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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第七章 旋風
113/394

§112 納豆

台所で夕食を待っていると、

ヴィーが風呂から上がって帰宅の挨拶をした。


ヴィーの口調は、かなりまともになっていたので驚いた。

この子は学習する機会に恵まれなかっただけで、

もしかして、そこそこ頭がいいのではないだろうか。


たった7日やそこらで第2言語を習得・・・いや日常生活の範囲だが、

大学時代に中国語とフランス語で、

四苦八苦していた自分に比べたらかなり素質がある。


日本人が外国語に苦労するのは、

日本語とその他の言語の体系が根本的に違う事に起因する。

この世界の言語とブラヒム語は近しい物があるかも知れない。

文字が判らないから判断しようがないが。


「お待たせしました、ご主人様。こちらが今夜のお食事です」


出されたのは豆腐・・・こちらでは納豆だったかな。

豆腐のステーキだった。


焼いた豆腐にスライムスターチで伸ばされた甘辛の餡が絡んで、

スパイスとハーブがいているピリ辛の豆腐ステーキだ。

これが例の手の込んだ料理か。

確かに豆腐にする手間分、手が掛かる。


「凄いな、2人で作ったのか?」

「納豆は私が作りましたが、

 それを見てエミーちゃんが味付けを提案しました」

(こくり。)


「うん?どうやって・・・」

「ええと、調味料を並べて伝えてくれました」

(こくり。)


な、なるほど。

別に会話が無くとも料理人同士、

調味料だけで味や配分などは判るか。


「では早速食べて見よう、「「「「いただきます」」」」」


豆腐のステーキはそこそこイケていた。

だが日本人である自分からしたら、ここはやはり冷奴ひややっこ

醤油・・・醤油が欲しい。


「ところでエミー、醤・・・いや、魚醤はあるか?」

(こくり。)


「どこで売っているか分かるか?」

(ふるふる。)


あるけれど、売っている場所までは分からないか。


「魚醤を用いた料理は作れるか?」

(こくり。)


「では、入手できた時は頼むぞ」

(こくり。)


これは期待大だ。

魚醤があれば照り焼きやら、みたらしやら、すき焼きやら、色々可能だ。

サラダに掛けてもいいし、おひたしも捗る。


豆腐のステーキは食べ易くあっという間に消えた。

肉とは違い物足りない感はややある。

タンパク質と言う意味でなら栄養的には足りているのだろうが。


この後ナズは酒場に行く。

今日は自分も行って何か注文すれば、腹具合も丁度良いだろう。


「それじゃ、準備ができたらナズだけ先に送ろう」

「あっ、それではエミーちゃん、ヴィーちゃんと片付けをお願いしますね」

(こくり。)


