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61:★8『深淵』ヌエ・ラ・デリウス

 ストレイン目がけて迫っていた極大のレーザー。

 その軌道がストレインの剣に当たる直前、

 その手前でククッと向きを変えた。

 狙うは一点、台上の奴らだ。


「ぬおっ……!? レーザーが、曲がったっ!? おい、親父殿……!」 


 俺が仕掛けた突然の奇襲に、ワイルが焦っている。

 油断しすぎだ……バカめ。

 一直線に目標に向かって突き進むライトレイ。

 極大のレーザーはそのまま奴らのいるお立ち台に直撃し、そのままーー


 ーーかと思われた。

 

「ちっ……まあわかってはいたけどな……」


 そのままーー直撃してはいなかった。

 ワイルや傷の男に届く前に、突如割って入ってきた二つの人影がその手に持った盾や剣でレーザーを受け止めていたのだった。

 かたや貫禄のある渋い顔立ちの鎧騎士と、かたや背が高く癖のある巻き髪が特徴的な美しい女騎士。

 一兵卒とは明らかに雰囲気の違うこの二人に、惜しくも俺の奇襲は阻まれた。

 

「ふぅ……いやはや、助かったよ騎士団長。それと白兵隊隊長さんもご苦労様」

「Mr、ご無事なようで何より……。しかし何か不穏な空気を感じます。油断なさらぬよう……」


 傷の男が慌てた様子もなく、助けに出た二人の騎士を労った。

 どうやら男の方がコルダ王国騎士団の団長で、女の方は今の白兵隊の隊長らしい。

 ワイルやストレインほどではないにしろ、彼らの戦闘力もずば抜けて高いに違いない。


「……わ、たし……の、剣は……正義……の為に……」


 女の方はだいぶ様子がおかしく、虚ろな瞳で何かブツブツと呟いている。

 ヌエ・ラ・デリウスの特性による洗脳か……厄介すぎる。

 シモンズのやり口を忌々しく思いながら、俺は奥歯を噛みしめた。


「これはいったい……」


 目の前で起きた出来事ーー迫っていたレーザーがひとりでに向きを変えたことに困惑しているストレイン。

 苦しんでいたクマ吉も一時的に攻撃の手を止め、おとなしく待機していた。

 ふむ……。

 奇襲が失敗したことによってさきほどまでの衝動的な気分が落ち着いてきた俺は、痛みの治まらぬ右眼を押さえたまま、さてどうしたものかと考える。

 体の奥底から湧く、あの嫌な感じの魔力はいつのまにか消えていた。


「……クックック……」


 すると、突然ワイルが一人、大きな笑い声を上げた。


「この感じ……この違和感……こいつァあの時の犬っコロの……! それにこの気配……まさか、先生なのかァ!?」


 どうやら異変の正体に鋭く勘付いたようで、嬉々としてワイルがはしゃいでいる。

 さすがに、さすがと言うべきか。

 ヴァルファリオン討伐の際に、一度俺と行動を共にしただけなのに……。


「ヒャッヒャッ! だとしたら……やっぱりアンタは最高だ! 最っ高にイカレてるぜ! 先生ェ、いるんだろ? 新しく生まれ変わったその姿をオレに見せてくれ!」


 感極まったようにワイルが楽しげに声を上げる。

 ふん、相変わらずとぼけた野郎だ。

 まあいいだろう。


 俺は、光の屈折を利用して今まで周囲に展開していた光学迷彩を解いた。

 突然その場に現れた俺を見て、ストレインが驚愕に眼を見開く。

 

「なっ……アキュラ殿!? なぜここに!? それに、その眼は……!」

「言い訳は後でする。ストレイン……とにかくこれ以上奴らの好きにはさせられない。何としてもここで止めるぞ」

「……っ! く、……うぅ……! ……はいっ!」


 俺の体の負傷や右眼の魔眼を見てここまでの経緯を察したのか、ストレインが悔しさを押し殺すように返事をした。

 無事に守れなかった自分の不甲斐なさを嘆いているんだろう……優しい奴だ。

 だが心配するな。俺だってもう守られるばかりじゃない。

 

 俺は広場のお立ち台に目を向けた。

 

「よう、ワイル。久しぶりだな」

「ああ、先生、会いたかったぜェ。その様子だと、どっかの馬鹿貴族は失敗したみてェだな。ま、ハナからアテになんかしてねえがよ。しかしまさかそんなもんまで付けて現れるなんて……本当に面白い人だぜアンタは」

「よく言う……誰のせいだ全く。お前こそシモンズの一員だったとはな……あの時はまんまと騙されたよ」

「フン、ちょいとワケありでなァ。こんな根暗な奴らと同じに思われたくはねーが仕方ない」

「一応訊くが……洗脳されてるわけじゃないんだよな?」

「もちろん、オレはオレだ。だから先生、気にしねえで好きにやってくれ。そんでせいぜい必死に足掻いてから、無様に捕まってくれ」


 そうじゃねえと面白くねェからな、と邪悪めいた笑みを浮かべるワイル。

 その表情を見て俺は少しだけ下を向いた。

 やっぱりコイツは完全に”あっち側”の人間だったんだな……。

 

