§069 回収
商人ユウキと冒険者タイラン、及び商人ハムリックの決闘は、
ルスラーンとその部下たちにしっかりと見られていた。
初戦の相手、タイランとの決闘において、
立ち合いに応じた副隊長マリクは、
何故この貴族出のボンボン商人は死に急ぐのかと同情していた。
***
──商人は普通自分では戦わない。
代理人同士が決闘することが殆どだ。
大物商人では決闘用の戦闘奴隷を何人も呼んでくる。
そうでなければお抱えの冒険者か探索者、
或いは伝手でそこそこに強い者を呼ぶ。
相手の商人はやはりお抱え冒険者を代理人として立たせたが、
この青年は決闘の場に1人で向かうらしい。
誰も連立ってないとなると、行きだけは送って貰い帰りは徒歩。
アムルのような辺鄙な場所に、
良くもまあ1人で行商などしようとしたものだ。
世間知らずなのか?
どう考えても、商人と冒険者では最初から実力の差が有り過ぎるし、
威勢の良い事を言う商人は若く見えた。
商人だって錬磨を積めば強くなれない事は無いが、
この青年は・・・若過ぎた。
そして装備も絶望を感じさせた。
冒険者の男は鉄製で防御力の高そうな装備で身を固め、
武器は破壊力抜群の鋼鉄の剣だった。
非力な人間相手なら2,3回も当たればまず助からない。
対して対戦者の青年は剣こそはまともだったが、
鎧を身に着けておらず盾すら持っていなかった。
エストックは決して悪い武器では無い。
しかし鉄の鎧に身を固めた相手を倒すとなれば、相当の時間が必要だ。
それが戦闘に不慣れな商人がやるとなると、もう絶望的だ。
掠りもしないで終わるのでは無いかとも思えた。
しかし、決闘が開始されると、その状況はまるで違った光景となった。
冒険者の男は武器を振り回すだけで、商人の青年は避けていただけ。
もっと言えば何もしていないようにも見えた。
青年は何回か突きを繰り出してはいたようだが、ほぼ当たっていない。
いや当たってもダメージはごく小さい物に見えた。
それが何とか目視できる範囲であった。
足を掛け、転ばせたのは分かったが、
その後に転がっていった冒険者を追い掛け、
牽制に放たれた一撃を飛んで避けた後は、
もう何が何だか訳が分からなかった。
そして青年が言葉を発した。
相手が動かないと。
青年の行動は高速過ぎて、何をやっていたかは全く理解できなかった。
ただ、彼の口から石化の剣だと聞いて納得した。
気の遠くなる程沢山当てたのだ。
10回や20回ではああはなるまい。
青年の威勢はハッタリなんかではなく、
最初からこの冒険者と本気でぶつかり合って、
絶対に勝つ自信があったのだと理解した。
ここに来る前に、この青年は言っていた。
商人を嵌め、この決闘に誘き出したと。
その後の決闘では、この青年の言う通り嫌疑を向けた商人が懺悔した。
いや、元々嫌疑が掛かっていたのはこの青年の方であったのだが、
嫌疑が向けられるように誘い、決闘の地へと嵌めたのだ。
何と恐ろしい事か。
計略も恐ろしいし、その剣技も恐ろしかった。
最後の商人同士の戦いでは、
どうやって最後の一撃を放ったか理解できなかった。
何やら最後に喋っていたような気がするが、次の瞬間首が落ちていた。
遺体の処理を終え、石化している男を牢に繋いだ後、
上司であるルスラーン様に報告した。
ルスラーン様はあの青年を知っていたようで、
やっぱりなと言っておられた。
あの青年が最初から勝つ事が分かっていた様子だった。
この世にはあのような者がいたのだ。
自分などまだまだ修行が足りないと、
我が身を引き締めた。
***
「それでは騎士様、その男の尋問を宜しくお願い致します。
おそらくは大勢の盗賊を手引きして、
街道で襲わせていた張本人でございます」
「あ、ああ、分かった。牢に入れて置く」
「済みませんが、石化回復薬を持っておりませんので、
騎士団の方で何とかして頂けると」
「それは大丈夫だ、心配いらない。
それから、男の装備だが、持って行くと言っていたな?」
「ええ、できれば。あの商人には損失を被りましたので」
「それならば石化を解いた後に脱がせるので、
・・・そうだな、3日後位に取りに来い」
「ありがとうございます。それでは宜しくお願い致します」
礼を言って騎士団を後にする。
ここを出たら直ぐに旅亭だ。
いつも使っていた旅亭の裏庭から帰ろう。
はぁぁぁぁ・・・、終わった。
もうこれで面倒事は・・・あるな。
最後に町長に報告して、やっぱり店は出せませんとするべきだろう。
町のお抱え商人を殺ったのだ。
住民からは一時期の混乱ゆえの反発があるはずだ。
取り敢えず、持って行っていいらしい宝石箱を回収し、
あの冒険者の男の家も漁らせて貰おう。
トラッサの旅亭の裏の木から探索者ギルドに足を運び、
消費した薬の補充をした後、商人ハムリックの店に飛ぶ。
小綺麗な箱の中身を確認し、ゲートを開いて納戸に運び込んだ。
先ほどの冒険者の家にも寄らせて貰った。
戸を叩いても返事が無かったので、勝手に上がらせて頂く。
