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27:エシュタルの魔法使い

「アキュラ殿、油断は禁物です。エレキホーンは日没の刻になると、群れで固まって行動する習性を持つ魔物。一匹だけの”ライトニング”ならまだしも、それが集団になると十分に脅威です。アキュラ殿ならとっくにご存知の事でしょう」

「う……」

「素材調達でしたら僕がすぐにでも赴きます。僕のいない所で、ご自分の身を危険に晒すようなことは慎んで下さい」

「す、すまなかった……俺が迂闊だった。反省してます」


 小屋に戻り、晩飯の準備を終えていたストレインに遅くなった事情を話した。

 そうして今、ストレインに説教をされているというわけだ。

 俺はがっくしとうなだれた。


「あらあら。ずいぶんと愛されているわね、アキュラ。ふふ」


 食卓に座り、隣で頬杖をついて俺たちの様相を見ていたフィオーナが茶化すように微笑む。


「いや、俺が調子に乗った結果だ、肝に銘じておくよ。それに、フィオーナにも迷惑をかけた。言い遅れたが助けてくれてありがとう」

「どういたしまして。素直なのね。アナタの美徳の一つかしら」


 頭を下げる俺に、フィオーナは特に気にした様子もなく応えた。

 しかし実際、フィオーナがいなかったら危なかった。

 あれだけの電撃をまともに喰らえば、ただでは済まなかっただろう。

 

「まったく……アキュラ殿には今度から、僕との鍛錬に付き合ってもらいますよ。今後こういう事態が起きないためにも、戦闘における魔力の使い方や心構えなど、しっかりと教えて差し上げます」

「ひえっ……勘弁してくれストレイン」


 ストレインとクマ吉の、訓練と称した壮絶な”自分イジメ”を知っている俺は心の底から遠慮した。

 今もストレインの目が半ば本気だったのが怖いところだ。




 ご飯を食べ終え一服、といった雰囲気の中。

 俺はふと気になっていた事を尋ねた。


「そういえばフィオーナ。あのときのアレは、お前の魔法なのか?」

「ん? そうね、私の魔法よ」

「すごいな! 俺はよく知らないが、エシュタルでは魔法を使える人間はごくわずかしか存在しないんだろう? ただ者じゃないとは思っていたが……」


 俺が感心していると、フィオーナが呆れたような目でこちらを見る。


「アキュラ、私は人間じゃなくて亜人。それに、どんな人間だって魔法自体は扱えるはずよ。確かに、その適性による限界と、相当な訓練が必要ではあるでしょうけれど」


 え、そうなの? んん?

 魔法については以前ストレインからなんとなく説明を受けているが……

 疑問に思いストレインの方を見ると、顔をそらしていた。


「いえ、僕も幼い頃から山育ちが長かったものでして……騎士団にいたのも数年ほどで……人が使う魔法に関しては聞きかじった程度の知識しか無いのは認めます……コルダ王国やヴァレンティン王国の兵士たちも魔法を使える人間なんてほとんどいませんでしたし……まあ、とんでもない魔法使いは何人かいましたが……あ、でも魔物が使う魔法に関してはけっこう詳しいんですよ!」


 おい!


「いえ、よく考えたらこの大陸の人間が”人使魔法”に詳しくないのは仕方がないかもしれないわね。アナタたち二人は特に世相などにも疎いようだから、ざっくりと説明してあげる」


 どっから取り出したのか、眼鏡のような物をカチャリとかけたフィオーナ。

 なるほど、形から入るタイプかな。

 眼鏡をかけた美人エルフ……けっこう様になっている。


「フィオーナ先生の特別授業よ。よく聞いてね」


 そして、俺が用意した紙にガリガリと何か書き始める。

 これは……世界地図か。

 図鑑で見てても思うが、細部こそ違えど、やっぱり前世の地球に似た地形だな、エシュタルは。

 それも、日本を中心にした世界地図とそっくりだからなおさらそう感じる。


「言うまでもないことだけど、アルカダ大陸のコルダ王国とコルビニア大陸のヴァレンティン王国は、遥か昔から今に至るまで、因縁による戦争が脈々と続いているわ」


 地図で言う右側の二大陸、地球で例えるなら北アメリカ大陸と南アメリカ大陸の辺りか。

 ちなみにアルカダ大陸は、下側の南アメリカ大陸と同じ位置にある。

 グリグリと丸で囲みながらフィオーナは説明を続ける。

 

「大陸最強と謳われるグランディア大陸がさらなる領地拡大の野望の為に侵攻し、それを阻まんと対抗する周辺大陸、という構図が中央地帯の情勢よ。対してこちらの2国だけは、もうずっと2国間のみで争っている。長年募らせたお互いの因縁が深すぎるのね。グランディア大陸でさえ、手を出しづらく侵攻を後回しにしている現状よ」


 言いつつ、あっちこっち矢印を書いたり丸で囲ったりするフィオーナ。 

 アジアの大きな大陸が、こちらでいうグランディア大陸なのだろう。

 ついこの前、ストレインの「レギルス・オルタ」説明時に聞いた名前だ。


「それぐらいは僕も知っている。前線でヴァレンティン王国軍と戦い続けてたのだからな」

「慌てないの。魔法の説明についてはここからよ」

 

 噛み付くように反応したストレインをなだめ、フィオーナは続ける。


「頻繁に戦争が行われるせいか、コルダ王国とヴァレンティン王国は、本人の適性によって成果が左右され、さらに習得に時間を要する魔法の教育を兵士に施すよりも、魔力による確実な肉体強化の練度を高める方針をとっているみたいね」

