§111 侵入
家に帰りナズに合成を頼もうと思ったが、
丁度エミーに献立を説明しながら段取りを教えていた。
仕事中に邪魔をしない方が良いだろう。
では風呂だ。
MPが尽きるまで水を貯め、湯は後にした。
今頑張って沸かしても冷めてしまう。
27回ウォーターウォールを出してみたが、
まだやれるかも?といった所だ。
無理をしてもしょうがない、後は食事後にでも追加すればいいのだ。
ふ、風呂用フライパンだな、大きめがいい。
あとは、板をたくさん買って来よう。
買わないで済むように迷宮で一杯集めたいが、
まだどの階層で出るかは知らない。
ストックの木の板はすべて使ってしまったし、
弓の練習用として的になりそうな物と板を買いに出掛ける。
麻袋に砂か藁を入れて、塗料で丸と中心を書けばいいだろう。
しかし白銀製のタクトが14万だったのに、
その上を行く聖銀製品が10万で買えたのは驚きだった。
本来の値段はもっと上なのだろうが、
作っても売れない駄目武具と言うのが存在するようだ。
鍛冶師の修練で仕方なく、と言う可能性もあるが、
弓そのものをこれまで全く見た事がなかったので、
恐らく弓は知る人ぞ知る武器なのだろう。
板1つでいくつできるか判らなかったため、20枚買ってみた。
もっと大量に必要ならば掲示板で板を買い漁ればいい。
矢ができたならば、矢筒も必要だ。
ぶ・・・武器?いやアクセサリだろう。
身代わりの矢筒?
大ダメージを受けたらぶっ壊れて、矢がばら撒かれたら厄介すぎるな。
それで迷宮でも役に立たないのか・・・。
雑貨屋で麻袋と藁束が売っていたので購入し、
店の外で袋に詰め込んだ。
ギュウギュウに詰め込むと、藁とは言え結構な重量だ。
そして、口の広いフライパン・・・いや中華鍋を購入した。
もうじき昼食だったので、用件だけ済ませて家に帰る。
麻袋で作った的は馬留小屋に置いた。
畑の向こう側から射る練習をすればいい。
MPも少し回復したので、追加で7枚の水壁を出して置いた。
補給なしで1/3埋めた計算だ。
だいぶ楽になったと思う。
キッチンに戻ると、全員既に着席していた。
水を出すのは食事後で良かったかもしれない。
「待たせて悪かったな」
「いえ、滅相もございません」
「ユウキ様だけ忙しそうに動いていたのです。俺たちが待つのは当然です」
(こくり。)
「ご主人様、例の件は」
「ああ、問題ない。夜は宜しく頼む、今日は先に寝ておけ」
「エミーに洗濯を教えるつもりですので、そういう訳にも──」
「じゃあ、この後風呂だ」
「は、はい。かしこまりました」
ナズとジャーブはお互いに顔を見詰め合って、
アナとのやり取りを訝し気に聞いていた。
エミーは自分だけをじっと見詰め、何を考えているか判らなかった。
早く食事にしろって事だな。
「で、では「「「いただきます」」」」
「今日は2人でご用意させて頂きました。
スープはエミーちゃんが作ったのですよ」
「ほう、これか」
緑の・・・トマトスープにチリが若干入り、
小さく刻んだ野菜が煮込まれていて、このままパスタが欲しくなる味だ。
肉は小さく切り刻まれているが、ミンチではなくキューブ状だった。
ひよこ豆も入っている。
惜しい、ひき肉だったならば完全にトマトのミートスープだった。
ひき肉食べようよ。
一度ハンバーグを用意して食べさせないと、今後も多分出て来ないだろう。
下賤の食べ物だったのだっけ?
「今日は迷宮に行かれないと聞きましたので、
少し手の掛かるお料理を作ってみました。
夕食にお出ししますのでお楽しみにして下さい」
(こくり。)
勿体ぶってナズが意地悪そうに笑う。
エミーも一緒に作ったのか。
では乗せられておこう。
パンとトマトスープはよく合い、あっと言う間に昼食は無くなった。
もう1つ欲しくなる感じではあったが、
残念な事に毎食人数分しか買っていない。
多分ヴィーならお代わりを要求する。
いなくて良か・・・(げふんげふん)。
そういう事を言っては駄目だな。
食事を済ませて、アナを呼んで風呂を入れる準備をする。
「ではアナ、迷宮へ」
「かしこまりました」
アナが準備を整える前に、食事中に回復した分のMPで追加の湯を足した。
昼過ぎには入ると言う予定になったので、気にせず最初から湯を作る。
お湯・ウォールは4回分作成できた。魔法8回分だ。
合計38回分の水が溜まった事になる。
110必要だったから・・・ええい計算は面倒だ。
前回と同じ湯量まで貯めればいい!
