§114 練習
翌日、午前中はアナ以外を全員自由行動にして、
自分は弓の練習をする事にした。
ナズには木の板から矢を作って貰おうと思ったが、
鍛冶では作成する事ができなかった。
矢は木の板だけでは作れないようだ。
そして残念な事にレシピブックにも載っていない。
恐らく不必要なアイテムたちは、ここから抜け落ちているのだろう。
革のベルトも無かった。
全アイテムを作る必要が無いと言うのは良かったが、
こちらの必要としている物が判らないのは困る。
それに矢ならば矢羽根が必要で、確かに木だけでは無理だろう。
どういう事かと言うと、羽根部分のアイテムが必要なのだ。
ナズと迷宮に行って、低階層で出るそれらしいアイテムを集めてみた。
糸や、絹の糸、スパイダーシルクで試したが、
どれも失敗に終わってしまった。
つまり、低階層では手に入らないらしい。
そういえば木の板はラブシュラブからの出土で、それは12層以降だ。
羽根の材料になるアイテムも12層以降と言う事になる。
羽根、羽根、羽根・・・。
そういえば、ロックバードから羽毛が出た。
ミチオ君が羽毛布団を作るために集めていたはずだ。
マジか・・・。
23層以降に行かないと鍛冶品の矢は手に入らない。
そりゃあ廃れる訳だ。
そこらへんで拾った木の枝と性能が変わらず、
例えば33層に出るロックバードの羽根を要求されるのならば、
コストが掛かり過ぎる上に面倒過ぎる。
飛ばしやすさと言うか、
ちゃんとした矢の方が真っすぐ飛ぶのだろうが、
迷宮で魔物と対峙する距離ならば、超ロングレンジなんて必要無い。
狩りで使う分なら矢は手作りでも十分だし、
それこそ、拾った枝を簡単に加工した物で仕留められるならそれで良い。
これでは鍛冶師がわざわざ作るはずも無い。
探索者ギルドで羽毛を10個買った。
3割引で1120ナール。
その後、ナズに頼み再度作成してもらうと、
木の板1つと羽毛5個で、合計20本の矢が作成できた。
綺麗な直線の矢身と、矢羽根はツンツンだ。
残り5つの羽毛で、もう1セット作って貰った。
鍛冶品なのでちゃんとアイテムボックスに入る。
矢筒は不要だが、いちいち取り出す度に詠唱するのも不便だろう。
20本1セットと言うカウントらしく、
アイテムボックスに40本が余裕で入った。
ここまではしっかり作られているのに、
ゲーム開発者が難易度のバランス設定を間違ったかのような状態だ。
それにしても木の板は20枚も用意してしまったので、
残り18枚分を矢に変えるとすると、羽毛は後90個必要となる。
早速追加で買いに・・・いや待て、止めよう。
羽毛90個ならさっきの9倍だ。
ゆうに1万ナールを超える。
矢400本で原価1万ナール以上、これでは売れる訳が無い。
買う奴も頭がおかしい。
並の戦士なら、1日400回攻撃する事なんてざらにあるだろう。
そのコストが1万ナールだと言われたら、迷宮で使われるはずが無い。
弓が使われない最大の理由は、これだ。
念じれば矢が無限に出現するくらいでないと、
弓を迷宮で使えるバランスにならなかったのだろうと思う。
唯一、個人的技能が必要な難度の武器なのだし。
冒険者ギルドの掲示板で、羽毛90個の募集を出した。
1つが半額の80ナール、
90個で7200ナールと手数料の100ナールを支払う。
依頼未達成なら手数料以外は全額返却されるらしい。
3割引よりはるかにお買い得だが、それでもべらぼうに高い。
ひとまず40本を大事に使う事にする。
そこは腐っても鍛冶品の矢なのだ。
再利用して使っても多少摩耗はするだろうが、
簡単には折れないし丈夫だろう。
アナをユーアロナに向かわせ、自分は庭で弓の練習を始めた。
ジャーブは興味津々のようで、見せて下さいと頼まれた。
では、矢の回収が今日のお前の仕事だ。
畑を挟んで、麻と藁で拵えた的までは約12歩の距離。
迷宮で言うならば前列・中列・後列、そのさらに後ろの最後尾の位置だ。
ここから敵の最前列まで、まずは当てる練習だ。
弦は驚くほど簡単に引けるが、コントロールの方は・・・。
流石は素人、40発全部が外れる。
ジャーブに当たったら危ないので、
こちら側にいるように指示をしてある。
1回だけ真横に飛んだので冷や汗が出た。
