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??:俯瞰する者

「やあ。よく来たね。まあそこに座ってくれよ」


 シミ一つ無い白地の壁に囲まれた、とある一室。

 その中で、部屋の壁面に負けないくらいの白い衣装に身を包んだ男が、机を挟んだ向こう側の椅子に腰掛けている。

 机の上にはモニターが一つ。

 今は何も映されていない、画面は真っ暗だ。


「”これ”を誰かに見せるのは初めてなんでね。こちらも少し緊張しているよ」


 緊張などと……本心からの言葉とは思えないほど、平然とした様子で嘯く男。

 その顔立ちはとても整っていて、少し長めの前髪が若い印象を与えている。

 容姿から推察するに、年齢は二十歳ぐらいーーあくまで見た目だけの話だが。

 本当の実年齢がいくつなのかは、まったくもって想像も及ばない。 


「ま、四の五の言わずに……ってね。とにかくどうぞ」


 言うや男が指を鳴らすと、突如目の前のモニターに光が灯る。

 画面に映されたのは、ある男の物語。

 他にすることがあるわけでもなく、言われたまま目をやることにしたーー



ーーーー

ーーー

ーー


 

 上村晶うえむらあきら

 ある日突然交通事故で命を落とした彼に与えられたのは、新しい世界での第二の人生だった。


「俺は、”ものづくり” がしたい!」


 転生の際、そう願った彼に授けられた、”二つの力”。

 《製作の才能》と《図鑑:エシュタルモンスター》。


 異世界の山の中に再構築され、見事転生を果たした彼は、二つの力をもって新たなる人生を歩むことを決意した。

 前世にて心残りであった、ものづくりを極めるという目標を胸に。


 そこからの一年はあっという間だった。

 突然クマのような魔物に襲われたかと思いきや、その後仲良くなったりーー

 見つけた廃墟を勝手に改築し、自分の住処にしてしまったりーー

 魔物を狩って得た素材で、武器や道具を作ったりーー

 好きなだけ、思うままに山中での生活に勤しんでいた。


 そして遂に、異世界に来て初めての人間と遭遇する。

 山の中で魔物に襲われていたのは、両目に深い傷を負った盲目の青年だった。


「僕の名前はストレイン・アスガルド。どうぞストレインとお呼び下さい」


 彼の危機を救った上村晶。 

 なぜか、己の名前がウェムラ・アキュラとして認識されてしまう謎に直面しながらも、ストレインを自らの工房に招くことになった。

 自分が生み出した”ある物”を見せたいが為に。


「これはな……俺が造り出した、邪眼という代物だ」


 邪眼。

 ウェムラ・アキュラがこの世界に着いて、心から作りたいと思い編み出した、自分だけの作品。

 戦友として共に過ごす魔物フォレストクロウベアーークマ吉の失われた左眼の代わりとしてさっそく試作型の物を運用していた。

 完璧な邪眼を完成させる、その一心でアキュラは義眼の研究を始めていたのだ。

 

「どうか、僕に、邪眼を授けていただけませんか……」


 失った視力が回復することを知った青年ストレインが、地に頭をつけて懇願する。

 プライドなど必要ない。なんでもしてみせる。

 この暗闇に支配された世界に、再び光が戻るのならばーーと。

 彼の執念と決意に折れたアキュラ。

 そうして、ストレインとある契約を交わした。

 邪眼と引き換えに、己の望む素材を収集することを条件にしてーー

 

「契約は完了だ。ーーただし、俺は人使いが荒いぞ?」 

「望むところです」


 ここからアキュラとクマ吉、そしてストレインによる”邪眼工房”が本格的に動き出したーー



ーー

ーーー

ーーーー



「どうだい、彼は? 面白い男だろう」


 椅子に座ったままモニター越しに話しかけてくる白い格好の男。

 足を組んで膝の上に手を置きながら、作り物のような笑みを浮かべている。

 こちらが黙っているのを気にした様子もなく、一人で好き勝手に喋り続ける。


「山の中に放り込まれてしまったのは驚いたけど、実際たいしたもんだよ。彼の理念や行動原理も、とても興味深いものさ。あの水を飲ませた甲斐があったというもんだね、フフ」


 その底の知れない微笑みの下で、いったい何を画策していると言うのか。

 到底計り知ることは叶わないだろう、この男の真意など。


「ここからまだまだ面白くなるよ。え……っと、たしかこの後は、山のふもとにある町を相手に商売を始めるんだったかな。そこでアイリスという女の子の依頼を受けるのが、彼にとって初めての仕事になるんだよ」


 聞いてもいないのに、心底楽しそうにモニターに映っている物語の続きをペラペラと喋っている。

 どうやら人にネタバレを話すことに快感を覚える性分らしい。

 なんとも迷惑な話だ。


「素材を求めて旅立った彼の相棒、ストレイン君はこの時砂漠で大ピンチ。かつての古巣である王国騎士団に絡まれてボコボコにされて……それでもなんとか命からがら逃げ延びたんだよねえ。いやぁ〜悪い奴だなあこのワイルという男は」


