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23:魔物に対しての意識

 少し経って小屋に戻ってきたストレインとクマ吉。

 いつものように小屋の外で焚き火を囲み晩ご飯にする。

 燃え盛る炎が暗くなった周りを照らし出す。



 口をモグモグさせながら俺が尋ねた。


「そういえばストレイン。左眼、どんな能力がいい?」


 ストレインは俺の質問に首をかしげつつ答える。


「……僕が決めてしまってもよろしいのですか?」

「当たり前だ、お前の眼だぞ。それと右眼の竜化能力だって変えたかったら言ってくれ。別の特性入りレンズを作って差し替える」

「こ、困りましたね。僕はアキュラ殿に作って頂いた物ならどんな能力でも構わないのですが……」


 うーん、と唸りながらストレインは手にした食器を置いて悩み始めた。



 実はこの提案、俺としてはかなりバツの悪い話であった。

 以前、ストレインが義手の素材収集に赴く際、待っている間に左眼を作っておくと言っておきながらまだ完成すらしていなかったからだ。


 いや、作成途中の邪眼はあるにはある。

 だが結局、ストレインの協力無しでは足りていない素材の入手は難しい。

 こう聞くと、最初からストレインが帰ってくるまで作れなかったんじゃねーかとツッコまれるだろうが、まさしくその通りである。面目ない……。

 結局そのあと、怪我したストレインに素材を穫りに行かせるワケにもいかず、左眼のことは忘れて工房の仕事に打ち込んでいた。

 つい最近町人からの依頼の中に、魔眼の製作要望があった時に俺は思い出し、内心ヤベッと焦り今に至るというわけだ。


 先ほど工房で「考え過ぎてもしょうがない」「なるようになれだ」なんて考えていた俺だが、

 後先考えずノリや勢いだけで動く自身の言動や行動について、少しは反省するべきかもしれんな。


 ストレインの左眼を後回しにして魔眼の依頼を受けるのはさすがにアカン。

 当のストレインは全く気にしてないと思うがな。

 俺が勝手に気まずく思っているだけです……はい。


 

 また素材集めの途中にストレインが危機に陥る可能性があるかもしれないので、

 いったん邪眼作成をストップし、左眼にもとりあえず魔眼をつけることにした。

 魔眼の仕様なら今ある素材ですぐに作れるので、都合も良い。

 ただし、特性に関しては手持ちの素材限定になってしまうが。

 ストレインにとっては、単純に眼が二つになるだけで戦力倍増だろう。

 改めて邪眼が完成したら、取り替えればいい話だ。



「うーん、やはり僕だけでは決められませんね。竜法は使い勝手がいいので、右眼はこのままでも問題ありませんが……。アキュラ殿はどんなものがいいと思いますか?」


 悩んだ末、結局俺に振ってくるストレイン。

 

「そうだなあ。……右眼が強化能力なら、左眼は攻撃能力とかにしとくか? 攻撃といっても、魔物特有の詠唱なし魔法を放つとかその程度だが」

「……その程度と仰いますがアキュラ殿、竜法といい魔法といい、本来人間がやすやすと使えるものでは無いんですよ?」

 

 あきれたようにストレインが呟いた。

 それを無視して俺は頭の中にエシュタル図鑑を展開させる。


「えーと、山で確認したモンスターで……良さそうな奴……」


 討伐済みリストを眺めながら、俺はうーんと唸る。

 この山にいる魔物はたしかに凶暴な奴も多いが、戦闘面に関してはかなり控えめだ。

 なんせ魔物ランク★4のレプリカヒュドラが山の主として君臨しているくらいなのだから。

 攻撃的な能力や魔法を持つ魔物は少なく、どちらかといえば特殊な生態や特性を持つ魔物が多い。

 魔眼のような複雑なものも作れてしまうほどバリエーション豊かな場所ではあるが……。

 今回は、戦闘力重視。

 魔眼に付属させる能力に関していえば、ここの魔物はあまり向いていないだろう。


「★3エレキホーンの電撃魔法、テツサイカリバーにも使った★3フライングボアの風魔法、この辺りが限界かな。威力はストレインの魔力によって増幅されるから、そこまで悪くは無いはずだが……。後は★4レプリカヒュドラの毒攻撃くらいか……」