先ほど入り口が開いた際に玄関の中は見ておいた。
と言うか、このワープの能力は恐ろしい。
いや、フィールドウォーク全般に言える。
ちょっと戸口が開けばどこにだって侵入できるのだ。
冒険者が盗賊と連みやすい理由はここにあったのか。
ともかく、窓のある部屋と玄関は遮蔽セメントに限る。
後でキッチンの改修工事と共にあの大工に相談しよう。
冒険者の家には目欲しい物は無かったが、例の木箱が出て来た。
ここにあったのか。
恐らくこの家はあの商人との共同の家なのだろう。
金貨の類は無かったので、あの冒険者が持っていたと言う事になる。
実力はあの冒険者の方が上、取り分も多かった。
用聞きで商売をするのだから、息の掛かった冒険者は欠かせない。
力関係的にはこの冒険者がドンで、商人は顔、盗賊たちは駒と言う訳だ。
ともかく、金目の物は無かった。
あの商人が貯め込んだ宝石だけでもラッキーではある。
濡れ手に粟なのだが、その陰には多数の悲しい人生があったのかと思うと、
手放しでは喜べない悲壮感もある。
さて盗賊一味の家宅調査も終わった事だし、
改めて町長の家を訪ねに行くとするか。
***
──ドンドンドン。
「ごめん下さいませ。
先にお邪魔させて頂いた商人のユウキと申しますが、
町長様はいらっしゃいますでしょうか」
商館のようなノッカーは無いので、そのまま戸を叩く。
相手方も準備万端とは行かないので、やや間があって返事が返ってきた。
「はい。先程お見えになった商人のユウキ様ですね、少々お待ち下さい」
下男は自分の顔を確認すると、
先程と同じように2階にあるセビケットの自室へと自分を通した。
「おお、早かったな。して、あの男はどうなりましたかな」
「はい、罪を懺悔させて、この手で仕留めました。
彼の発言はルスラーン隊長も聞いておられますし、
息の掛かった冒険者を捕縛したので、騎士団から報告が来ると思います」
「ほう、凄いの・・・、しかし残念な事になった、
この町の御用聞きがいなくなると町民たちの買い付けが心配なのだ。
そこで──」
ほら来た、商人ならお前がやれと。
申し訳無いがそんな販路は持っていない。
カルクと値段交渉と移動魔法があるので天職と言えば天職なのだが、
もうちょっと遊びたいお年頃なんですよ。
今はナズやアナと一緒にイチャイチャしたい気分なのです。
「申し訳ありません、町長様。
原因を作った自分がここで商いをすると、何かと軋轢を生むでしょう。
その座を奪ったともなると良からぬ噂が立つかも知れませんし、
奴に協力していた悪い輩がまだ残っていないとも限りません。
やはり外部の商人を呼んで頂いた方が、住民たちも納得しましょう」
「うむ・・・確かにそうであるな、そなたは頭が回るのう」
「利に聡く、人に聡くなければ商人として務まりませんので」
適当な御託を並べすぎて歯が浮きそうである。
利なんて聡くないし、人なんてもっと知らない。
聡いとするならば口だけだ。
悪かったな、文系で。
「そうであったか、それならば重ねて引き止めはすまい、残念であるな。
あのパンもとても美味しかったのだが」
「そのお言葉だけで、商人名利に尽きると言う物です。
料理人の友人も喜びましょう」
「それではあの石鹸であるが・・・」
「そちらは詫び代としてお納め下さい。
あの商人に売った際に町長様へとお願いしたのです。
本来なら町長様が1つお持ちでなければいけない品物だったはずですが、
残念な事にあの男は高く売れそうな所へ捌いたのでしょう。
もう1つ持って来ていて本当に良かった」
「ふむ・・・これは本当にハムリックの持ち物では無かったと?」
「言い掛かりを付けて自分を嵌め、
余欲ばもう1つ、いや幾つかを奪う魂胆だったのでしょう。
きっと高く売れたのだと思います」
言い掛かりを付けさせて嵌めたのは自分なのだが。
ついでに奪ったのも自分だ。
喜べセリー、お前の嫌いな悪徳商人が1人滅びた。
「なるほど、恐ろしい奴じゃのぅ・・・おかげで助かった。
町民にも知らせておく。済まなかったな」
「いえいえ、滅相もございません。
住民がこれからは適正な価格で取引できれば本望でございます」
これだ、これが目的なのだから、みんな丸く収まってハッピーエンドだ。
そのために、わざわざしなくていい後始末を付けたのだ。
石鹸泥棒ユウキは実在しない、いいね?†
「欲が無いのぅお主は」
「この町の方々の購買力が上がれば、
いずれは私の扱う品を手に入れる、それでは駄目ですか?」
「なるほどのぅ・・・やはりお主は頭が回るのぅ・・・」
***
アムルの一件を解決したので家に戻って来た。
はあぁぁぁ、もう嫌だ。
ひと稼ぎ、纏まった財産を入手する度に毎回これじゃないか。
もういいんだよ。
迷宮のアガりで、細々とやって行ける算段はついたのだから
これからはゆっくり行こうよ。
ああそうだ、稼ぎたいんじゃなくって盗賊だった。
もうなんか、食べ物でもこっそり食べて、
後でこっそり返した方が早かったんじゃないのか?
