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25/104

25:酒場にて

 翌朝。

 やはり、夜這い等のムフフイベントも無く(あるはずもない)目を覚ました俺。

 ストレインと居間に向かうと、フィオーナはもう起きていた。

 あっ! 人ん家の保存食勝手に食ってやがるコイツ!


「おはようさま。二人とも、昨日はよく眠れたかしら?」


 のんびりお茶を啜りながら、にっこり微笑むフィオーナ。

 悪びれた様子もなく、こちらに向ける笑顔もまた美しい。


 だがもう騙されんぞっ!

 

「ああ、おかげさまでな。体の節々が痛い。……まったく、ストレインの言った通り、実はただの盗賊じゃないだろうな」

「あら、失礼しちゃうわね。ちょっとベッドを借りただけじゃない、ケチくさいこと言わないでよね。それに見なさい、なーんも盗っちゃいないわよ、ほら〜」


 両手をひらひらと振り、おどけるフィオーナ。

 

 おのれ……。

 俺の純情をもてあそびおって……この女……。

 エルフってのは皆こうなのか?

 

「だから止めたのです、アキュラ殿。エルフというのは狡賢く悪知恵ばかり働く種族。まともに相手をしてはいけません」

「聞き捨てならないわね。アナタたち人間の方がよっぽど狡猾で姑息な生き物じゃない。そのうえ欲深い。まあ、アナタのような視野の狭い妄信的な人間には言っても分からないでしょうけど」

「なんだと! 貴様、もう許さん!」


 キャー、とわざとらしい悲鳴を上げて逃げ回るフィオーナ。

 待て、と憤慨し、彼女を追いかけるストレイン。

 ドタドタと居間が騒がしくなる。

 二人は机の周りをグルグルと追いかけっこしていた。


 ……朝から元気だなコイツら。

 ストレインから楽しそうに逃げるフィオーナを眺めながら、俺は笑った。

 

 まあ昨日のは俺が勝手に勘違いしただけだし……。

 特別騙されたりしたわけじゃない。

 彼女が何かを盗んだわけでもないようだ。

 ストレインはともかく、俺にはフィオーナを嫌う理由は無い。


 それに、こうして見ていると、エルフといっても人間と何ら変わらない。

 昨日知り合ったばかりの縁だが、仲良くやれそうだ。


 なんて考えながら、俺は居間の脇にあるベッドに近づいた。

 シーツ代わりに魔物の毛皮などを使っている、俺の普段の寝床だ。

 そして乱れたままのベッドをじっと見つめる。


 このベッドで昨日フィオーナが……。

 ーーふふ。

 あとでじっくりと堪能させてもらうぞ……。


 ニヤリと笑っていると、後ろから飛んできたヤカンが俺の頭に直撃した。




 


「ここからちょっと歩くぞ」


 昼前の頃。

 昨日完成した依頼品を届けるのと、ドボルグの紹介する客に会うため俺たちはリュミエの町に来ていた。

 フードをかぶって耳を隠しているフィオーナと、その隣にはストレインが後ろを歩いている。

 昨晩彼女が言っていた通り、今日一日俺の仕事に付いてくる気みたいだ。


「のどかな所ね、この町は。大陸同士の戦争状況なんて、夢みたいに思えるわね」


 リュミエの町を歩きながら、どこか寂しげに呟くフィオーナ。

 自分の故郷でも思い出しているのだろうか。

 頭にできたタンコブをさすりながら、俺はふと思った。



 そうして歩いていると、畑を耕していた若い町人に声をかけられた。

 以前に、工房に製作依頼してきた者だ。

 俺もそれに応えて声をあげる。


「調子はどうかな? 問題ない?」

「ああ。アキュラさんの作ったこのクワ、すげえイイよ! 魔力込めただけであっという間に耕せちまうし、俺の少ない魔力でもしっかり動く。ありがてえこった」

「そうか、またなんかあったら教えてくれ。改良する」

「仲間たちも羨ましがってたぜ。すぐに依頼が行くかもな。……あ! それと昨日の山見たぜ! 面白いことやってんなあアンタら」


 ハハハと笑い、挨拶もそこそこにしてその場を離れる。

 俺の作品も問題ないようだし、町人との交流もいい感じだ。

 このまま、町での信頼を勝ち取っていければ嬉しいかぎりである。


 だが、今だに問題はある。

 通りを歩く俺たちを見て、工房を知っている人間は気さくに声をかけてくれる。

 だがその中にいるストレインを見るや、居心地が悪そうにそそくさと去っていってしまうのだ。

 この町の人間たちにはまだまだ、戦争の傷痕が強く残っているようだ。

 特に、心の方には。

 事情はストレインから聞いているが、なんともやりきれない思いである。

 いつかそのわだかまりも解消させてやりたいとは思う。


「アナタも中々苦労しているようね、ストレイン」

「……僕が不甲斐なかったのは紛れも無い事実だ。甘んじて受け入れるさ」 


 人間達から偏見の目で見られるエルフのフィオーナにも、現状のストレインに対して感じるものがあるらしい。

 ストレインを慰めるかのように、声をかけていた。


 