そうだな、ナズが全部やる必要は無い。

エミーに任せられる事は、どんどん任せればいいのだ。


「それでは行こうか」

「いつでも大丈夫です」


ナズと一緒に酒場に行く。

まだ日が落ち掛けたばかりの酒場は、

客もまばらで空席の方が多かった。


女将さんに今日仕入れたボルドレックの話をする。


「という訳で、安全のためナズを送り迎えする事になった」

「あら、そうだったの。しつこい奴らだねェ・・・。

 でもまあ、うちにいる間は安心しとくれ」


「ああ、そこは心配していないが、問題は帰りでな」

「そうだよねえ、ナジャリ1人では危ないねえ」


「どうだろう、ここに移動用の絨毯を置かせてもらっても良いかな?」

「えっ、そりゃあ構わないけど、うちに絨毯なんてもんは置いてないよ」


「こちらからお願いするんだ、次回までに持ってくる」

「そうかい、それならこの奥の倉庫に掛けてくれりゃあ安心だろう」


「そうか、それでは次回ナズに持たせるのでよろしく頼む」

「ああ、まかせとき」


これで安心だ。

ナズにも笑顔が戻ったので、また後で来ると言って退散した。


家に帰ると既に全員が自室に戻った後だった。

水を掛ける音がしたので、エミーは入浴中なのだろう。

では、呼ぶのは出てからで良いか。


自室で休息をとる。

アナも深夜の予定のためにベッドにいた。

寝ている姿を見るのは初めてでは無いだろうか。


いつも自分より早く目が覚めていたし、

寝息を立てて無防備でいるアナの姿は新鮮だ。


意味もなく起こしては可哀想だし、

目覚めの悪さがこの後のパフォーマンスを下げても良くない。

音や動きには敏感だと言っていた。

起こさないように、そろりとドアを閉めて台所へ移動した。


あれだな。

暇だ。


自宅に帰ってもベッドが占領されてしまっていては、する事もない。

落書きするにも、ペンとパピルスは自室だ。


話し相手に他の者を呼んでもいいが、

話し相手に奴隷を呼びつけるって・・・。

何だか友達を金で買ったような感じがして、

それは何となく嫌だった。


もう薄暗くなってしまったので、今から料理も大変だ。

大体これから何か食べに行くと言うのに。


地球にいたのならば、インターネットや動画サイト、

音楽聞き放題にゲームなど、暇はいくらでも潰せた。

こちらの世界の娯楽は何があるのだろうか。


庶民にはそこに費やせるお金が厳しいので、

暇なら寝るだとか家事仕事をするのだろう。

ああ、ギャンブルはあるのか。

では、金持ちは?


・・・。


奴隷で遊んだり、踊らせたり、歌わせたり、戯れたりか。

うーん、やはりろくでもない。

ナズを自分が購入できて本当に良かった。



   ***



頬杖をついてボケーっとしていると、

風呂場の扉が閉じた音がした。

エミーが上がったのだろう。

最後に掃除もするので、彼女の風呂は必然的に一番長くなる。


早速ジャーブの部屋に行き、

ベッドで飛び跳ねて遊んでいるヴィーも併せて、

酒場に行かないかと誘った。


「はい、ぜひ行きたいです!」


いつになくジャーブが乗り気だ。


ジャーブの目当ては恐らくタコスだと思う。

販売されたかどうか気になるのだ。

今日の食事も少し物足りなかったからな。


元々酒場での飲食代くらいは出してやるつもりだったので、

渡した小遣いを取って置いたのだとしても意味は無いが。


「ア、アタイも行っ、きます!」


ヴィーもそうだ。

食べ盛りの子供には、先ほどの豆腐ステーキは全然足りなかっただろう。

パンもいつもの半分になってしまったのだし。


「エミーはどうだ?

 一番奴隷のナズが歌っている酒場に行って、食べたり飲んだりする」


エミーはジャーブとヴィーに助けを求めて視線を移したが、

この2人に察する気配りなどありはしない。

2人は夜食を得られると、手を繋いで小躍りしていた。


・・・仲良しだな。


「エミー、気になるなら来い。興味が無いなら家に居てもいい。

 どうだ、来るか?」

(こく、こくり。)


