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17:製作の才能と仕事開始

 アイリスを町まで送り届けたストレインが小屋に帰ってきた。

 工房の中、俺はさっそく、頭の中に作りたい物をイメージし始める。

 

 むむむ。

 ……。

 ーーーこんな感じか……?


 俺のイメージしたモノは、鋼でできた機械の腕。

 義手と聞くと、どうしても前世で読んだある漫画のイメージが俺の中で先行されてしまう。

 アレ、かっこいいんだよなあ。

 だがーー


「くっ! これじゃダメだ」


 俺は忌々しげに呟いた。

 鋼で作られた物をイメージしても、必要となる素材はそのほとんどが鋼。

 加工の手間がかかり過ぎるし、そもそも現時点で金属を手に入れるアテも金も無い。


 俺の体にインストールされているモンスター図鑑の検索機能で、金属に似た材質の部位を持つ魔物もいくつかピックアップされているが、同じことだ。

 硬い素材をこうも複雑な形に加工するのは、今の工房の設備では相当な時間を要する。

 この案は却下だな。


 まあそうでなくても。

 誰かが考えた物をそのまま同じように作るなんてのは。

 俺はごめんだ。


 静かに目を閉じる。

 俺は先ほどのイメージを振り払い、再度義手の想像を膨らませていく。

 今までやってきたことと同じだ。

 この世界の誰もが思いつかないような特別製。

 それを魔物の素材だけで組み上げる。

 そこに職人としての俺のプライド、その全てがあるのだ。


 新たなる義手の想像中、この依頼に関する背景も含めて思考していく。


 ーー人体に付着させる物だ。重量は比較的軽めの、それでいて耐久性も十分な素材に限定しよう。

 

 ーー今回はいつもより魔物ランクが高めのモンスターからチョイスするか。ストレインなら、けっこう上の方まで大丈夫だろう。竜化の魔眼の性能も、しっかり把握しておきたい。


 ーー形や大きさなどは……しまった。アイリスの親父さんの腕の採寸なんてしてなかった。腕の大きさがわからんな。ま、付けてから後で調整すればいいか。それより、ギミックは何を仕込んでやろうか。


 ーー邪眼の開発は常に並行して行いたいし、アイリスの実状も逼迫している様子だった。アイリスからは期限の指定はされていないが、今回の依頼は短納期でいこう。それに伴い、必要な魔物の素材量・完成する義手の性能も調整するとして……。


 どんどん思考が加速していく。

 製作におけるこの瞬間は、ものづくりの楽しみの一つでもある。

 


 ーーそういえば、今回はミネキシワームをどうするか?


 製作イメージも完成間近、ふと思い当たる。

 ミネキシワームは俺のものづくり、特に邪眼開発に最も貢献しているランク★1魔物。

 その特性は生物の神経に寄生・同化し、神経同士を繋げる効果を持っている。

 俺にとっては、素材として見たらランク★10以上の価値がある魔物だ。

 コイツのおかげで、作るバリエーションは格段に広がった。


 俺の作った邪眼は、邪眼の外殻部に使われている魔物の肉体の一部と、生物の視神経をワームが繋ぐことによって、まるで自分の眼球のように扱うことができるといった物。

 つまり今回の義手も、ミネキシワームを使って神経を繋げば、自分の腕のような感覚で動かすことができるだろう。

 実用性という点でも、是非取り入れるべきだ。


「だがなぁ……」


 目を開けた俺は、溜息混じりに呟く。

 

 元々、人間に使うことを想定していないまま、素材として使用しているワーム。

 その本来の性質は寄生虫という事実が、俺にある種の抵抗感を与えていた。

 人間に魔物を寄生させるという、背徳的ともいえる行為。


 これまでストレインの報告によると、

 寄生の意思は全く感じられない。

 やはり頭を潰した状態ならば、問題無いと思われる。

 魔物としてのワームの侵蝕期間である半年を待たずに大丈夫だと判断していい。

 そう言っていた。

 

 うーん。

 まあ、まあ……まー。

 当のストレインも大丈夫と言っているし、もう気にするべきでは無いのかもしれんな。

 ワームを使えば、人体の一部を補うことのできる、高い性能をもった作品を創り出せるのも事実。

 ……ふむ。

 よし、腹は決まった。

 ワーム使お。



 今までの葛藤はどこへやらと言いたくなるほど、俺はあっさり決断した。

 そして、想像上の義手にミネキシワームを組み込み、仕上げていく。

 ーーできた!

 俺の頭の中に、完成された義手のイメージができあがっていた。

 

 

 

 俺は居間に待機しているストレインの元に向かった。

 指令を下す。


「ストレイン! さっそくだが魔物の素材調達を頼む。何種類かはこの山で見たことが無いモンスターなんだが……」


 言いつつ、ストレインに魔物の名前と必要な部位を記した紙を手渡す。

 ちなみにこの紙、サバイバル時代(今も似たようなものか)に植物を濾して自作したものだ。


 ストレインが内容を確認する。


「なるほど。この内3種類はここから比較的近い距離、北方にあるアミール平原に生息していますね。弱い魔物なのですぐ手に入りそうです。しかし残りの2種、どちらも中々手強い魔物ですね。西の海岸沿いに棲んでいるワイルドシャーク。そして王都とこの町のちょうど中間に位置する砂漠地帯、その空の主であるギガロックワイバーンですか」


