のきよむ誠実の、パーティ編成。

 回顧に巡る行程を、共に目指さん行路の先を、フィールドウォーク。

 ・・・私は行きませんので、お気を付けて」


なっ、そういう事か。


危ないから行きたくないと。

向こうにも冒険者ギルド位はあるだろうが、

帰りの客を取れ無さそうだから最初から自分は行かないと。


そういうパターンもあるのかと感心しながらゲートをくぐる。

広いが殺風景な部屋の壁に出た。


・・・確かに、ここには何もない。

おそらく・・・冒険者ギルドであるはずなのに人がいない。

据え置かれている掲示板にも何も貼り出されていなかった。


受付にだらしなく座っている、

髭面ヒゲヅラでやる気の無さそうなおっさんがこちらを気にした。


「ここはトリアで合ってるか?」

「そうだぜ、お前さん商人か?やめとけ、ここでやっても危ないぜ」


身なりや武器を持っていない具合からそう判断したのだろう。

商人が持ってそうな肩掛けポーチだし。

冒険者や探索者なら荷物が沢山入るリュックだ。


「まあ、ちょっと人に会いにな」

「そうかい、ここはデンジャーだぜ、せいぜい気を付けな」†


錆が取れそうな雰囲気のセリフを受けたが、そのままギルドを後にした。


商人と認識されたのなら、その設定を生かさなければならない。

ここでゲートを開いて2人を連れてきたら冒険者へ格上げされる。

舐められていた方が色々都合がいいのだ。


冒険者ギルドからやや歩き、

民家の裏口に回って人の目が無いことを確認してルイジーナに戻った。


「2人とも、お待たせ」

「はい」「大丈夫です」


「これから行くトリアは治安が悪いらしいので、

 ジャーブは前、ナズは後ろを警戒してくれ。武器を持って来い」


2人をパーティに加えて、納戸に繋ぐ。

MP回復速度上昇3倍はかなり役に立っている。

すこぶる調子がいい。


──ドゴゥゥン。


自分が納戸に移動すると、大きな音とともに部屋の壁がミシミシと揺れた。


「うわあ、何だ?」


慌てて納戸から飛び出して廊下に出ると、

大工達数名が作業していた部屋から出てくる所であった。


「おや、兄さんいつのまにそこにいたんですかね」


「いや、ついさっきな」

「そうですか、今タライが嵌りましたよ、見ますか?」


「おおっ」


どうなったかワクワクする。

ジャーブとナズをほったらかして風呂予定の部屋を覗き見た。

アナは邪魔にならないように、端っこで食い入るように作業を見ている。


「お帰りなさいませ、ご主人様」


・・・顔を、こっちに向けろよ。

気になるのは解かるけどさ。

左脳系め。


それにしても、大工達の仕事ぶりは見事な物だった。

風呂桶の上縁面はぴったり床と同じ面で、

床に腰掛ければ足湯ができそうな感じである。

滑らかに加工されており、肌を擦ったとしても怪我などしなさそうだ。


底面には水抜きの栓が付いており、

引っ張りやすいように取っ手も付けられていた。

多分あれが排水トラップに直結しているのだろう。


前回の棟梁からの説明では、

この床の上でこぼしてもちゃんと下水に流れるのだと言っていた。


ザバーンとお湯が溢れたって、板の間でアワアワにして戯れたって

色々致した後にお湯で泡を流したっていい訳だ。

洗濯もここでやれば楽になるだろう。


「素晴らしい出来だな!」

「おっ何でい、帰ってたのか。どうだ、この仕事は」


「思った以上に完璧だ!やはりナズの知り合いに頼んで良かった」

「そうかい、そりゃあ照れるな。そんでこれがサービスの染料用の桶だ」


洗面器ほどの大きさの小さい桶が4つおまけに付けて来た。


確かに、この大工は染物をすると勘違いしていたようなので、

塗料を熟成したり発酵させるには別に桶が必要になる。

気を利かせて作ってくれたようだが、もうこれは洗面器に他ならない。

用途は違えど有難く受け取って置く。


「これが前言っていたサービスか、とても助かる」

「なあに、ナージャにもいい服着せてやってくれよ、なあ?」

「えっ、あ、そうなのですね。ありがとうございます、ご主人様」


ナズにはまだこれが風呂だとは言っていないので、

