20:帰還と反省
ストレインが旅立ってから9日が経過した頃。
邪眼工房では、いつものように俺が作業に励んでいた。
だが加工しているのは製作途中の義手では無い。
義手に関しては、現在揃っている分の素材で作れるだけのパーツは作り終えていた。
残りのパーツは、ストレインが持ち帰る予定の素材を待つのみだ。
というわけで今、俺が加工している物。
それは、新しく作成中であるストレインの左眼用の邪眼だ。
ちょうど邪眼の外殻を組み立てているところだった。
時間は有効活用しないとな。
邪眼作りもこれで4個目。
いいかげん慣れて手も早くなってきたところだ。
それに今回の俺は、今までとは意気込みが違う。
これまでは、邪眼と言いつつ只の”義眼”だったり、邪眼と言いつつ自称”魔眼”だったり。
なんというか、我ながらなんとも腑に落ちない状態であった。
まあ本来、邪眼と魔眼は同一の物を指す言葉なので区別する必要性は全くない。
ここで俺が言う”邪眼”・”魔眼”とは、元々の言葉通りの意味では無く、俺が作る人工眼に対するただの名称分けと思ってもらえればいい。
扱いやすく魔力を消費して自在に特性を使用できるようにした物が”魔眼”で、持続性が長く発揮される効果も強力だが常時発動型で副作用も出てしまう物が”邪眼”と俺が勝手に名付けているだけだ。
そしてこの新作は、今までの魔眼では無く、初めての邪眼の開発途中。
これまでに俺が作った4つの眼で得た経験から、ついに、本格的に”邪眼”開発に着手し始めたということだ。
経験から得た知識によって、理想に近いものがイメージできている。
基礎構造は、今までの眼とほとんど同じなので、作業はなんなく進んだ。
(まあ正直、”魔眼”が使いやすく効果も十分な以上、”邪眼”なんて扱いづらい物をわざわざ作る必要は無いんだよなぁ)
俺は作業の手を動かしながら考える。
そう、邪眼を作っているのは、あくまで俺の個人的な願望だ。
しかも、それを付けるのは自分ではなくストレインなので、なおさらタチが悪い。
だがすまん!
俺はどうしても邪眼の「くっ! 抑えきれん……!」感を再現してみたいんだ!
ーーいや間違えた。
右目の魔眼より出力が強くなるであろう左眼の邪眼が、いつか戦闘で必要になるときがくるはずだ。
わかってくれストレイン!
盲目の悲痛さを知り、軽はずみな自らの言動を恥じていたはずの男とは到底思えない身勝手さだった。
まあ、俺なんですけど。
狂ってる? それ、褒め言葉ね。
いや、さすがに周囲に無差別な害を及ぼすものにはしないよ?
さすがにね〜、だって俺も近くで生活してるわけだし。
今回設計した邪眼だって、目を合わせた者に麻痺効果を与える、要は金縛り状態にするといった、効果としては軽いものだ。
うっかり目を合わせても死にはしないので安心!(安心か?)
普段の生活に支障が出ないように、特性を抑え込む専用の眼帯までセットで作ってんだぞ。
ここまでやりゃ問題ないだろ。
完成が楽しみだ!
しかし、作業は順調とはいっても、一つ問題はあった。
必要な素材が足りないのだ。
(基礎的な構造が同じでも、細部はかなり変えてあるからなぁ。特に、特性を常時発動させるための機能と消費魔力を使用者以外からも確保する機能を持つ、新しい外殻部の素材が必要だ)
これまでと違い、この山に生息する魔物だけじゃ作れそうもない。
やはり、作りたい物の性能を上げようと思ったら、世界各地の強力な魔物を倒すしかないようだった。
ただし、今回必要になる素材元の魔物がいる場所はもう分かっている。
俺は、頭の中にある図鑑にメインメニューを開くように念じる。
《メインメニューを開きます》
《 ーエシュタルモンスター図鑑ー 》
《 》
《 *全国図鑑 》
《 》
《 ▶*モンスター分布 》
《 》
《 *メニュー新規作成 》
《 》
《 *オプション 》
そして、メニューにある《*モンスター分布》を選択した。
すると脳内にエシュタル全土が描かれた世界地図のイメージが広がっていく。
エシュタルの地理は、前世の地球になんとなく似ていて、それをさらにぎゅっと縮めたような地形をしている。なにかの偶然だろうか?