 作る魔眼の能力に関して、ブツブツと一人で考え込む俺。

 すると気になったのか、ストレインが声をかけてくる。


「アキュラ殿、さきほどから”★3、★4”とは一体? 魔物の名前にそんな単語が付くとは、聞いたことがありませんが」

「ん? ああ、魔物の強さを現すものだ。気にしなくていい」

「は、はぁ……」


 言われて気付いたが、魔物の危険性について《ランク★》という形で認識しているのは図鑑を持つ俺だけなのか。

 ということは、

 図鑑の定めた基準によって、ある種ゲーム感覚で魔物を格付けしている俺と、

 そうでないこの世界の人間とでは、魔物に対する感覚が違うのかもしれん。


 ちょっと気になっていたことをストレインに聞いてみるとしよう。


「ストレイン、《レギルス・オルタ》という竜を知っているか? あとは……《ヘルズ・アラクネリオン》という蜘蛛の魔物なんだが」


 俺は以前図鑑で見た★10の魔物と、砂漠地帯に潜んでいるらしい★9の魔物について尋ねてみた。

 俺にとっては〈この世界におけるかなり強い部類の魔物〉程度の認識だ。

 すると、ストレインが任せろといった自信満々の顔で俺に喋り始めた。


「伝説級の魔物たちですね。レギルス・オルタ……1000年以上前から生きていると言われる竜種の覇王です。西方の大陸グランディアに生息するレギルス竜種を統べる魔物でして、しかし、実際にその姿を見た者はほとんどいません。200年ほど前に人間がオルタの怒りを買って、大陸の半分を焦土に変えられたことはエシュタルの歴史としても有名です。どの大陸の、どの国もこの竜を恐れており、特にグランディア大陸は生息していると思われる火山地帯への立ち入りを一切禁じています。他にもレギルス・オルタが使う竜法は、他の竜種とは異なる特殊なものという説があり……」


 意気揚々と話し続けるストレインの言葉を右から左へと流しながら、俺は冷や汗をかいた。


(やべー、★10やべー。かなり強いとかいうレベルじゃなかった……ハンパねー)


 いずれストレインの竜化の魔眼を、

 レギルス・オルタ製の最強仕様にしてやろうと密かに企んでいたのに。

 これじゃ当分どころか一生無理な企みかもしれん。

 大陸半分焼くような相手はどうしようもない気がする。


 以前図鑑からも感じたとおり、★の上の方は想像以上の強さらしい。

 聞くまでも無くアラクネリオンも伝説級とやらに違いない。


 ランク★8以上の魔物は、やはり手を出すべきでは無いのか?

 しかし、作りたいものにはこれからも必要な素材がまだまだある。

 諦めたくねえなー、俺もなー。


 


 まあとりあえず、その問題は置いとくとして。

 そうして俺は椅子から立ち上がった。

 まだまだ喋り続けているストレインに問答無用チョップをかまし、クマ吉も連れて一緒に山道の前まで向かう。



「よし。二人とも、見とけよ〜」


 俺は山道の脇に置かれた、大きな箱に近づく。

 そして箱を開け、中を弄ったーーすると、

 


 暗闇の中、明るい光がパアッと輝いた。

 ストレインが整備した山道を、等間隔に設置した電灯が照らしている。

 小屋で使っている電灯を量産して山道の両端に取り付けたのだ。

 

「これは……なんとも神秘的な光景ですね……」


 ライトアップされた夜の山道を見て、感嘆の声を上げるストレイン。

 クマ吉も横でクウゥ……と鳴いていた。

 ぼーっ、と光を眺めているストレインに近づき声をかける。


「お前が作ったんだぞ、この光景は。ご苦労だったな、ストレイン。これからも頼む」

「は、はっ! ありがたき幸せと存じまする!」

「侍かオメーは」


 感動してテンパり気味のストレインをからかい、俺は笑う。

 本当によくやってくれた。

 クマ吉も俺のために動いてくれている。

 俺もやる気が出るってもんだ。


 ぶっちゃけると、夜間は別に工房を開けるつもりは無いので、山道の電灯は必要ない。

 完全に趣味でつけたものだ。

 でも夜に輝く電灯ってやっぱり綺麗だし、人を惹き付けるものがあるよな。

 作ってよかった。うむ。



 しばらく電灯を点けた状態で過ごし、山道の前でストレイン達と話し合っていた。

 そして、一日中点けっぱなしなのもアレなので消して小屋に戻るかーと二人に伝え、帰ろうとしたときである。

 下の方から、人の気配がした。


 ーーこんな時間に誰か登ってきているのか?


 突然の来訪者にストレインは剣を構え、クマ吉は魔眼を解放する。

 俺も身構えた。


 そして照らされた山道の中、人影が見えてくる。

 フードをかぶっていて、顔は見えない。

 一体、何者だ?

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