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88:対魔人戦

 ーーーーーー《ピロリン♪》ーーーーーー


 頭の中に軽快な音が鳴り響いた。

 いつもお馴染みの、エシュタルモンスター図鑑からの通知だ。

 

 ーーーーーー《*魔人リスト》が更新されま……ーーーーーー


 うるさい、今はそれどころじゃない。

 

「どわあ!?」


 咄嗟にしゃがむと、ファントムの大鎌が俺の頭上スレスレをかすめた。

 虚しいかな髪の毛の何本かが綿毛のように宙を舞う。

 やめろ禿げる、じゃなくてちょっと待て、落ち着け。


「ウェムラ・アキュラ……!!」

「ダメだ、話にならん!」


 全身から真っ黒なオーラを漂わせ、尋常ならざる雰囲気で俺を殺しにかかる鉄仮面の男ファントム。

 どこで恨みを買ったのか知らないが話の通じる相手では無さそうだ。


「魔人……やはりストレイン以外にも存在したか……!」

「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!」


 ファントムが振るう大鎌は何かしらの細工がしてあるのか、奴が鎌を振るうたびに強力な衝撃波が発生し、こちらに向かって襲いかかってくる。

 魔物のブレス波にも似たソレは、もちろん喰らえばただでは済まないだろう。


(あれは……魔物の素材で作られているのか!?)


 相手の息つく暇も無い猛攻をなんとか避けながら、俺は敵の獲物であるその鎌を観察し分析した。

 アレはどうやら魔物の素材を元に作られた物のようだ。

 しかし過去に俺があんな武器を作った覚えは無い。

 となれば、

 

(コルダ王国め……なかなか良い職人を育ててるようだな)


 あれから二年、世界のものづくりの水準も少しは上がっているらしい。

 各国の職人が競って俺の作る物を真似ようとしていたことは聞いていたが、まさかここまで形にできているとは。大したものだ。

 

(ある程度はモノにできているようで……だが、まあ)


 とはいえ未だに世界では、俺の昔の作品が”魔宝具”などと持て囃されている現状である。

 やはり魔物の素材を使った加工技術は至難の技らしい。


(この程度が関の山か)


 あの衝撃波もそこまで魔物ランクの高い魔物を使っているわけではないみたいだしな。

 だがそれにしたってあの鎌の作りはよく出来ている。魔法具と呼ばれたって遜色ない代物に見えるが……。


「ぬおおっ……!?」


 俺はすんでの所でファントムの鎌の刃を避けることに成功する。

 そうだ、しょうもない考え事をしている暇は無い。

 相手は魔人。

 鎌の出来や衝撃波など関係なく、その暴力的な膂力りょりょくだけで十二分に驚異なのは間違いないのだから。


「殺ス……! ウェムラ・アキュラ、今スグ殺シテヤル!」

「ぐっ!」


 ファントムの大振りを、なんとか後ろに大きく飛んで回避した。

 これ以上好きにやらせるか。

 距離を開けた俺はすぐに念動の魔眼を発動し、奴の動きを止めるべく意識を集中させた。

 だが、


(速い……!)


 狙いを定めて放ったサイコキネシスは、ファントムの常人離れした機動に躱されてしまった。

 

「……死ネ……!!」

「うっ……!?」


 念動力を外した隙につけ込まれ、ファントムに接近を許してしまった。

 ここまで懐へ潜り込まれてしまったら幻惑の魔眼による幻影も間に合わない。


(なんて殺意だ……っ!)


 目の前に肉薄するファントムからの強烈な殺気。なんという圧だ。

 俺は不覚にも、自身に向けられたあまりの憎悪の感情にたじろいでしまった。

 この隙を見逃すほど甘い敵では無い。

 ファントムはそのおぞましい鎌を大きく振り上げた。

 

(あ、くっ……間に合えっ!!)


 もう躱せない。

 俺がとるべき選択肢は一つしかない。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」


 耳に轟くファントムの咆哮。

 奴の振るった一撃が、無防備な俺の肉体を引き裂こうと迫り来る。

 そして──、

 

「甘いわ!」


 俺は叫んだ。


「……!?!?」

 

 今にも俺を切り裂こうとしていた鎌が、およそありえない軌道を描き見当違いの方向に振り抜かれた。

 ファントムには何が起きたか理解できなかっただろう。

 あらぬ方向に飛んでいった衝撃波が部屋の壁に直撃し、凄まじい破壊音を上げるとガラガラと崩れ落ちる。

 