そして地図上の至る所に、小さな赤い点が無数に存在している。
これはモンスターの現在地を示すものらしい。
ズームもできるので目当ての魔物を追うこともできる。
(ストレインが道中に魔物を倒してくれているおかげで、予想通りアンロックできてよかった)
数日前、突然頭の中にピロリン♪という音が響き、メインメニューの《*モンスター分布》項目がアンロックされたのだ。
必要討伐数はやはり50種類だった。
現在は82種類となっている。
ストレイン……やってくれるぜ。
これで、必要な魔物の素材の在処が分かるようになったのだ。
”ものづくり”も順調に進んでいくことだろう。
「そういえば今日で9日目か……。ストレインの奴、今頃どこにいるんだろうか」
工房の中、一人呟く。
この広大な大陸を走り回っているのだ。
さすがに出発前にストレインが言った10日以内というのは無理があったのだろう。
元々こちらも20日以内と条件をつけていたので遅れるのは問題ない。
だが心配事もあった。
相手にする魔物のランクだ。
図鑑を見てると分かるのだが、この世界の魔物はランク★8以上から急激に質が変化する。
正確な強さ等はわからないが、手に入る素材の特性が★7以下と比べるとモノが違う。
それだけでも、★8以上の魔物の危険性が窺えるというものだ。
俺の推測でしか無いが、★7と★8の間には強さにおいて超えられない壁が存在しているのかもしれない。
今回ストレインが狩りに行った中での最強はランク★6のギガロックワイバーン。
ストレイン自身、討伐経験があるから大丈夫と言っていたのでそこまで心配はしていない。
が、問題はその場所である。
砂漠地帯のモンスター分布の中に、いくつかランク★8や9の魔物が表示されているのだ。
赤い点では無く、濃い青の点……これは、地下なのか?
砂漠地帯には地下が存在するらしい、図鑑のマップ上にも表示されていない。
どうやら図鑑によると、砂漠地帯の真の主は地下深くに潜むランク★9の蜘蛛型魔物のようだ。
とにかく、今のストレインが運悪くコイツに出会ってしまったら冗談抜きで命の危機だろう。
俺は最悪の事態にならないよう祈ることしかできなかった。
すると、外で突然クマ吉が勢いよく吼え始めた。
俺は工房を出て居間に入り、玄関に向かって歩いていく。
お? ストレインかな?
すげえ、マジで10日以内に帰ってきやがったアイツ……。
俺は感心しつつ、しかし何か妙な違和感を感じていた。
クマ吉の鳴き声が険しい。
俺は首をひねりながら扉を開ける。
するとそこには、クマ吉の背に担がれる血だらけのストレインの姿があった。
「ストレインッ!!」
俺はすぐさまストレインを小屋に運び、居間に寝かせた。
そして、回復効果のある魔物の体液を使い、傷の手当をしてやる。
ストレインは意識を失ったままだが、とりあえずはこれで大丈夫だろう。
(酷い傷だ。まだ当分安静にしてなきゃダメだな。……しかし、ストレインがこんな状態になるなんて……一体何があったんだ?)
さっきまでの悪い予感が的中してしまったのだろうか。
やはり、まだ無理をさせるべきでは無かったのか? 俺は少し後悔した。
なんでもかんでもストレインにやらせようと考えていた俺の見通しが甘かった。
これからは俺も魔物攻略に積極的に関わっていくべきだろう。
俺は椅子から立ち上がり、リュックを手に工房へ向かう。
ストレインが持ち帰ってきたリュックの中身は、指示通りの素材が詰まっていた。
ーーよくやったストレイン。
ここからは俺の仕事だ。
その日から俺は工房にこもり、ストレインの看病をしながら二徹して義手を完成させた。
「申し訳ありませんアキュラ殿……。僕が不甲斐ないばかりに……」
「いい。気にすんな。それじゃあちょっくら町まで行ってくる」
あれから目を覚ましたストレイン。
詳しい事情はまだ聞いていないが、大事をとって安静にさせている。
アイリスに完成した義手を届ける為に町へ下りるのも、俺が自ら赴くことにした。
ストレインは僕が行きます僕が行きます言って聞かなかったが、傷口をつついて黙らせた。
アイリスの家は、前にストレインが町まで送ったときに確認済みだ。
元は酒場だったらしい。
ストレインに手書きの地図を書いてもらった。
……汚ねえ。
というわけで、俺にとってはストレインとアイリス以来になる、異世界交流が始まるのだった。