 

 フィオーナがビシッとストレインを指差す。

 ストレインは言われるままに魔力を身に纏い、腕に集中させたり移動させたりする。


「物に魔力を込めたり、全身に纏うくらいならある程度慣れれば誰でもできるわ。ただ魔力を放出しているだけだからね。だけれど、体に纏う魔力の比率を調整したまま維持したり、一カ所に留めたりといった細かい芸当は、よほど訓練しないと難しいわ。でもそれが可能になれば、戦闘時における肉体強化の恩恵は魔法以上かもしれないわね」


 俺も魔力を纏い、ストレインの真似して制御しようと試みたが、まったくうまくいかない。

 魔力を出すときって、魔力を出すぞ!って意識しながら腹に力を込める感覚なのだが、この状態で細かい制御なんてできるもんなのか?

 コルダ王国の兵士は、訓練を積んでこういった事に長けているようだな。


「実は魔力にも性質があって、増幅効果の大小、操作の向き不向きなどもあるのだけれど……話が逸れるので説明は省くわ」


 うん、そうしてくれ。

 どうやら魔力を扱うのも訓練が必要みたいだし、時間がかかりそうだ。

 俺はものづくりさえできたらそれでいい。


「つまり何が言いたいのかというとね。西方の二大陸、アルカダ大陸とコルビニア大陸は、お互い魔法ではなく魔力操作による独特な戦闘技術を擁して昔から戦争を続けているの。だから、生まれたときからアルカダ大陸に住んでいるアナタたちが人使魔法について詳しく知らなくても仕方がないということよ。……とはいっても、この大陸は他国の細かな情報が少なすぎるわ。国がなにかしら情報規制しているとしか思えないけど」


 まあ俺も、前世ではインターネットという情報を入手する便利な代物がありながら、世界各国の情勢などテレビのニュースなどでしか知らなかった。

 それも結局、氷山の一角中の一角と言えるほど断片的なものだ。 

 人は関心が無ければ、目に見える自分たちの周辺こそが世界の全てになってしまうのだろう。

 フィオーナも何やら気になることができたようで、腕を組んで考え始めてしまった。


 ようやく自分のいる大陸について、はっきりとした情報が手に入ったな。 

 あと、(心の中で)言っておくが俺はアルカダ大陸で生まれたわけじゃねえぞ。

 

「先生。で、その”人使魔法”とは?」


 俺が気になって挙手する。

 てか個人的にはそっちを聞きたいんだが。


「あ、ごめんなさい。説明の途中だったわね」


 フィオーナがこちらに向き直り、魔法について解説し始める。


「魔法には大きく二種類あって、”人使魔法”と”魔使魔法”に分かれるわ。まあ単純に、人間や亜人しか使えない魔法と、魔物しか使えない魔法って意味ね。魔使魔法についての説明は省くわよ」


 はあ。

 なんだか随分とファンタジックな話になってきたな。

 いや、元からだったか。


「人が使うことのできる魔法は魔物に比べて数少ないわ。強化魔法や属性魔法など、種類はいくつかあるけれど、ひとつの種類に十のスペルしか存在しないの」


 一つの種類に十のスペル?

 ……むう。

 いまいちよくわからんな。

 つまりどういうことだってばよ。


「例えばね、人使魔法には”強化魔法”というカテゴリーがあるのだけれど、その魔法のスペルは一から十までしか存在しない。第一のスペルは指定対象の耐久性上昇、第二のスペルは指定対象の魔力増幅、とかそんな感じだったかしら。それが第十まであって、効果もどんどん強力なものになっていくわ」


 フィオーナが指で数えるようにして、俺に説明する。

 まあ、なんとなくわかったような。

 ちょっとゲームっぽい感じかな。


「自分の適性が高い魔法のカテゴリーほど、上のスペルを覚えられる可能性があるわ。ただ、よほどの適性が無いと、並の人間では覚えられても第三スペルまでが限界かしらね。だからこそ、この地方では魔力での肉体強化の方が重要視されているということね。実際、利にかなっているわ」


 ストレインの方を見ると、腕を組み、目を閉じて静かにしている。

 こいつ……まさか寝てるわけじゃないよな?


「そうして自身の得意な系統を修練によって練り上げ、使える魔法のレベルを上げていく。とはいっても、かなり才能がある人間でも得意系統の魔法は第六スペルまで習得できれば御の字といったところね。それ以上は才能以外の”何か”が必要と言われるほど、難しいわ」


 そこまで説明されて、なんとなく人使魔法が理解できてきた。

 要は、魔物の魔法を利用する俺の作品の方が、簡単で素晴らしいということだな!(ドヤっ)

 ……違うか。

 系統の判別方法など気にはなるが、どうせ魔法を覚えるつもりは無いしいいか。

 


「ちなみに第十スペルまで使える人間は、この世に存在するのか?」


 第六でもキツいっていってんのに、第十まで使える者が果たしているのか?

 そう思った俺はとりあえずとフィオーナに訊いてみた。

 すると、フィオーナが眼鏡をクイッとあげた。


「……存在するわ。この世界に現在十人しか確認されていない魔法使い……」

「世界に……十人……」

「その名も”十魔帝”と呼ばれる者たちよ」

ちょっと説明の多い話になってしまいました。

見づらくてすいません。

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