表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/104

28:魔帝

 十魔帝。 


 どうやら話を聞く限り、最高クラスの魔法を使える人間が、この世界に十人だけ存在しているようだ。

 ”魔帝”と呼ばれる十人の魔法使い。

 なんだかとんでもない奴らがいるみたいだな。


 選ばれし魔法使いか……。

 本物の魔法とは無縁である前世からきた俺にしたら、内心憧れる気持ちはあるが……

 俺にとって、それ以上のモノーー目指すべきものーーは、もうこの世界で見つけている。

 この先、魔帝とやらに直接俺が関わるような機会はそう無いだろう。


 俺がそんなことを考えていると、フィオーナがおもむろに眼鏡を外した。


「十魔帝については、アナタも少しは存じているのではなくて? ストレイン」


 外した眼鏡を突きつけるかのように腕を伸ばし、ストレインに語りかけるフィオーナ。

 右眼を閉じて静聴していたストレインは、ゆっくりと瞼を開けた。


「……ああ、知っている。その内の三人は……しかしそうか、彼らの使う魔法の仕組みがそのようなものだったとは」


 面識があるのだろうか。

 ストレインは過去の記憶に思いを馳せるかのように神妙に頷いた。


「なんだ、ストレインは魔帝を知っているのか。直接魔法について聞いたことは無かったのか?」

「あ、いえ。知っているとは言いましても、話したことなどほとんどありません。敵国の魔帝はともかく、コルダ王国が擁している魔帝はどんな人間でも気安く話せるような立場の方ではありませんから」


 俺の問いに答えたストレインは、わずかに俯いた。


 当時は王国の主戦力として活躍していたらしいストレインでさえ、気軽に話せない立場の人物……。

 コルダにいる魔帝は、貴族とか王族の人間なのかもしれないな。

 まあ別にそこまで気にならないので、これ以上聞く必要は無いが。


「ーーなるほど? アナタの人使魔法に対する偏った知識の原因はソレね。コルダ王国の魔帝1人とヴァレンティン王国の魔帝2人、戦場で魔帝同士の魔法ばかり見ているアナタには、彼らの使う魔法が人使魔法の基準になっていたのね」


 恐ろしいこと……と呆れた口調でフィオーナは呟く。

 言われて、腕を組んだストレインは、むぅ、と唸った。

 

 まあ数年前まで戦争のなか先陣を切ってたみたいだし、当然か。

 あ、まてよ。

 こいつの以前の異名”魔喰らい”って魔法を切り裂くからだったよな。

 もしかしてそれって相手の国の魔帝とやらの魔法ってことか?

 衰えたとはいえ……とんでもない奴はここにもいるんだよなあ。

 

「まっ、だいたいこんな感じかしら。アキュラもストレインも人使魔法にはあまり興味無いみたいだし、おおまかな説明としてはこれぐらいでいいでしょう」

「ああ、理解できたよ、ありがとうフィオーナ。どうやら俺の仕事には人使魔法は活用できそうにないな、ハハハ」

「ふん。エルフの世話になるのは癪だが、アキュラ殿の手前、礼は尽くさねばな。ご教授、感謝する」


 ぱんぱんと手を叩いて説明会をお開きにするフィオーナ。

 それを受けて俺とストレインもそれぞれ謝辞を述べた。


 大陸間の情勢ーー

 人使魔法と魔使魔法、それに魔力操作。

 いろいろとこの世界の背景、仕組みが見えてきたな。

 とはいえ、今の俺がやることは、工房でひたすら製作を続けるのみだ。

 エシュタルがどんな世界であろうと、我が道をいかせてもらうとしよう。

 




「さてと。それじゃあ、私はそろそろ行くわ」


 晩飯後、俺は工房で再び魔眼製作の作業を始めた。

 すると、旅の準備を終えたフィオーナが俺のところにやってきた。

 

