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26:油断大敵

 山道の周りでは、人知れずクマ吉達が暗躍してくれているのだろう。

 おかげで一度も魔物に遭遇しなかった。

 昨日の今日で、手際の良いことだ。



 工房に着くなり、早速商品を見て回る依頼人。

 いくつかある弓の中から、以前俺が愛用していたエネルケスアローを気に入ったようだ。

 魔物エネルケスの蜘蛛の糸を利用した弓で、自身の技量によって一度に操作できる弓矢の数が変わる武器である。

 魔力の使い方を知らない頃の俺が作っただけあって特別な効果などは無いが、魔力量の少ない人にとっては扱いやすいものではないだろうか。


 というわけで、依頼人はエネルケスアローをお買い上げになった。

 価格は1万サークル。

 お金を受け取った俺は、使い方や操作の仕方などをレクチャーする。

 正直、依頼人に合わせて新しい武器を作りたい欲求に駆られたが、魔眼の製作予定だったり何だり割と立て込んでいるので、ちょうど良かったとも言える。

 依頼人が帰る際に念の為、警護としてストレインも同行させた。

 


 ちなみにこの世界の通貨は「サークル」という単位でやり取りされている。

 価値については、”前世の日本通貨1円”=”エシュタルの1サークル”といったところだ。

 なんともわかりやすい。

 

 つまり先程俺は、依頼人に1万円ほどでエネルケスアローを売ったというわけである。

 ストレインによると店で買える低質な弓の相場が底値で5000サークルほどらしいので、性能に対して破格の値段設定と言える(価格を決める際ストレインが安すぎると怒っていた)。


 これについては前も言ったが、俺はお金にそこまで執着を持っていないというのも一つの理由ではある。

 だが、安くして買わせるもうひとつの狙いが俺にはあった。


 それは、エシュタル図鑑の機能拡張だ。

 簡単に言ってしまえば、客に俺の作った武器をバンバン使わせて、図鑑の討伐数を増やしてもらおうということである。

 討伐数のカウント条件は俺の製作した物によって魔物を倒すこと。

 そして、武器を買っていくのはだいたい自警団の人間か、これから旅に出る者、または王都に上って名を上げようとする者ばかり。

 必然、魔物を倒す機会が多いはずなので、やり方としてはかなり効率がいいはずだ。

 俺の作った武器の宣伝にもなるだろうしな。

 他の大陸にいる人間の手に渡れば、それらはさらに拡大していくだろう。


 討伐数を増やすのにもストレインだけでは限界がある。

 いずれはアルカダ大陸のみならず、各大陸に生息する魔物を討伐していかなければならないので、人海戦術でいこうと俺は考えたのだ。

 図鑑を埋めれば、メニューの追加や、さらなる機能の拡張などが予想される。

 俺のものづくりにおいて、有利になることは間違いない。


 めざせエシュモンマスター!は他人にやらせて……

 俺はオー○ド博士っぽい立ち回りで賢く動くことにする。

 図鑑の完成はお前らに任せた! GOだ、GO! エシュモンGO!

 ーーっと、いかんいかん。


 



「今日の仕事はこれで終わり?」


 依頼人とストレインが出て行った後、隣にいるフィオーナが訊いてきた。

 

「そうだな、あとはストレインの為に魔眼を作るのと……ああ、もうひとつ別の魔眼を作らなきゃいけないんだったな。二つ分の材料が足りるかどうか……」


 工房に移動して素材の棚を漁るが、やはり必要な分は足りていないようだ。

 魔眼製作の依頼よりもストレインの左眼になる魔眼を優先して作るつもりだが、後のために素材を補充しておくのもいいだろう。

 外はまだまだ明るい。

 いつもはストレインに任せてしまうが、たまには自分で狩りに行くか。

 フィオーナも見ていることだしな。


 工房内に立てかけてあった、最近俺が愛用している特製弓を手に持った。


「フィオーナ。俺は今から魔物を狩りに行くつもりなんだが、お前はどうする?」

「あら、ハンティング? なかなかワイルドね。もちろん付いていくわよ」

「それはいいが……本当に大丈夫なのか?」


 俺が不安になって訊き返す。


「心配ご無用よ! 自分の身は自分で守るわ。アキュラは気にしないでちょうだい」


 不敵な笑みを浮かべながら、力強く胸を張るフィオーナ。

 旅をしているだけあって、腕に自信があるのだろう。

 まあそこまで言うのならば止めはしまい。

 最悪の場合、俺が助ければいい。



 俺はリュックを背負い、フィオーナと小屋を出た。

 そうして山を登り、目当ての魔物を狩っていった。


ーーーー


「ふう。こんなもんか。あとはエレキホーンの角だけだが……」

「なかなかの腕前ね。作るだけじゃなくて狩りもこなすなんて。でも残念、時間切れよ」


 呆れたように首を横に振るフィオーナ。

 言われて俺は周りを見た。

 日が暮れ始め、山の中はどんどん暗くなっていく。

 しまったな、熱中しすぎた。


「すまん。真っ暗になる前に急いで帰ろう」

「ええ、そうしましょう」


 俺たちは小屋に向かって駆け足で山を下り始める。

 エレキホーンはまた明日狩りに来ることにしよう。



 しかしフィオーナの身のこなし、ただ者じゃないな。

 今日一日ずっと付いてきたが、狩りの最中でさえ息一つ乱さない。

 今も難なく俺の後ろに付いてきている。

 一体何者なんだ?