返事の仕方で何となく緊張感が伝わって来た。

本当によいのかと疑いを掛けられている。

ジャーブとヴィーの喜ぶさまをみて、

多分良いのかなと思ったに違いない。


この2人と同室にした事は、多分良い方向へ向かっている。


「それじゃあ、靴を履いて準備してくれ」


3人とパーティを組み、アナを起こしに行った。

アナも勿論行くそうだ。

そうだよな、みんな食事が足りなかったに違いない。


日本では、夜にお腹が減ったらコンビニがあったが、

こちらの世界で夜食は難しい。

どうするかと言えば酒場頼みになる。

そこに伝手つてがあるのは大変助かるのだった。



   ***



アナをパーティに入れて廊下から酒場付近へ飛んだ。


既に酒場は人が集まり、女将さんもマスターもてんやわんやである。

そしてナズの周りには立ち飲みの客達が囲っており、

足元のフライパンにはおひねりが投げ込まれていた。


「やあ、女将さん。例のアレはメニューに入ったか?」

「あいよ。ああ、あんたかい。

 1口の大きさが35ナールで、大き目は65ナール。

 今日はサービス無しだからね?」


「じゃあ大きめ10個、ジュースを3つとカクテル3つ。1つはナズへ」

「すまないけど用意したら呼ぶから、取りに来とくれ」


そうだろうな、運んでる暇なんて無い。

新メニューとナズの集客効果は凄そうだ。

テーブルは全て残っていたが椅子は撤去されており、

立ち飲みのダンスバーのようだった。


ナズが歌わない時間は客たちの喧騒が店内に響く。

タコスへの品評もちらほら聞こえて来た。

高い、という以外には概ね好評のようだ。


35ナールと言えば、ちょっと良いおかずが入った1食分だ。

それがひと口だから、やはり高いのだろう。

しかし、よく35ナールに収めたものだとも感心した。


「あいよー、タコス10個と酒3つジュース3つの人~?」

「ああ、自分だ」


「そうだ、アンタだったね。今日は悪いけど交換払いだ」


人が多くて会計は料理と直ぐに交換するらしい。

890ナールを銀貨9枚で払って、

10ナールの釣りはナズのおひねりに投げた。


カクテルも1つナズへ回して貰った。


「タコスはナジャリが来る日は5ナール引きなんだ。

 ここぞという日に稼がないとね」


壁に貼ってある張り紙を指さして、

女将さんはニヤっと笑ってみせた。

しょ、商売人の鑑だ・・・。


トレイごと手渡されてアナが受け取り、客が疎らな入口の方へと移動する。

場所を確保するとエミー以外は皆一斉にタコスへ飛び付き、

アナも片手でトレイを支えながらジュースを飲んだ。


再びナズの歌が始まる。


確かに上手だが、歌詞が判らない上に自分は既に何度も聞いている。

というか家では独り占めできるのだから、

今ここで改まって聞く必要は無い。


客の中に、先日ウチで酒盛りした大工の弟子を見掛けた。

そう言えばまだ石窯を作っていなかったと思いだし、

声を掛けて今度頼みたいとお願いしておいた。


材料を手配しておくから後日来てくれと回答を得る。

あの家は自分の物となった訳で、

今後は誰の許しを得る事無く自由に改装できるようになった。


このタコスと引き換えに。


・・・旨い。


自分が作った物より更に、旨さに磨きが掛かっている。

色々なスパイスやら調味料を入れたのだろう。

素人でも簡単にできるレシピ本なんかでは到底及ばない。


よくよく考えてみれば自分が売りに出した所で、

直ぐにでも真似され対抗店舗を出されて終わりだった。

味からレシピを解明できる本当の料理人の前では、

素人料理など太刀打ちできるはずが無かったのだ。


歌が終わり、酒場はまた歓声にどよめく。


ジャーブは初めて聞いたナズの歌声に、拍手を送っていた。

ヴィーは今回の曲は知らなかったようで・・・と言うかタコスに夢中だ。

お前、それ3つ目じゃないのか?


エミーは涙を流していた。


(お姉ちゃん)


確かに聞こえた。

アナと顔を合わせる。

アナにも聞こえたようだ。


この子にはやはり姉が必要だ。

今の歌に、姉を結び付ける何かがあったに違いない。

静かにジュースの入ったコップを両手で握り、

それ以外は話さなかった。


「姉に会いたいか?」


エミーは黙って頷きもせず、首を振る事も無かった。

そしてヴィーが4つ目に手を出しそうだったので制止した。


「こらっ、エミーにも食べさせてやれ」

「は、はっ、はいどうぞ・・・いもねーちゃん」


エミーは両手が埋まり、タコスを食べ始めた。

焼けるような辛さから逃げるように、ジュースと交互に口へ入れる。

空になりそうだったので、ジュースを追加してやった。


お腹の膨れた3人を家に送り、

自分とアナはボルドレック邸の潜入に向かうのだった。



   ***



夜間と言う事もあって、

やはり領主邸の門の前には警備の騎士がいた。

まだ丑三つ時には早い。


寝静まっている頃合いでは無いため、警備の状態は油断できない。

門とは離れた位置の大木を選んでおいて良かった。


ここから下層の様子を見ると、明かりで街全体の様子が窺えた。

下層まで1本に続く大階段は篝火かがりびが焚かれ、

回遊道の折り返しにも明かりが灯されていた。


民家や娼館からも明かりが零れ、

夜の都市ユーアロナはそれなりに賑わっている。

さすがは領都と言った所だろう。


夕方に潜入した時のように、

回遊道の階段部分でコソコソしていたら逆に目立つ。

それなりの警備と言うか、防犯には力が入っていた。


上から街を見詰められる為政者の力なのだろう。

しっかり仕事をしているおかげで、自分たちは苦労しそうだ。


大階段ではなく回遊道からゆっくり降りて行き、

ボルドレック邸を過ぎた所でアナが申告する。


「先ほどの屋敷側面の物陰は大丈夫です」

「では、まずそこに行くぞ」


階段付近には明かりがあったため、

そのもっと手前の薄暗い場所にゲートを開いて移動する。

出る先はアイザックの部屋の真下、屋敷の死角だ。


「2階に4名います。1階には誰もおりません。

 あ、いえ、1人は寝ているようです。

 3階には多分主人と、もう1人。その・・・致しております」


「奴隷は2階が自室か?」

「判りません、全員起きているので寝室とは限らないでしょう」


そうだな、気配は感じられても部屋の構造まで判る訳では無い。

それに2階が息子の部屋ならば、2階以上は家族の部屋だろう。


致している・・・のは奴隷か愛人か。

奥様と言う線は薄そうだ。

成人以上の子供がいるんだから、どちらも高齢だろう。

2階にいるのが奥方と世話奴隷と言う線もある。


夫婦2人と5人の奴隷、あるいは4人と執事が1人?


