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34:贋作

 早朝の山の中。

 少し肌寒い澄んだ空気にこだまする、生き物達の囁く鳴き声が妙に心地いい。

 朝早く目を覚ました俺は、近くの水汲み場に来ていた。

 冷えた湧き水で顔を洗うと、キュッと気が引き締まる。 


 さて、今日は何を作ってやろうか。


 この世界でものづくりを始めてもう二年近くになる。

 今まで色々な物を作って、その経験を糧としてきた。

 俺の職人としての腕前は、常に成長、進化し続けている。

 ここに着いたばかりの頃に、一日二日もかけて作っていた物など、今では数時間、いや、一時間以内には完成してしまうのではないだろうか。

 この驚異的な成長具合も、製作の才能あってのものだとは思うがな。


 ここ最近は、そういったことを自分でも強く実感する。

 使う素材は同じでも、生み出す物のクオリティーーこの場合は精巧さや質だけでなく付与する能力も含めてーーが、以前より格段に上がっている。

 仕事とは別に個人的趣味で作った物の中では一番直近にあたる、ストレインに渡した剣。

 名を極光宝剣きょっこうほうけんと名付けた物だが、あれを作ったときは自分でも驚いたものだ。


 痺縛ひばくの邪眼を作った後に、俺の武器で全身フル装備したストレインが、辛くも討伐した初めての魔物ランク★7の素材を使っているとはいえ……

 もし同じ素材を用意されても、昔の俺では同じ物を生み出すことはできないだろう。

 仮に自分のステータスのようなものが確認できるのなら、俺のLvは以前と比べてかなり上がっているに違いない。

 まあゲームじゃあるまいし、実際は経験による慣れが大きいと思う。


「しっかし、この俺が王都でも噂される職人とは、な」


 水汲み場を離れ、小屋に向かって歩きながら、ふと呟いてみる。


 前に一悶着起こした例の貴族、ゼクンツによると、どうやら俺やリュミエの町は今や王国でも噂されているほどの存在らしい。

 元から邪眼工房の発展、また図鑑拡張の為に、名が広まるよう画策していたので当然の結果といえば当然なのだが……

 なんというか、少しこそばゆい。

 自分に正直に生きようと決めて、ここまで歩んできた俺だったが、知らない内に有名人扱いされているというのも案外照れくさいもんだな。


 とはいえ、こんな程度で満足する俺では無い。

 まだまだ作りたい物は山ほどある、そのためにも、もっと頑張らねば。

 当面の目標は今まで通り、図鑑の機能アンロック。

 そしてもうひとつ、本命なのが★8以上の魔物攻略だ。

 

 以前の反省を生かし、ストレインが強力な魔物を狩りに行く時は、俺の図鑑の知識を利用し対処法や弱点などを教え、戦術を練った上で挑むようにしている。

 その甲斐あってか、最近では★7の魔物も討伐できるようになってきたが……

 正直、★8の魔物に挑むには、まだ心細いといえる。

 ★7と★8の魔物を隔てる差、その差があまりにも未知数すぎて迂闊なことはできない。


 ストレインが、全盛期である騎士時代に一度だけ伝説級の魔物と戦ったことがあるらしいが、死闘の末、命からがら逃げ延びたという。

 名前を聞いて図鑑で確認してみると、その魔物はランク★9の魔物だった。

 ランク★8〜10の魔物とは、まだ、相当な力の差があるとみて間違いない

 ストレイン自身の鍛錬、そして俺が作る邪眼や魔眼の性能向上は不可欠だろう。


(問題は山積みだが……)


 小屋に着くと、玄関の扉が開いた。

 ストレインが外に出てくる。


「おはようございます、アキュラ殿。今日はいつもよりお早いお目覚めですね」

「ああ、おはよう。なんだか目が覚めてしまってな。ストレインはいつもの打ち込みか?」

「はい。しばし、訓練の間に行って参ります」


 では、と言い残し訓練の間に向かったストレイン。

 俺はそれを見送った後、小屋に戻り工房へと向かう。

 そして、作業台に腰掛けながら、台の隅の方に目をやった。


(そう……問題は山積みだ)


 そこには、人の手によって加工された魔物の素材がバラバラに並べてあった。

 どれも丸みを帯びており、元の形が球状であったことを物語っている。

 それは、ストレインが持ち帰ってきた、ある物体をバラしたもの。

 ーー”俺以外の誰か”が造り出した、邪眼。

 

 俺は大きく、溜息をついた。



ーーーー


 ひと月ほど前に、北の山ヘヴンズゲートに現れた他大陸の魔物の群れ。

 その討伐の加勢に向かったストレインが、帰ってくるなり血相を変えて俺の元にきた。

 

 

「アキュラ殿! 休息中、申し訳ありません! 見て頂きたいものが……!」

「んお、ストレイン! ど、どうした?」

「……こちらを」


 ストレインが目の前に差し出した物を見て、俺の眠気は吹っ飛んだ。

 それもそのはず。

 その物体は俺が作る邪眼(魔眼)とよく似た、人工眼だったからだ。


「こりゃあ……」


 俺はいろんな角度から眺め、手で感触など確かめる。

 そして椅子から立ち上がり、さっそく工房へと向かった。

 ストレインも俺の後ろに続く。

 

「アキュラ殿、これはいったい……」

「待て、ストレイン。まずは解体してその正体を見極める」


 作業台の上で、丁寧に、かつ迅速に邪眼を解体していく。

 その手際の良さに、隣りではストレインが感嘆の声をあげていた。

 俺は解体しながらも、邪眼の作りなどを細かに観察する。


「これは酷いな……」


 つい俺の口から、本音が漏れ出た。

 なんというか、それっぽい邪眼の形だけを模した、似て非なる物だった。

 中の構造、特に外殻部は俺の作っている邪眼に似せようとした形跡が見られるが、完全に再現できていない。

 これでは能力を発動することも、それどころか魔力を伝導させることも満足にいかないだろう。

 まさしくパチモン、エセ邪眼と言うべきだ。

 だいたいなんだこりゃ! レンズ部の磨き上げがなっていない!

