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84:申し出

工房の評判を聞きつけ王国から武器製作のコンタクトを受けたアキュラ達は、現状の独裁政権に不満を持った王国内部の者たちや兵士たちと結託。事前の根回しを済ませ極秘裏にクーデターを行った末、見事に現王を玉座から引きずり下ろすことに成功したのだった。

 挿絵(By みてみん)

 

ーーーーーーーー


「同盟?」


 ファルナシア大陸、リュガーナ王国の城内。

 王室執務長イースの言葉を聞いた俺は、おもわずもう一度聞き返した。


「よその大陸から同盟の申し出があったのか?」

「そうだ。すぐにでも会いたいとのことらしい」

「ちなみに相手は?」

「ファルナシア大陸の北、ゴバル大陸だな」


 眼鏡の下でイースの切れ長の目が鋭く動く。

 リュガーナ国に関するあらゆる情報は彼が網羅している。

 今まで無能の王を影から支えていたこの男は、やはり有能だ。


「コルダ王国とゼラ帝国の戦争の余波が近頃ゴバル大陸にも及んできている。そのアオリを受けてこのままでは不味いと思い立ち、我らに申し出たんだろう」

「……ふーむ」

「どうするアキュラ氏。私はそこまで悪くない話と見るが」

「……そうだな、わかった。会談の約束を取り付けてくれ」


 ゴバル大陸。

 この国の兵力が整ったらいずれ手を組もうと考えていた七大陸の一つ。

 ちと早いが、同盟の申し出はこちらとしても願ったりだ。

 しかし妙にタイミングがいいな……。


「それと今朝、流れの商人一団がここアガートの港町に入国しているな」

「商人一団?」

「そうか。アキュラ氏は初耳か。年に数回、他国の流行品や珍しい品物を売りに大勢の商人たちが諸国を行商することがある。我が国でも毎年この時期になると彼らのキャラバンを目にする」

「ほー」


 何百もの商人が集団で世界中に商品を売り歩いてんのか。

 この世界のセールスは規模がデカイ。


「とりあえずの報告は以上だ」

「わかった。会談や商人の対応は追って指示するよ。ご苦労さん」


 報告を終えたイースに労いの言葉をかけると、俺は窓の外に広がる華々しいアガートの街並みを見下ろした。今日も街は賑わっている。

 俺はふと、少し前までのことを思い返した。



 リュガーナ王国は腐っていた。

 事前に情報は得ていたが、ウォーガンの工房で生活を始めた俺はすぐに納得した。

 資源が豊富な土地のためか傍目にはわからないが、自尊心を満たし私腹を肥やすことしか能の無い王が統治する国。

 国民にも重い税を課し、世界状勢のことなど全く気にせず我儘の限りを尽くしていたのだ。


 民の不満は募るばかり。

 さらに大国同士の戦争の影響で、民衆の不安は国全体に伝播していた。


 ウォーガンの工房が国王に目を付けられたのをきっかけに、俺は当初の予定通り一計を講じた。

 王国内には現状を嘆き真に国を想う者達がたくさんいたのだ。

 そして俺は王室執務長のイース、その幼馴染であるリュガーナ国軍の軍兵長アシュレイと共謀し、好き放題にやっていた無能な王様を懲らしめることに成功したのである。



「あなたには感謝している、アキュラ氏。あの肥えたハゲジジイを懲らしめたおかげで、この国を、我が故郷を自らの手で守ることができる」

「はは……イースさん、あんたもう最初の丁寧な口調はやめたのか?」

「国を救うにはすでに必要ない。まだまだやらなきゃいけないことは山ほどあるからな」


 あれから連日働き続けだと言うのに、王室執務長イースの顔は活き活きとしていた。

 希望に満ちた晴れやかな表情だ。

 

 もう大丈夫。

 祖国を想う彼のような者達がこれからはリュガーナ国を主導していく。

 これでこの国は立ち直り、新たな強い国へと生まれ変わるだろう。

 俺の目的通り、コルダ王国と戦える為の力へ。


 俺はひそかにほくそ笑むと、ある用件を思い出しイースに尋ねた。


「そういえば、先日稼働した”ファクトリー”の件で話があるんだが」

「ファクトリー? ああ、彼だったらもうすぐ……」


 手帳の中を確認しながらイースがそう言いかけた時、


「旦那ァ!」


 バン、と勢いよく部屋の扉が音を立てた。

 息を荒げて乱入してきたのは、ヒゲ面の厳つい顔をした男。

 親方ことウォーガン・マクスウェルだ。


「おお、ウォーガン。ちょうどよかった」

「ちょうどいいじゃねえ! おいおい旦那よお、冗談キツイぞ! 300ヶの武器の受注、たしかに作るとは言ったが納期一週間ってのは初耳なんだが!?」

「すまん、だがこの国には一刻も早く軍力が必要なんだよ。ウォーガン頼むよ」


 量産型魔宝具を生産するための施設”ファクトリー”の工場長として、親方には頑張ってもらわないとな。

 わりと軽い調子で手を合わせて拝む俺の姿を見て、ウォーガンはげんなりした様子だった。

 

