§021 説明
食器をナズに片付けさせ、蝋燭は1本消した。
ベッドへ軽く横になって、腕枕をしながらぼーっとする。
「そういえば、アナはずっとここに居たと言っていたな」
「そうです」
「ここに泊まっていたのか?」
「ここは比較的高級な旅亭です。
駆け出しの探索者向けに、安めの宿が東地区にございます。
前主人達はそこで寝泊まりをされておりました。
そちらは朝夕込みで100ナールです」
ここは弁当を付けて300ナールだ。
なるほど、3倍ならば十分高級だ。
日本で5000円の宿は安宿だと思う。
取り敢えず寝泊まりできれば良いかと言った所。
倍の1万円ならどうだ、少しはまともなサービスを受けられる良宿だ。
3倍、1万5千円も出せばちょっと快適に泊まれるシティホテルの値段だ。
更に倍の3万円なら、上質な持て成しを受けられる高級旅館だろう。
こちらの基準では多分1泊600ナール、
そういうのは大都市や宮殿前とかにあって、迎賓用なのだろう。
「ご主人様もそちらの宿に移られますか?」
「そちらの方が何か都合が良いのか?」
「いえ、別にそういう訳ではございませんが・・・」
アナは慌てて両手を振った。
「どうした?」
「いえ、そちらには見知った方がまだいるかと思いまして」
「見られたら嫌だと?」
「いえ、そういう事はありません」
「知り合いがいる?」
「そう・・・ですね、知り合いと言うか、知っていると言いましょうか」
「近くなんだし、いつでも会って来て良いぞ」
「い、いえ、私の知り合いでは無く、前主人の、ですね。
私が直接話をした事はありません。
前主人が仲良くなさっておられた方々です」
前の彼氏の友達が・・・云々。
いや、別に嫉妬じゃないけど。
アナの前主人は冒険者に成りたかった。
友人のドワーフは鍛冶師に成りたかったのだろうか。
いや、力が無いと言っていたようだったな。
ナズと同じように別の道を模索していたようだ。
そして、熱く夢を語り合える友人が酒場にいたのだろう。
奴隷として向上心のある主人に仕える、
もしかしたら名を上げて身を立てられるかもしれない。
アナが示す主人への忠誠は、本人の地位向上を狙う願望も有るのだろうか。
「そうか、安宿ならここより狭そうだし、治安もここの方が良いだろう。
用があったらいつでも遊びに行って来て良いぞ」
「いえ、本当に、全然そういう事ではございませんので」
アナが焦っている。
取り乱す姿は初めて見るので好感度が3割増えた。
ギャップ萌え?
「先程は、ご主人様が迷宮で稼ぐと仰いましたので」
「ああ、そうだな」
「私達が以前稼ぎの場として戦っていた階層は7層です。
そこでの稼ぎでは、東の宿でも一杯一杯だったように思いました」
「そうなのか、迷宮での稼ぎは厳しいのだな」
「ご主人様は迷宮をどの程度まで進められておられるのでしょうか?」
「ああ、ここの1層でちょっと魔物と戦った事がある程度だ」
「そう・・・・・・ですか。
確かに1層のグリーンキャタピラーは不人気ですので、
狩り易いかもしれませんが稼ぎもそれなりです。
ご存じかとは思いますが」
と言われてもまだ換金した事が無いので、
ドロップ品が幾らになるのかは知らない。
大した金額にならないと聞いて、それはそれでショックだ。
ミチオ君達がどの程度迷宮で稼いでいたかは計り知れなかった。
沢山倒してそれなりに儲かっていた印象もあるが、
よくよく考えてみれば奴隷の購入資金は盗賊討伐の懸賞金だったし、
ひょんな事から金が転がり込んで来たり、鏡運びで泡銭を得ていた。
ドロップ品が幾らで売れたか、
迷宮探索でどの程度儲かっていたのかの記述は、
思い返してみれば殆ど無かったような気がした。
「えっ、そうなの?」
「ええと・・・」
アナが困惑した顔で自分を見詰めた。
迷宮で稼ぐぞ!と意気込んで戦闘奴隷を購入した主人が、
迷宮に対してはド素人なのだ。
そりゃあ不安だろう。
全部アナに任せる勢いだと思われかねない。
しかし、ここで嘘を吐いても明日直ぐにバレる。
素直に初心者と明かして、レクチャーを受けた方が建設的だ。
「じ、実を言うとな、迷宮そのものに初心者でな。
昨日初めて入ったばかりなのだ」
「ええと・・・はい」
しまった、余計ドン引きされたか?