 これではロクに視界も映らないぞ!


「アキュラ殿、その邪眼を付けた魔物は皆、ミネキシワームに寄生されておりました」


 みるみる機嫌が悪くなる俺を横目に、ストレインが補足する。

 その声に、若干の不安が混じっていることを、俺は見抜いた。

 当然か、ストレインから見たら、自分が身に付けている物は問題の魔物と同じ物。

 自分もこうなるのでは、という恐怖を感じるのは当たり前である。


「大丈夫だストレイン、何も心配するな」

「いえ、そういうつもりでは……申し訳ありません」

「ミネキシワームに関しては、”コレ”を作った奴が悪いだけだ」


 ミネキシワームは俺のものづくりにおいて欠かせない、魔物ランク★1の物質同士を同化させる特性を持つ寄生虫。

 その効果は強力で唯一なのだが、素材として活用する場合は細心の注意が必要だ。

 取り除く頭部の大きさや、素材との接合具合などを間違えると、意志は死なず再生し、また宿主に寄生しようと動き出す。

 俺は図鑑で断面図に目を通し、常に完璧な処置を行った上で使用しているが、それでも不安は拭えず、初めてストレインに会って邪眼を懇願された時も悩んだものだが。

 見よう見まねでこんな物を作った奴の事だ、ミネキシワームの適切な処理など知るわけがない。


 ただ気になるのは、ミネキシワームは本来、強靭な肉体をもつ魔物に同化することはできても、意識を乗っ取るほどの力はない。

 話に聞くと、★6クラスの魔物の意識も、寄生されておかしくなっていたとのことだったが。

 なにか俺の知らないミネキシワームの特性があるとでもいうのか?

 

「しかしこれは……やっかいだな」


 今まで俺が義眼や魔眼を売った相手は、この町の人間だけではない。

 旅の者何人かにも商売として相手をしている。

 そのため、俺の人工眼がアルカダのみならず他の大陸にいる職人達の目にとまっていることも考えられる。

 その中から、贋作を作ろうとする者が現れたといったところだろうか。

 あくまで憶測にすぎないが。

 まあ俺が危惧するのは、犯人が誰かなどではなく……


「こんな不完全な物を……頼むから人間相手に使ってくれるなよ……!」

「アキュラ殿……」


 今回は魔物を使って実験したようだが、結果を見るかぎり惨憺たる有り様だ。

 この状態で人に試す馬鹿はいないと信じたいが、しかし……

 俺が初めてストレインに魔眼を作ったときも、半ば人体実験のような状況であったことは否定できない。

 どの口が……と言われるだろうが、それでも、俺の造り出したものによって他人が不幸になるようなことはあって欲しくないのだ。


 そんな俺の様子を見て、何か安心したような顔を見せるストレイン。

 俺の隣りで膝をついて、こちらに真っすぐ眼を向けた。


「大丈夫ですアキュラ殿。あなたの生み出したモノによって救われた人間は、いまや数えきれないほどに存在します。アキュラ殿の優しき心は、僕を含めた町の皆にもしっかりと伝わっていますよ。あまりご自分を追い詰めないで下さい」

「……ストレイン?」

「畏れ多くもアキュラ殿の真似事をするその人間も、さすがの難題に今頃匙を投げているのでは? そう心配することもありません、きっと」


 俺に向かってストレインは優しく微笑んだ。


 最近の俺の様子を見て心配し、気を使ってくれているのかな。

 我ながらなんとまあ、カッコ悪いことだ。

 俺は邪眼工房の所長、しっかり気を締めていかなきゃな!


「そうだよな……いつまでもクヨクヨしてるのは俺らしくないな。心配かけてすまない、ストレイン」

「いえ、アキュラ殿は思うまま好きなように作って下さい。そのための障害は僕が全て排除します」

 

 ハハハ、頼もしいな! と俺とストレインが笑い合う。

 そうして、このエセ邪眼の件に関しては、とりあえず静観することにしたのだった。



ーーーー



 ……とはいえ。

 気になるもんは気になる。

 どうしたものかなぁ〜コレ。


 視界に入るエセ邪眼の部品を見ては、溜息を漏らす俺。

 あれからずっとこんな感じだ。情けない。

 気を取り直して作業に取りかかろうとする俺だったが、そこで店の方のベルが鳴った。


(こんな朝早くに? 珍しいな)


 どうやらお客さんが来たようだ。

 朝っぱらから山登り、ご苦労さまである。


「はいはい、ちょっと待っててくれよ」


 俺は立ち上がり、隣りの部屋に向かったのだった。

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