盗られたと気付かれない物であれば、
盗った瞬間にジョブを取得するようであるので、
そのまま返却してしまえば良かったのだ。
何も本当に盗賊扱いされる必要は無かった。
ルスラーンに手の内を見せたのも良くない。
ぜひ騎士団にとか言ってくるぞ、・・・はぁぁ。
調子に乗って装備を回収とか欲を掻かなければ良かった。
気が重い。(グゥゥゥ・・。)
しかし腹は軽い。
昼に一度戻ってきて解散したのだから、皆は昼食を取った後だろう。
戦ったし、頭も使った。一仕事をして気が抜けたのだ。
自分の食べ物は・・・流石に用意してはいないだろうな。
ベッドに横になると、ナズがやって来た。
「ご主人様、お帰りなさいませ。お食事はお取りになりましたか?」
「いや、色々あって食べ損ねた」
「すみません、お帰りがいつになるか判らなかったので、
ご用意はしておりませんが、直ぐにとなると果物などはいかがでしょう」
「そうか、では宜しく」
なんと優しい事か。
ナズを抱きしめてヨシヨシしたかったが、
ベッドから起き上がりたく無かった。
許せ。
セクハラは嫌かもしれないが。
「かしこまりました、その後であのパンを作りましょうか」
「そうだな、材料はどうだ?」
「まだあと1つ2つ作る分には肉が余っております」
そういえばそうだ。
パーンからドロップのヤギの肉は、4人で食べても十分の量だった。
挟みパンの具のサイズなら10個分くらいは軽く取れる。
肉だけ余ってるなら肉を焼いてくれても・・・
ああ、そうか。焼いた後だからパンに挟むだけと言う事か。
炒めた野菜を昼に食べてしまったから無いのだろう。
直ぐにカットされたタプスを持ってきたので、
それを摘まみながら昼食とやらを待った。
その後、アナも部屋に入って来た。
「ご主人様、お帰りなさいませ、その後はいかがでしたでしょうか」
「ああ、アナのおかげで順調だった。あの商人と決闘をし戦利品で一杯だ」
「決闘でございますか、それであの剣をお使いになったのですね」
「そうだ、1人を予定通り生け捕り、1人は・・・まあ聞くな」
「かしこまりました。
お疲れのご様子でしたら、今日は私が体を解しましょうか」
「アナもできるのか?」
「ナズさんに教えて貰いました。私にもやらせて下さい」
「じゃあお願いしよう」
***
アナのマッサージは心地良かった。
ナズは、聞いた事をそのまま覚えていると言う感じではあったが、
アナはどこが痛いのか、どこを押して貰いたいのか、
的確な場所を的確な力加減で施術した。
夜の上手さにも合致する。
ついでに体の一部がもう少し頑張りたいと申告をしたので、
そちらもマッサージして頂いた。
やっぱり上手だった。
アナを横に抱いてまったりしていると、ナズが遅い昼食を持ってきた。
お腹も減っていた事もあって、
2つのパピルスサンドは即座に消えた。
今後は出番は無くなるだろうが、また作って貰いたい。
その後ナズもベッドに上げて、2人からのマッサージに癒された。
ナズのマッサージは初回こそ痛くて強烈だったが、
今回は見違える程上手になっていた。
最初から何でも卒なく熟すアナと、磨けば磨くほど光るナズ。
甲乙付けがたく、どちらも違ってどちらもいい。
少し横になると告げて、遅めの昼寝をした。
∽今日のステータス(2021/08/20)
・繰越金額
金貨 2枚 銀貨 93枚 銅貨 50枚
薬品購入
強壮剤 ×3 (1800й)
銀貨-18枚
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計 金貨 2枚 銀貨 75枚 銅貨 50枚
・異世界16日目(3時頃)
ナズ・アナ11日目、ジャーブ5日目、風呂設置まで1日