「だ、大丈夫だ、これでも強い方だからな、多分。
アナには後れを取らないぞ、うん」
「いえ、あの・・・はい」
ますます下手を打った気がする。
いや、だって、他にどうしろって言うんだ。
Lvはアナより上だぞ。
ホントだぞ。
ベースの強さがどの位影響しているかは知らないが、
デュランダルがあれば攻撃力だけはピカイチのはずだ。
実戦経験が乏しいだけで。
「と、兎に角だ、1層の稼ぎ程度では生活するには苦しいと、
そういう事は解った」
「あ、はい」
「だから2人の実力を見ながら、どんどん深層に進んで行こうと思う」
「いえ、あの、それは・・・」
さっき宣言した事と矛盾した事を言った気がする。
先程は安心して戦って行けるようにするとか言った。
自分には経験値倍増の秘密スキルがある。
ちょっと戦えば直ぐに強くなれるのだ。
Lvを上げれば安心して深層に進めるだろう。
良かった、矛盾なんて無かった。
「だ、駄目かな?」
「ええと、どこから説明致しましょうか・・・」
「全部、最初からで良いぞ」
折角なので、この世界の迷宮に対する見解を色々教えて貰おう。
たとえ些細な事でも情報は大事だ。
ある程度の事前知識があるとは言え、根本的には無知なのだ。
ミチオ君達の周囲で言及されなかった小さい情報でも、
見落とせばそこで足を掬われる可能性がある。
「迷宮で戦えば、経験を積んで強くなれます」
「うん、それは解る」
「レベルの指標があるのは探索者だけですので、
迷宮に入るには初期からずっと、
信頼の置ける探索者を連れて行く事が基本です」
「ええと、それは何で?」
別にダンジョンウォークが不要なら冒険者でも良いだろう?
あ、奥地から帰還する時に大変か。
でも別に、帰りは出口まで歩けばそれで良い気がするのだが。
「レベルの低い頃からずっと一緒であれば、
探索者のレベルが、大体自分の強さになるからです」
なるほど、探索者のジョブLvを自分の強さの指標にするのか。
多少ばらつきがあっても例えばLv40の探索者と一緒なら、
自分にもその位の強さはあると判断できる。
じゃあ40層に行こう、となる。
いや、判断するのは探索者だ。
自分がLv40だから、このパーティは40層に行けるだろうと。
なるほど、探索者は大事だ。
でなければ強さの指標がまるで判らないので、
階層を押して行く事は無謀な挑戦となってしまう。
全員が上位ジョブの冒険者に成らない理由が良く解った。
そういう意味で、探索者だけにパーティ権限が与えられているのか。
パーティをコントロールする役目、進退を判断するリーダー。
Lvが判る探索者でなければ務まらない。
勿論冒険者もパーティ編成スキルを持っているが、
そちらは大事な交通手段であるので、スキルが無ければ意味を成さない。
「ご主人様は昨日お入りになったばかりと伺いましたので、
恐らく探索者のレベルで言いますと1か2位の強さだと存じます」
んー残念、Lvは12だ。
突っ込むと稚児しくなるから、今は黙って置こう。
「そしてナズさんは元々町で生活なさっていたようですので、
戦闘の経験が全く無いのでしたらジョブは村人なのでしょう」
アナはナズに対し的確な判断を下した。
「そうだろうな」
そうなんだけど。
「私は、探索者の主人と共に7層に入っておりました。
主人も私も7レベルだったからです」
合ってる。
アナは探索者Lv7だった。
一般人はそうやって迷宮を攻略して行くのか。
Lv相応のはずなのに魔物が手強いと感じた場合は、
パーティを補充したり武器や防具を新調する。
なるほどなあ。
「迷宮の攻略は普通1年2層、早い方でも3層程度と言われております。
私は既に2年潜っておられた主人の下で4層から始めさせて頂いたので、
7層までは3年で行く事ができました」
2年の探索者2人だとギリギリ初心者から足を洗った位だ。
そこから更に3年掛けて7層まで進めて来た。
敵が強ければLvの上がり方も早いだろうし、アナのLv7には納得だ。
「つまりアナの戦っていた7層まで行くには、
4層から始めても3年位掛かる訳だ?」
「はい、そう思って頂いて差し支えありません」
金が無いから迷宮で稼ぐ。
しかし7層で戦っていたアナ達のパーティでも苦しかった。
それより低階層で初心者の主人、
更にお荷物であるナズを連れて行くとなると、
経験を積むのも報酬を得るのも大変だ。
支払いは大丈夫なのかと心配されるのも仕方無い。
無い・・・よね?
1層で得られたアイテムを一度も換金していないから、
迷宮での稼ぎがどの位か全く判らない。
グリーンキャタピラーからは糸を集めたが、
これはナズにミサンガを作って貰う予定なのだ。
換金したら勿体無い・・・のだが、
どうにも金欠に陥ったなら売らざるを得ない。
いや、話からすると二束三文なのだろう。
全く当てにできないと言う訳だ。
まあ、いざとなったら、持ち込んだ酒と宝石を・・・。
いやいや、おいそれとそういう物へ頼っていたら直ぐにでも破産だ。
なるべくそういう物を頼らず自活できるようにしなければならない。
「まあ、その心配は要らないと思う。7層には直ぐ復帰できると思う」
「いえ、ですから──」
アナは狼狽えて何かを伝えようとしたが、
丁度良くナズが帰って来て話の腰を折ってくれた。
「帰りました」
ナズが食器とトレイを返却して戻って来た。
「遅かったな?」
「はい、私の事を知っていた方が下にいらっしゃいまして」
絡まれた?