 腕を組みながら男はしみじみと唸った。

 その態度はまるで、自分しか知らないお気に入りの物語を周りの人間に熱く語る無邪気な若者そのものだ。

 そしてその物語の一番のファンは自分だと主張するかのようである。


 ……本当はなんとも思っていないくせに。


 そのあまりのわざとらしい仕草を見ているのが苦痛で、視線を逸らした。


「それでね、そのあとから……!?」


 なおも言葉を続ける男に、遂に制止する手をかざす。

 我慢の限界だ。

 突き出した手を下ろし、無言でそのまま視線をモニターに戻した。


「……ああ、いや、ごめん。つい一人で盛り上がってしまったよ。続きはモニターでどうぞ。……なんか、すいません……」


 気まずくなった空気の中、男が申し訳なさそうに口を閉じた。

 ……やれやれ。

 


ーーーー

ーーー

ーー



「あら? 人間が住んでいるのね」


 町の住人からの依頼をこなし、着々と信用を得ていたアキュラ達の目の前に、突如謎の人物が訪れる。

 その正体は、単身世界を旅するエルフ族の変わり者、フィオーナという女性だった。

 どういうわけかアキュラの仕事を間近で見たいと言う頼みを聞き入れ、一日行動を共にすることになった。


「アイリス、いい? アキュラは押せばコロッと落ちるわ」

「は、はいっ。フィオーナさん、私、頑張るっ」


 案内した酒場の看板娘アイリスと仲良くなったフィオーナは、アキュラの仕事そっちのけでガールズトークに興じていた。

 それを見たアキュラは呆れたように溜息をつき、酒場の主人ドボルグが紹介する客を交えて仕事の話を進めるのだった。

 そして別れ際、友好の証としてフィオーナがアイリスにある物を渡す。


「これは……ネックレスですか? きれい……」

「いつかアナタに何かあったとき、役に立つかもね」


 そうして邪眼工房に戻ったアキュラ達。

 狩りに出るも油断し、窮地に陥った所をフィオーナに助けてもらう。

 夕飯を作って待っていたストレインに説教され、アキュラは心から反省した。


「フィオーナ先生の特別授業よ。よく聞いてね」


 夕食後、アキュラとストレインの無知さを嘆いたフィオーナが、エシュタルワールドについてざっくりと説明することになった。

 各大陸の情勢や魔法の種類ーー魔使魔法や人使魔法ーーそれと魔力操作による戦闘術。

 そして、”魔帝”という、人の身でありながら強大な力を持った存在。

 外の世界をロクに知らないアキュラにとっては、フィオーナから得た情報は貴重なものだった。


「それじゃアキュラ。ばいばい」

「ああ、達者でな」


 再び旅に出るフィオーナを見送るアキュラ。

 その指には真っ赤な色の宝石が付いた指輪がはめられていた。

 エルフ族の風習としてフィオーナから受け取っていたものであった。

 そして……


「ふふ、女の嘘には気をつけることね、アキュラ。……また、会いましょう」


 手にはアキュラから受け取った邪眼が一つ。 

 夜の山の中、一人妖しい笑みを浮かべて、フィオーナは姿を消した。



ーー

ーーー

ーーーー



 その後も、画面の中には上村晶……いや、ウェムラ・アキュラの物語が流れ続ける。

 

 王都からやって来た貴族と一悶着を起こしーー

 図鑑の謎に直面し、一人言い知れぬ不安を感じーー

 自分の作った邪眼とそっくりである贋作の存在を知りーー

 そしてそしてーー


「王国のお姫様、その姉妹たちと運命の出会い?ってやつ? フフッ、彼はモテモテだね。前世ではそこまでだったみたいだけど」


 沈黙に耐えられなくなった男が、たまらずといった様子で口を開いた。

 反省していたと思ったら……なんて堪え性の無い。

 モニターを見ると、仲間を携えて伝説の魔物を討伐しに赴くウェムラ・アキュラの姿が映っている。


「彼もこの世界に来てから随分と成長したね、見違えるようだ」


 いつの間に用意したのか、コップに入った水を口に入れながら楽しげに笑う男。

 君もいる?と差し出してきた手に、無言で首を横に振った。

 なにが入っているかわかったものじゃない。遠慮する。


「……ふう、つれないなあ」


 男は残念そうに肩をすくめた後、コップを机の上に置いた。

 そして相変わらず愉快そうに、しかし先程までとは何か違う雰囲気を発し、湿った唇を舌でなぞる。


「……とはいえ、まだまだ……この程度じゃダメだ……もっと……」

 

 もっと……と、聞き逃してしまいそうなほど小さな声で男は呟く。

 その瞬間、背筋がゾッと震えた。

 ほんの少しだけ覗かせた男の本心。

 なんとなく……直感的にだが、何をしようとしているのか脳裏にチラついたからだ。


「察しがいいね……だけど、それ以上はやめたほうがいい」


 空気が変わった、と表現するべきか。

 男の放つ異様な気配に呑まれそうになり、思わず椅子から立ち上がった。

 やはりこの男は信用ならない。

 ならばーー

 そして、足早に部屋の出口に向かって歩き始める。


 その様子を見た男が慌てて立ち上がった。

 

「おいおい、ちょっとした冗談だよ! 何もしないってば! ま、待って、君一人じゃ……!」


 そうして、男は追いかけるように部屋を出ていった。




 真っ白な部屋に残されたのは、机に上に置いてあるモニターが一つだけ。

 その画面には、いまだ”ある男”の物語が流れ続けていた。

 ものづくりに人生を懸けようとする、ウェムラ・アキュラという男の物語がーー。

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