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21:異世界交流

 さっそく山を下りて、町に向かう。

 ふもとの町の名前はリュミエと言うそうだ。

 人口も少なく、アルカダ大陸の王都周辺からは、山奥にある秘境のような認識をされているらしい。

 ストレイン曰く、実際そのようなものだとか。

 

 図鑑のマップ上でも確認したが、このアルカダという大陸。

 位置といい形といい、前世の地球上でいう南アメリカ大陸のようだった。

 

 そしてリュミエは大陸の最南端にある山岳地帯の中に存在していた。

 なるほど、これでは田舎町扱いなのも納得だ。

 大陸の北にある王都との交易なども不便だろう。


 などど考えながら歩いていると、町の門が見えてきた。南門と書かれている。

 ストレインの話では、魔物の侵入を防ぐために自警団の見回りがいるとのことだったが姿は見えない。

 基本的に町はほとんど平和なのだろう、自警団とやらの仕事もいい加減なものだ。

 俺は門をくぐり、町に足を踏み入れる。


 見渡すと一面畑ばかりで、所々にぽつぽつと家が立っている。

 ここだけ見たら、山奥の農村そのものだ。

 しかし、町の中央付近はもっと栄えているらしい。

 ストレイン手書きの案内図によるとアイリスの家は、今いる南区の中でも中央寄りの場所にある。

 このまま町の中心に向かって歩いていけば着くだろう。


 とりあえず周りを見渡しながら歩いていく。

 俺にとっては初めて見る異世界の町だ。

 雰囲気などは前の世界と大して違わないが、

 1年以上もずっと山の中で暮らしていた俺には新鮮であった。

 

 すれ違う町人が、ちらりとこちらを窺う。

 この町の住人にとって俺は、今まで見たことが無い余所者である。

 そして背中には、布のような魔物の皮で包んだ義手を担いでいる。

 山に囲まれた町ゆえ、旅人などもあまり訪れないのだろう。

 珍しい物でも見たような好奇の眼差しが、妙にこそばゆい。

 

 ああ、こういうのちょっと苦手なんだよなあ。

 早めに届けてしまおう。


 俺は観光気分で歩くのを止め、動かす足の速さを少し上げた。



 

 しばらくして、無事目的地に辿り着いた。

 看板は降ろしてあるが、酒場だったというアイリスの家に間違いないだろう。

 この辺りはもう町の中央区にさしかかっている地域みたいで、

 家や店などが大通りに沿って並んでいる。

 けっこう人通りもあり、俺はさっさと扉を叩いた。



「ア、アキュラさん!? どうしてここにっ?」


 突然の来訪者に驚くアイリスに事情を説明し、俺は店の中に入った。

 酒場だった室内は明かりが点いておらず、うす暗く寂しい雰囲気を醸し出していた。

 だが机や椅子が綺麗に整頓されており、床の掃除もきっちりかけてある。

 アイリスがこの店を思う気持ちが伝わってくるというものだ。

 

「もうできたんですか、凄い! ありがとうございますっ!」


 義手の完成を聞いたアイリスが、勢いよく頭を下げる。

 艶のある長めの髪が元気よく跳ね、鼻先をくすぐった。

 

「それで、親父さんはどこに? 早速付けてもらいたいのだが」

「あっ、ちょっと待ってて下さい。今呼んできますからっ」


 慌てたように階段を上がっていくアイリス。

 揺れるスカートを眺めながら、俺はその場にしゃがみ込む……のは流石に止めた。

 荷物を机の上に置き、その辺の椅子に腰掛ける。

 

(一応、多少の調整はできるように簡易工具も持ってきた。後は無事に腕が繋がるかどうかだな)