 紙に書かれた魔物の名前を見て、スラスラと答えていくストレイン。

 ワイルドシャークはランク★5。ギガロックワイバーンはランク★6。

 俺にとっては今までで一番強い相手だ。

 戦うのは俺じゃないが。


 しかしすげえな、なんで魔物にそんな詳しいんだストレインは。


「騎士時代、各地の町や村から手に負えない魔物討伐の依頼がたびたび来ていたのです。王国騎士団は、戦争に赴くだけではなくアルカダ大陸に生きる人全てを守る義務がありましたから」


 このくらいは当然です、とドヤ顔で胸を張るストレイン。

 

 そうかー。

 この大陸内だけで済んでよかったが、けっこう場所はバラバラなんだな。

 俺のモンスター図鑑、この世に存在する魔物を全種類確認できるのはいいけど、それぞれの正確な生息地が載ってないんだよなあ。

 多分、まだロックがかかっている図鑑メインメニューの《*モンスター分布》がそうなのだと推測する。

 今までは、山に生息する魔物から手に入る素材だけでなんとかなっていた。

 そして今回、ストレインが知っていたから良かったが、この先、そうでない場面も出てくるはずだ。

 欲しい素材がどこにあるかわからない、なんてもどかしい気持ちは味わいたくない。


 図鑑の《*モンスター分布》だけは早いところアンロックしたい。

 そのためにモンスターの種類討伐数を増やさなければならんな、まったく面倒くさい。

 ちなみに今現在の図鑑の総討伐数は39種類、俺が確認した中での山に生息している魔物たちだ。


 討伐数は、まだ狩っていない種類の魔物を、俺が作った物で倒すとカウントされる。

 それはこの世界に来てから1年以上もの間に分かった図鑑の秘密の一つ。

 討伐数5体で魔物の対処法及び弱点の項目がページ内に追加された。

 そしてそれ以降は何も起きていない。

 予想では50体を越えたときに、もうひと要素アンロックされるのではないかと睨んでいる。

 あともう少しで到達する数だ。

 

 ストレインに俺の武器を持たせて、素材調達のついでに狩ってきてもらおう。

 素材も入るし討伐数も増える。

 一石二鳥である。


「しかしアキュラ殿、ギガロックワイバーンは全身が岩石に覆われたモンスター。素材として使うには不適切なのでは?」


 ギガロックワイバーンの生態をある程度知っているのか、ストレインが聞いてくる。

 

「いや、コイツの岩ではなくその奥にある骨に用があるんだ。その全身を支えるために強度・柔軟性ともに素晴らしい質を持っている。加工すれば上質な素材になるだろう。今回、義手の主要パーツにするつもりだ」

「あの魔物にそんな価値があるなんて……。やはり魔物に関してアキュラ殿はなんでもご存知のようですね。その割にはエシュタルの地理や情勢には疎いようですが……」


 ええい、うるせえ。

 もうめんどくさいから、いずれ異世界から転生したことを明かしてしまおう。


 感嘆の声を漏らすストレインを横目に、ひそかに俺は思った。




「それじゃあよろしく頼んだ。ちなみにどれくらいかかりそうだ?」

「そうですね……馬を使って急いだとしても、全て集め終わるのにひと月以上はかかるかと」


 ストレインが考える仕草をしたまま、俺の問いに答える。

 一ヶ月以上……遅いな。

 製作期間も合わせると全体で見てもっと時間がかかってしまう。

 それじゃダメだ。

 ウェムラ邪眼工房は基本的に最短納期で進行するのだ。今決めた。


「ストレイン……20日以内に仕上げろ」

「ーー!?」

「馬は使うな。道中は魔眼を全力で駆使して動け。竜法状態のお前なら、そこらの雑種竜なんかより早く動けるはずだ」


 ブラック企業もかくやと言わんばかりの俺の発言。

 いやー実際ムリ言ってるけどね。

 俺が言われる立場だったらブチ切れてるところだ。

 

「ストレイン、いずれは最高ランクの魔物を仕留める日がやってくる、最高の作品を作るために。その為にもお前には一刻も早く力を取り戻してもらわなくちゃならん。そして邪眼を使いこなすためにもな」


 短納期を守るための口実、というわけでもなくほとんど俺の本音だ。

 ストレインはもはや俺の製作活動の要。

 邪眼開発の進捗も、ストレインの活躍にかかっている。

 もっともっと強くなってもらわなくちゃ困るのだ。


「お前には無理を強いるが、耐えてくれ。頼む」


 頭を下げようとした俺を、ストレインの手が制した。


「何を仰るんですかアキュラ殿。これは僕自身が望んだことです。アキュラ殿は思うままに命令して下さればいいのです。それに……」


 ストレインは胸を張り、大胆不敵な笑みを浮かべる。


「誰が無理と言いましたか。 20日以内? そんな時間必要ありません。このストレイン、10日以内に全ての指令をこなしてみせましょう」


 キザったらしくお辞儀をしてみせるストレイン。

 ちくしょう、かっこいいじゃねえか。


「わかった。ストレイン、お前に任せる。左目はまだ無いからあまり無茶はするなよ。……まあ無茶をさせている俺が言えたことじゃないが。帰ってくるまでに新しい左目は作っておく。楽しみにしててくれ」

「はい! お願いします!」


 ガッとお互い力強く握手し、笑いあった。

 そうして、準備を終えたストレインは素材収集の任務に旅立っていった。


 俺も早速、工房で作業に取りかかったのだった。

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