53:進化の可能性
へい! 俺の脳内。
カモン、モンスター図鑑!
《メインメニューを開きます》
《 ーエシュタルモンスター図鑑ー 》
《 》
《 ▶*全国図鑑 》
《 》
《 *モンスター分布 》
《 》
《 *メニュー新規作成 》
《 》
《 *オプション 》
ピピピっと。
ほい、ほい。
《*全国図鑑を開きます》
◇現在の魔物討伐数ーー146種類。
【現在のソート:No.順です】 [1/1000]
《◉No.1:ウルドッグ ★》
《◉No.2:ボブウルドッグ ★★》
《◉No.3:フォレストウルドッグ ★★》
《 No.4:バブルウルドッグ ★★★》
《 No.5:ジャルジャハウンド ★★★★》
《 No.6:スカイハウンド ★★★★★》
《 No.7:キュルケーウルフ ★★★★★★》
《 No.8:ゴライアスギガウルフ ★★★★★★★》
《 No.9:レガシーオブハウンド ★★★★★★★》
《◉No.10:スケイルバット ★》
《 No.11:ウォーターバット ★★》
《 No.12:フレイムバット ★★》
《◉No.13:ストロングバット ★★★》
《 No.14:ジュアーグバット ★★★★》
《 No.15:ニュク・テリス ★★★★★》
《 No.16:マルキス・リリアック ★★★★★★》
《 ーー ーー ーーーーー ーーーーーー ーーーーー》
《 ーー ーー ーーーーー ーーーーーー ーーーーー》
《◉ーー ーー ーーーーー ーーーーーー ーーーーー》
ーーーーー
ーーー
ー
ある日の邪眼工房。
工房で一人、作業台に腰掛けて目を閉じている。
俺は脳内の図鑑ページに目を通しながら、首をかしげた。
(うーむ。なかなか討伐数が伸びない)
俺の製作した物(武器・装飾品なんでも)で所持者が魔物を倒すとカウントされるこの魔物討伐数。
この数字が一定値増えるたびに図鑑の新しい機能が追加されるので、エシュタルで生きる俺の目的の一つとなっているのだが……。
ある時期から停滞気味なのだ。
おかしいな。
確かにここアルカダ大陸に生息する魔物においては、高ランクモンスター以外はストレインによってあらかた討伐されている。
そのせいで伸び悩むのも納得だが、俺が武器を売った者はこの大陸に住む者だけではない。
旅の者などにも何点か売り渡している。
エシュタルはアルカダ大陸含む七つの巨大な大陸で形成された世界。
よその大陸に渡った冒険者がもうちょっと狩っててもおかしくないんじゃないか。
(……まあでもこんなものなのかもな)
けっこう色々な物を売ってきたが、好んで魔物と戦おうとする奴はいないのだろう。
よっぽどの戦闘狂とか、はたまた軍人とかぐらい?
それ以外の者は、わざわざ自分から魔物に近づくなんて馬鹿な真似はしない。
そりゃそうだよな、基本は避けて通りたいはずだ。
(いっそストレインに他大陸で暴れてもらおうか?)
などと冗談めかして考える俺だが、そんな余裕は一切ないのもわかってる。
現状俺の抱える問題ーー邪眼の贋作とかシモンズだとか転士がどうだとかーー山積みなのでしばらくアルカダ大陸から離れることなんてできないだろう。
まあ、俺自身はマイホームから離れるつもりなんてないのだが。
討伐数による図鑑機能のアンロックは問題を片付けた後、地道にやっていくしかないな。
ーーーーーー《ピロリン♪》ーーーーーー
お、なんだ?