迷宮では30匹を倒して戻り、
4往復で湯が丁度いい高さまで汲み上がった。
まだ温かったのでもう一度迷宮に行き、
風呂の準備は1時間も掛からなくなっていた。
「じゃあナズを呼んで来てくれ。一緒に入ろう」
「かしこまりました」
***
その後、お風呂場でアワアワを楽しんだ後、
ジャーブがお風呂に入っている間に自室で2人と楽しんだ。
「それではエミーに洗濯の手順を教えて参ります」
「ああ、エミーの風呂はヴィーの後にさせてくれ。
終わったら一緒に寝るぞ、ナズは夕飯前には起こしてくれ」
「「かしこまりました」」
ポーチにLEDライトを用意し、
オーバーホエルミングを駆使する事を考えて、
MPに振ってジョブ構成を整える。
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 探索者 Lv40
設定:探索者(40)遊び人:火魔法/MP中(16)
魔法使い(22)英雄(31)僧侶(6)
・BP138
鑑定 1pt 5thジョブ 15pt
キャラクター再設定 1pt 詠唱省略 3pt
パーティー項目解除 1pt ワープ 1pt
パーティライゼーション 1pt 精神 26pt
MP回復速度×20 63pt 敏捷 26pt
いつぞやの盗賊化計画のようだ。
あれは準備も大変だったし、その後も苦労した。
面倒事はもう沢山なので、手短に済んで欲しい。
「それではお先に失礼します、ナズさん宜しくお願い致します」
「はい、ゆっくり休んで下さいね」
アナがナズに先に寝る事を伝えたようだ。
自分もそのまま納屋から自室に向かった。
アナは既にベッドで座っていたが、
自分が横になるまでは待ってくれたようだ。
主従の関係だからそうするべきだと言う事は理解しているつもりだが、
自分のために気遣ってくれているアナやナズに、とても嬉しく感じた。
***
「ご主人様、ご主人様・・・そろそろ夕方です」
「うん・・・」
目をぼんやり開けるが、気持ちがまだ寝たいと申告する。
寝返りを打ってみたが、あるべき所にいるべき者がいなかった。
頭を撫でられて、我に返る。
急激な焦りが生まれて、
安らぎから一転鼓動が早くなり急激に締め付けられる。
ガバっと起き上がり、辺りの様子を窺う。
仮眠のために格子を落とした窓からは、
光がまだ零れて見えたので安堵した。
寝過ごしたかと思ってしまった。
これは寝坊して遅刻したときの衝動に近い。
まさか、こちらの世界に来てまで寝坊感を体験するとは思わなかった。
スローライフ過ぎてボケているせいもあるかもしれない。
アナはベッドに腰かけ、自分が起きるのを待っていたようだ。
「アナが起きたのなら、起こしてくれても良かったんだが」
「私もつい先ほど起きましたので」
「ではまだ日が残るうちに外観を確認しよう」
「かしこまりました」
アナを引き連れて領主館外にあった大木にワープする。
夜になって警備がこの辺りをウロウロしていても困る。
もう少し目立たない警備がなさそうな場所を見付け、
そこにワープし直した。
「何かあったらここを待ち合わせ場所にしよう」
「はい」
「ここから見える、あの家がボルドレックの屋敷らしい」
「では庭の様子を窺って参ります」
アナは小走りで階段を駆け下り、
麓までくねった道を降りて行く。
そして屋敷の門を通り過ぎた所で、アナはこちらに向けて手を振った。
ええと、これはそこに来いと言う事なのか、
屋敷の庭に入れと言う事なのか。
事前に打ち合わせしておけば良かった。
サインの意図が解らなかったので、急いで階段を降りアナの下へと向かった。
「今の所、庭にも庭を注目する人もいないようです。
それから、この奥にある階段の側面ならば死角となりますので、
そこから移動魔法で庭に侵入できるかと思います」
やはり先ほどのサインは庭に入っても良いと言う合図だったか。
くねった道の折り返しの部分は段差の緩い階段になっており、
その横にある家屋によって壁となり、どこからも見通せない。
通行人さえ気を付ければここも安全と言える。
と言うか、この最上層部に用がある人物ならそれなりの金持ちなのだし、
そういう者ならば冒険者に送って貰うので、
実質ここは人が通らないとも言える。
夜間の警備がどうなるかは未知数だが、
特に夕方に限っては安パイだろう。
階段のこちらも向こうも人がいないことを確認して、
先程見えた庭に向かってゲートを出す。
ここまでは冒険者なら誰でもできるだろう。
つまり賊が侵入してくる範疇内であり、
家の中に入る方はより難しくなっているはずだ。
「こちらです」
アナに手招きされて屋敷の裏側に回る。
裏側にも庭があったはずだ。
そこまでは出ず、表側からは見えなくて裏側からも見つからない、
しかもユーアロナ上層からも目が届きそうもない、
屋敷の側面の死角へと導かれた。
本当に凄いな。
アナは先程上層から見た時既に、この場所に目を点けていた訳だ。
ここからどう侵入するかが問題だ。
誰にも気付かれずに侵入し、
内部で人があまり来ない場所を見付けなければならない。
金持ちならば主人は家の中から命令するだけで、
実際に動くものは小間使いだ。
本当に必要な時以外は家を空けないだろう。
そして主人が家を空けるとしても、
使用人達まで一緒に出てくるはずがない。
この規模の屋敷ならば、常に誰かがいる状態なのだ。
おいそれと侵入を許す訳が無い。
「ご主人様、あの2階の窓の横に移動ゲートをお作りになれますか?」
この屋敷は3階建てであり、指定された窓は屋敷の側面。
外の通路は元より、ユーアロナの街の下層からも見にくい位置にある。
そして上の階層の屋根が少し張り出しているため、
ゲートを出しても目立たない。
侵入ポイントにしてはでき過ぎているが、
実際の所は遮蔽セメントで固められているはずだ。
あの窓から侵入される事は想定外なのだろう。
ただ、空中の壁に出した事は無い。
と言うか出せるのか?