「そうか。一日だけだったとはいえ、俺もフィオーナには世話になった。寂しくなるな」

「ふふ、私にとっても、とても有意義な時間を過ごせたわ。ありがと」


 俺は差し出された手を握り返し、フィオーナと握手をした。

 広大なこの世界で、この先もう会うことは無いかもしれない。

 別れの挨拶だ。


「アナタみたいな人間がこの世界にいると分かっただけでも、私にとっては収穫があったわ。各地を旅して知り尽くしたと思い込んでたエシュタルも、まだまだ広かったってことね」


 溜息をつき、自嘲するフィオーナ。

 俺はハハ、と笑って応える。

 するとフィオーナは、ローブの中から何かを取り出した。


「それでね、アキュラ。エルフには、気に入った相手と自分の持ち物を渡し合うという風習があるのだけれど……良かったらコレ、受け取ってくれないかしら」


 若干、頬を赤く染めたフィオーナが俺に指輪のような物を差し出した。

 真紅色の宝石が埋め込まれた、装飾が美しいリングだ。

 これはーー


「それは魔晶石が埋め込まれているの、綺麗でしょ? エルフの間では魔除けの指輪としてよく贈り物に使われるわ。……どうかしら?」

「ああ。あ、ありがとう。さっそく着けてみるよ」


 俺は受け取った指輪を自分の指に通した。

 真紅の魔晶石が、光に照らされて輝いている。

 女性からプレゼントなんて滅多に無いことだから、少し緊張してしまった。


「となると、俺も何か返さなきゃな。……とはいっても、何かあったかな……」


 俺は工房内をきょろきょろと見回した。

 うーん、作りかけの魔眼や依頼品が置いてあるだけで大した物は無いな。

 店の方にいけば武器とかはあるが……

 この場合の贈り物としては、なんというか無粋だよなあ。

 こんなことなら、何か小物でも作っておくんだった。

 

「……アキュラ。もしよかったら”アレ”、私に頂けないかしら」


 俺が悩んでいると、フィオーナが棚に置いてあったある物を指差した。

 それは、以前クマ吉の左目に付いていた、邪眼第一号だった。


「こんなものでいいのか? それにコレは、接合部が死んでいてもう使い物にならないが……」

「いいのよ、別に使うわけじゃないから。でもアキュラに会った記念としては、ふさわしいものではある気がするの」


 綺麗な指輪を貰って、返すのが機能停止した邪眼(ですらない義眼)というのもなんだかなあ、と俺は考えていたが……

 そこまで言うならば、是非とも受け取ってもらおう。

 たしかに、俺を象徴する物としては適切かもしれん。


「ありがと……大切にするわ」


 邪眼を受け取ったフィオーナは興味深そうに眺めた後、ローブにしまいこんだ。

 そして俺の隣にきて、俺の太ももの辺りを撫で始めーーって、おい! やめろ!

 

「あら……つれないわね。せっかく、昨日の約束通り”満足するようなすごいもの”をお礼にしてあげるつもりだったのに」

「フン、どうせからかわれるだけだからな。こっちから願い下げだ」


 フィオーナの這いよる手を払いのけた俺。

 てへ、と舌を出したフィオーナは工房を出て行った。

 

 まったく、最後まで人をからかいやがって……。

 かなり興奮したぞ、危なかった。

 




 山道の入り口手前。

 俺たちはフィオーナの見送りにきていた。

 山道の電灯をオンにして、暗い山中に明かりを灯した。

 

「女狐め。今回はアキュラ殿に免じて見逃してやるが、次会ったら容赦はしないぞ」

「……ストレイン、アナタ、どんどん私に対して口が悪くなっていくわね……。まあ、信頼の裏返しと思っておこうかしら。アナタもせいぜい気を付けて。アキュラをよろしくね」

「言われるまでもない。アキュラ殿は僕が全力でお守りする。……貴様も道中気を付けてな」


 ストレインとフィオーナが挨拶をかわす。

 コイツらは最後までこんな感じだ。

 過去にエルフと何があったのか、今度ストレインに聞いておこう。


「それじゃアキュラ。ばいばい」

「ああ、達者でな。いつかまた、機会があったら寄ってくれ」

「ええ。いずれ、また。……とはいえ、近いうちに会うことになりそうだけどね……」


 俺もフィオーナと挨拶をかわす。

 最後にボソッと何か小声で呟いていたがうまく聞き取れなかった。

 