染め物で自分の服を作ってくれる路線で認識してしまった。


済まぬ・・・済まぬ・・・。

よこしまな事に使うつもりで申し訳無い・・・。

せめて、ナズを綺麗にしてやろうと誓うのであった。


「これで作業は終わりか?」

「いや、この大タライと床を接着するニカワが乾いたら終わりだな、

 乾くのに1日掛かるから、今日はまだ使わないでくれ」


「解かった。それから聞きたいんだが、

 家の玄関付近は遮蔽セメントで覆う事はできるか?」


「うん?なんだ、防犯用か?

 普通どの家も玄関周りは遮蔽セメントになってると思うが・・・。

 うーん、なってるぞ、わざわざやる必要は無いと思うぜ」


そうなのか、流石にそういう造りになっているか。

家の設備に関しては素人だから、

何が遮蔽セメントなのかがさっぱり解らない。


「そうか、ちょっと知り合いの家が空き巣に入られたとか聞いたのでな。

 うちはどうだろうと心配になったのだ」

「最近の建物なら冒険者が入ってくるような事は無いだろ。

 よっぽど古いとか、シロウトが建てた木の家とかならともかく」


「そうなのか、それなら安心した」


戸口付近から冒険者が侵入して来るような事は杞憂だった。


それもそうか、犯罪し放題だ。

家全体を遮蔽コンクリートで覆うような施工が珍しいと言うだけであって、

扉周りはどこもそうなんだろう。

自分の持つワープが特殊過ぎるだけだった。


「おう!そんじゃまだ後ちょっと作業があるが、終わったら勝手に帰るぜ」

「ああ、ありがとう。また何かあったら頼む」


棟梁は接合部にニカワをペタペタ塗る作業に戻った。


「ウッツさんのお仕事はきめ細やかで、いつ見ても素敵です」


「これぞ職人と言う、こだわりは見受けられるな」

「俺も何か特技があれば、戦士なんかには成らなかったのですが」


「何だ、ジャーブは職人になりたかったのか?」

「いえ、そういう訳じゃ無いんですが、

 実家が農家で毎日大変だったので・・・」


「別の仕事に就きたいと家を飛び出した?」

「まあそんな所です」


「農家の生まれの癖に畑の事は知らないのだな」

「実家は果樹園でしたので・・・」


「なるほど」


ジャーブもいろいろあって大変なのだな。

その先が奴隷になったと両親が知れば悲しむ事だろう。


「両親は?」

「借金を払ってくれたんですが、罰として奴隷に出されました」


お、おう・・・。


ジャーブを売ったのはご両親だったのか。

勘当・・・いや、せめてもの情けなのだろう。

他人に仕えてまっとうに生きろと。

少なくともクソみたいな幼馴染に騙されるよりはマシなんだろう。


「よし、トリアに行くぞ」

「かしこまりました」「分かりました」

「行ってらっしゃいませ」


ナズに道案内をされながらジャミルに紹介された店を目指す。


この街ではあちらこちらに、

商店だったと思われるたたずまいの家屋が見られたが、

そのほとんどが閉まっていた。


「これではここで生活するのは大変だな」

「そうですね。やっているのは日用品の店と、パン屋位ですかね?」

「これが迷宮を失った町の末路ですか・・・」


「知っているのか?」

「俺は元々、ここから迷宮を始めたんです」


「そうなのか、と言う事は10年前にはここに迷宮があったのだな」

「そうです。ご存じ・・・無いようですが説明しますか?」


「ああ、それじゃあ詳しく頼む」


ジャーブは歩きながらこの町の過去を語り出した。

∽今日のステータス(2021/08/27)


 ・繰越金額

     金貨  2枚 銀貨 87枚 銅貨144枚


  旅費 ルイジーナ→トリア      (200й)


            銀貨- 2枚

  ------------------------

  計  金貨  2枚 銀貨 85枚 銅貨144枚



 ・異世界17日目(14時頃)

   ナズ・アナ12日目、ジャーブ6日目

   防具回収まで2日、鍛冶G面会まで5日

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