2巡目の射的で、ようやく2回を当てる事ができた。
異世界で弓道・・・どうしてこんな事に。
それに命中率2/40、先が思いやられる。
戦国時代、武士の多くは刀で戦ったと思われている。
しかし、戦いの本筋は弓なのだ。
戦の達人に対し、剣がお上手ですねと言うのは褒め言葉ではなく、
弓がお上手ですねと言うのが正しい世辞だと聞いた。
そのくらい弓は戦いにおいて重要・・・なのだが、
この世界ではそうでもないらしい。
弓自体の魔法増幅効果も然る事ながら、
知力アップも付ければ持っているだけで魔法の威力が上がる。
無理して当てに行く必要は無い。
しかし折角構えるなら当てたいし、
魔法と同時発射してMPを回復したりもできるだろう。
詠唱中断を狙うためにはやはり当てなければ。
練習を続けているとヴィーも観衆に加わった。
「そこは危ないのでこっちに来なさい」
「こっちはヨコだよ、御主人サマ」
さっきからそこに飛ぶのだ、今の腕前ではそこにいると当たる。
ジャーブが手招きをして呼ぶと、素直にジャーブの後ろに回った。
おい、序列。
どうなってやがる。
その後、ヴィーの前で2射とも外すと
ヴィーが揶揄って来た。
「ご主人サマ、当たらないじゃん!」
丁度ナズも観衆にやって来たので、ヴィーを押さえるように申し付ける。
「ナズ、ちょっとヴィーを後ろから押さえろ」
「ご、ごめんね、ヴィーちゃん」
「あ・・・あ・・・」
「主人に悪口を言う口はこれかっ、これかっ」
ナズに羽交い絞めにされたヴィーの頬っぺたを、
ぐいぐい引っ張ってお仕置きした。
「ふぁぃ・・・」
ヴィーは頬っぺたを摩りながら、黙って見るようになった。
3巡目、何とか当てられるようにはなったが、
5回に1回は暴射する。
これでは実戦で使えない。
5回に1回、うっかり味方に当たったのでは大変だ。
MP吸収をされた味方はMPが減るのだろうか。
減るんだよな・・・吸収だもの。
いやいや、誤射して身内を殺してしまうとか冗談ではない。
何としても命中度を上げたい。
器用さや命中率が上がるスキルカードは無いか、
アレクスムでジャミルに聞こうじゃないか。
「ちょっと用事を思い付いた。すぐ戻る」
「は、はい。行ってらっしゃいませ」
「行ってらっしゃい、ご主人サマ」
「俺は畑の手入れをして置きますね」
弓があるなら、そういったスキルカードが、
システムとして存在しないとおかしい。
商人ギルドの受付で待っていると、すぐにジャミルが飛んできた。
「と言う訳で、命中が上がるカードが欲しくなってな?」
「それならコウモリだ。
防具なら回避力、武器なら命中力。普通は武器に使わないが」
確かに納得だ。
剣や槍で命中力って。
帯刀武器で外すのは、余程の戦闘音痴だろう。
と言う事なら、命中力は弓専用と言う事になる。
それがド・マイナーな武器であるならば、
一般的にコウモリは回避アップのカードなのだ。
「ではコウモリを買いたい」
「それなら好都合だな、今日このすぐ後に出品だ。
どうしても欲しいなら今買うぞ。
あっ、まさか昨日のアレに付けるつもりじゃあ?」
「そうだ、壊れたらそれはその時だ。
飾る弓とは言え、人を招いた時に撃ってみて下さいと言われて、
外したら立場が無いからな」
「そりゃそうだ、飾る位なんだから撃てると思われるよな。
うーん、そうかあ。不人気武器とはいえ10万もする武器に・・・。
じゃあちょっと待ってな、一緒に来るか?」
急いでオークション会場に駆け込む。
コウモリのモンスターカードは、その2回後に出品された。
もう少し話し込んでいたら、今日のチャンスは無かっただろう。
やはり近接戦術系のカードは値が上がっていて、
コールの応酬合戦となっていた。
結局、粘りに粘って8300ナールで落札した。
ジャミルからは殆ど相場の倍だぞ、と何度も忠告を受けた。
勿論、他の者は回避力を求めて買うのだろう。
回避力なら前衛に必須だ。
自分のように、命中力を求めて武器に付ける例は珍しいはずだ。
きっちり手数料500ナールを取られたので、
8800ナール支払う。
「いやあ、助かった。でもまだ準備ができたに過ぎないんだよな」
「ああ、折角の高級品なんだから、成功を祈っとくぜ」
「じゃあ、残りの依頼も宜しく」
「任せて置け」
***
家に帰り、早速ナズにモンスターカードを合成して貰った。