「ワイル、貴様……自分が何をしているのか分かっているのか」

「ストレインよォ……今さらお前がこのオレに何を説こうっていうんだ? もう全てが手遅れなんだ。お前達は何もできなかったし、”何もしなかった”。だったら、黙って現実を受け入れるしかねえ」

「……やはり貴様だけは許せん……この僕が、必ず殺す……!」


 強く睨みつけ糾弾するストレインを相手に、ワイルはやれやれと肩をすくめた。

 お互いの殺気で空気がビリビリと張りつめる。

 すると、その隣にいる傷の男が片手を上げた。 

 

「おい、ワイル。せっかく我らの最優先確保対象が現れたのだ。楽しいのはわかるが、私にも少しは喋らせろ」

「……へーい」


 水を差されて不満げに返事をするもワイルは素直に聞き入れ、口を閉じた。

 あのワイルを従わせるほどの男、こいつがーー 


「初めまして。待っていたよ、ウェムラ・アキュラ君。私の名はレスキンス・レクス・レクター。君も知っているであろう、コルダ王国諜報機関『シモンズ』の……何代目だったかな、長なる立場を務めている者だ。ついでに研究者でもある。よろしく頼むよ」


 頬に傷が特徴的なシモンズの長、レスキンスが俺に向かってゆったりと挨拶をしてきた。

 とても秘密組織の親玉と思えない柔和な印象を受けるが、騙されてはいけない。

 こいつがこの惨劇の全ての元凶なのだから。


 何がよろしくだ。

 ふざけやがってこのジジイ。

 

「そう怒らないでくれ。私としても、君たちには危害など加えたくないのだよ」

「黙れ。ここまでやっておいて、よくもそんなことが言えるな」

「ハハ、確かにそれはそうだ。すまないが、この町は我々にとっても有益なものが多くてね。元から全て頂くことにしていたのだ」


 そう言ってレスキンスが広場の奥に目を向けた。

 そこにあったのは数台の巨大な馬車。

 荷の部分が頑丈そうな檻でできており、ちょっとやそっとじゃビクともしないだろう。

 そしてその中に収容されているのはーー


(……さっき”視た”から、もう知っている……)

 

 中にいたのはリュミエの町の人間だった。

 大勢の人が皆、昏睡した状態で閉じ込められていたのだ。

 その中には捜していたアイリスの父親、ドボルグの姿も見える。

 檻の中に捕らえられた人間達。

 彼らには、町の中で無惨に殺されていた町人とは決定的に違う特徴があった。 


「君が作った特製の”魔眼”や”義手義足”……それらを実際に扱い日々を生活していた人間、そんな貴重なサンプルがこれだけ大量に手に入った。なんとも嬉しいかぎりだ」

「……サンプルだと?」

「早く持ち帰って研究したい……実験したい! フフ、楽しい……まったく、研究者冥利に尽きるな」

「この……下衆が」


 次第に歪んだ本性を見せ始めるレスキンスを相手に、俺は胸糞悪くなり冷たく吐き捨てる。

 失った自分の体を取り戻したことで、ようやく彼らはまた人生に希望を見出していたんだ。

 これ以上彼らの人生を滅茶苦茶にさせるわけにいかない。


 恍惚とした表情でにこやかに微笑むレスキンスを俺は睨みつけた。

 こいつさえ……こいつさえなんとかすれば……!

 すると俺の視線に気付いたのか、穏やかだったレスキンスの態度が消え、冷たい口調で語り始めた。


「君たちはね……己の価値を計り損ねた」


 レスキンスが俺とストレインに向かって静かに、それでいて脅すかのような薄暗い雰囲気で言葉を放つ。

 その妙な圧迫感に、しかし俺はひるむことなく一歩も引かなかった。


「自分たちが如何に突出した存在なのか、世界にどれほどの影響力があるのか、それを考えようともせず無自覚に日々を過ごしていた。我らに目をつけられているとも知らずに、ね。ゆえにこの結果は全て君達自身が招いた事だよ。自業自得、というやつだ」

「……そんなことはとっくにわかってんだよ」


 いずれ罰でもなんでも受けよう。

 だがーー


「だからって、お前達の自分勝手な悪行を許す理由にはならん。止めるぞ、シモンズ」

「ーーほほぅ。思っていたよりも強い、な。これほどの責を自ら背負い込んでなお折れぬ胆力。ますます欲しいぞ、ウェムラ・アキュラ君」


 レスキンスが感心したように呟くが、俺は取り合わない。

 もうこれ以上の無駄な問答は無用だ。


「俺はお前達を許さない」


 ここで全て終わらせる。

 俺の言葉に重ねるように、隣に立つストレインがレスキンス達に向けて剣を突き出し構えた。


 現在確認している敵の戦力ーー

 洗脳された王国騎士団、その中でも特に武力の高いワイル、それに団長と白兵隊隊長。

 レスキンス率いる諜報機関シモンズ、その構成員たち。

 奥に隠れて出てこないようだが、『深淵』と呼ばれし★8魔物ヌエ・ラ・デリウス。

 そして洗脳されて敵として操られているクマ吉。はやくなんとかしなければ。 


 対してーー

 ストレインの剣技とその右眼の『竜化の魔眼ドラグナムアイ』、左眼の『痺縛の邪眼パラリシスアイ』、手にした極光宝剣。

 そして俺の右眼にある『幻惑の魔眼サンライト・ミラージュアイ』。

 これが今の俺の持ちうる戦力。

 