・・・まあやってみるしかあるまい。
ワープと念じて、2階の窓の横を指定する。
──ブォン。
一応、開きはした。
ただ、こちらの面と反対の面が異次元的に繋がっているので、
1歩踏み出せば奈落・・・ではなく床が無い。
アナから手を取って欲しいと頼まれ、
ゲートの手前でアナの手をしっかりと握って、ぐっと堪えた。
アナは体を半分出して足場のない場所で体を捻ると、
窓枠にしがみついて戸を開けた。
MPがもりもり減っていくのが判る。
体を半分ずつ出して作業、これまで経験した事がなかったが、
こちらとあちらを常に移動しているような感じだ。
目と鼻の距離なので大した消費量ではないと思うが、
スリップダメージ的にMPが減って精神が削られてゆく。
アナが足場を確保したとしても、こちらのMPが尽きる。
いや、多分もう枯渇寸前だ。
慌ててアイテムボックスから強壮丸を取り出し、5粒を含んだ。
吐き気を催していたが、急激に回復した。
それでもなおMPが減り続けて行くのが判る。
個数を数えている場合ではなく、
手探りでギュッと掴んで全てを口に入れた。
アナが窓枠への侵入に成功した。
一先ずは安心だ、MP的な意味で。
アナは窓を大きく開くと、手招きで呼んだ。
そこから見える壁に向かって、ワープして来いと言う事だ。
まったく主人遣いが荒い。
どうしてこうなった。
ワープして窓のあった部屋に侵入すると、アナはすぐに窓を閉じた。
見えた壁の真下には胸位の高さの棚があって、
足を踏み外しそうになったが、アナはとっさに抱えて受け止めてくれた。
「も、もうちょっと合図をしてくれても良かったのでは」
「す、すみませんでした。気を付けます」
小声で話し合う。
「どうだ、様子は」
「はい、一番上の階に座っている人物の気配と、2人が立っております。
この階には誰もおらず、下には・・・おそらく厨房だと思います。
2人が同じ場所を行ったり来たりしております」
この部屋は見る限りは書斎のようだった。
3階に主人らしき人物がいるとするならば、
ここは秘書か息子か、メイド長かもしれないし、そのあたりは判らない。
この時間帯は5人の家人がいる事が分かった。
アナが棚の引き出しを開けて確認してゆく。
手際が良すぎると言うか、自分は文字が読めないから、
書類を見付けた所で判断ができないのだから仕方無い。
気配も読めないので、部屋から出る訳にも行かない。
「ご主人様、この部屋はご子息の部屋のようです。
文面から長期に外に出られている御様子です」
「うん?」
「名前はアイザック、戦士としてどこかで探索者をしているようです。
騎士になる事が目標らしく、有力者からの推薦状もあります」
コネか。
騎士になった暁にはそれなりのポジションを用意しますって事だ。
しかし、騎士自体にはコネでは就けない。
騎士所属の戦士、或いは探索者なのだろう。
「ドラッドを殺したドワーフの行方を追っているが、
いまだ存在は掴めず・・・これはナズさんの事ですね。
やはり、今でもナズさんを探しているようです。
どこかで話をつけないと危険な気がします」
ボルドレックの子息は2人以上か。
1人が騎士になる為に修行を積んでいるアイザック、
もう1人がナズが殺してしまったドラッド。
まだいるかどうかは判らない。
腹違いや下位に見られた兄弟がいたら、話に上がらない可能性もある。
と言う事は、この部屋は滅多に使われる事が無いのではないだろうか?