念のために、1回合成の毎に強壮丸を2つ飲ませる。
コウモリとコボルトで命中2倍に、
その後山羊とコボルトで知力2倍に。
後はコボルトが入手でき次第、MP回復と詠唱中断を入れる予定だ。
さらに、空きスロット付きのミサンガ2個に芋虫を合成させた。
これで戦闘メンバーには全員、身代わりのミサンガが行き渡った。
ヴィーには乱暴に扱って千切らないように、強く念を押して置いた。
ついでに、ナズ用に取って置いた鉄の鎧を着せる。
以前迷宮で盗賊に襲われた際に、ドワーフが持っていた鉄の鎧だ。
これには空きスロットがあったので、
ナズのチェインメイルの交換先として取っておいた。
重装備をフルスペックで着込んだナズは、
男なのか女なのか、判別できないぐらい厳つくなった。
それでも平気で庭を動き回る。
「だ、大丈夫か?」
「はい、ちょっと動き難いですが、重さでしたら平気です」
飛んだり跳ねたり、槍を振り回してみせた。
やはり、種族補正・・・。
「そうだ、ヴィーもこれを付けてみてくれ」
同じく盗賊などからせしめた物や、
自分たちのお下がりの装備品をヴィーに着込ませる。
鎧だけは、いつぞやのウサギの魔物の部屋で、
騎士らしい人物が落としてしまった例のプレートメイルだ。
誰か装備できる者が来たらと思って、ずっと倉庫に眠っていた。
「どうだ?」
「うーん、別にフツー・・・です」
「走ってみろ」
「あい」
──ガシャンガシャンガシャンドタドタドタ・・・。
ヴィーは余裕そうに走り回った。
け、剣を振り回して走るのは恐ろしい。
武器は渡すんじゃなかった。
試着は鎧だけでよかったのだ。
・ナジャリ ドワーフ ♀ 16歳 鍛冶師 Lv34
強権の鋼鉄槍(詠唱中断 空き)
鉄の兜(-)鉄の鎧(空き 空き)鉄の籠手(-)
鉄のグリーブ(-)身代わりのミサンガ(身代わり)
・ヴィクトラ 竜人族 ♀ 12歳 竜騎士 Lv25
克服の鋼鉄剣(防御軽減 空き)プレートメイル(空き 空き)
鉄の籠手(-)鉄のグリーブ(-)身代わりのミサンガ(身代わり)
チェインメイルは自分の持っていた空きスロット無しの物と、
ナズの持っていた空きスロットが2つの物が余った。
スロット有りの方は、
今後もう1人加わった者へ払い下げるとして、
1つはそのうち売っぱらおう。
さて、では弓の練習だ。
矢を構えて打ち起こすと、やはりスルスルと弦を引ける。
ここまでは変わっていない。
完全に引き切って狙いを定める。
ここも変化はない。
本当にカードの効果は発動しているのかと、
不安になりながら発射をする。
ビシュっと心地よい音が出ると、
次の瞬間に矢は的の中心に刺さっていた。
「おお、初めて中心に当たった」
これまでは、狙ってはいるもののどういう訳か横に逸れてしまっていた。
何とか真っ直ぐ打てたと思っても、上下に大分ズレていた。
モンスターカードの効果はしっかり出ているのだろうか。
もう一度狙ってみる。
──ビシュ!
「おお、また当たりましたよ!ユウキ様」
「ふーん、すごいじゃん」
狙い通り、的の中心に刺さる。
2倍でこれか。
十分過ぎるだろう。
「では更に離れて狙ってみよう」
距離を取って、もっとロングレンジで狙いを定める。
先ほどの1.5倍の距離だ。
これは攻撃手段を魔法に変更してからの最長距離だ。
こちらの最後列から相手側の最後列に狙いを付けて、
当てられるのかと言う事だ。
──ビシュ!
中心からはやや逸れたものの、
しっかりと的の中には納まった。
もしかして、自分才能あるかも?と錯覚してしまう命中度だ。
その後も全弾を発射し、残り38本全てが的に突き刺さった。
「これなら迷宮でも使えそうだな」
「ご主人様は何でもおできになって、凄いです!」
「弓は難しいと聞きましたが、流石ユウキ様です」
「へーそうなの?」
若干1名失礼な子がいるから、
それならばお前がやってみろと言う事だ。
ヴィーに弓を握らせ、矢を持たせる。
「ふんぐぐぐぐ・・・」
「おいどうした、ちゃんとやれ」
「だ、だって、これカタくて引っぱれないよ」
・・・どういう事だ?
自分には堅そうだと思ったが、スルスルと。
ヴィーは無理だった。竜人族は力持ちのはずでは?
はっ!
力持ちの種族は弓に適性が無い!