図鑑からお知らせ音が。タイムリーだな。
《エシュタルモンスター図鑑が更新されました》
俺の頭の中に流れてくるメッセージ。
本来は音声で案内してくれる機能だが、転生直後に《*オプション》の《自動音声サポート》の項目をオフにしたままなのでいつも文字だけなのだ。
たまにはオンにしてやるかな……いや、うるさいからやっぱやめよう。
ってそんなどうでもいいことは置いといて……どれどれ。
俺はモンスター図鑑の中で《!》マークが出ている項目に意識を向けた。
この《!》マークは何か図鑑の情報が更新されたときに出る。
いわゆるNEWってやつだな。
その項目をよく見ると、それはNo.1001番を示していた。
これは……クマ吉のページだ!
!《No.1001 イビルアイベア:ランク★★★★★★》
《アルカダ大陸の山岳部で発生したフォレストクロウベアの変異体。魔力をコントロールする技術に優れており、高い知能を有している。最大の特徴といえる”眼”の特性によって、様々な攻撃を可能にする魔物。身体能力や爪の強度に関しても、変異元のフォレストクロウベアとは一線を画している》
【素材の持つ特性】
《爪:ーー魔力を少量蓄えることができる。弾力性があり鉱石以上の硬さ》
《毛皮:ーー防寒性が高く、衝撃を吸収しやすい。吸収した衝撃で耐久性が上がる》
《肝臓:ーー魔力を生成する器官。興奮すると生成量が増幅する》
《眼:ーー魔力を送りこむことで、多様な能力を発揮する》
《※対処:ーー総魔力量は普通なのだが、眼による攻撃はそこそこ限界が早い。知能や魔力操作技術はランク★★のフォレストクロウベアとは比べ物にならなく、警戒が必要。熱に弱いが、闇魔法の耐性は高い》
《主な使用魔法:ーー『ライトニング(EX)』『ウインド(EX)』『雑竜法(EX)』『ポイズンスピア(EX)』『アイシクル(EX)』『ライトレイ(EX)』》
なんと!
クマ吉のランクがいつのまにか5→6に上がってる!
ついでに説明文もちょっと変わってる! おお!
(たしか今ストレインとクマ吉がいつもの日課に励んでいたはず……)
彼らの日課ーー壮絶な自分虐めともいえる過酷な鍛錬。
クマ吉がフォレストクロウベアからイビルアイベアに変異してから、図鑑に記載されている★5としての能力が固定値だと思っていたが……。
どうやらクマ吉自身の能力はまだ限界ではないということらしい。
鍛錬によって今よりさらなる成長が見込める……これは凄い。
(まるでゲームの経験値みたいだな……)
実際に数値などが設定されているわけではないだろう。
ゲームの世界じゃあるまいし。
だが、この図鑑がなんかしらの基準をもって魔物に対する指標などを定めているのは確かみたいだな。
神様からの特別な能力ゆえに、そんなことも可能なのかもしれない。
(このままストレインと共にクマ吉が自分を鍛え続けたら、もしかして★10ランクまで成長する、なんてこともありえちまうのか!?)
可能性としては充分にあり得る。
魔物は成長し、進化する生き物だということだ。
しかしただのフォレストクロウベア、のみならず他のどんな魔物にも自力でランクを上げるほどの成長というのは多分不可能に近いだろうと思う。
あくまで俺の作った物ーーこの場合クマ吉の左眼についた魔眼ーーを付けているクマ吉だからこそ起きている現象。
俺の生み出す邪眼には、それほどの力があるということだ。
クマ吉の存在を変異させるだけでなく、進化という可能性まで与える代物なのである。
一時は俺もそのことに対して強い不安を覚えたものだが……。
ここは開き直ってさらなる強力な邪眼を開発し、ストレインと共にクマ吉の★を上げることに専念してもいいかもしれん。
あのとんでもなく強かったサンライト・ヴァルファリオン以上の強さをもしもクマ吉が手に入れたら……。
(伝説級魔物以上の強さを備えたストレインとクマ吉のコンビ……)
俺は自らの脳内に広がった想像に対し、ごくりと息を呑んだ。
シモンズだろうがなんだろうが、もはや敵ではない。
俺のものづくりの邪魔をする奴らを薙ぎ払ってくれるわ!