 そうこうしているうちに俺たちはドボルグの酒場に着いた。

 中に入ると、アイリスが拭き掃除をしている。


「あっ! アキュラさんっ、いらっしゃいませ!」


 俺に気付いたアイリスが、二階にいるドボルグに声をかける。

 そして、こちらに駆け寄ってきた。


「席に座って待ってて下さい。お父さんもすぐに下りてきますので」

「いつも悪いなアイリス。助かるよ」

「いいえ。アキュラさんの為なら私もお父さんも頑張りますからっ! 任せて下さい!」


 ぐいっと腕まくりし、元気一杯な姿を見せるアイリス。

 エプロン姿が似合って、今日もよりいっそう可愛いらしい。

 すると、俺の後ろの二人に気付いた。


「あれ? 後ろの方達は……ストレインさんと、その女性は?」

「ああ、気にしないでくれ。今日だけ俺の仕事に付いている……」


 俺が喋っていると、後ろにいたフィオーナがアイリスの前に出た。


「フィオーナよ。普段は各地を旅して回ってるの。よろしくね」

「一人で旅を……? すごいです! あっ、わたし、アイリス・ハメリーティといいます。よろしくおねがいしますっ。」


 アイリスとフィオーナが挨拶を交わす。

 場の空気がにわかに華やいだ。

 やっぱり、女の子はエエの。


「あ、あの、フィオーナさん。アキュラさんとはどういう……?」


 俺との関係が気になったのか、アイリスがおずおずとフィオーナに尋ねる。

 その様子を見て何を勘付いたのか、彼女がなるほど、と手を叩いた。 

 そして、意地悪そうな笑みを浮かべてこっちを向いた。


「昨日はアキュラの家に泊めてもらったのよ。町に着いたばかりの私を一つ返事で受け入れてくれたわ。彼、すごく優しいのね。言うならば、私とアキュラは一つ屋根の下で寝食を共にした関係……といったところかしら」

「……アキュラさん?」

  

 おいっ!

 事実は事実だが、言い方ってもんがあるだろ!

 これじゃアイリスにただのスケベ野郎と勘違いされるだろうが!

 ……まあ、間違ってないか。

 

 アイリスがじと〜っと俺の方を非難する目つきで見てくる。

 その様子を横で見ているフィオーナがニヤニヤしていた。


 昨日から俺こんなんばっかだな。

 いいように遊ばれてる気がする……。

 ……なんか少し、前の世界を思い出すな。みじめだ……。


 

「待たせたな、アキュラさん! すまねえ……っと、なんだか賑やかだな、ガハハ」 

 

 俺が内心落ち込みはじめていると、階段上からドボルグが下りてきた。

 今はその存在がありがたい。

 さっそく席についてドボルグと話し合う。

 完成した依頼品をドボルグに預け、お互い近況を話したり、工房に山道ができたことについて等を報告した。


 その間、アイリスとフィオーナは離れた席で何かコソコソ会話しているようだった。

 俺の仕事を見るんじゃなかったのか? まったく。

 ストレインは壁にもたれかかり、目を閉じて瞑想していた。

 


 それから少し経って店に現れた、待ち合わせの約束の依頼人。

 要望を訊いてみると、どうやら王都に向かうにあたり、武器が欲しいようだ。

 弓が扱えるとのことらしいので、一度工房に来て商品を見てもらう話になった。



「それじゃドボルグ、そろそろ行くよ。また連絡する。アイリスも、またな」

「おう、気をつけてな! たまには酒も飲みに来てくれ」

「アキュラさん、また来て下さいねっ。ストレインさんもお気をつけて」

「ありがとう、アイリス殿。アキュラ殿の安全は僕にお任せを」


 それぞれ挨拶を交わし、依頼人を伴い店を出て行く。

 残ったフィオーナが、なにやらアイリスと話しをしていた。

 開いた店の扉から、中の様子を窺う。


「アイリス、いい? アキュラは押せばコロッと落ちるわ、童貞だからね。今日教えたみたいに、積極的に小屋に押しかけて迫りなさい。ちょうど山道もできたことだしね」

「は、はいっ。フィオーナさん、私、頑張るっ」


 アイリスがグッと両手を握って気合を入れている。

 話の内容はうまく聞き取れないが、どうせロクでも無い事を吹き込んでいるに違いない。

 

「それとアイリス、これを持ってなさい。アナタみたいな心の清らかな人間は久しぶりだわ。私からの友好の証と思って、良かったら受け取ってちょうだい」

「これは……ネックレスですか? きれい……」

「いつかアナタに何かあったとき、役に立つかもね。ま、覚えておいてちょうだい。それじゃ、もう会うことも無いかもしれないけど。じゃあね。楽しかったわ」

「はい、フィオーナさんもお気をつけてっ。ありがとうございました」


 アイリスに何か首飾りのような物を手渡すフィオーナ。

 いつの間にあんな仲良くなっていたんだ?

 

 合流した後、それとなくフィオーナに訊いてみると、


「内緒。女同士の秘密よ」


 人差し指を口に添え、片目をつむりこちらに微笑むフィオーナ。

 フードの下から覗くその顔はなんとも魅力的だった。

 まったく、敵わんな。

 女は怖いぜ、くわばらくわばら。


 そうして、町での用事を済ませた俺たちは、

 依頼人を連れて邪眼工房へと戻ったのだった。

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