 そうして待っていたが、アイリスは二階からなかなか下りてこない。

 どうしたのだと荷物を背負い、階段の方へ近づく。

 すると二階からは騒ぎ声が、その後に何かビンが割れたような高い音が響いた。

 これは……。


 なんとなく事態を察した俺は、勝手に階段を登っていく。

 そして登った先の部屋では、酔って顔を真っ赤にしたアイリスの父親と思しき男が怒鳴っていた。


「アイリス、テメェ! このオレを馬鹿にしてんのか!」

「ち、違うの。お父さん、話を聞いてっ……!」 

「うるせえ! 誰に吹き込まれたか知らんが、動く義手だと? そんなもの都合良くあるか!」


 男は酔いながら激昂し、立ち上がった。

 そして部屋の前で様子を窺っていた俺と目が合った。


「テメェか! うちの娘を騙してんのは! ぶん殴ってやる……!」  


 男はこちらに向かいながら、止めようとしたアイリスを突き飛ばす。

 砕けたビンの破片が落ちている部屋にだ。


 その瞬間、俺の中でなにかが切れた。

 どうやって事態を収めたもんかと先程まで考えていたが、もはや関係ない。

 切り替えていく。

 俺は背中に担いだ荷物から包みをとり、魔物の皮をはがす。

 できあがった義手が、姿を晒した。


 現れたのは、完成した自作の義手。

 魔物の骨をベースに作り上げた、骨鎧〈ボーンメイル〉といったところか。

 肩に取り付ける部分からは触手のようなワームの体が飛び出している


 義手を片手に、俺は構える。

 そして、左腕を振りかぶって殴り掛かってきていた目の前の男をいなし、

 思い切り床に組み伏せた。

 その衝撃で音をたてて床が大きく揺れる。

 こちとら日頃から魔物を狩って生活してんだ、酔った人間なんて相手にならん。

 腹立ったので、ついでに一発殴っておく。


 それでもなお、もがき続ける男の欠けた腕の肩口へ、俺は手にした義手を強引に押し当てた。

 ワームが肩口の肉と絡み合うようにして潜り込んでいく。

 その不気味かつ奇妙であろう感覚に、男は呻き声を上げおとなしくなった。


「目は覚めたか? 一度冷静になって、周りをよく見てみるんだな」


 床に倒され苦しそうに呻くアイリスの父親に、俺は上から冷たく言い放った。

 部屋に散らばるゴミやガラスの破片。

 隅の方でうつ伏せに倒れているアイリス。

 

 自分の今までしでかした事の重大さに、男の顔色がサッと引いていく。

 酔いは覚めたようだ。

 そうしてうなだれたまま、消え入るような声で「……すまん」と呟いた。

 その頃には、右腕の義手はもう寄生を終えて同化していた。




 その後、幸い怪我の無かったアイリスを起こしてから汚い部屋を出て、一階に下りた。

 アイリスの父親・ドボルグはアイリスに泣いて謝った。

 それを受けてアイリスも涙を流しうなずいている。

 この家族のこれからの関係については、後は二人の問題だろう。

 俺が何か言うべきでもない。


 二人が落ち着いてから、俺はさっそく義手の説明をした。

 事後承諾の形になってしまったが、義手は体に寄生しているのだ。

 特に、魔物でできた腕がいきなり右腕に付いたことに動揺しているドボルグには、よく言ってきかせた。

 あと、ワームに殺傷効果のあるツルタケ茶はこれから極力控えるようにとも。


 そのあたりの取り外しについても、もう少し改良したいところだがな。

 ワームの研究は、これからも必要だろう。


 微妙にズレていた腕の大きさも、工具を取り出して調整してやった。

 これで大した違和感もなく日常生活を送れるはずだ。


 右腕の義手を感慨深そうに見つめるドボルグ。

 同化したとはいえ、まだ完全に繋がりきっていない腕をぎこちなく動かした。

 手の開閉ーー握る、開く、握る、開く。

 夢ではないことを確かめるように、ゆっくりと。

 骨でできた指の間接部が動く度にカチャカチャと音を立てた。


「こんな……魔法だって聞いたことがねえ。まさか、本当に腕の代わりになっちまうなんて……」

「今のところ世界で一つだけの特殊な義手だ。どう使うかはアンタの自由だが、大事に使ってくれよ」


 感嘆するドボルグに俺は一応忠告をした。

 手に仕込んであるギミックーー魔力を通すと変形する機能はすでに伝えてある。

 だが、ブレードに変わったり砲撃なども行えるようにしているので割と危ない。

 アイリスと和解したドボルグがもう暴挙に出るとは考えたくないが、釘を刺しておく。


 なんでわざわざそんな機能つけたかって?

 ロマン。




 俺の言葉を聞いたドボルグが、後ろに一歩下がる。

 そして、アイリスに向かって頭を深く下げた。


「本当に……すまなかった、アイリス。謝っても謝り足りねえ、オレがバカだった。母さんだけじゃなくお前まで失うところだった」

「お父さん……」


 そうしてドボルグは顔を上げた。

 その表情に、酔っていた時の情けない面影はもう残ってはいない。


「今日からまた頑張るよオレ。本日よりハメリーティの愉快な酒場、再開だ。だからまた、オレを助けちゃくれねえかアイリス」


 ずっと待っていたその言葉に、アイリスは涙を流す。

 そして、とびっきりの笑顔で応えた。


「うんっ! まっかせてよね! お父さん一人じゃ心配だし、しょうがないわね。また私がこのお店を盛り上げてあげる」

「ガハハ、頼もしいな。それじゃあ早速、表の看板を上げてきてくれ。明日から忙しくなるぞ」

「わかった! 町の皆にも伝えてくるっ!」

 