 あ、そうだ。

 ひとつ聞き忘れてた。

 

「フィオーナ。そういえば俺を助けてくれた時のお前の魔法、うっすら”第五”という言葉が聞こえてたんだが……もしかして、フィオーナもかなり上のスペルまで使えるのか?」


 フィオーナ自身の魔法について詳しく聞いてなかったな、と思い尋ねる俺。


「……いえ、私が使える最大の魔法は、”空間魔法”の第六スペルまでよ。これでもけっこう修行を積んだのだけれど、現実って厳しいわ」

「第六スペルまで? すごいじゃないか。通りで強いわけだ」

「私なんてまだまだよ……もう一つ二つ上のスペルが使えれば”魔術師”の名で呼ばれるのだけれど。まあしょうがないわ。それよりアキュラ、結局最後までフィオと呼んでくれなかったわね。まだ警戒してる?」


 フィオーナが、じ〜、と拗ねたような目で俺を睨んでくる。

 あ、いや、別にそういうわけではないんだが……。


「なんてね、冗談よ。でも今度会ったら……ね?」


 じゃあね、と手を振りながら山を下りていくフィオーナ。

 念の為、山道の護衛はクマ吉に任せてある、大丈夫だろう。

 


 しかし、フィオーナ、か。

 なかなか面白いエルフだったな。

 なんで仲が悪いのか知らないが、案外、亜人と人間もうまくやっていけるんじゃないのか?

 いつかまた会いたいものだ。


 フィオーナの後ろ姿も見えなくなり、俺とストレインは小屋に戻っていく。

 明日もまた忙しくなるだろう、頑張るか。


 邪眼工房の、これからの発展に思いを巡らせながら、俺は小屋の扉を閉めた。




ーーーー

ーーー



 

 夜の闇に飲まれた山の中。

 自然の理に反して、等間隔に渡る人工的な光が山に目映いている。

 その中で、整備された道を歩く足音が一つ、山の中に響き渡る。


「ーーもしもし? 私よ。……ええ、今アルカダ大陸にいるわ」


 照らされる山道の中、フィオーナはゆっくりと歩いている。

 その手には、青く澄んだ宝石ーー魔晶石を手にしていた。


「……ゼラ帝国が? わかったわ、すぐに向かう。リザードマン部隊を前線に配備して侵攻を食い止めておいて。海中からはマーメイド部隊に奇襲の準備を。……ええ、そう。そうよ」


 護衛として付いていたはずのクマ吉の姿は近くに無かった。

 はるか後方、小屋から下りて少ししたところで”固まっていた”。


「ーーこら。今の私は”フィオーナ”よ。その名前で呼ばないでちょうだい。ーーそれより聞いて、思わぬところで面白い人間を見つけたわ。とんでもない男よ、詳細は後で話すけど……多分その影響で大陸の勢力均衡が崩れるわ。特に西方の二大陸は荒れるはずよ。本人たちは気付いていないようだけどね」


 魔晶石を通じて会話を続けるフィオーナ。

 

「そうね……もって一、二年といったところかしら。それまでにこちらの軍備をさらに整える必要があるわ。……ええ。その為に今から送る物をドワーフ技術部隊に回してちょうだい。……ええ、お願いね」


 会話を終え、魔晶石をしまい込んだフィオーナは、代わりにローブから邪眼を取り出した。

 

「”第七”スペル、テレポーテーション」


 フィオーナが指を鳴らすと、手にしていた邪眼がフッと消えた。


(さて、これでどこまで思惑通りに事が進むか……細かな調整が必要だわね。まあでもアキュラからの信用は、完全ではないけど得られたわ。これで、うまく繋がることができれば……)


 歩くのを止め、フードをかぶったフィオーナ。

 その口元には、妖しい笑みが浮かんでいる。


「ふふ、女の嘘には気をつけることね、アキュラ。……また、会いましょう」


 そう言い残し、指を鳴らしたフィオーナは山から音も無く消えたのだった。



ーーー

ーーーー


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