子供がまだ在宅だとするならば、

この屋敷の規模からして奴隷の数が少なく、

家事を回せないだろう。

子供は成人して全員出て行ったと予想される。


「どうだ?」

「多分、その線で合っていると思います」


「アイザックの部屋は?」

「すぐ隣の部屋に4名集まっていますので、今は危険です」


「ではこの時間は侵入できそうもないな」

「そうですね、あっ、3名が移動しました。1階へ移動するようです」


ほんとに、良く解るな。


家人との用件が済んだので、

自分たちの部屋に帰る奴隷達なのだろう。

夜の挨拶を済ませて就寝と言う事かも知れない。


では今移動中の3人の中、もしくは1階で寝ている者、

或いは3階で主人と戯れている者のどれかに、

エミーの姉がいるのだろう。


2階で過ごすのは家人か執事か子息か。

3階は・・・まあ主人専用なんだろう。


「2階にいるのが奥方や家人だとしたら、

 就寝まで待っていれば1階に移動できるかな?」

「そうですね、その方が良いでしょう」


幸い、この屋敷に夜の警備はいなかった。


平和な街なのだろう。

或いは輩は手中に収めているとか、

あの家は手を出すとヤバイと思われているか。


ここやホドワでやりたい放題らしいから、両方かもしれない。

それで警備が手薄になっている可能性もある。

民衆相手ならすぐ傍に騎士団があるし。


暫くその場で時間を潰した。


夜空はとても星が綺麗で、

遮るネオンが無いためか小さな星までしっかり見えた。

この世界にも星座はあるのだろうか。


星の並びの位置から季節を知る事はこの世界にもあるだろう。

地球では既にギリシャ時代には神話と結び付けられ、

ストーリーが用意されていた。


「アナ、この国には星座はあるのか?」

「星座、とは何でしょう?」


「ええと、星の位置や形を覚えておいて、季節や現在地を知る技術だ」

「そのような事は学んだ事がありません。申し訳ありません」


そう言えば、アナは生まれも奴隷だった。

そこまでの知識は無い可能性がある。


「国によってまちまちなのだが、あの星それぞれに名前があって、

 その星と星を繋いだ集合体にも名前が付いている。

 それらが何時頃見えるかで、季節や方角、位置を知る事ができるのだ」

「そうなのですね、

 ご主人様は私達の知らない事をたくさんご存知なのですね」


「勉強したからな」


幼稚園を含めて大学卒業まで約19年間。

それなりに遊んだが、それなりに勉強もした。

この世界に於いて、19年も勉強をしたと言ったら驚かれるだろう。

ぐうたら人生だと揶揄されてもおかしくは無い。


その知識量のアドバンテージがあるからこそ、

自分はこの世界で何とか生きていける。

頼りになるのは知識と、理解してくれる仲間だ。


アナを抱き寄せて頭を撫でた。

∽今日のステータス(2021/09/27)


 ・繰越金額 (白金貨2枚)

     金貨  8枚 銀貨  7枚 銅貨 30枚


  酒代                (930)

   タコス(大) ×10        650

   カクテル   ×3         150

   ジュース   ×4         120

   おひねり               10


            銀貨- 9枚 銅貨-30枚

  ------------------------

  計  金貨  7枚 銀貨 98枚 銅貨  0枚



 ・異世界27日目(夜)

   ナズ・アナ22日目、ジャーブ16日目、ヴィー9日目、エミ2日目

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― 新着の感想 ―
[一言] >ナズにも笑顔が戻ったので、また後で来ると言って退散した。 「ナゾナゾだよ。 これを飲むと、王選手が三振しちゃう薬ってなーんだ?」 「わかんない」 「太田胃散」 「なんで?」 「王退散」 …
[一言] エミー治してあげたいな 漫画JINにあるような手作りのペニシリンは現実に作るとなると難しいんですよね 用法用量の問題もあって、精製したものの力価もはっきりしないで使うとなるとむしろ危険 思…
[良い点] 好き [気になる点] ナズが歌わない時間は客たちの葛藤 葛藤 ⇒ 雑踏 かな? [一言] 目指せ、書籍化!
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