 タタッと嬉しそうに店の外に駆けていくアイリス。

 


 その後ろ姿を見送った後、ドボルグは俺の方にも深く頭を下げた。


「ウェムラ・アキュラ……さん、だったな。本当に、何から何まで面倒かけて申し訳なかった。オレが不甲斐ないばかりに……」

「いや、いい。俺は依頼された義手を作ってきただけだ。感謝はアイリスに伝えてくれ」

「それでも言わせてくれ。この腕も、本当にありがとう。おかげで、また一から始めることができそうだ」

「そうか、それはよかった」


 顔を上げガハハっと笑ったドボルグに、俺もフッと笑う。

 なにはともあれ、全て丸く収まって良かった。

 するとドボルグが少し声を潜める。

 

「それでアキュラさん、この腕の依頼金についてなんだが……。アイリスとは……どういう話をつけているんで?」


 不安そうな顔でこちらを見るドボルグ。

 義手の価値を知る以上、相当な値段を覚悟しているのだろう。

 俺は用意してきた答えを返す。


「そうだな、金は後払いという約束だったが、やめた。無しでいい」

「え……?」


 ドボルグが目を見開いて驚いた。

 タダにすると言っているのだ、無理もない。


「そのかわり、店内にこのビラを貼って欲しい」


 俺は荷物の中から、何枚かの紙を取り出し渡した。

 それは、ストレインが作ったウェムラ邪眼工房の宣伝紙を俺が書き写したものだ。

 

 

 正直今の俺の製作事情に、お金はあまり必要ではない。

 魔物の素材で組み立てる以上、材料費はかからないからである。

 それに評判が上がり客がつけば、いつでもお金は手に入るだろう。

 わざわざドボルグたちから大金をせしめることもあるまい。


 そう思い、ドボルグには報酬の代わりに店の宣伝をしてもらうことにした。

 いまだ驚いているドボルグにその意図を伝え、了承してもらう。

 ドボルグは大げさではなく、本気で泣いて喜んでいた。




「アキュラさん! またいつでも寄ってくれ! アンタは飲み食い自由だ! それと依頼人が現れたらその都度伝えるぜ」

「ハハ、ありがとう。俺も山と町でのいい連絡方法を考えておくよ」


 手を上げてドボルグに応えながら、店を出た俺。

 一仕事やり終えた充実感を胸に、ぐ〜と腕を伸ばした。


 さて、ストレインの様子はどうだろうか。

 まあ早く帰ってやるか。


 そう思い歩き始めようとした俺の前に、アイリスが現れた。

 エプロン姿がよく似合っている。

 どうやら、俺を待っていたようだ。


「アキュラさん……あの、本当にありがとうございましたっ。私の無茶なお願いを聞いていただいて。おかげで父も私も、また頑張れますっ」

「ああ、楽しみにしているよ。それと報酬の件については、君のお父さんと話は済んでいる。何も心配しなくていい」


 そう言いつつ、俺は安心させるようにアイリスの頭に手を置いた。

 

「今まで一人でよく頑張ったな、アイリス。もう大丈夫だろう」


 そうして、アイリスの頭を撫でる。

 すると、みるみるうちにアイリスの顔が赤くなっていった。

 う、我ながらちょっとクサかったかな?


 慣れないことはするもんじゃないな、と俺は手を離す。

 瞬間、顔を真っ赤にしたアイリスが両手で俺の手を握りしめた。


「ア、アキュラさん! 絶対また来て下さいねっ。サービスだってしちゃいます、私、待ってますから」

「あ、ああ。多分またすぐ来るよ。義手の様子も気になるし……」

「絶対、絶対ですよ? 約束ですっ」


 握った俺の手に、一瞬、指を絡めてくるアイリス。

 え、ナニコレ?


 パッと手を離したアイリスは、火照った顔を隠すように店の中に駆けていった。

 俺は少しの間、動くことができなかった。


 まったく……DTにはキツいぜ。


 恥じらうアイリスの顔を思い出しては、気持ち悪い笑みを浮かべる俺。

 町の住人に不審がられながら、逃げるように山へ帰った。



 こうして、邪眼工房発足以来、

 俺にとって初めてとなるアイリスからの依頼を無事に終えたのだった。


《依頼No.1:ドボルグの右腕義手製作ーーーー完了》



ーーーー


 その後、アイリスの働きで評判を取り戻したドボルグの酒場からの口コミで、

 工房への依頼が急激に増えた。

 魔物を専門に取り扱うということで、半信半疑の人間や冷やかしも多いが、

 以前のストレインやドボルグのように真剣に悩んでいる人も少なくなかった。


 回復したストレインとともに、忙しい日々に追われながら、

 俺の工房は順調に町での評価を得ていった。

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