「……キサマ、何ヲ」


 事態を飲みこむのに一瞬だけ戸惑う様子を見せるファントム。

 奴は直ちに気を取り直すと、すぐさま俺に向かってもう一度、二度と、続けて鎌による攻撃を繰り返した。

 大鎌がうなりを上げて振り抜かれ、部屋内には連続した破壊音が鳴り響く。

 だが、その恐ろしく鋭利な刃が俺の体に届くことはなかった。


「……グッ……クソ……」


 ファントムが後方に飛び距離を大きく離した。

 理性を失っているはずなのに中々冷静だ。俺の発する理解不能の防御を警戒してのことだろう。

 

 ふう。

 俺はこっそり安堵のため息を漏らした。

 あっぶな。なんとか間に合った。


「……偏歪の魔眼ディストーションアイ


 鮮やかな黄緑色、いわゆる若草色の瞳が俺の右眼で輝いている。


 歪みを操作・展開する眼、『偏歪の魔眼』。

 視界内の任意の場所に焦点を合わせると、焦点を合わせた空間に”歪み”という現象を発生させることができる。

 その歪みに触れる何物も、その直前でベクトルは歪曲わいきょくし、あらぬ方向へ曲げることが可能なのだ。

 

 ストレインいわく『倒すのに少してこずった』とのことで、魔物ランク★8の中でも特に異質な能力を持っていたこの★8ゾル・ゾナの歪曲障壁能力。

 今の俺はその能力のほんの一部分的にしか扱えていないわけだが、その有用さは見ての通り。

 防御に使えば凄まじい効力を発揮する中々悪くない魔眼だ。


「やれやれ、やっと止まったか」


 まったく、くたびれる。

 ターレット式の魔眼じゃなければ何回死んでることやら。

 ともあれ、魔人の圧倒的な暴力の手を止めることには成功した。


(いけるぞ……魔力はまだまだある……)


 昔だったら今頃とっくに魔力切れになっているだろう。修行した甲斐があった。

 そして邪眼。 

 俺が作り続けてきたこの作品は、相手が魔人であろうと通用する。

 俺は、戦える。


「残念だったな。俺はそう簡単にやられるつもりはないぞ」

「ウェムラ・アキュラアァァ……!」

「キレすぎだろ……。おい死神野郎、お前いったい何者だ? なぜ、魔人になれた? なぜワイルの下で動いている?」

「黙レ……! 貴様ダケは必ズ殺ス!!」


 俺の質問攻めを相変わらずの『殺す』一点張り。

 理性を無くした奴を突き動かす唯一の原動力は、どうやら俺への殺意のみらしい。

 本当は《*魔人リスト》の中身を見て、おそらく更新された内容であろう目の前のファントムの情報を一度確認したいところだが、さすがに戦闘中に頭の奥底へ意識を向けて操作するのは不可能だ。

 とにかく今はこの状況を自力でどうにかする。

 

「何も喋らないのならそれでもいい。お前にはこのまま伝説級魔物五体を同時に相手してもらうだけだ。いくぞ」


 俺の右眼が若草色から瞬時に灰茶色の凶震の魔眼に変わる。

 さっきは雑な使い方をしてしまったが、今度はもう少し丁寧に。

 この魔眼は本来こういう使い方もできるはずだ。


「おら、よっ!」


 俺は手のひらを振りかぶり、目の前の何もない空間を叩いた。

 音はない。

 だが比喩ではなく、俺の手のひらは本当に空気を捉えて揺さぶりを与えていた。


「喰らえ!」


 空気を無理矢理に振動させ、そこから生じた衝撃波を空気中に伝播させる。

 いわゆる空振という現象だ。

 ビリビリと、空気が震えて悲鳴を上げる。

 

「……ガッ……!?」


 突如、ファントムが鉄仮面の下で息を吐いた。

 空気を伝う凄まじい振動波がファントムの体を揺さぶり叩きつけたのだ。

 いかな魔人の肉体でも、内から響く強烈な振動波は効果ありと見る。

 

 いいぞ、このまま攻撃を続けて状況を有利に運んでやる。

 と、俺も思っていたのだが……、


「かはっ!?」


 俺は体の芯を強く揺すぶられ、思わず口から血を吐き出した。

 空気振動の指向性を操作しきれていない代償か、空振の範囲に自身も入ってしまっていたのだ。


(……ぐふっ、げほっ、クソ……。な、なんて扱いの難しい能力なんだ)


 今回、自分自身で実戦投入して分かったのは、凶震の魔眼は強大な力を秘めているが制御がすこぶる難しいということだ。付け焼き刃ではとても扱えない代物ということを理解した。

 この戦いが終わったら封印しようかな、コレ……。

 

 能力の強さでゴリ押しするのもいいが、やっぱり使い慣れない能力は適当に使うもんじゃないなと改めて思った俺だった。

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