わはははは!
……違うか。
(だが現状を打開する手としては悪くない。そうと決まればさっそく……)
俺は作業台の上を片し、魔物の素材などを次々に並べていく。
溜まっていた依頼はあらかた終わっている。今日の仕事はもう止めだ。
邪眼を作ろう、邪眼をな。
久しぶりの邪眼製作にウッキウキの俺。
しかし、内心では気がかりなことが一つあった。
それはサンライト・ヴァルファリオン戦でも見た光景。
ストレインに起きていた謎の異常、別人のような雰囲気や邪悪な魔力を纏っていたことについて。
あの時は必死に声をかけると正気に戻ってくれていたが……。
やはりあれは、俺の作った邪眼のせいなのだろうか。
最近ストレインの様子が時々おかしかったのも、俺の邪眼をつけたせいだとすれば合点がいく。
俺のものづくりは人間を別の”ナニカ”へと変貌させてしまう、悪魔の所業なのか?
これではまるで……。
(だとしたら……俺は)
本当に。
色々と考えてしまって嫌になる。
俺がそうして手を止めて葛藤していると、工房奥のシャッターがガラガラと音を立てて開いた。
後ろを振り返ると、そこには鍛錬から帰ってきたクマ吉、その横にストレインが立っていた。
「いやはや……今日もいい汗をかきましたねクマ吉殿。途中から動きが見違えたかのように素晴らしいものでした。僕も負けてられません、伝説級の魔物を一人でも倒せるようにならなくては……」
「ウォウ! ウォウォウ!!」
「いえ、わかってますとも。次こそは僕たち二人で、アキュラ殿の求める素材に応え、強力な魔物を狩ってやりましょう!」
「ウォーウ!」
「はい、その意気ですクマ吉殿!」
ふむ。さすがストレインだ。
クマ吉と会話など、この邪眼工房では必須科目。
長い付き合いなだけあって、もう完璧だ。
いずれセレナにも、そこんところ厳しく指導してやらないとな。
二人の会話をニヤニヤしながら見ていると、俺に気付いたストレインが頭を下げた。
「はっ……アキュラ殿、お疲れ様です。ただいま戻りました」
「ウォウ!」
「お〜ご苦労さん。しかし……まぁた随分とボロボロだな。お前ら、いつかお互いに殺し合うんじゃないだろうな」
「ハハハ! アキュラ殿、ご冗談を!」
「ウォウウォウ!」
俺の軽口に、ストレインとクマ吉が陽気に笑う。
その姿に、俺もつられて笑ってしまう。
「そういえばストレイン。朝からセレナの姿が見えないが、お前知らないか」
「セレナ殿ですか? 彼女ならば今日はアイリス殿と一緒に町で日頃の感謝を込めてアキュラ殿へのプレゼ……って、あーあーあー! ゴホッゴホッ! ああー!!」
うおっ!
なんだストレイン、いきなりどうした!?
「な、なんでもありません! アキュラ殿、彼女のことならばお気になさらず。夕方には帰ってくるでしょう」
「そ、そうか。しかしアイツを一人で行動させて大丈夫か。なんだったら俺が様子を見に……」
「アキュラ殿! あなたはこの邪眼工房の主たる者。何も心配せず、どっしりと構えていて下さい!」
「は、はい」
ストレインの謎の気迫に押され、俺はたじろぎながら返事をする。
なんなんだいったい。
まあ町での王女目撃の噂は、もうほとぼりが冷めているようだし。
変装もしているからそこまで心配することでもないか。
「……アキュラ殿に嘘をつくなど……うぅ……だから嫌だったのだこんな役回り……」
ふとストレインを見ると、部屋の隅で壁に向かって何事かブツブツと呟いている。
なんだろうね、ありゃ。