掃除位はするだろうが、それを避ければ安全な部屋とも言える。
「ご主人様、この部屋の主は長い間この屋敷には帰っていないようです。
ここを起点と致します。後は深夜になりましたら動きます」
アナも同じ事を考えたようだ。
深夜になって、この下の壁に出てみれば判るだろう。
「よし解かった、では一旦引き上げよう。手紙を元に戻せ」
「かしこまりました」
ゲートを出しても安全なのは、皮肉にも出入り口の扉だ。
次に侵入する際にもこの扉を覚えておく必要がある。
後はお洒落な机や棚、ベッド、置物等で部屋は一杯だった。
壷とかの上に出て割らなくて本当に良かったと思う。
「ふぅぅぅぅぅーっ」
「お疲れ様でした、ご主人様」
家に帰り、安堵のため息を吐いた。
「ああ、アナもご苦労さん。アナがいないと成功しない計画だった」
「そう仰って頂けますのは光栄です」
「お帰りなさいませ、ご主人様。お飲み物をお持ちしました」
「ああ、ナズもありがとう」
「あっ、私の分まで。すみませんナズさん」
ナズは帰りを待っていたらしく、
タプスを絞ったジュースを用意してくれた。
ただ絞っただけではなく調理されたジュースで、
ペッパーやハーブが入っていてスッキリ爽やかな味わいだった。
「いえ、この位は致しませんと・・・。私もエミーちゃんが心配です」
「何だ、聞いていたのか」
「私が、先に起きた際に伝えました。
ナズさんにも何か役に立つ事があればと思いまして」
そうだな。
2人とも一番奴隷なのだから、
戦術面以外の秘密は作ってもしょうがない。
生活に関しての隠し事は無しだ。
「済まなかった、ナズ。秘密にしたかった訳では無いからな。
危険だし時間も無かったから、
実務ができるアナだけに伝える形になってしまった」
「いいえ、大丈夫です」
「それよりナズ。
ボルドレック家は以前お前が殺してしまった男の家だったようだ。
そして未だにお前は目を付けられているらしい、気を付けろよ」
「ええっ、そんな・・・」
「取り敢えず酒場にいる限りは大丈夫だと思うが、問題は行き帰りだ。
今日から送り迎えする事にする。
ナズの歌を聞きに来る者が増えると、それだけ危険が増すからな」
「かしこまりました、ありがとうございます」
「ヴィーとエミーは?」
「ヴィーちゃんは帰ってすぐお風呂に入れさせました。
エミーちゃんには一緒に洗濯をして、その後に入るように言いました」
洗濯のために一緒に入る位ならいいか。
お湯の方が汚れは落ちるし、脱いだらすぐ洗濯の方が都合が良い。
「じゃあ全員の支度が終わったら夕食で、ナズはすぐ酒場かな?」
「そうですね、宜しくお願いします」
「ああ、帰りも迎えに行くから待ってろよ」
「はい、そちらもお願い致します」
その後の夕食時に全員にナズの歌を聞きに行くかと聞いたら、
今回はジャーブも行くと言い出したので、後から声を掛ける事にした。
解っているぞ。
お前の目当ては、酒場のメニューにタコスが出たかどうかだ。
小遣いは多分使っていないに違いない。
∽今日のステータス(2021/09/26)
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 探索者 Lv40
設定:探索者(40)遊び人:火魔法/MP中(16)
魔法使い(22)英雄(31)盗賊(24)
・BP138(余り2pt)
鑑定 1pt 回復速度上昇×5 15pt
キャラクター再設定 1pt 5thジョブ 15pt
獲得経験値上昇×20 63pt 詠唱省略 3pt
必要経験値減少/10 31pt ワープ 1pt
結晶化促進×8 7pt
↓
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 探索者 Lv40
設定:探索者(40)遊び人:火魔法/MP中(16)
魔法使い(22)英雄(31)僧侶(6)
・BP138
鑑定 1pt 5thジョブ 15pt
キャラクター再設定 1pt 詠唱省略 3pt
パーティ項目解放 1pt ワープ 1pt
パーティライゼーション 1pt 精神 26pt
回復速度上昇×20 63pt 敏捷 26pt
・繰越金額 (白金貨2枚)
金貨 8枚 銀貨 40枚 銅貨 8枚
雑貨購入 (1318й)
フライパン大(中華鍋?) 700
ナイフとスプーン(鉄製) 500
皿 50
麻袋 50
藁束 ×3 18
アイテム購入 (2800→1960й)
木の板 ×20 2800
銀貨-33枚 銅貨+22枚
------------------------
計 金貨 8枚 銀貨 7枚 銅貨 30枚
・異世界27日目(夕方)
ナズ・アナ22日目、ジャーブ16日目、ヴィー9日目、エミ2日目