種族効果だ。
「ナズ、ちょっと持って引いてみろ」
「はい。こうですか・・・かっ、固いですね」
やはりだ。
ではジャーブはどうだろう。
エミーでもいい。
黙っていて気付かなかったが、さっきからそこにいたようだ。
「エミーちょっとこっちへ来て、引っ張ってみろ」
(こくり。)
エミーは表情を変える事なく、軽々と引っ張ってみせた。
矢を射れる程までは引けていないが、
それはセンスの問題であって弓の固さは問題は無さそうだ。
「どうやら、竜人族とドワーフは弓を扱えないようだな」
「そ、そうなのですね・・・」
ヴィーの目が若干変わった。
さっき外した時に馬鹿にしていた悪ガキの目ではなく、
信望を向けている目だ。
これからずっとその目で主人を見詰めてくれ。
「ヴィー、あまり人を馬鹿にしてはいけない。
無理な事は無理なのだ。それを笑うと自分に返って来るからな」
「は、はい。ゴメンなさい・・・」
「ユウキ様は今後魔法で戦うのだとばかり思っていましたが、
弓に変えられるのですか?」
「いや、これは知力アップの弓だからな。そのうちMP吸収も付ける」
「ええっ!?」
「この弓を持って魔法を使うとダメージが上がり、
この弓で攻撃するとMPが回復するのだ」
「そ、そんなことが・・・」
「更に魔法を使いながら同時に発射できる、素晴らしい」
弓を引きながらサンドボールを詠唱し、
的に向かって同時に発射した。
─ビシュ!・・シュゥゥバババババ!
「凄いです!」
「おおお!こんな事が」
「うわースゲーな」
矢と石礫が同時に麻袋を攻撃し、
的はボロボロになってしまった。
矢は・・・大丈夫そうなのだが、
これがファイヤボールだったりブリーズボールだったとしたら
燃えたり斬れてしまったりするかもしれない。
やはり矢の補給は必要だ。
ともかく矢と魔法同時連射、3連撃ができるようになった。
しかし弓自体のダメージは期待できない。
ダメージは腕力ではなく器用さが評価されるかも知れないが、
命中2倍でやっと当てられる程度なのだ。
自分の筋力や器用さでは、ダメージを当てにはできまい。
詠唱中断とMP吸収だと思って割り切るべきだろう。
しかしまだコボルトのカードが足りなくて、そこまでに至っていない。
戦略面を考えたら先に詠唱中断だろうな。
的は壊してしまったし、これ以上の練習は意味が無いだろう。
後は実践あるのみだ。
試射会は切り上げにして、ジャーブに片付けを手伝うようお願いした。
ナズとエミーは昼食を作りに戻ったようだ。
今日はヴィーもいるし、午後からは初迷宮だ。
いや、前回竜騎士を取るために一度入ったな。
まだそんなに深層階まで潜っていないのだ。
いきなり実戦でも差支えなかろう。
そろそろお昼だ。
アナを迎えに、ユーアロナの領主館横の大木に出る。
待ち合わせに指定した場所で待っていると、アナは直ぐに戻って来た。
∽今日のステータス(2021/09/28)
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 探索者 Lv40
聖天弓(+++++)
竜革の帽子(++)ミスリルジャケット(++)竜革の手袋(++)
竜革のブーツ(+)身代わりのミサンガ(身代)
・ナジャリ ドワーフ ♀ 16歳 鍛冶師 Lv34
強権の鋼鉄槍(詠唱中断 +)
鉄の兜(-)チェインメイル(++)鉄の籠手(-)
鉄のグリーブ(-)
・ヴィクトラ 竜人族 ♀ 12歳 竜騎士 Lv25
皮のサンダル(-)
↓
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 探索者 Lv40
心眼の聖天弓(命中2倍 知力2倍 +++)
竜革の帽子(++)ミスリルジャケット(++)竜革の手袋(++)
竜革のブーツ(+)身代わりのミサンガ(身代)
・ナジャリ ドワーフ ♀ 16歳 鍛冶師 Lv34
強権の鋼鉄槍(詠唱中断 +)
鉄の兜(-)鉄の鎧(++)鉄の籠手(-)
鉄のグリーブ(-)身代わりのミサンガ(身代)
・ヴィクトラ 竜人族 ♀ 12歳 竜騎士 Lv25
克服の鋼鉄剣(防御軽減 +)
プレートメイル(++)鉄の籠手(-)
鉄のグリーブ(-)身代わりのミサンガ(身代)
・繰越金額 (白金貨2枚)
金貨 7枚 銀貨 98枚 銅貨 0枚
アイテム購入 (1600→1120й)
羽毛 × 10 1600
買取依頼 (7300й)
手数料 100
羽毛90個の募集 ×90 7200
仲介料 (8800й)
手数料 500
コウモリ 8300
金貨- 1枚 銀貨-73枚 銅貨+80枚
------------------------
計 金貨 6枚 銀貨 25枚 銅貨 80枚
・異世界28日目(朝)
ナズ・アナ23日目、ジャ17日目、ヴィ10日目、エミ3日目