「新しく建設した工場をフル稼働させれば十分間に合うはずだ」

「確かに人手は揃ってるが、まだまだ使いものにはならねえ。街の若いもん集めただけでもっと指導が必要だ。時間がかかる。旦那だって分かってるはずだろ」

「な~に若いんだ。3、4日ほどブッ通しで叩き込みゃすぐに覚えるだろ」

「殺す気かアンタ!?」


 ウォーガンのこの訴えよう……どうやら本気で無茶な注文みたいだ。

 もしかして俺のものづくりの感覚がズレすぎ? そうらしいな。

 ん~、一日あれば100や200くらい作れるかと思っていたんだが。

 いかんな。勘定が狂っている。


「鬼~。きちく~」


 ウォーガンの足元を見ると、娘のパティが楽しそうにヤジを飛ばしていた。

 耳が痛い。


「悪かったよ。俺が悪かった。だからそう言わんでくれ、パティ」

「あはは。だっておにいさん、いつも親方が『とんでもねえ鬼と手を組んじまった』って言うからあ」

「こらぁパティ! てめえ!」


 恥ずかしそうにウォーガンが怒鳴りつけるが、パティは愉快にケラケラと笑い続けている。

 二人のそんな姿を眺めながら、しかし俺は深いタメ息をついた。


 しまったな、反省せねばなるまい。

 俺は自分でも気づかぬうちに焦っていたようだ。

 ブラック企業の社長になりたいわけじゃないのだ俺は。


 バツが悪くなった俺は自分の頭を乱暴に掻くと、


「ウォーガンすまん、さっきのは忘れてくれ。ファクトリーの工場長はあんただ。納期は任せる。ただ、なるべく急いで欲しいのは本当だ」

「いや、そうかしこまられても困るがな……」


 言った手前、ウォーガンもどこか居心地が悪そうに身じろぎする。

 そしてすぐに気を取り直すと、


「ったく、やらねえなんて言ってねえよ。……ま、旦那との約束だもんな。この国のためにも、死に物狂いでやってみるさ」

「ああ、頼む」


 俺は短い言葉で応えると、お互いに口元だけで笑みを見せ合った。

 ふ、相変わらず口は悪いが義理堅いオッサンだ。

 ファルナシア大陸での初めての協力者、これからも頼りにさせてもらう。

 俺はあらためてウォーガンたちの存在を有り難く思ったのだった。



 ウォーガンとパティが出ていった後、俺はカーテンに仕切られた部屋の奥に向かいゆったりと近づいた。そのまま勢い良くカーテンを開ける。

 視界の先には一つの座席。

 そして、そこに座っていたある男の肩をぽんと叩いた。


「と、いうわけだ、王様。同盟交渉の会談、しっかり頼むぞ」


 王座の間。

 豪奢な装飾が施された王座、その椅子に鎖で縛り付けられているのは禿げ上がった初老の男。

 男は顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいる。

 俺は噛ませていた猿轡さるぐつわを外してやった。


「……貴様ら……ワシの部屋で好き勝手やりおって……」

「ワシの? 懲りないなジジイ。俺はともかく、イース達にそんな口きいていいのか」

「ひい……!」


 イースの冷徹な切れ長の目に睨まれるやいなや、王座に縛られたままの王様は蛇に睨まれたカエルのように縮こまった。


 イース率いる家臣たちの叛意に叩きのめされたリュガーナ国王。

 城内だけで起きた密かなクーデターによって愚かな王は権威を失った。

 新しい国にはもはや不必要な存在。

 泣いて命乞いをしたこの男に俺達が下した決断は、処刑──ではなくそのまま王として振る舞ってもらうことだった。


「わ、わかっておる。お前たちの言う通りにすればいいのだろう」

「そうだ。そうすればアンタは王のままでいられるし、多少の自由は許してやってもいい」


 失脚させて新たな王を立てても良かったがそれはやめた。

 国内での余計な混乱は他国につけ込まれる隙を与えるからな。

 イース達もその選択に納得し、国王には傀儡として動いてもらうことを約束させた。

 とはいえ、

 

「お、おい、ならばイースよ。せめてこの鎖を外してくれえ」

「駄目ですな。国王よ、ご自分の立場が分かっているのか?」

「……くそお、どいつもこいつも……」


 当の王様本人はこの様子じゃまだ反省しきれてないようだ。

 まあその問題に関しては、イースを筆頭とした家臣団に任せることにしよう。


「しつけがなっていませんね。むんっ」

「ぐえっ!」


 イースが鎖を引っ張ると、締め付けられた王様がカエルのような鳴き声をあげて悶えた。 

 恐るべし王室執務長。

 彼ならこのジジイ相手でも上手く調教(?)するに違いない。


 しかし鎖で玉座に縛り付けるのは多少やりすぎ感な気が……。

 ごほん。まあ俺が口にすることじゃないな。


 とにかく、さっそくゴバル大陸との同盟の話を進めよう。

 俺は新型のバットフォンを取り出すと、来たる同盟会談の準備に向けて動き出したのだった。

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