 ニ、対、多勢と、かなりこちらに分の悪い状況だ。

 だが工夫次第でいくらでもやりようはある。

 特に、ストレインの放つ極光宝剣解放状態による強力な光の一撃を、俺の魔眼によって制御し自在に操るという連携攻撃は、実践せずとも分かる有効な手だろう。


 そもそも全ての敵を倒す必要はないのだ。

 この作戦の総指揮を執るレスキンスや、奥に隠れているヌエ・ラ・デリウスさえ倒すことができれば、洗脳も解け奴らは内から瓦解するに違いない。

 デリウスが俺たちに干渉してこないのをみると、奴らもその特性を完全には制御しきれてないのかもしれない。


「ストレイン」「はっ」


 目配せし、ストレインに合図を送る。

 よし、いくぞ。

 まずは痺縛の邪眼で相手の行動を制限する。

 ワイルやある程度腕の立つ者なら対応してくるだろうが、そのまま間髪入れず極光宝剣で攻め、そこを幻惑の魔眼でサポートする。

 

 俺の意図を汲み、左眼についた眼帯に手をかけたストレイン。

 その瞬間だった。

 まるでその機先を制すかのような絶妙なタイミングで、レスキンスが口を開いた。


「たしかに……今の君とストレイン君ならば、もしかしたら我々を返り討ちにすることだってできてしまうかもしれん。それほど、君たちの力は強い」


 落ち着いた様子で淡々と告げるレスキンス。

 そんな奴の態度を不気味に思い、俺は一抹の不安を覚えた。


(そう言いつつ、なぜそこまで余裕がある? 何か隠している?)


 そこで俺はある違和感を覚えた。

 自分の整理した情報の中に、何か決定的な見落としがないか?

 王国……ワイル……シモンズ……それと……。

 

 待てよ。

 そういえば……”あいつ”は?


「私は年甲斐もなく負けず嫌いなところがあってね……万が一にでも君たちに負けたくないのだ。……ゆえにとっておきを見せてあげよう」


 レスキンスは指を鳴らし部下に合図した。

 すると奥から何か、大きくて黒い箱のような物が近づいてくる。

 シモンズの構成員によって運ばれてくる”そいつ”の動きに合わせて、俺の頭の中にある『モンスター分布』のアイコンにも同時に動きがあった。

 つまりーー

 そして覆われていた箱が取り外され、その姿があらわになる。

 

 裂けたように開いた大きな口に、一本の長い角。文字が羅列された呪符のような布が目元に巻いてあり、眼隠しされている。血管の浮き出た筋肉質の黒い肌が生物としての生々しさをより強調しており、息づくその脈動がこちらにも感じられるほどの威圧感だった。

 体長数メートルはある巨体だが、腕や脚など全体的に細く、身動きが取れぬように鎖でがんじがらめにされていた。

 シルエットだけで見たら前世で見たどこぞのロボットアニメのなんとか初号機のようだが……。

 その長い角や人型の魔物である特徴から、鬼、といったイメージが強いだろうか。


 図鑑で何度も目にした魔物、★8『深淵』ヌエ・ラ・デリウス。

 精神干渉能力を得意とする、伝説級魔物の一匹だ。

 なぜ表に運んできたのか分からないが、都合が良い。


 ようやく相見えることになったデリウス、今の俺が最優先で倒さなければいけない相手の一つ。

 その姿をはっきりと視認し、俺はーー




「あ、あああ、あぁ……」




 俺の口から、知らない内に嗚咽のような声が漏れた。

 心が、張り裂けそうだった。


『はじめまして、ウェムラ・アキュラ。突然で悪いけど、貴方を呼んだのは私』

『待たせたわね、貴方達。ここまでご苦労様』

『……しっかりしなさい。もうすぐでしょ?』


 今でもよく覚えている、彼女との記憶。

 人に感情を見せることを嫌い、でも姉の為にならどこまでも必死になれる女の子だった。

 自分の持つ力や立場に翻弄されながらも懸命なその姿はとても輝いていた。


「なんで……なんで、だ……」


『国護りの英姫』『十魔帝の一人』と称され、国の一大戦力として活躍していた、コルダ王国第二王女ノア・ディアスペレッゾ。

 姉のセレナを助ける為に俺の元を訪れ、はにかみながらも心からの笑顔を見せて王国に帰っていった優しい女の子。

 本来こんな場所にいるはずのない彼女が、”そこ”にいた。


「そんな……ノア……」


 薄く白いドレス一枚だけを身に纏った、小さな体。

 そんな彼女の身がーー

 デリウスの胸部にはりつけにされるような格好で埋まっていたのだった。

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