 山を駆けながら横目でフィオーナを窺い、その正体について思いを巡らせる。

 すると、突然彼女が叫んだ。


「ーー!? アキュラ! 危ない!」


 ハッとして俺は横の茂みに飛び込んだ。

 その直後、さきほどまで俺がいた場所に一筋の電撃が走り抜ける。

 これは……!


 起き上がり前方を見ると、魔物が立っていた。

 巨大な二本角が特徴の、エレキホーンと呼ばれる鹿型のモンスターだ。

 さっきの電撃は、アイツの角から放たれた魔法だろう。

 危ないところだった。


「すまないフィオーナ。助かった」

「いえ……だけど油断しないで」


 俺は体勢を整え、エレキホーンと対峙する。

 魔物はだいたいランク★3以上になると魔法を使って攻撃してくる。

 そうなるとかなり手強くなってくるわけだ。

 俺が以前こいつを初めて相手したときは、入念に戦闘準備をした後、クマ吉と連携してなんなく狩ったものだが……。

 

 今回不意打ち気味に攻撃されたとはいえ、やはり俺の慢心を改めるべきだろう。

 あの頃より武器も強くなっているので、今回は一人で楽にいけると思っていた。

 普段、ストレインを意のままに動かしているせいか、俺まで強くなったと勘違いしてしまったようだ。

 悔しいが反省するしかあるまい。


 俺は気を引き締め直して、弓をかまえた。

 手にした弓に魔力を送り、能力を発動させる。

 エレキホーンも角に魔力を込めて、俺に狙いを定めている。

 角が魔力を受けて、青白く光っていた。

 

 ーーーー来るッ!

 エレキホーンの放つ魔法の気配を感じた俺は、電撃を側転で回避しながら矢を放った。

 もちろん、無理な体勢で放たれた矢はあらぬ方向に飛んで行く。

 

(……だが甘いな)

 

 次の瞬間、見当違いの方向に飛んでいた矢が、空中でググッと軌道を変えた。

 そしてエレキホーンに向けて一直線に飛んでいく。

 矢に気付いたエレキホーンが、慌てて横っ飛びをしてかわした。

 だが、通り過ぎた矢は空中で再び向きを変え、エレキホーンの背後から襲いかかる。

 この動きにはさすがに対応できず、矢はエレキホーンの体を見事貫いた。


 これは義手製作の際にストレインが持ち帰ってきたワイルドシャークの余った素材、その特性を利用した能力だ。

 ワイルドシャークの持つ特性の一つに、魔力を飛ばしてマーキングした相手を追尾し続けるといったものがある。

 その特性を組み込んだ弓を作ったのだ。

 どうやら効果はバツグンのようだな。



 仕留めたエレキホーンから、必要な部位を剥ぎ取りにいこうとする俺。

 帰り際に現れるなんて、なんていいタイミングなんだ。

 さっさと済ませてしまおう。


「待ってアキュラ! まだーー」


 後ろからフィオーナが叫ぶ。

 すると、周りの茂みに潜んでいたエレキホーンの群れが一斉に姿を現した。

 どの角も、青白く光っている。

 もはや電撃が放たれる寸前であった。

 

(ーーーーしまっ) 


 反省したはずの俺は、さっそく油断した自身の愚かさを嘆く暇もなくーー

 エレキホーンの群れから放たれた電撃の海に飲み込まれていきーー


「……第五……チェンジ……」


 フィオーナが小声で何か呟いた後、指を鳴らした。

 パチンッ!

 その音が響いた瞬間、俺の目前まで迫っていた電撃が全て消失していた。


 ーーいや、違う。

 よく見ると、俺はフィオーナの隣にいた。

 少し離れた前方ではエレキホーンの放った電撃が小石にぶつかり合っている。

 ……いったい何が起きた?


「さっ、今のうちに逃げましょう」


 呆然とした俺を強引に引っ張り、駆け出すフィオーナ。

 俺も言われるがまま走り、その場を後にする。

 

 もしかして今のはフィオーナの魔法なのか?

 本物の魔法使い?


 そんなことを思いながら、俺とフィオーナはなんとか小屋まで帰ったのだった。

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