確かにナズは華奢で可愛いし、押しにも弱そうだ。
酒場の酔っぱらいは危険な存在だ。
「何か言われたのか?」
「いえ、良い主人に巡り合えて良かったと」
「あー?」
逆だった。
絡んだとか思って済まなかった。
でも、そう言われると悪い気はしない。
良かったかどうかは自分では判断できかねる。
ナズが待遇を説明して、他の客が褒めたのだろう。
「歌ってやれば良かったのに」
「ご命令でしたら稼いで参ります」
「いや、そういう訳では無いが、元々一曲幾らで歌っていたのだ?」
「5ナールです」
「却下だ、却下」
80万ナールであるナズの歌声を、
何故たった5ナールで聞かせてやらねばならんのだ。
160000回分だぞ?
1日3曲歌っても146年だ。
割引だったから56万ナールか。102年だ。
無駄にカルクが働いた。
アナは複雑そうな顔付きだった。
これから同衾しようとか言う雰囲気では無い。
完全にタイミングが逸らされてしまった。
いや、ナズにその話題を振った自分のせいなのだが。
「今はナズの全ては自分の物だ・・・からな?」
「・・・はい」
視線を下に逸らし、萎らしくなった。
ん、これはチャンスなのか?
攻めるべきか?
上着を脱いでアナに預ける。
それを見て察したのか、
ナズも蝋燭の光があまり及ばない場所に移動してワンピースを捲った。
長い髪が胸元を隠す。
体のラインは解るが、薄明りもあってか胸や細かい表情などは見え難い。
見えそうで見えない、それもまた良い。
両手で前を隠しながら、恐る恐る近付いて来た。
「ご主人様、・・・あの、可愛がって下さい」
***
──初めてのお務めをするナズさんは、
萎らしく、可憐で、可愛く振舞った。
そのぎこちなく、もどかしい姿を私は見守った。
誰の力を借りずともナズさんは愛人としての初仕事を全うしたのだ。
主人はそんなナズさんを甲斐甲斐しく愛でておいでだったが、
恐らくそれは商館が準備してあった通りなのだろう。
ナズさんはお夜伽の手順に際して十分な教育を受けているはずだが、
最初は初々しい態度を見せなさい、と。
主人には悪いが、そんな疑問を抱かない事が幸せな事もある。
「ご主人様、お疲れ様でした」
「あ、ああ、済まないな?」
行為が終わると、私は主人に絞った手拭いを手渡した。
主人が軽く顔を拭っているさなか、
2枚目の手拭いで上半身を拭き上げする。
簡単に清拭を終わらせ、畳み直してナズさんに手渡した。
もう少し主人が駄目そうなら、ナズさんが下手を打ったら、
いつでも手助けするつもりではいたが、その必要は無かった。
寧ろ2人を見て、私自身も体の火照りを感じていた。
主人は私と綺麗処であるナズさんとで待遇を区別しない、
とは仰ったが、お情けを頂けるとまでは言われていない。
奴隷自ら可愛がって下さい、と言うのも大変失礼な行為だ。
非処女であれば、尚更だ。
私が病気を持っていた場合、主人を毒に掛けるのと等しい。
はしたなさに幻滅しながら2人の行為を見詰めていたが、
そんな私に主人は優しい声を掛けて下さった。
「次はアナの番だ」
その言葉に私は驚いた。
私も可愛がって頂ける。
それはナズさんと私を同列に扱うのだと言われた、
先程の言葉に合致した。
私は最下位の奴隷の待遇では無い、それで十分だった。
上着を脱ぎ、下着を緩めて、前を隠しながら下ろす。
ポイっとやらない事が貞淑だ。
経験があるとは言っても、私にも恥じらいはある。
「私にもお情けを頂けまして、ありがとうございます」
「え?・・・ああ、そうだな」
***
2人と一線を越えた後、微睡んだ。
両脇に2人が寝そべっているこの状態に、
心地良い疲れと幸福感が自分を包み込んだ。
左手にナズ、右手にアナを抱いたまま、そのまま眠りに落ちた。
∽今日の戯言(2021/07/25)
当初、アナンタはアイの略称でこの辺りまで執筆しました。
(元の名前は忘れました)
アイ愛してるよ・・・。
変です。
アナに変えました。
アナの穴が・・・。
変です。
が、この表現を避ければ大丈夫です。それやったら18禁だし。
よかった。
・異世界6日目(夜)
ナズ・アナ1日目、トラッサの市の日、宿泊3日目




